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魔族に育てられた俺、 気づけば光と闇の境界に立っていた  作者: CYABUSAN(ちゃぶさん
第一章:父と子の物語(第1〜10話)

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五十三話 エリナの子か

52話で、母エリナの墓に向き合いました。


今回、村をもう少し探索します。

そして——思いがけない出会いが、待っていました。

日が傾き始めた村を、四人でもう少し歩いた。


「……これといって、新しい手がかりはなさそうだな」

俺は正直に言った。

崩れた家々を一軒ずつ見て回ったが、目立った発見はなかった。


「……手紙にあった手がかり、まだ見つからないな」

俺は懐の手紙に触れながら言った。


「もう少し、探してみましょう」

セラが言った。

「日が暮れるまで、まだ時間はあります」


「ああ」


四人は、もう一度村の中を歩いた。

日が傾き始めていたが、まだ時間はあった。


崩れた家々を、一軒ずつ確認していく。

でも——正直、どれも同じような瓦礫の山にしか見えなかった。


「……どこが父さんたちの家だったのか、俺には分からないんだよな」

俺は少し困ったように言った。

「小さすぎて、家の場所までは覚えてない」


その時だった。


「……あんたら」

かすれた声が、少し離れた場所から聞こえた。


四人は同時に振り返った。

そこに——小さな影が立っていた。


杖をついた、老婆だった。

腰が少し曲がっていて、背は低い。

でも——その目は、しっかりとこちらを見据えていた。


「……誰だ」

俺は身構えた。


「こんな廃墟に、何の用だい」

老婆は、少し警戒したような声で言った。


「すみません、怪しい者じゃないです」

セラが落ち着いて答えた。


「調べ物をしていて、この村に立ち寄りました」


「調べ物、ねえ」

老婆は、俺たち一人一人を見回した。


「あんたら、どこから来たんだい」


「色々な場所を旅してます」

俺は答えた。


「旅人ってわけか。まあ、この辺りに旅人が来ることなんて、滅多にないがね」

老婆は、少し警戒を緩めたようだった。


「あんたはこの老婆に興味あるのかい」


「いえ、この村について知りたくて。昔、ここに村があったと聞いたので」


「……そうかい」

老婆は、崩れた家々を見渡した。

「そうさ。昔は、ここに村があった。今はもう、こんな有様だけどね」


「何があったんですか」

リナが控えめに聞いた。


「……騎士団に、襲われたんだよ。もうずいぶん昔の話だ」

老婆の声が、少し沈んだ。


「魔族がいる村だから、というだけの理由でね」

その言葉に、俺は少し息を呑んだ。


「わしは、たまたま生き残った」


「え……!?生き残り……!?」

俺は思わず声を上げた。


「本当に……?他にも、生きてる人が」


「いや。わしだけだ」

老婆は静かに首を振った。


セラが驚いたように言った。

「……この村で、たった一人の生存者ということですか」


「そういうことになるね」

老婆は、遠い目をした。


「運が良かったのか、悪かったのか——今でも、よく分からんよ」


ルシェも、驚きを隠せない様子だった。

