表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔族に育てられた俺、 気づけば光と闇の境界に立っていた  作者: CYABUSAN(ちゃぶさん
第一章:父と子の物語(第1〜10話)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/52

四十九話 帰る場所

48話で、静かな夜がありました。


今回は——ハエルが、

向き合わなければいけない場所へ向かう決意をする話です。


自分の生まれた場所。

父さんとの記憶が眠る場所。


そして——教団という、新しい影も見え始めます。

翌朝。

廃墟を出発する準備をしていた時だった。


セラが、リナの頭を見ながら、少し考え込んでいた。


「……セラ?」


「……昨日のこと、思い出していました」


「リナの力のことか」


「ええ」


セラは荷物をまとめる手を止めた。

「巫女の血統というものが、天界の古い記録にありました。神が、今のようになる前から存在していた血筋です」


「それが、リナに?」


「おそらく」

セラは少し言葉を選んだ。

「……そういえば、記録にはもう一つ、気になる名前がありました」


「なんだ?」


「……教団、と呼ばれる組織です」


「教団?」


「ええ。巫女の血統を——回収しようとしていた組織だと、記録にありました」


リナが不安そうな顔をした。

「回収……って」


「詳しいことは分かりません。ただ、古い記録の中で、そういう存在として扱われていました」


セラは少し考えた。

「昨日、リナの力が表に出ました。もし——その組織がまだ動いているとしたら」


「リナが狙われるってことか」


「可能性の話です。まだ、確証はありません」


セラは静かに続けた。

「長い間、活動の形跡がなかった組織です。もう存在していないかもしれません」


「でも——」


「動いていないといいんですが」

セラはそれだけ言った。

その言葉に、少し重い空気が流れた。


リナが自分の頭に触れた。

犬耳は、もう消えていた。

「……私、狙われるんですか」


「今はまだ、分かりません」


俺は少し考えた。

「気をつけながら進むしかないな」


「ええ」


セラは頷いた。

「今すぐどうこうという話ではありません。でも——頭の片隅に置いておいた方がいいと思います」


ガルドが荷物の準備を手伝いながら言った。

「……お前たち、これからどうする」


「セラは無事に戻った。次は——」


俺は少し間を置いた。

「骨隆々村に、戻ってみようと思う」


ガルドは少し黙った。

「……お前の生まれた村だったな」


その声が、いつもより低かった。

一瞬だけ、ガルドの視線が地面に落ちた。

でも——すぐに顔を上げた。


「ああ」


俺は少し息を吐いた。


「あの日から、一度も戻ってない」


赤ん坊の頃の出来事だから、村が焼かれた瞬間の記憶はない。

でも——父さんとは、その後もずっと近くの森で暮らしていた。

骨隆々村から、そう遠くない場所で。


「……怖くないのか」

ガルドが聞いた。


「怖いよ」

俺は正直に言った。

「焼かれた記憶はない。でも——すぐ近くで育ったから、あの場所がどんな意味を持つか、父さんから何度も聞かされてた」


「……そうか」


「それでも——もう一度、ちゃんと向き合いたい」


俺は少し間を置いた。

「それに——何か、残ってるかもしれない。父さんのことが分かる手がかりと——」


俺は自分の腕を見た。

「俺の中にある、この力のことも」


ガルドは静かに頷いた。

「……そうか」


リナが心配そうに俺を見た。

「私たちも、一緒に行きます」


「……ああ」


セラが静かに言った。

「無理はしないでくださいね」


「分かってる」


ルシェは何も言わなかった。

でも——その目が、少しだけ真剣だった。

(……あいつも、何か思うところがあるんだろうか)


理由は分からなかった。

でも、聞かなかった。


「ガルドは、これからどうするんだ」


「……天界に戻る。鍵のことを報告しないといけない」


「危なくないのか」


「……なんとかする」


ガルドはそれ以上言わなかった。

でも——その目に、何か決意のようなものが見えた。


「……また会おう」


「ああ。今度は俺たちから訪ねる」


「……待っている」


ガルドは短くそれだけ言った。


天界の、ある一室。

ザイルは静かに、窓の外を見つめていた。

その笑顔は——今は、なかった。


「……逃がした、か」

呟きが、静かな部屋に落ちた。


天使の一人が、恐る恐る報告に来た。

「ザイル様……上層部が、報告を求めています」


「報告することなど、何もないよ」

ザイルは静かに言った。


「セラは、まだ調査を続けている。それだけだ」


「……しかし——」


「それだけだ」

ザイルの声に、初めて冷たいものが混じった。

天使は何も言わず、退出した。


一人になった部屋で、ザイルは自分の手を見つめた。

「……ハエル、か」

その名前を、静かに呟いた。


「……アスモスの息子。ハニエルの加護。そして——」

ザイルの目が、細くなった。

「あの人間の少女の、あの力」


窓の外を、また見つめた。

「……面白くなってきたね」

その笑顔が、また戻ってきた。

でも——今度の笑顔には、今までとは違う、何か冷たい決意が滲んでいた。


四人は、廃墟を出て街道を歩いていた。


「……骨隆々村、どんな場所なんですか」

リナが聞いた。


「もう、村じゃない」

俺は少し間を置いた。

「壊滅して、誰もいなくなった」


「……そうですよね。すみません、変なこと聞いて」


「いや」

俺は首を振った。

「聞いてくれていい。母さんが辿り着いた場所だ」


「……ハエルさんが生まれた場所、ですよね」


「ああ。でも——覚えてることは何もない」


「そうなんですか?」


「赤ん坊の頃の話だから。父さんと過ごしたのは、村の近くの森だった」


セラが静かに言った。

「……大切な場所なんですね」


「大切で、辛い場所だ」

俺は少し間を置いた。

「……正直、何を見つけられるか分からない。でも——」


「でも?」


「父さんのことを、もっと知りたい。あと——」


俺は自分の腕を見た。

「俺の中にあるこの力が、何なのか。それも知りたい」


セラは少し頷いた。

「……無理しないでくださいね」


「ああ」


ルシェが空を見上げた。

「……教団とか、ザイルとか。色々気になることが増えたな」


「ああ」


「でも——」

ルシェは前を向いた。

「今できることをやるしかない」


「そうだな」


セラが静かに言った。

「……気をつけながら進みましょう」


「うん」


四人は、静かに歩き続けた。


風が、街道の草を揺らしていた。


その風の向こうに——


かつて、ハエルの全てが始まった場所が、待っていた。

49話、読んでくださってありがとうございます。


「教団」という名前が、初めて出ました。セラの記憶の中の、古い記録の話として。まだ本当に動いているかどうかも分かりません。でも——リナの力が表に出た今、頭の片隅に置いておくべき懸念になりました。


ザイルの部屋の場面。笑顔を失ったザイルが、初めて見せた素の顔でした。


そして、ハエルが自分の生まれた場所——骨隆々村へ戻ることを決めました。父さんのことだけじゃなく、自分の中にある力のことも。二つの謎を抱えて、旅は続きます。


次回、骨隆々村へ向かいます。


またお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