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魔族に育てられた俺、 気づけば光と闇の境界に立っていた  作者: CYABUSAN(ちゃぶさん
第一章:父と子の物語(第1〜10話)

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3/11

父さんの背中と、静かな墓地

お読みいただきありがとうございます。


第3話では、

アスモスがハエルを連れて“ある場所”へ向かいます。


父子のほのぼのは続きますが、

アスモスの過去や想いが

静かに、でも確実に見え始める回です。


リンゴとラズベリーの花を使った描写は、

アスモスの心情を象徴する大切なシーンになっています。


ゆっくりお楽しみください。

昼食を食べ終えたころ、

 父さんが珍しく真面目な顔をして言った。


「ハエル、ちょっと来い。

 ……見せたいものがある」


「え? なに?」


「まあ、ついてこいって」


父さんはいつもの軽い調子で言うけれど、

 その背中はどこか重かった。


家の裏手へ回ると、

 そこには古い石碑がいくつも並んでいた。


俺は何度か見たことがある。

 でも、父さんがここに来るのは珍しい。


「ここ……墓地だよね?」


「ああ。昔、この辺りには村があってな。

 ……骨隆々村って言うんだ」


「村……?」


父さんは静かに頷いた。


「俺はそこで暮らしてた。

 ……お前の母さんも、だ」


「母さん……?」


胸がぎゅっと締め付けられた。


父さんはいつも、母さんの話を避けていた。

 俺も無理に聞かなかった。


でも今、父さんは自分から話し始めている。


父さんは石碑の前に膝をつき、

 そっと二種類の花を置いた。


ひとつは、白いリンゴの花。

 もうひとつは、赤いラズベリーの小さな花束。


「この花……父さんが育ててるやつだよね?」


「ああ。

 ……あいつが好きだったんだ」


父さんはリンゴの花に触れ、

 少しだけ笑った。


「リンゴの花はな……

 “特別な人”に贈る花なんだとよ。

 あいつ、そう言ってた」


その言い方だけで、

 父さんにとって母さんがどれほど大切だったか分かった。


父さんは次にラズベリーの花束を見つめた。


「こっちは……まあ、俺の気持ちだな」


「父さんの……?」


「いろいろ、な」


それ以上は言わなかった。

 でも、父さんの表情がすべてを物語っていた。


後悔。

 悲しみ。

 そして――喜び。


父さんは石碑に手を合わせ、

 静かに目を閉じた。


「母さんは……どんな人だったの?」


「優しい人だったよ。

 お前のことを、とても大事にしていた」


父さんの声は穏やかで、

 でもどこか震えていた。


「強くなるってのはな……

 守りたいものを守るために戦うってことだ」


「うん」


「でも……守れないこともある。

 どれだけ強くても、どうしようもない時がある」


父さんの手が、わずかに震えた。


俺は思わず父さんの手を握った。


「父さん……?」


「ハエル。

 お前には……俺みたいにはなってほしくない」


「どういう意味?」


「……そのうち話すよ。

 もう、時間もあまりないしな」


まただ。

 昨日も言っていた。


“近いうちに話す”

 “時間がない”


父さんは何を抱えているんだろう。


聞きたい。

 でも、聞けない。


父さんの手は大きくて、温かくて、

 でもどこか震えていた。


「帰るか。

 ……今日はシチューにするか?」


「うん……」


父さんは笑った。

 いつもの、優しい笑顔。


でもその背中は、

 どこか遠くへ行ってしまいそうで――


俺は無意識に、父さんの服の裾を掴んでいた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


今回は、

アスモスがハエルを墓地へ連れていく回でした。


リンゴの花とラズベリーの花は、

アスモスの過去と、

ハエルへの想いを象徴しています。


花言葉そのものは語りすぎず、

アスモスの“心の形”として描いています。


次回は、

父さんの“本当の強さ”が明らかになる回。

物語が大きく動き始めます。


引き続きよろしくお願いします。

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