「……何十年も、一人で」


「そういうことになる」

老婆は、静かに息を吐いた。


しばらく、誰も何も言わなかった。


老婆は、ふと——俺の顔を見た。

その目が、じっと止まった。


「……それが」

老婆は、何かを言いかけて、止まった。


「……まさか」


「なんですか」


「……その目」

老婆の声が、震え始めた。


「その目の色、その顔立ち」


老婆は、俺の顔をまじまじと見つめた。

その目に、少しずつ動揺が広がっていくのが分かった。


「……エリナの、子か?」

その名前に、俺の心臓が跳ねた。


「母さんを……知ってるんですか」


老婆は、しばらく何も言わなかった。

ただ——俺の顔を、じっと見つめていた。

その目に、涙が浮かんでいった。


「……生きてたのか」

老婆の声が、震えていた。

「あの子の、子が……生きてたのか」


「はい。俺、ハエルといいます。母は——エリナです」


「……そうか」

老婆は、杖を強く握りしめた。

「わしは、この村の生き残りだ。名前は、バアサでいい。もう、本名を呼ぶ奴もいなくなったからね」


「バアサさん」

俺は少し前に出た。


「父は、アスモスといいます。堕天した元天使で——俺を育ててくれました」


「アスモスの……」

バアサは、大きく目を見開いた。

「あの人が、子を育てていたのか」


「はい」


バアサは、しばらく黙っていた。

やがて——静かに頷いた。


「……そうか。あの人らしい」


「バアサさん、事情を話してもいいですか」


「聞かせておくれ」


俺は、簡単に事情を説明した。

父さんが去年亡くなったこと。

自分の中に、光と闇の力があること。

その理由を知りたくて、旅をしていること。

森の家で手紙を見つけ、この村に手がかりがあるかもしれないと聞いて、ここまで来たこと。


バアサは、静かに聞いていた。

聞き終えると、大きく息を吐いた。

「……そういうことか」


バアサは、少し考えるように言った。

「なら——エリナたちの家に、何かヒントがあるかもしれないね」


「……母さんの家、ですか」


「ああ。あんたも、そこで生まれたんだよ」


「案内しよう。こっちだよ」

バアサは、杖をつきながら、ゆっくりと歩き出した。

四人は、その後についていった。


バアサが案内したのは、村の奥、これまであまり足を踏み入れていなかった一角にある、比較的原型を保った家の跡だった。


「……ここが」

俺は足を止めた。

周りの家々と比べて、瓦礫の散らばり方が違う。

雑草も、他の場所ほど生い茂っていない。


「バアサさん、ここ、手入れしてたんですか」

リナが気づいて聞いた。


「いや、わしは何もしとらんよ」

バアサは首を振った。

「花を供えるくらいだ。掃除までは、とても手が回らない」


「じゃあ、なんでこんなに、崩れずに残ってるんでしょう」

セラが不思議そうに家を見上げた。


「わしにも分からんね」

バアサは静かに言った。


「不思議と、ここだけは、あまり崩れないんだよ。何十年も経ってるのに」


その言葉に、ルシェが眉をひそめた。

「……何か、力が働いてるのかもな」


「力?」


「魔力の残滓とか。この家、何かに守られてる感じがする」


俺は家をもう一度見渡した。

(父さんが、何かしたのかもしれない)

(大事なものを、守るために)


