第十九話 初めての町へ
読んでくださりありがとうございます。
今回は、ハエルたちが初めて町へ向かう回です。
人混みに慣れていない二人が右往左往する、
少しだけコミカルな雰囲気で始まります。
ただ、その裏で
セラだけが“町にある異常”に気づいています。
朝の空気は少し冷たくて、村の外へ出るのは久しぶりだった。
リナが荷物を抱えながら言う。
「ハエルさん、忘れ物ないですか?」
「大丈夫。リナが全部見てくれたし」
「えへへ……」
セラは少し離れた場所で空を見上げていた。
「天候は安定しています。移動には問題ありません」
「セラさん、準備できてます?」
「はい。あなたたちの歩幅に合わせます」
言い方は落ち着いているのに、どこか慣れていない感じがあった。
リナが小声で俺に囁く。
「セラさん……絶対、旅慣れてないですよね……」
「うん……そんな気がする」
セラは聞こえていないふりをしていた。
しばらく歩くと、遠くに町の屋根が見えてきた。
リナが嬉しそうに言う。
「もうすぐですよ。私、いつも薬を売りに来てるので……町の人、みんな優しいんです」
「リナ、町に慣れてるんだな」
「はい! お店の人も覚えてくれてて、“リナちゃん、今日も薬かい?”って声かけてくれるんです」
リナは胸を張って笑った。
その姿はいつもより少し頼もしかった。
セラはその様子を見て、なぜか視線をそらした。
町の門が近づくにつれ、人の声や馬車の音が大きくなっていく。
門の前に立つと、見張りの兵士がこちらを見た。
「三人か。旅の者か?」
リナが一歩前に出る。
「いつもの薬の納品です。今日は友達も一緒で」
「ああ、リナちゃんか。入っていいぞ」
兵士はすぐに笑顔になった。
胸の奥は静かで、光も闇も反応しない。
セラが小さく息をついた。
「偽装魔法も安定しています。問題ありません」
「ありがとう、セラ」
セラは一瞬だけ固まった。
「どういたしまして」
町の中へ足を踏み入れた瞬間、俺とセラは同時に固まった。
「……っ」
「な、なんですかこれ……」
視界いっぱいに広がる人、人、人。
行商人の声、馬車の音、子どもの笑い声。
色んな匂いと気配が一気に押し寄せてくる。
セラは完全に目が回っていた。
「情報量が……多すぎます……」
「俺も……ちょっと……」
森で育った俺には、この人の渦は刺激が強すぎた。
リナが慌てて二人の手を引く。
「二人とも! 流れに逆らったら危ないですよ! こっちです!」
「流れ……?」
「人の流れです!」
セラはぎこちなく頷き、俺はただ必死にリナの手を握った。
リナが細い路地に二人を連れ込む。
「ここなら人少ないです! ちょっと休みましょう!」
俺は壁にもたれかかり、セラはその場にしゃがみ込んだ。
「地上……恐ろしい……」
「セラ、大丈夫?」
「天界はもっと静かです……人がこんなに動いていません……」
リナが水筒を差し出す。
「はい、セラさん。お水どうぞ」
セラは受け取って一口飲む。
「これは……毒では?」
「毒じゃないです!!」
俺は笑いながら水を受け取る。
「ありがとう、リナ。助かった」
「ふふ……二人とも、可愛いです」
「可愛い……?」
セラが眉をひそめる。
「わ、私は……可愛いとか……そういう……」
「セラさん、顔赤いですよ?」
「赤くありません」
完全に赤かった。
俺は思わず笑ってしまった。
「よし……行けそう?」
「はい……なんとか……」
「俺も大丈夫」
リナが胸を張る。
「じゃあ次は、私の常連のお店に行きましょう!」
リナが案内してくれた店では、店主が笑顔で迎えてくれた。
「お、リナちゃん! 今日も来たのかい」
「はい! 今日は友達も一緒で」
店主は俺を見て、にこっと笑った。
「優しそうな子だねぇ。リナちゃんの友達なら安心だ」
「えへへ……」
セラはなぜか少しだけ不機嫌そうに視線をそらした。
店を出たあと、セラがふと立ち止まる。
「待ってください」
「どうしたの?」
セラは細い路地の方をじっと見つめていた。
「魔族の残滓が、少しだけあります」
「残滓……?」
「人間には分かりません。でも……最近、魔物が近くを通った跡です」
リナが不安そうに俺の腕を掴む。
「町の中に……魔物が?」
「今は薄いので危険はありません。ただ……気になります」
セラはしばらく路地を見つめ、やがて小さく息をついた。
「今は調査より、あなたたちの安全が優先です。行きましょう」
「うん」
胸の奥は静かだった。
光も闇も、何も反応しない。
ただ、セラの表情だけが少し険しかった。
こうして俺たちは、初めての町を歩き始めた。
胸の奥は静かで、ただ少しだけ不安が残っていた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
人混みに弱いハエルとセラ、
そしてしっかり者のリナ。
三人の関係が少しずつ形になってきました。
今回セラが感じた“残滓”は、
ただの魔物の痕跡ではありません。まだ物語には姿を見せませんが、
この先、ハエルの光と闇に反応する形で
少しずつ表に出てきます。
次回は、
町での小さな事件と、
ハエルの闇がほんの少しだけ揺れる回です。
続きもよろしくお願いします。




