漢の宿命なんだ
「なぁ知ってるか?」
センが言った。
「何がです?」
二人は手の上に顔を置いて深刻そうな顔して話している。
ここは学食だ。
四人席で目の前にセンとマルが座ってる。
「とある噂が今有名でな……」
「噂……ですか」
「なんでも真夜中にこんな音がするそうだ。ギギキィ、ドン、ギギキィ、ドン――と」
「不気味な音が真夜中に……」
なんか胡散臭いな。子供騙しな噂だろう。期待しても嘘でしたと言われるのがオチだ。
「そしてもしその姿を見てしまった者は――」
「者は……ゴクンッ」
「監禁されて殺されるらしい」
「なんて恐ろしいんだッ」
すごく現実的な手段だった。ただの殺人鬼じゃん。
「もしかしてその引きずる音って……」
「あぁ。殺人鬼が遺体を引きずっている音だ」
殺人鬼じゃねぇか。
定番で嘘っぽい。こんなこと本当にあるわけない。あって欲しいけどないのが現実。
「呼ばれている名は、『残霊抜血殺人鬼』」
格好いい名前だな。
「そんなこと本当にあるのか?」
「多分ある」
「きっとあるっす」
「ない方がいいと思うけど」
「それはそうですけど……」
「あった方が面白いしな」
その意見には賛成だ。
いろんなプレイが出来るからな。
「まぁとりあえず食べよう」
「そうだな」
僕はCクラスのハンバーグセットを頼んだ。
階級の1番下のCクラス。普通だけど普通が一番なのだ。
逆に高級なAクラスとかだと量も少ないし、美味しくもない。
特に肉だ。僕は肉でも柔らかいのが好みだ。
硬いと味もよくわかんないし食べにくい。
だから焼肉とかなんて行きたいなんて思ったことはない。焼肉か寿司かなら断然寿司派。
「うん。美味しい」
「俺もAクラスの食べてみたいなぁ」
「僕も」
「そうか?」
「そうだよ」
そんな時、陽キャ達のワイワイする声が聞こえた。
うるさいなぁ。と言う顔をしているのは僕だけではない。
こっちの世界でも陽キャはこれだよ。
どうしてこうもうるさく楽しそうなのかね。
本人達は楽しいでいっぱいだろうけど、周りは、うわ……陽キャうるせぇ。とかしか思ってないんだよ。
多分本人達も時間が経てば振り返れるはずだ。相当な馬鹿じゃなかったら黒歴史として残ってまともな奴になるはずだ。
ただ祈るしかない。祈るしかないのだ。
僕らは彼らからしたら自分の意思がない陰キャ。そんな僕らが何を言おうと彼らには響かない。
もちろん注意などはアウトだ。前世では正義感が強い大人が注意しても、結局は悪いのはその大人になる。
陽キャ達はただうわ説教とかマジキモいとかしか言わないのだから無意味。
よって無視するのが最善の選択。
視線も合わせず、居ないものとして存在し扱う。
と言うことで早めに食べて部業に取り掛かろう。
そう思ったのも束の間。
「ちょっと……」
1人の少女の透き通った、そして困った様子の声が響く。
普通なら笑い声かイケメンと美女の話かどうでもいいボケくらいしか聞こえないと言うのに。
明らかに困っている上、陽キャ達ではない声。
見ないようにしていたが、横目で少し見てみた。
「ッですから……」
どこか聞いたことある声だと思ったら、昨日のヒロイン系キャラだ。確か名前はリア……リア、リアスだっけ。
「いいだろ?」
「俺たちと遊びに行こうぜ」
「女子もいた方がいいんだ。交流も大切なんだよ。な?」
「俺たちは何も悪い事はしねぇよ。だから行こうぜ」
リアスの前に立ち道を塞いでいるのは4人の男。全員チャラ男って感じの陽キャ。
そしてその後には2人のギャルって感じの性格悪そうな女子。
厄介なのに絡まれてんな。
「ですから、お断りしていますッ」
リアスが強めに言った。
大変だよねぇ。リアスは美形ばかりの中でも目立つほどの美少女。
男子女子関わらず目を引く存在なのだ。
こう言う人ってどうやって生きてんだろ。普通の人より遥かに危険な生活だよな。僕にはわからないからどうでもいいことだけど、気になりはするよね。
「いいから行こうって」
「ただ仲良くしたいだけなんだよ」
「ならポイントやるよ。来てくれたら20‥…30ポイントはやるよだから行こうぜ」
「無理です。いい加減にしてくださいッ」
「は?俺達がこんなに優しく誘ってやってるって言うのに、これ以上イラつかせるなよ」
誘ってやってるね。なんて自己中心的なんだ。もはや清々しい域だ。自己中心的は悪いわけじゃないが、知能が低い人の自己中心的はただの迷惑でしかない。
それも周りの価値観だけどね。
「俺たちはお前なんかより上なんだぞ。陰キャなお前を誘ってやってんだ。言う事聞けよ」
「可愛いから声かけてやったのに」
周りが見えていないのか、チャラ男達はワーワーと叫ぶように話している。
みんな蔑んだ目で見てるぞ。
これだけ騒いで間気にしないのも凄いけど。
「いやッ――」
その瞬間1人の男がリアスの腕を掴む。
リアスの細い腕は男の手で折れてしまいそうなほどだ。
男は笑っている。
これはやるしかないか。せっかく見つけた重要キャラだ。あいつらなんかに取られたくはない。
リアスにはイベントの主役になってもらわねばならないのだッ!
