表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔族に育てられた俺、 気づけば光と闇の境界に立っていた  作者: CYABUSAN(ちゃぶさん
第一章:父と子の物語(第1〜10話)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/48

四十一話 元気でね

40話で、四人は連携して傭兵を撃破しました。

今回は、その翌日。

ザイルが本格的に動きます。

笑顔の裏に隠れていた本気が、ついに牙を剥きます。

翌朝。

宿を出ようとした時だった。

町の入口に、ザイルが立っていた。


今回は——今までと違う空気があった。

笑顔は変わらない。

でも——その笑顔の奥に、今まで見えなかった何かがあった。


「やあ、セラ」


「……っ」

セラの体が、強張った。

「今日は挨拶じゃないよ」


ザイルは静かに言った。

「報告期限が、もう限界だ。上層部も、これ以上は待てないと言っている」


「……」


「君には、天界に戻ってもらう。今日、ここで」


俺は即座に前に出た。

「渡さない」


ザイルは俺を見た。

「……また君か、ハエル」


「ああ。また俺だ」


「懲りないね」


「懲りない」


ザイルは少し首を傾けた。

「……面白い人間だ。でも——今日は退いてもらうよ」


「退かない」


「そう」

ザイルの笑顔が、わずかだけ変わった。

「なら——仕方ないね」


ザイルが踏み込んだ。

速い。

今まで感じたことのない速さだった。


俺は身構えた。

(目を見ろ——)

特訓で覚えた感覚を使う。


ザイルの目が動いた。

右——

俺は左に動いた。

ザイルの拳が、俺の頬をかすめた。


「……っ」


「おや」

ザイルが少し目を細めた。

「避けたね。人間にしては、随分と」


「父さんやみんなに鍛えてもらったから」


「父さん……ああ、堕天した天使か」


俺の体が、一瞬だけ固まった。

「……知ってるのか」


「もちろん。アスモスだろう? 天界では有名だったよ。人間を助けすぎた愚かな天使として」


「愚かじゃない」


「そう思うのは自由だけど——」

ザイルの目から、笑顔だけが残って温度が消えた。

「愚かだから堕天したんだよ」


「……っ!」


怒りが、体の奥から込み上げてきた。

闇が、わずかに反応した。

(落ち着け)

(今は暴走してる場合じゃない)


「ハエル、下がれ!」

ルシェが前に出た。

「あたしが相手だ!」


「魔族か。君も随分と人間に肩入れしているね」


「うっさい」

ルシェが爪を構えた。


「……やってみろ」


ルシェが踏み込んだ。

今まで見た中で、一番速い踏み込みだった。

でも——


ザイルはそれを、ほとんど動かずに受け流した。

ルシェが弾かれた。

「ルシェ!」


「……大丈夫だ」

ルシェは即座に立ち上がった。


腕が震えていた。

でも——もう一度構えた。


「まだやるのか」


「当然だ」

ルシェは再び踏み込んだ。

今度は別の角度から。

爪が、ザイルの腕をかすめた。


「……っ」


「……当たったな」

ルシェが言った。


「……そうだね」

ザイルは自分の腕を見た。


笑顔が、わずかだけ固まった。

「魔族に傷をつけられるとは思わなかった。君は——なかなかやるね」


「お世辞はいらない」


「お世辞じゃないよ」

ザイルは構えを変えた。

「でも——これ以上は、僕も本気を出さないといけないね」


光が溢れた。

ザイルの周囲に、天使の力が満ちた。


「……っ、これは」

ルシェが足を止めた。

「本気の第二階梯……」


「そう。君では届かない。残念だけど」


ルシェが吹き飛ばされた。

「ルシェ!!」

俺は駆けた。


ルシェは壁に叩きつけられていた。

「……くそ」


「動くな」


「……離せ、ハエル」


「無理だ。今は」

ルシェは俺の手を振り払おうとした。


でも——立ち上がれなかった。

「……くそっ」

ルシェが悔しそうに地面を叩いた。


俺は立ち上がった。

ザイルを見た。

「……次は俺が相手だ」


「ハエル」

リナが叫んだ。

「無理です! 相手は第二階梯で——」


「分かってる」


「なら——」


「でも、退けない」


俺はザイルに向かった。

セラとの特訓、ルシェとの訓練、全部を体に込めて。


ザイルの目を見る。

動きを読む。

砂を掴む。

フェイントを使う。

ザイルの動きが一瞬だけ乱れた。


「……面白い」


でも——

次の瞬間、俺の体が宙に浮いていた。

「ぐっ……!」

ザイルの拳が、俺の腹に深く入っていた。


視界が揺れた。

地面が近くなった。


「ハエルさん!!」

リナの声が、遠くなった。


ザイルが俺の上に立った。

その笑顔が、今日は——冷たかった。

「よく頑張ったよ、ハエル。本当に。人間としては、十分すぎるくらい」


「……っ」


「でも——これ以上は付き合ってあげれないし、死んでもらうしかないね」

ザイルの手が、光を帯びた。


(死ぬ……?)

