第六話 旅立ちの朝と、父さんの覚悟
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今日は 第6話 です。
父と子の“別れの準備”が描かれます。
ゆっくりお楽しみください。
父さんの告白から、一晩が明けた。
眠れなかった。
目を閉じるたびに、父さんの言葉が蘇る。
――俺には“時間がない”。
その意味を考えるだけで、胸が苦しくなる。
朝日が差し込むころ、
父さんはいつも通りの顔で朝食を作っていた。
「おはよう、ハエル。
ほら、食え」
「……父さん、昨日の話……」
「あとでな。
まずは飯だ」
父さんは笑っていた。
でも、その笑顔はどこか無理をしているように見えた。
俺はスープを飲みながら、
父さんの横顔を盗み見る。
――本当に、いなくなるのか?
そんなの、嫌だ。
「ハエル」
「……なに?」
「今日は、お前の“旅支度”をする」
胸がズキッと痛んだ。
「もう……行くの?」
「ああ。
ガルドが来た以上、ここにいるのは危険だ。
天界も動き始めてる」
父さんは淡々と言う。
「お前を守るためにも、ここを離れなきゃならん」
「でも……父さんは?」
「俺はここに残る」
分かっていた。
でも、聞きたくなかった。
「なんで……一緒に行けばいいじゃん!」
「無理だよ、ハエル」
父さんは静かに首を振った。
「俺はもう長くない。
旅なんてできる体じゃない」
「そんなの……!」
「昨日言ったろ。
堕天した天使は、光が闇に変わった時点で寿命が削られる。
俺は……もう限界が近い」
父さんは自分の胸に手を当てた。
その手が、わずかに震えている。
「でもな、ハエル。
お前には未来がある。
俺にはもうない」
「そんな言い方……やめてよ……!」
涙がこぼれそうになる。
父さんは俺の頭を撫でた。
「泣くな。
お前は強い子だ」
「強くなんてないよ……!
父さんがいないと……俺……!」
「いるさ」
父さんは優しく笑った。
「俺はお前の中にいる。
お前が笑うたびに、怒るたびに、泣くたびに……
俺はそこにいる」
その言葉が、余計に苦しかった。
「さあ、支度をするぞ」
父さんは立ち上がり、
家の奥から古い木箱を持ってきた。
「これを持っていけ」
「なにこれ……?」
「母さんの形見だ。
……お前が生まれる前から、大事にしてたものだ」
木箱の中には、
小さなペンダントが入っていた。
透明な石がはめ込まれた、
シンプルだけど温かいデザイン。
「母さんが……?」
「ああ。
母さんはな……ひとりでこの村に辿り着いたんだ」
父さんの声が、少しだけ震えた。
「旅の途中で旦那さんを亡くして……
それでも前を向いて、生きようとしてた。
村の連中はみんな、あいつの強さに救われたよ」
俺は息を呑んだ。
「母さん……ひとりで……?」
「そうだ。
お前を身ごもっていることに気づいたのも、この村に来てからだ」
父さんはペンダントをそっと撫でた。
「“この子が生まれたら、この村で生き直すんだ”
……そう言ってたよ」
胸が熱くなる。
「母さんは……強かったんだね」
「ああ。
強くて、優しくて……
俺に名前までくれた」
父さんは照れくさそうに笑った。
「アスモスって名前は、母さんがつけたんだ。
“あなたは優しい人だから”ってな」
涙がこぼれた。
「父さん……」
「だから、お前は持っていけ。
これは母さんの願いそのものだ」
俺はペンダントを握りしめた。
「父さん……ありがとう」
「礼なんていらん。
お前は俺の息子だ」
父さんは外に出て、
空を見上げた。
「……今日の空は、いいな」
その背中が、
いつもより小さく見えた。
「ハエル。
旅立ちは明日だ」
「明日……?」
「ああ。
今日は最後の一日だ。
……一緒に過ごそう」
その言葉に、
胸が締め付けられた。
“最後の一日”。
その意味を、
俺は痛いほど理解していた。
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次回:第7話「旅立ちの朝」
明日の20時に投稿されます。
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