だから僕が貰っていく。
僕は勢いよく、椅子から立ち上がる。
勢い良すぎて椅子が倒れた。それはいいとして。
「お、おいジン。どうしたんだ、椅子がバキバキだぞ……」
「ど、どうしたっすか……」
二人は唖然としている。
回れ右をして一歩を踏み出す。
「どこに行くんだよ」
「大丈夫っすか……」
「二人とも。知っているか?男にはやらねばならない時があるのだ。己の漢を貫き通す。これは男の宿命であり、使命なのだ」
「まさかッ」
「本当に――。でもそれはあまりにも危険っすッ」
「信じてくれ……」
「わかった。ジンが何をしようと、その道を信じよう。深くは話さなくていい。その漢を見せてこい!」
「行ってきてくださいッ!僕はジンさんがどれだけボロボロになろうと見捨てたりしないっすッ」
「ああ。行ってくる」
センとマルは拳を大きくの掲げていた。
さて行くか。
僕は歩き出した。
「痛ッ……」
「行くぞッ」
「待って――」
強引に連れ去ろうとする中で明らかに場違いな平凡な声で僕は言った。
「やめるんだッ」
僕は男の手を掴む。
落ち着いて、男のおでこあたりを見つめる。特に意味はない。目を合わせるのは厳禁って事くらい。
「な、なんだお前」
「あなたは」
「僕の名前はジン」
「そ、そうか。ジン?聞かないな」
当然だ。僕はただの一年生。それだけなのだから。
「その子から手を離してくれ。この子は僕が貰う」
「えッ……」
「は?なんだ。正義のヒーロー気取りか?陰キャのくせして生意気だな」
「何そいつ。マジキモいんだけど」
「やばいよね笑。僕が貰うとかキモすぎる。モブは黙って座ってろ」
凄い言い様だな。僕でも少しは傷つくんだぞ!と、思ったけど傷ついたことがなかったので、傷つきはしないと訂正しておく。
「つまりあれか好きなんだな。ごめんねェ。俺たちがお前の好きな女子だとも知らずに誘っちまって」
「ちょッお前、言い過ぎだって。この陰キャ君可哀想だろ、フフ」
おい馬鹿にしてるじゃねぇか。何?嫌味?喧嘩売ってんのか?ただで受けてやるよ。あいにくお金はねぇからなぁ。
「そうですよ〜。言い過ぎですよ〜」
ただそんなことはできないのでとりあえずの共感をしておいた。
「お前は黙ってろ」
「もう行こうぜ」
「そうだな」
男は僕の手を振り払う。
「じゃあな陰キャ君」
「君の恋が叶うと良いね」
そう言って去っていった。
ただ去り際も。
「叶うわけなあだろ。あんな奴」
「そうだな。叶うわけない」
「ならなんであんなこと言ったんだよ」
「皮肉って奴だよ。俺たちの邪魔されて腹が立ったんだ」
「お前性格悪いな」
てな感じで笑いながら去っていった。あいつらめ。今度会った時は覚悟して、漏らさないようにパンツでも履いてろッ!
とりあえず穏便に落ち着いたから良しとしよう。深呼吸だ。あんな低レベルの奴らにイラつくとは、僕も鈍ったようだな。修行が足りぬ。
「大丈夫だった?」
リアスは顔を赤くし、自分の服を握って俯いていた。
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