ラノベの定番だからね
次の日の朝。僕は屋敷を抜け出して廃村へ向かった。
朝日が部屋を照らし、埃がキラキラと輝いている。
その神秘的、けれど少し汚い部屋で少女は目を覚ました。
その瞳は綺麗な赤色をしている。
「ここは……どこ」
「目を覚ましたようだね」
「あなたは……」
男の子が1人椅子に座っていた。
「僕はジン。君が牢屋に閉じ込められていたから連れてきたんだ」
実質誘拐だな。誘拐された少女を誘拐。なんと可哀想な少女よ。
「あなたが助けてくれたのね。ありがとう」
「いいよ。で、君の名前は?」
少しの沈黙の間が空けると少女は口を開いた。
「ありません……」
ないとは珍しい。
「奪われたのか?」
「ええ」
名を奪われる。名を奪われた者は、人としてのいわゆる人権みたいなのとか、家柄とかがなくなる。つまり何してもOKな物扱いされるのだ。
それに当人も名前の記憶は消え自分が何者かわからなくなっていく。
名とはその人がこの世に地に足をつける重りのような物で、それがなくなれば魂はいずれ、先という概念すらない空間で彷徨い続けることになるだろう。
本当かは知らないが、それほど重大なことなのだ。
解決する方法はいたってシンプル。名と居場所を作ってやればいい。
「なら今日から君はティマだ」
「ティマ……いい名前。でも本当にいいの?」
「ああ。ただ君にその覚悟があるなら名を受けとれ」
「……ええ。わかったわ。私はティマ」
「ところで君なんであんなところに捕まってたの?」
「名を奪われてから、エルフである私は実験体として捕まったの」
「実験体?」
「エルフは人よりも魔力に適した体の作りをしてる。だからやりやすかったのでしょうね」
なるほどね。
「名を奪われているから罰せられないわけか」
名を奪われた者に不遇な制度だな。
いや確かもともとは罰としてあったものだったんだっけ。
「そう。だから私は」
「ちなみになんの実験してたとかわかる?」
「いえ……そこまでは」
「そう」
あの龍の血とかいうアイテムかと思ったんだけどわからないか。
龍はおおよそ守護龍神のことだとは思うんだけど。
まぁ今はわからないから仕方ないな。
「なぁ。ティマは剣は使えるか?」
「ええ。一応」
「なら、少し手合わせをしよう」
「……わかった」
僕達は外に出た。家の庭。
僕とティマは木刀を握った。
「戦闘不能もしくは降参で勝ち負けを定めよう」
「ええ」
「では行く」
僕は踏み込んだ。それは驚くほど軽い。けれど柔軟で、無駄がない。
その踏み込みで、僕はティマとの間を一瞬にしてつめた。
「ッ!」
ティマが木刀で防ぐ。
手加減したとはいえ、防げたのは見事だ。
僕は力を抜き、一歩飛び下がった。
「見事。次はティマだ」
ティマは僕を見た。ただそれだけで、手が震える。
ただの少年。そのはずなのに、動く事に恐怖を覚える。
ただその恐怖に打ち勝ち、ティマは走った。
そして木刀を振る。
「いい剣筋だ」
ただ軽々と止められた。
片手で木刀をティマの木刀に添えているだけ。それほどの実力差があったのだ。
それでもティマは木刀を振った。
何度も振るうが、それでも全て軽々と止められるか受け流される。
ならばと、ティマは後退し、魔力を使い体を強化した。そして構えて、踏み込む。
その一撃で決めるつもりだった。
踏み込みもよく、力も出来るだけ込められている。
木刀もまっすぐに綺麗に振れた。
ただティマの木刀は折れた。
同じ木刀のはずが折れてしまった。それは僕の力の調整や受け方を工夫したからである。
「うん。いい感じだな」
軽く見たけど、才能あるなこの子。育て甲斐がありそうだ。
「え?」
「ここまででいいだろう。木刀も折れてしまったしな」
「……戦闘不能だものね」
「そうだね」
「あなたは強いのね」
「強いか……そうか。今はそうだな」
「今は?」
「何でもない」
「そう……」
「ティマ」
「はい」
「ティマ。僕の元へ来い」
名前は与えた。あとは居場所を与えるのみ。
僕は手を差し伸べた。
「……わかったわ」
そしてティマは僕の手を取った。
「救ってくれたあなたの為なら、この身を捧げるわ」
