表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔族に育てられた俺、 気づけば光と闇の境界に立っていた  作者: CYABUSAN(ちゃぶさん
第一章:父と子の物語(第1〜10話)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/48

二十三話 神様のお告げと、空洞の目

22話で、ソロは来なかった。


でも捨てなかった。

今回は神の使者の影が、もう少しだけはっきりします。


セラが一人で抱えているものが、少しずつ重くなっていきます。

朝、リナは布に包んだ夕飯の残りを持って立ち上がった。


「渡せたら渡します」


昨日そう言っていた通りに、本当に持っていくつもりらしい。


「一人で行くの?」


「大丈夫ですよ。すぐ戻ります」


「……同行します」


セラが立ち上がった。


「セラさん、いいんですか?」


「あなた一人では危険です。魔族の核が不安定な相手に、何かあってからでは遅い」


「でも昨日、悪い子じゃないって——」


「悪意がないことと、安全であることは別です」


リナは少し考えて、頷いた。

「……じゃあ、お願いします」


俺も立ち上がった。

「俺も行く」


「あなたは——」


「置いていかれる方が落ち着かない」


セラは少し間を置いて、小さく息をついた。

「……分かりました」


昨日の路地には、誰もいなかった。


三人でしばらく待ったが、人影は現れない。


「……来ないですね」

リナが呟いた。


「無理に探さなくていい」


「でも……」


「昨日、居場所を教えてしまった。警戒して移動したかもしれない」


リナは少しだけ肩を落とした。

「そっか……」


「リナ」


俺は言った。

「お前のやり方は間違ってないよ。焦らなくていい」


リナはしばらく黙って、やがて小さく笑った。

「……ありがとうございます」


布に包んだ食べ物を、リナはそっと路地の入口に置いた。

「一応、ここに置いておきます。来たら気づくかもしれないので」


セラはその様子を見て、何も言わなかった。


ただ——その目が、わずかに柔らかくなった。


「……セラ」

町を歩きながら、俺は声をかけた。


「なんですか」


「昨日言ってた教会、行ってみないか」


「……なぜですか」


「気になるから。神の使者がそこへ向かってたんだろ」


「確認済みの情報ではありません」


「でも気になってるんだろ、お前も」


セラは少し間を置いた。

「……行きます。ただし、目立った行動は禁止です」


「分かった」


リナが手を挙げる。

「私も行きます!」


「リナは——」


「行きます」


セラは止めるのを諦めたように、小さく頷いた。


教会は町の中心に建っていた。

石造りの建物で、入口の上に神の紋章が刻まれている。


扉は開いていた。

中に入ると、高い天井と、整然と並んだ長椅子が目に入った。


信者が数人、静かに座って祈っている。

奥の祭壇に、司祭が立っていた。


白髪の老人だった。穏やかな顔をしている。

俺たちに気づいた司祭が、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。

「ようこそ。旅の方ですか?」


「はい。少し、中を見せてもらえますか」


「もちろんです。神は誰でも迎えてくださいます」

司祭は穏やかに笑った。


本当に優しそうな人だった。悪意はどこにも見えない。


「最近、この町は賑やかですね」


「はい。旅の方が多いみたいで」


「そうですね。神のお告げが増えてから、巡礼の方が増えました」


俺は聞き返した。

「神のお告げ……?」


「ええ。最近、夢でよく神様の声を聞くんです」

司祭は穏やかに続ける。

「"世界の均衡を守れ"と。"光と闇を正しい場所へ導け"と」


「……素晴らしいですね」

セラが静かに言った。表情は変えていない。


「神のお言葉を聞けるなんて、司祭様は特別なお方だ」


「いえいえ。神は等しく皆を愛してくださいます」

司祭はまた穏やかに笑った。

「ゆっくりしていってください」


司祭が祭壇へ戻っていく。


リナが小声で俺に囁いた。

「……優しそうな人でしたね」


「うん」


「でも……セラさん、顔が怖いです」


俺はセラを見た。


セラは祭壇を見つめたまま、表情を固めていた。


教会を出た後、三人は広場の端に座った


「……司祭は本当のことを言っています」

セラが口を開いた。


「どういう意味?」


「あの人は嘘をついていません。本当に夢で声を聞いている。本当に神のお告げだと信じている」


「じゃあ……」


「問題は、その声が"本当に神のものかどうか"です」


リナが息を呑んだ。

「……違うんですか?」


セラは少し間を置いた。

「今の神は——壊れています」


「壊れてる……?」


「詳しくは言えません。でも、今の神の言葉を信じることは——危険です」

しばらく、誰も喋らなかった。


風が吹いて、広場の旗がはためく。


「セラ」

俺は聞いた。


「天界は……それを知ってるの?」


「……知っているはずです。でも」


「でも?」


「上層部は——もう、神の影響を受け始めているかもしれません」

その言葉が、胸に重く落ちた。


「じゃあ……セラが天界に報告しても」


「正確に届くかどうか、分かりません」

セラは視線を落とした。

「……だから、報告を急げない理由が——もう一つ、増えました」


リナが静かに言った。

「セラさん……一人で抱えすぎてませんか」


セラは答えなかった。


その沈黙が、答えだった。


宿へ戻る道で、俺はセラの隣を歩いた。

「セラ」


「……なんですか」


「一人で抱えなくていいよ」


セラの足が、わずかに遅くなった。

「私は調査員です。感情で——」


「そういう話じゃない」


俺は続けた。

「父さんも、一人で抱えてたよ。堕天したことも、寿命が削られてることも、全部一人で抱えて……最後まで笑ってた」

セラは黙っていた。

「それが正しかったかどうかは分からない。でも俺は——もっと早く知りたかった」

風が吹いた。


セラは少し間を置いて、静かに言った。

「……覚えておきます」


それだけだった。


でも——その声は、いつもより少しだけ柔らかかった。


その夜。

セラは窓の外を見つめたまま、天界への通信を試みた。

応答はあった。

でも——

(……おかしい)

上層部の声が、どこか平坦だった。感情がない。命令だけがある。

「調査を続けよ。対象を確保せよ。光と闇の均衡を守れ」

(……これは、上層部の言葉じゃない)

セラは通信を切った。


手が、わずかに震えていた。

(天界が——もう)

答えを出すことが、怖かった。

でも——

ハエルの言葉が、頭の中で響いた。

「一人で抱えなくていいよ」

セラは窓の外を見た。


夜の町に、小さな灯りが揺れている。

(……もう少しだけ。もう少しだけ、自分で考える)

セラはそっと窓を閉めた。

——その時だった。


路地の入口に置いた布包みが、なくなっていた。

23話、読んでくださってありがとうございます。

司祭は悪人ではありません。


本当に神を信じている、本当に優しい人です。


でもその優しさが——神に利用されています。

セラが天界との通信で感じた違和感。


上層部の声が平坦だった理由は、まだ言えません。


でも確実に、天界も変わり始めています。

そして最後の一行。


布包みが、なくなっていました。

次回、声が聞こえます。

またお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