第八話 父の影が薄れていく
お読みいただきありがとうございます。
この作品は 毎日20時更新 です。
今日は 第8話。
父の体が限界に近づき、
ハエルが“本当の別れ”を感じ始める回です。
旅立ちの朝から、数時間が経った。
俺は村の外れの道を歩いていた。
父さんは家に残っているはずなのに――
なぜか、胸がざわついて仕方がなかった。
「……父さん、大丈夫かな」
振り返るたびに、
父さんがそこに立っている気がした。
でも、いない。
当たり前だ。
父さんはもう旅に出られる体じゃない。
分かってる。
分かってるのに――
「……戻ろう」
気づいたら、足が勝手に村へ向かっていた。
家に近づくにつれ、
胸のざわつきは“痛み”に変わっていく。
嫌な予感がする。
家の扉を開けた瞬間――
息が止まった。
「……父さん?」
父さんが、床に座り込んでいた。
肩で息をし、額には汗が滲んでいる。
「……ハエル……戻ってきたのか」
「父さん!!」
駆け寄ると、父さんは弱く笑った。
「大丈夫だ……ちょっと、立ちくらみだ」
「嘘だ!!」
父さんの手は、氷みたいに冷たかった。
「昨日より……冷たい……」
「……そうか」
父さんは自分の手を見つめ、
少しだけ寂しそうに笑った。
「もう……時間がないんだな」
「そんなこと言わないでよ!!」
父さんは俺の肩に手を置いた。
その手は震えていた。
「ハエル。
お前は……強くなれ。
俺がいなくても……生きていけるように」
「やだ……やだよ……!」
「泣くな。
お前が泣くと……俺まで弱くなる」
父さんは立ち上がろうとしたが、
膝が崩れ、そのまま倒れそうになった。
「父さん!!」
俺は必死に支えた。
父さんの体は軽かった。
まるで、魂だけが残っているみたいに。
「……ハエル」
「なに……?」
「お前に……頼みがある」
父さんは息を整え、
俺の目をまっすぐ見た。
「最後の……夜を……一緒に過ごしてくれ」
胸が締め付けられた。
「……うん」
その夜、
俺たちは焚き火の前で並んで座った。
父さんは星を見上げながら、
ぽつりと呟いた。
「……母さんに……会いたいな」
その声は、
風に溶けて消えそうなほど弱かった。
俺は父さんの手を握った。
「父さん……」
「なんだ」
「明日も……一緒にいようね」
父さんは答えなかった。
ただ、俺の手を握り返した。
その力は――
昨日より、ずっと弱かった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
次回は 第9話「父の最期」 です。
物語の大きな節目です。
心してお読みください。




