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魔族に育てられた俺、 気づけば光と闇の境界に立っていた  作者: CYABUSAN(ちゃぶさん
第一章:父と子の物語(第1〜10話)

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四十話 笑顔の裏側

39話の最後、何かが近づいてきていました。

今回、それが姿を現します。

ザイルが、今までより本気で動き始めます。

朝、目が覚めると同時に——


セラが静かに言った。

「起きてください。囲まれています」


「え?」

俺は跳ね起きた。

「囲まれてる?」


「ええ。野営地の周囲、四方から人の気配がします」


「何人だ?」


「……八人。全員、武装しています」


「天界の兵か?」


「いいえ。気配が違います。人間です」


「人間?」


「ザイルが雇った傭兵だと思います。昨夜のうちに包囲されました」


「気づかなかった……」


「私も気づくのが遅かった。……申し訳ありません」


「セラのせいじゃない」


ルシェがすでに立ち上がっていた。

「数は八人か。一人二人が相手だ」


「ルシェ、無理するな」


「無理じゃない。あたしとハエルで四人ずつ——」


「待て」

俺は少し考えた。

「囲まれてる、ってことは——向こうは俺たちが気づいてないと思ってる可能性がある」


「……それを使うのか」


「使えるなら使う」


リナが静かに言った。

「私、何かできることありますか」


「ある」


「え?」


「リナは煙を焚ける薬草を持ってるか?」


「虫除けのやつなら……」


「それでいい。合図をしたら、焚いてくれ」


「……分かりました」


セラが静かに言った。

「作戦を教えてください」


「向こうは俺たちが気づいてないと思ってる。だから——気づいてないふりをして、有利な場所に移動する」


「有利な場所とは」


「あの大木の根元。根が張り出してて、足場が悪い。でも俺たちは昨日から地形を把握してる」


「……なるほど」


「リナが煙を焚いたら、向こうは混乱する。その隙に各個撃破する」


ルシェが少し目を細めた。

「……考えたな」


「ルシェに教わったことを使っただけだ」


「……そうか」


「じゃあ、動く。自然に、気づいてないふりで」


四人は「朝の準備」をするふりをしながら、ゆっくりと大木の方へ移動した。

傭兵たちは動かなかった。


(まだ気づいてない)


