世界が俺を祝福している
僕は、今日もいかにも徹夜してました感ある寝不足を醸し出しながら登校していた。
別に寝れていないわけではない。この土日めちゃくちゃ寝たからだ。
何故って、リアスとのお出掛けに疲れたらだ。
さらに隣の生徒も土曜日に仲直りしてくれたおかげで日曜日と今日はぐっすりと眠れたのだ。
ぐっすりと寝た後は体を動かしたいよね〜。
そう言えばニヴィアが街に幹部クラスの敵がとかなんとか言ってたし、それ狩りに行くのもいいかもしれない。
場所はわかんないけど、僕が本気を出せば多分なんとかなるのだ。
そんな事を考えながら、僕は教室の席につき、カバンをしまって、ボーっとした。
「おはようっす。太陽が僕を照らす今朝は、内に秘めたダークエネルギーを顕にさせるみたいっす」
「そうだね。ダークエネルギーだね」
「いい朝だな。今日も世界は俺を祝福しているみたいだ。流石は俺」
「そうだね。世界は輝いているよ。グッドモーニング」
センが椅子を前後逆に座り、背もたれに腕をもたれさせている。
「なぁ」
「なに?」
「ジンが先週超美少女連れてきてたよな。確かリアスだっけ」
「うん」
リアスがどうしたのだろうか。
センが美少女についての話題を話すときは大体ろくなオチにならない。
まさかお出掛けがバレたとか?だとしたらめちゃくちゃに面倒くさいぞ。こいつらに知られたらどんなにいじられる事か。
「そのリアスがな?行方不明になったらしいんだ」
「え?」
「あの美少女がっすか?」
行方不明だと?……これは。これはッ!これはッ!!
アレではッ?!
いやアレに違いない。
ヒロインが悪党に攫われるイベントだッ。
このタイミングで来たか。
「世界よ。太陽と月の狭間に位置する時の如く、光と幸をもたらす理に感謝を示そう。クックック」
「おうそうだな。いい朝だ」
「で、どこで聞いたの?」
「朝っぱらから騎士団が彷徨いてたから聞き耳立てたんだ。そしてらリアスが行方不明だって。まだ知られてない極秘情報さ」
騎士団となると情報の信憑性は高い。
「もしかしてあの噂じゃないっすか……?」
「俺もそう考えている」
「たしか、残霊抜血殺人鬼だっけ」
なんとも格好いい名前ではあるが。
「ああ。この王都で有名な噂だ」
「て事は今頃……」
「監禁か……」
流石は異世界。平然と監禁とか殺人が起きるなんて。あぁここは楽園だ。
前世なんて平和過ぎてつまらなかった。
首つっこんでも簡単には事件に関われない。法律とかあるせいで犯罪者も動きにくいし、みんな素人ばっかりだし、面白味がなかったのだ。
でも今は異世界。そんなに厳しい法律はない。
それにいくらでも隠蔽できるのだ。
最高の環境。この世界に生まれてきて良かった。そう心の底から思うよ。
「早く見つかるといいな」
「そうっすね」
「うーん」
「反応が薄いな。ジンはもっと悲しむかと思ったんだけど、違ったみたいだ」
「え?何が?」
「リアスが行方不明で、仲良さそうだったからよ」
「それで僕が悲しむ?何故?」
そんな事あるわけないだろ。
「あの子も好意寄せているように見えたんだけどな」
「そんなわけないない」
リアスは僕を好きなんじゃなくて、憎んでいる相手なのだから。お出掛けだって、ほぼずっと警戒してたし、僕を飼い慣らそうとしてた。だから違うのだ。
確かにラブコメ的展開ではあったが、それはリアスの戦略。頭良さそうだったし油断させて仕留める気だったんだ。
なのでリアスが行方不明で悲しさなんて1ミリもない。せっかくのイベント、としか思わないのが普通だ。
「おかしいっすね」
「だよな」
「あれだけイチャイチャしておながら、悲しみの涙一粒も出ないなんて人じゃないっす」
「その通りだ」
「イチャイチャしてないと思うんだけど。それとさらっと人外扱い?ありがとうね」
「どういたしましてだ」
「ただ僕達ならもっと寄り添って愛を確かめ合うって言うのに、ジンさんは勿体無いっすね」
「同意見だ。俺だったなら誘拐なんてさせない」
「あんなに可愛い子を逃す手はないっす。それが男って言うもの」
「だな」
「そう」
そんな事は正直どうでもいい。
とりあえず今重要なのは誘拐イベントが発生したと言う事だ。
「おーし。始めるぞ」
教師の呼びかけでクラスの人達は席に座り、気持ちを切り替えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そこは茶色の壁で囲まれた部屋だった。本棚や、机。机の上には沢山の書類の山。
そしてその机の椅子に座っているのは騎士団長のグレイス・クラネス。
その静寂の部屋に、確かな存在感を放っていた。
グレイスは積み重ねられた書類一枚一枚目を通して印を押している。
その時、部屋の扉がノックされた。
グレイスはすぐに答える。
「どうぞ」
そう、鋭く一言。
扉の金具が擦れる音が鈍く響いた。
「貴方でしたか」
入ってきたのは、スラッとした高身長イケメン。青い髪を伸ばした少しミステリアスな男だ。
そして服には金色の剣の模様が彫られた装飾が胸元に施されている。
これは騎士団長に与えられる制服だ。
そう、この男も騎士団長なのだ。
「やぁ久しぶりですね」
「ええ、お久しぶりです。ランネイ・マーナクさん。エンプ国に派遣されて、しばらくは帰ってこないと聞いていましたので、お会いできてとても嬉しく思います」
ランネイは7人の騎士団長の中でも高い実力を持つ存在だ。その実力と功績が認められ、国を跨いで活躍している。
「思ったより早く事が片付いてね」
「どんな依頼だったのか聞いても宜しいでしょうか?」
「言える範囲ですが、エンプ国である病が流行したのです」
「病ですか……」
「その原因が魔物だってことがわかったため、私達は討伐に向かったのですが、ただ……」
「ただ?」
「その魔物が今までの事例にない異例なものでした」
「異例……」
「言えるのはここまでです」
「ありがとうございます。ところで今日はどう言ったご用件で?」
「街中で流行っている噂を聞いて少し気になったのです」
「殺人鬼の噂ですか」
「実際に最近行方不明者が増えているとの事で、グレイスさん達の部隊が動いたと」
「……その通りです。直近ですと、リーン侯爵家令嬢のリアスさんが行方不明になりました」
「物騒だね」
「あの噂とは決まったわけではないですけれど」
「今の所の進捗は?」
「まだ何も掴めていません……」
「そうですか。私の方でも少し調べてみます」
「それは……頼もしいです。ご協力ありがとうございます」
「じゃあここで失礼するよ。少しの間だが話せてよかった」
「はい。では」
ランネイはそのサラサラな髪を靡かせ執務室を退室した。
「ランネイにまで心配されているのね……」
行方不明事件を担当されたにも関わらずまだ何も成果を上げれていない。
これほど惨めな騎士団長だなんて、惨めだ。
申し訳なさと、理想と現実の差に激しく心を揺さぶった。
「きっと彼なら……」
あの日見た私の理想。まさにこの世の頂き。
彼だったなら、こんな事件も美しく解決してしまうのでしょう。
「もう一度だけ、彼のあの一筋の剣を……」
グレイスは窓の外の夕日を眺めながら呟いた。
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