「崩れた壁の隅に、小さな花が供えられていた。


まだ枯れきっていない、新しい花だった。

「これは、バアサさんが供えたんですか」


「ああ。エリナに供えるついでに、ここにも一輪」


バアサは、静かに家を見渡した。

「……ここで、あの人たちは暮らしてたんだよ。ハエル、お前も」


「俺も、ここで……」


俺は胸が締め付けられた。

記憶にはない。

でも——確かに、ここが始まりの場所だった。


「中、見てみてもいいですか」


「もちろんだよ」


俺たちは、崩れた家の中に足を踏み入れた。

他の家より、床がしっかりしていた。


「……ここ、何か変です」

リナが床の一角を指さした。


木の床の一部が、他の場所と少し色が違っていた。


「踏んでみてもいいか」

俺は慎重に、その部分に体重をかけた。


「……っ」

床が、わずかに沈んだ。


「隠し扉だ」

ルシェが即座に言った。


四人で床を確認すると、確かに、四角い切れ目があった。


バアサが、驚いたように言った。

「……そんなもの、あったのか。知らなかった」


「開けてみよう」


俺は床板の隙間に指をかけ、力を込めた。

軋みながら、床板が持ち上がった。

下に、暗い空間が広がっていた。

石の階段が、地下へ続いていた。


「……地下室だ」


「入りますか」

セラが聞いた。


「ああ。何かあるかもしれない」


セラが光魔法で小さな灯りを作り、先頭を歩いた。

バアサは、少し不安そうに階段を見た。


「わしは、ここで待ってるよ。年寄りには、あの階段はきつい」


「分かりました。すぐ戻ります」


地下室は、思っていたより広かった。

石造りの、しっかりとした部屋だった。

壁際には、棚が並んでいる。

そこに——古い書物が、何冊も並んでいた。


「……これ」

俺は近づいて、一冊を手に取った。


表紙は色褪せていたが、まだ読める状態だった。

開いてみると、古い文字で何かが書かれていた。


「セラ、読めるか?」

セラが覗き込んだ。


「……天界の古い文字です。均衡の時代について書かれています」


「均衡の時代?」


「光と闇が保たれていた、平和な時代のことです」

セラは、ページをめくりながら言った。

「神が、まだ——今のようになる前の、記録のようです」


「父さんが集めてたのか、これ」


「おそらく。かなり詳しく調べていたようです」


俺は書物を、丁寧に棚に戻した。

「他にも、何かあるかもしれない」


部屋の奥に、机が一つ置かれていた。

その上に——何か、金属でできた物が置かれていた。


「……なんだ、これ」

俺は近づいた。


剣とも、何か別の道具ともつかない、奇妙な形をしていた。

刃のような部分と、複雑な紋様の刻まれた柄。

でも——明らかに、未完成だった。

途中で止まったような、不自然な形をしていた。


「セラ、これ何か分かるか」


セラは、その道具を注意深く観察した。

「……分かりません。でも、天界の術式が、部分的に刻まれています」


「天界の術式?」


「ええ。ただ——完成していません。何かの目的で作られたもののようですが」


ルシェが道具に触れようとして、ためらった。

「……嫌な感じがする」


「嫌な感じ?」


「魔族の感覚だ。この道具、何かを"封じる"ためのものに近い気がする」


「封じる……」


「神に対抗するための、何かなのかもしれません」

セラが静かに言った。


「アスモスさんは、この村で静かに暮らしながら——ずっと、神のことを調べて、備えていたのかもしれません」


その言葉に、俺は胸が締め付けられた。

(父さん……こんなことまで)


「これ、持って行った方がいいですか」

リナが聞いた。


「……ああ。未完成でも、何かの手がかりになるかもしれない」

俺は道具を、丁寧に布で包んだ。


「文献も、必要なものだけ持っていこう」

四人で、重要そうな書物をいくつか選び、荷物にまとめた。


地下から戻ると、バアサが家の外で待っていた。

「何か、見つかったかい」


「はい。古い書物と、変わった道具が」


「……あの人らしいね」

バアサは、静かに笑った。

「アスモスは、いつも何か考え込んでる人だったよ。優しいのに、どこか一人で抱え込む癖があってね」


「……父さんらしいです」

俺は少し笑った。


外はすっかり夕方になっていた。


「バアサさん、もっと話を聞かせてもらえますか」


「もちろんだよ」

バアサは頷いた。

「でも、立ち話も何だ。わしの家に来るか。ここから半日ほどかかるが」


「半日……」


「わしは、もっと遠くの町に住んでてね。月に一度、片道半日かけて、ここまで来てるんだよ」


「それは大変ですね」

リナが心配そうに言った。


「歳を取ると、暇な時間ばかり増えるからね。体が動くうちは、通い続けるつもりだよ」


俺は深く頭を下げた。

「お願いします」


バアサは、村の入り口の方へ歩き出しながら、ぽつりと言った。

「……本当に、生きてたんだな、エリナの子が」


その背中に、俺たちは静かについていった。

夕日が、村全体を茜色に染めていた。

その光の中を、五人で歩いた。

先日体調を崩してしまい執筆することができませんでした。申し訳ありません。

53話、読んでくださってありがとうございます。


バアサとの出会い、今回は少し違う流れにしました。最初は警戒しながらの会話から始まり、少しずつ、ハエルの顔立ちに気づいていく——「その目の色、その顔立ち……まさか」という反応に、じわじわとした驚きが表れていたと思います。


バアサが案内してくれた、アスモスとエリナが暮らしていた家。そこで見つかった地下室には、均衡の時代についての文献と、未完成の道具がありました。


またお会いしましょう。


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