体が動かない。

(まずい……)


「——待って!!」

声が飛んだ。

セラの声だった。


ザイルの手が、止まった。

「……セラ」


「……待ってください」

セラは俺とザイルの間に立っていた。


その体が、震えていた。

でも——前に出た。

「……行きます。天界に」


「セラ!?」


「……だから——もうこれ以上は、やめてください」


ザイルは少し首を傾けた。

「やめる……か」

その笑顔が、戻ってきた。


でも——今度の笑顔は、もっと嫌な感じがした。

「セラが来てくれるのは、嬉しい。でも——」


ザイルは静かに言った。

「……それだけじゃ、僕の怒りは収まらないよ?」


「……っ」


セラは少し黙った。

「……なんでも、言う事を聞きます。だから」


「なんでも?」


「……はい」

ザイルは少し間を置いた。


その笑顔が、今度は本物の笑顔になった。

一番嫌な種類の笑顔だった。

「……分かった。君の言葉を信じよう」


ザイルはハエルを見た。

光が収まった。

「……気絶だけにしてあげよう」


「……ありがとうございます」

セラの声が、震えていた。


ザイルの手が、俺の頭に触れた。

意識が、遠くなっていく。

最後に見えたのは——

セラの顔だった。


涙が、こぼれていた。

「ハエル……みんな」

セラの声が、遠くなる。

「……元気でね」


意識が戻った時、セラはいなかった。

リナが俺の隣にいた。

目が真っ赤だった。

「……ハエルさん」


「……ああ」


「気がつきましたか……?」


「……ああ」


「よかった……!」

リナが俯いた。

「セラさんが……」


「分かってる」


「……なんでも言う事を聞くって、言ってたんです」


「……そうか」


「私たちのために……」

リナの声が、震えた。

「……悔しいです」


「俺も悔しい」


ルシェが壁にもたれて言った。

「……あたしが弱かったから」


「ルシェのせいじゃない」


「でも——もっと力があれば」


「ルシェのせいじゃない」

俺は繰り返した。

「……ザイルが強すぎた。それだけだ」


ルシェは黙った。

でも——その拳が、地面を叩いた。


俺は立ち上がった。

体が痛い。

でも——立てた。

「取り戻しに行く」


「……ハエル」


「セラを取り戻しに行く。天界に入る方法を探す」


「天界に……どうやって」


「ガルドだ」


ルシェが顔を上げた。

「……そうだな。天界への道を知ってるとしたら、あいつしかいない」


「でもガルドは——」


「敵だ。今は」

俺はルシェを見た。

「でも——リナが言ってたよな。なにか迷ってそうだって」


「……ああ」


「その答えを、早めに出させる」


ルシェは少し黙って、立ち上がった。

「行くか」


「ああ」


リナが涙を拭いた。

「……私も行きます」


「リナ、天界は——」


「知ってます。でも行きます」


「……なんで」


「セラさんが私たちのために、なんでも言う事を聞くって言ったんです」

リナはまっすぐ俺を見た。

「私が、行かない理由がないじゃないですか」


ルシェが短く言った。

「……真っ直ぐな奴だ」


「ルシェさんもです」


「……うっさい」

でも否定しなかった。


三人で歩き出した。

セラが消えた空を、一度だけ見上げた。


(待ってろ、セラ)

(必ず、迎えに行く)

「元気でね」というセラの声が、まだ耳に残っていた。


41話、読んでくださってありがとうございます。

ザイルが本格的に動きました。

ルシェがザイルに傷をつけた場面。弾かれながらも何度も立ち上がった。それがルシェの強さです。

ハエルが追い詰められた瞬間、セラが前に出ました。「なんでも言う事を聞きます」という言葉の重さ。自分を差し出すことで、ハエルたちを守った。

「ハエル……みんな、元気でね」

涙を流しながら言ったこの言葉が、今話で一番重い言葉だったと思います。

次回から、奪還作戦が始まります。

またお会いしましょう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