五十話 分かっていないことのリスト
49話で、骨隆々村へ向かうことが決まりました。
今回は、少し立ち止まる話です。
セラが——調査員らしく、状況を整理します。
街道の途中、大きな木の下で休憩を取ることになった。
「……少し、整理させてください」
セラが荷物から羊皮紙を取り出した。
「整理?」
「今、分かっていることと、分かっていないことです。頭の中が、少し混乱してきたので」
「セラでも混乱するんだな」
「……失礼ですね。当然、混乱します。だから整理するんです。」
セラは紙に文字を書き始めた。
「まず——分かっていないことから並べます」
「多そうだな」
「多いです」
セラは静かにペンを走らせた。
「一つ目。なぜ、ハエルの中に闇の力があるのか」
「……それは、俺も知りたい」
俺は正直に言った。
「父さんは、そのことを話す前に……」
言葉が、少し詰まった。
「話す前に、亡くなった」
セラは静かに頷いた。
「ええ。だから——これは、今も分かっていません」
「二つ目。リナの力の正体」
「私の……」
リナが少し身を乗り出した。
「巫女の血統らしい、というところまでは分かっています。でも——なぜ犬の耳や尻尾が現れたのか、どこまでの力があるのか、詳しいことは分かっていません」
「……そうですね」
「三つ目。私が、規律を破っても——」
セラは少し言葉を止めた。
「……なぜ、罰を受けていないのか」
その言葉に、少し重い空気が流れた。
「これも、まだ分かっていません」
「セラ……」
「大丈夫です。続けます」
セラは咳払いした。
「四つ目。教団の目的」
「まだほとんど何も分かってないな」
「はい。存在の噂を知っているだけです」
「五つ目——」
セラは少し間を置いた。
「神が、なぜ今のような姿になったのか。その詳しい経緯です」
「……それも、まだか」
「ええ。今のような状態にある、という結果だけは分かっています。でも——なぜそうなったのか、根本の原因はまだ誰も分かっていません」
ルシェが腕を組んだ。
「……知らないことだらけだな」
「そうなんです」
セラは少し困ったように言った。
「六つ目。ハエルの——」
セラは俺をちらっと見た。
「……闇の、新しい変化について」
俺は少し黙った。
「それは——」
セラは静かに続けた。
「でも、いつか解決しないといけない問題として、書いておきます」
「……ああ」
「七つ目。ソロの首輪の状態」
「あれも、まだ限界が近いままだったな」
「はい。いつか、根本的な対処が必要になると思います」
セラは紙を見つめた。
「……こうして並べると、分からないことばかりですね」
リナが少し不安そうに言った。
「大丈夫でしょうか、私たち」
セラは少し考えて、首を振った。
「分からないことが多いのは、悪いことじゃないと思います」
「そうですか?」
「知らないことに気づけているから、調べようとできます。気づいていなかったら、もっと危険だったと思います」
その言葉に、リナは少し安心したように頷いた。
「……じゃあ、分かっていることも書きましょう」
「はい」
セラは紙の別の場所に、また文字を書き始めた。
「一つ目。アスモスは、堕天した元天使で、人間を助けすぎたことがその理由だった」
「二つ目。骨隆々村で、ハエルの母親と出会い、村に受け入れられた」
「三つ目。村が騎士団に襲撃され、ハエルの母親が亡くなった」
セラは少し言葉を選んだ。
「……この辺りは、ハエルから聞いた話です。それ以上のことは、まだ分かっていません」
俺は黙って頷いた。
「四つ目。ザイルは、天界の中でも異常な存在で、私に執着している」
「……セラ」
「事実です」
セラは静かに続けた。
「五つ目。ガルドは、天界の命令に対して、少しずつ疑問を持ち始めている」
「六つ目。ハニエルは、アスモスの友人で、私たちに協力してくれる意志がある」
「七つ目——」
セラは少し間を置いた。
「骨隆々村に、真実を知る手がかりがあるかもしれない」
紙を見つめて、セラは小さく息をついた。
「……こうして見ると、分かっていることより、分かっていないことの方が多いですね」
「そうだな」
俺は紙を見た。
特に——一番上に書かれた「なぜ、ハエルの中に闇の力があるのか」という一文が、目に焼き付いた。
(父さん)
(教えてくれる前に、いなくなってしまったな)
「でも——」
俺は少し息を吸った。
「一個ずつ、潰していけばいい」
「……ええ」
セラは紙を丁寧に畳んだ。
「次の目的地は、骨隆々村です。そこで——手がかりを、探しましょう」
リナが頷いた。
「私も、頑張ります」
ルシェが立ち上がった。
「……行くか」
セラが最後に、静かに付け加えた。
「……あと」
「なんだ?」
セラは少し照れくさそうに言った。
「……九つ目。私たちの旅が、これからどうなっていくのか」
「それは——」
「分からないことです。でも——」
セラは俺たちを見た。
「一緒に、見つけていきたいと思います」
その言葉に、四人はしばらく黙っていた。
でも——それぞれの表情に、静かな決意があった。
「行くぞ」
「はい」
「ああ」
四人は、また街道を歩き始めた。
分からないことは多い。
でも——一歩ずつ、進んでいく。
その先に、骨隆々村があった。
50話、読んでくださってありがとうございます。
セラが、状況を整理してくれました。分かっていないことが九つ、分かっていることが八つ。
一番上に書かれた「なぜ、ハエルの中に闇の力があるのか」。これは、ハエル自身にとっても、まだ答えのない問いです。
「知らないことに気づけているから、調べようとできる」というセラの言葉。この物語は、そうやって少しずつ前に進んでいきます。
次回、骨隆々村へ到着します。
またお会いしましょう。