「そうか。ならば僕も本来の姿を見せるとしよう」
「それはどう言う」
「僕はジンであり――」
黒スーツ、ロングコートに変身し、髪の色を魔力で抜き、光の反射を操り目を赤く見えるようにした。
「日月だ」
「ヒヅキ……」
「それが僕の本当の名であり僕の本当の姿。ジンは仮初の姿だ」
表と裏は分けた方がいいからね。陰陽だ。それにジンで通すと色々面倒だしな。
ちなみに僕の名前も太陽と月、つまり陰陽を表す名前にした。
どこか神道的で格好いいだろう。
「そうなのね。ヒヅキ」
ティマは魂が震えるという感覚を初めて知った。
「そして、僕には目標がある」
「それは一体……」
「調和だ」
陰陽ときたら調和だしね。
「調和?それはどういう」
「この世には光と闇が存在する。神を信仰する神光教。そして悪を信仰する組織。まだその悪を信仰する組織はわかっていない。だが今はこの二つの組織がそれぞれ激しくぶつかり合っている」
嘘だけど、本当のことを混ぜればバレないはず精神で、堂々と嘘をつく。
「そうなると何が起きるか。わかるか?」
ティマは少し考えてから自信5割くらいで言った。
「……戦争。争いが起こるわ」
「そうだ。そして、いずれ世界は2つに分かれ破滅の道を辿って行く」
「そんな……」
「だが、そこで僕らの出番だ。陰極まれば陽となる。激しくぶつかり合って、世界規模で戦争が起きやすくなっている今。その2つの陰と陽を調和し整える者が必要なんだ」
今、国同士でも起こりそうだしね。僕としては楽しみだけど、まぁ表向きの理由だ。
「なるほど……。ならば一度消さなければ道はないか」
あれ?そんな可愛らしい見た目な上可愛らしい声で、すごく怖い事言うな。
「そ、そうだね。やりすぎも良くないからな。あとそれをするためにもティマには強くなってもらう必要があるからよろしく」
「全力を尽くすわ。世界を守るためにも、私を誘拐した奴らの復讐の為にも」
うんうん。いいね。ティマは配下になる素質がある。
僕は変身を解き、言った。
「それで寝床なんだけどさ。どうしたい?僕は一応伯爵の家だから食べ物とかは持っていけると思うんだけど、建物となると何かしらの理由がないと無理だからさ」
「大丈夫。この家を使わせてもらえるかしら」
「いいの?こんなボロ家で」
「ええ。大丈夫よ」
本当か?このお年頃の女の子ってそう言うの良いのか?
まぁ本人がそう言ってるんだから良いんだろうけど、早めにちゃんとしたとこ用意しなきゃな。
「あ、あと組織の名前だけど、『ノワール』ってのはどう」
「ノワール……良い名前ね」
安直だけど良いだろう。
「それじゃあそろそろ戻らないと行けないからまた今日の夜」
「ええ。わかったわ」
てなわけで僕は配下をゲットしたのだった。
ノワールも結成され、本格的になったな。名前があるだけでも、ないのと比べるとその差は歴然だ。
師匠プレイとかもいいよな。一度はやってみたかったんだ。
そんな期待を胸に秘めて、僕は空を飛んだ。
そして夜。
僕はまた家に向かった。
部屋は掃除され、綺麗になっていた。
「あ、ヒヅキ。待ってたわ」
「掃除したんだね。綺麗になってる」
「ええ。少しでも住みやすいようにね」
「それじゃあ始めようか」
「始める……ッ。わかったわ」
本当にわかったのだろうか。
「僕の修行は厳しいぞ。ついて来れるかな」
「え?あ、ああ。そう言うことね」
「どう言うこと?」
「なんでもないわ」
「そう。なら良いけど」
て事で修行開始!
「まずは身を清める」
ティマを近くの滝に放り込み、ボロボロになるまで耐えてもらう。
「次!」
「は、はい!」
「次は精神統一!坐禅を組んで体の魔力の流れに意識をむけろ!」
滝の音だけが聞こえる森の中でティマは坐禅を組み意識を巡らせる。意識を巡らせるのは大事なのだ。
前世の気とかも意識した先に集まる性質とかあった気がするしね。
まぁ今世では使うことはないだろうけど。使えたこともないしな。
「次!」
「はい!」
と、ティマはボロボロになりながらも僕の下す課題をこなしていった。
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