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衝撃の事実だな

「その言葉はどう言う意味ですか」


 ゼイガルニクが答えた。


「言葉の通りだ。君はもう私達の物なのだ」


 やはり分からなかった。


「もう少し分かりやすく言おうか。君は売られたんだ」


「売られた?――」


 売られた?誰に?いつ?


「君の両親さ」


「そんな……はずは」


 ない。そんなことは無いはずだ。そんな事……。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 私はリーン侯爵家という貴族の家に生まれた。


 生まれてすぐ、私は魔力検査を受けさせられた。


 私の家は代々、聖宮魔術師を輩出している。聖宮魔術師とは、神殿に使える魔術師だ。


 さらに、私が生まれた日は100年に一度の星々が円形に並び、神の光が降り注ぐ日と言われていて、周りの期待はとても大きな物になっていた。


 その結果は最悪な物だった。


 魔力量は平均以下。将来魔術師になれる確率は低いとそう言われた。


 その日は幼子ながらに、酷く傷ついたのをよく覚えている。魔力量が少ない事よりも、家族の目が怖かった。苦しかった。


 ただそれは時間と共に薄れて行く。


 気づけば、ただ毎日同じような事を繰り返す、可愛げのない少女として屋敷から異物扱いされるようになっていた。


 その時はほとんど感情が麻痺しており、あまり辛いと言う事はない。


 けれど心の何処かで何かを失って行くような、恐怖が私を襲った。


 それでも私は平穏を貫いた。


 家族の前では笑顔に振る舞い、いつしかそれが当たり前になっていった。それがいけなかったのか、家族は私に冷たい視線を向けた。


 家族団欒などなく、食事の時も同じ物は出されるが、丁寧に食べなければ怒鳴られ、話しかければ食事を戻された。


 ただその当時の私は相当気が狂っていたのだろう。それでも両親を愛していた。仕方ないと心の中で何度も呟き、受け入れようと心掛けた。


 いくら自分を作ろうが、良い子でいようが、夜が来るとそれも意味をなさない。


 私はベッドに寝転がり、小さなランプをつけて、天井を見つめる。ただ寝転がっているだけなのに。


「あれ……何で私、泣いて――」


 ダメだ。こんな私はダメ。


 泣いている私は嫌いだった。本当は笑顔でいたい。


 ただいつもふとした時に涙が溢れてしまう。我慢しすぎていたみたいだ。


「情けない。泣かないでよ。私はそんなの望んでない」


 嫌だ。嫌だ。嫌だ……。


「結局また泣くだけで、私は何も出来ない。何で生きているの?なんで私は。助けて……」


 助けなんか来ない。わかっていた。何度も願った。その度に裏切られ、いつも悪い方向へと向かう。


 神様なんて居ない。私には居ないんだ。


 そう心の底から叫んだ。


 ただそれでも私が壊れずにいられたのは、1人のお兄様のおかげだった。


 両親に見つからないように、夜ふと現れ、持って来た本を読み聞かせてくれる。


 その時間が何よりも幸せだ。そう感じていた。こんな夜が毎日続きますようにと願った。


 それからもお兄様は両親の目を盗んで、私に構ってくれた。一緒にお菓子を食べたり、外で遊んだり、魔術について話してくれたり、お兄様は私にとって救いの光だった。


 ただ、ある日を境にお兄様は私に話す事は無くなった。


 両親にその事がバレたのだろう。


 辛かった。いや、分からない。どんな気持ちで、どうしたか、よく覚えていない。


 ただそんなある時、ゼイガルニク叔父様が屋敷に訪れた。


 両親が私を連れ、ゼイガルニク叔父様と応接間で話していた。


「この子は特別な子です。その選択を私は否定する気はありませんが、良いのですか?」


「ええ。大丈夫です。お願いします」


「そうですか。ありがとうございます。ではこちらの書類にサインをお願いします」


「はい」


 まだ子供だった私はその会話が何を指しているかは分からなかった。


 だが、今思えばこの会話のこの時に私は売られることが決まったのだろう。


 それからの生活はゼイガルニク叔父様のお菓子を食べるのを楽しみにする毎日だった。


 ただ、ここから家を出て行くまでの記憶がうまく思い出せない。


 何があったのか、思い出そうとしても、ブロックがかかったかのように、堰き止められてしまう。


 気がつけば、家を出て行く事を考え、魔術学校に行くとこを夢に見ていた。その頃は魔術が好きだった。


 とても綺麗で、便利で、何かを変えれるその力に憧れていた。


「お願いです!私を魔術学校に行かせてください!」


「許可いたしません」


「お願いです!」


「黙りなさい」


「何故、ダメなのですか」


「うるさいッ」


「私は、私はいらないのでしょう!私は沢山沢山我慢した。何度も苦しんだ。けれど何も変わらない。私が悪いのはわかってます。けれど私をこれ以上縛らないでください!」


「我慢した、苦しんだですって?私がどれほど辛かったか、何も知らないくせに、口答えするなど」


「私は、私は自分の道を歩みます。これ以上ここには居たくない」


「お待ちなさいッ!」


「さようなら」


 こうして私は王都に向かった。


 何も分からなくて、困ったけれど、小さい頃からあの環境だった為か頭は良かった。その自覚さえもあった。


 ただ、魔術学校に入ったからと言って救われるわけでもない。


 緊張していた私に漬け込もうと、何人もの男性が近づき、強引に私を連れて行こうとした。


 家柄や容姿目当ての人ばかり。その視線は鋭く、醜い物だった。


 ここでも私には居場所はない。


 だからこそ私は好きだった魔術を極めようとした。研究室に籠り、ひたすらに魔術を試した。その時間だけは自分らしくいれた。


 けれど現実は残酷だ。魔力量の少ない私にとっては実際に行うのはとても厳しかった。1日、数回の魔術のみ。それでも諦めずに式を計算し、何度も試行錯誤した。


 友達の1人もいないまま時は流れた。けれどある日1人の男の子と出会った。


 彼は不思議だった。

 

 どこか私と同じようなものを抱えていると感じた。この人なら理解してくれる。そう直感的に思った。


 彼はお腹が空いた私にパンを分け与えてくれた。


 その時かけてくれた言葉も、嬉しくて、心が温かくなった。


 それからも彼は不思議と私の前に現れた。


 他の人とは違う。


 まっすぐで、自分に正直。なのにそれは家柄や体目当てじゃない。私はその雰囲気に安心感を抱いた。まるで神様みたいな、包み込んでくれるような温かさがあった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ただどれだけ酷い過去を持とうが今を変えられるわけじゃない。


「売られたなんて。信じたくない」


「君はわかっていただろう?」


「そんなはずはッ」


 完全に否定することができなかった。あの頃の私は確かに心の奥底で気づいていた。両親はいつか私を捨てると。


 ただ、それでも、私は――。私は何のために生きて来たの。


 何をすればこんな事にならなかったの?


 どうして。


「来い」


 その冷たく突き放すような一言にただ従った。何も考えたくなかった。



 

 第21話の最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。もしよろしければ、作品の応援をお願いします!


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 第22話もよろしくお願いします。


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