大木の根元に着いた瞬間——

「今だ、リナ」


「はい!」

リナが薬草に火をつけた。

白い煙が、一気に広がった。


「なんだ!?」

傭兵たちが混乱した声を上げた。


「今だ!」

ルシェが最初に動いた。

煙の中を、一直線に駆ける。


「見えないのに速い……!?」

傭兵の一人が叫んだ。


「魔族だから目は関係ない!」

ルシェの爪が、二人の剣を同時に弾いた。


「っ!」


「次!」

俺は別方向に動いた。


木の根を踏まないように、昨日から頭に入れていたルートを走る。

傭兵が剣を振ってきた。


避けながら、地面の砂を掴む。

砂を投げる動作だけした。


傭兵が反射的に目を閉じた。

その隙に、剣を弾いた。


「ぐっ!」


「伏せろ! 暴れなければ傷つけない!」

傭兵が地面に膝をついた。


セラが別の方向で光魔法を放った。

傭兵が一瞬だけ視界を失う。

「今です、ハエル!」


「ああ!」

俺は駆けた。


セラと連携して、二人を無力化した。

残りはルシェが対処していた。


「……ふん」

ルシェが傭兵の最後の一人を地面に叩きつけた。

静寂が戻った。


「……全員か?」


「ええ。八人、全員無力化しました」

セラが静かに言った。


「死者は?」


「ありません。全員、気絶か戦意喪失です」


リナが駆け寄ってきた。

「み、みんな大丈夫ですか!?」


「大丈夫」


「怪我は!?」


「かすり傷くらいだ」


「それでも怪我です! 今すぐ——」


「リナ、作戦が決まったの、お前のおかげだぞ」


「え?」


「煙がなかったら、もっと苦戦してた」


リナは少し固まった。

「……私が?」


「ああ」


「……薬草を焚いただけです」


「それが一番重要だった」


リナは、その言葉をしばらく胸の中で受け取っていた。


ルシェが腕を組んで言った。

「……作戦、悪くなかった」


「ルシェに褒められた」


「褒めてない。悪くなかったと言っただけだ」


「それが褒めてるんだよ」


「……うっさい」


セラが静かに言った。

「地形を覚えていたこと、煙で混乱させたこと、連携して各個撃破したこと——全部、昨日までの訓練の成果です」


「セラも褒めてる」


「事実を述べただけです」


「それが褒めてるんだよ」


「……」


セラは少し黙った。

「……よくやりました」


「素直に言った!」


「……言ってしまいました」

セラは少し視線をそらした。

その頬が、わずかに赤かった。


気絶した傭兵の一人が、目を覚ました。

「……っ」


俺はその傭兵の前にしゃがんだ。

「誰に雇われた」


「……」


「答えなくていい。でも——ひとつだけ聞く」


傭兵は俺を見た。

「俺たちを捕まえて、どこに連れていくつもりだった?」


傭兵は少し黙った。

「……金さえもらえれば、どこでもいい」


「金を出したのは誰だ」


「……教会の偉い奴だ。顔は見てない」


「教会の……」

俺は立ち上がった。

「行っていい。もう追ってくるな」


傭兵は、俺を一度だけ見た。

「……なんで見逃す」


「戦う理由がなくなったから」


傭兵は黙って立ち上がり、森の奥へ消えていった。


ルシェが言った。

「……甘いな」


「そうかもしれない」


「でも——」

ルシェは少し間を置いた。

「……悪くない」


「ルシェがまた褒めた」


「褒めてない」


「褒めてるよ」


「……」

ルシェは完全に黙った。


その後、四人で撤収を始めた。


「教会経由か……」

ルシェが言った。


「直接手を出さないのは変わらないな」


「でも今回は傭兵を使った。今まで噂を流すだけだったのに」


「本格的になってきたってことか」


「……ええ」

セラの声が、少しだけ緊張を帯びていた。

「次は何をしてくるか分かりません」


「でも——今日は勝った」

俺は言った。

「次も考える。その繰り返しだ」


セラは俺を見た。

「……ハエルは、怖くないんですか」


「怖い」


「でも——」


「怖くても、前に進むしかない。後ろには下がれないから」


セラはしばらく俺を見ていた。

「……そうですね」

その声に、少しだけ力が戻った気がした。


リナが言った。

「あの……一個聞いていいですか」


「ん?」


「作戦、いつ考えたんですか? 起きた直後でしたよね」


「……朝起きる前から、ぼんやり考えてた」


「え? 寝ながらですか?」


「なんか夢で戦ってた気がして」


「夢で戦闘の練習してるんですか!?」


「してるつもりはなかったけど」


ルシェが小声で言った。

「……重症だな」

「でも——それが今日に繋がったんだろ」


「……まあ」


「ならいい」


リナが笑った。

「ハエルさん、夢の中でも訓練してたんですね」


「してるつもりはなかった」


「でも結果的に!」


「……まあ」


「それって——すごく真剣に取り組んでるってことじゃないですか」


リナの言葉に、俺は少し黙った。

(真剣に……か)

(父さんが教えてくれたことも、無駄にしたくないから)

(それだけ、体に染み込んでるのか)

「……父さんと皆のおかげだな」


「お父さんが教えてくれたんですよね」


「ああ」


「……どんな訓練をしてたんですか?」


「毎日、手合わせ。指一本で木剣を受け止めるような人だったから、全然当たらなかった」


「指一本で!?」


「そういう人だった」


リナは少し笑った。

「会ってみたかったです」


「……うん」


「きっと、面白い人だったんでしょうね」


「面白かったよ。変な人だったけど」


「変な人?」


「料理の時だけ妙に軽やかで、鼻歌を歌いながら作るんだ」


「可愛い!」


「男なのに?」


「男でも可愛いものは可愛いです!」

俺は思わず笑った。


(父さんが可愛いって言われてる)

(父さんが聞いたら何て言うかな)

(「俺が可愛い? ハエル、お前の友達の目は大丈夫か?」って言いそうだな)

胸の奥が、じんわりと温かくなった。


「ハエルさん、笑ってますよ」


「……そっか」


「どんなことを考えてたんですか?」


「父さんが言いそうな事を想像をしてた」


「教えてください!」


「内緒」


「えー!!」


ルシェが小声でセラに言った。

「……あいつ、父親の話をする時だけ表情が変わるな」


「……ええ」


「大切なんだろうな」


「……ええ」

二人は静かに歩き続けた。


夜。

野営の焚き火を囲みながら、四人は黙っていた。

今日は色々あったから、みんな少し疲れていた。


「……今日、初めてちゃんと連携できた気がします」

リナが静かに言った。


「そうだな」


「私も、役に立てましたか?」


「役に立ったよ」


「……よかった」

リナは焚き火を見た。

「もっと強くなりたい気持ちは、まだあります」


「うん」


「でも——今の私でも、できることがあるって分かりました」


「ああ」


「……それだけで、今日は十分です」


セラが静かに言った。

「……私も、今日は動けました」


「セラの光魔法、助かった」


「……連携が、初めてうまくいった気がします」


「次はもっとうまくやれる」


「……そうですね」


ルシェは焚き火を見たまま言った。

「……まあ、今日は合格点だ」


「ルシェが合格点と言った!」

リナが目を輝かせた。


「言ってない」


「言いました!!」


「……聞き間違いだ」


「聞き間違いじゃないです!!」

「……うっさい」

俺は笑った。


焚き火が、静かに揺れた。

(父さん)

(俺たち、少しずつ強くなってるよ)

(父さんに見せたかったな)


風が吹いた。

優しい風だった。

遠くで——何かが、また動く気配がした。

ザイルは、まだ諦めていない。

でも——今夜の俺たちは、昨日より少しだけ強くなっていた。

40話、読んでくださってありがとうございます。

今回、初めて四人がちゃんと連携して戦いました。

ハエルの「地形を把握する、煙で混乱させる、各個撃破する」という作戦。リナの煙が鍵になりました。ルシェの戦闘力、セラの光魔法、全部が噛み合いました。


父さんの話になった時、ハエルの表情が変わるのをルシェとセラが気づいていました。

リナの「今の私でも、できることがあるって分かりました」という言葉。少しずつ、積み重なっています。

次回、ザイルが本格的に動き始めます。

またお会いしましょう。

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