第十六話 村の静けさと、胸のざわつき
お読みいただきありがとうございます。
今回は、
森から戻ったふたりを、
村の静けさが迎える回です。
小さな村だからこそ、
ハエルの存在が大きく揺れ始めます。
村の入口が見えてきた頃、
夕日が家々の屋根を赤く染めていた。
俺たちが戻ると、
畑仕事をしていた村人たちがすぐに気づいた。
「リナちゃん! ハエルくん!
無事だったのかい!」
「魔物は……どうなったんだ?」
リナは少し驚いたように立ち止まった。
「えっと……その……
ハエルさんが何匹か倒して……
残りは……逃げていきました」
「逃げた……?」
村人たちが顔を見合わせる。
「十や二十の魔物が逃げるなんて……
そんなこと、あるのか……?」
「普通は逆だろ……人間の方が逃げる……」
視線が一斉に俺へ向く。
「ハエルくん……本当に助かったよ。
リナちゃんも……いい人を連れてきたねぇ」
「えっ……!?」
リナは一瞬で顔を真っ赤にした。
「ち、違います! そういうんじゃなくて……!」
(……ああ、そういう意味か)
俺は心の中で苦笑した。
村人たちは悪気なく笑っている。
この村は、誰もが顔見知りだ。
だからこそ、こういう茶化しも自然に出る。
村人たちが散っていき、
ふたりだけになった帰り道。
リナがぽつりと呟いた。
「……ハエルさん」
「ん?」
「今日……本当に、ありがとうございました。
私……怖かったのに……
ハエルさんが来たら、安心して……」
言葉がそこで止まる。
リナは胸の前で手をぎゅっと握った。
「……また、助けてもらってばかりですね」
「そんなことないよ」
「でも……私も……
ハエルさんの力になりたいです」
その言葉は、
夕日の光に溶けるように静かだった。
リナの横顔は、
いつもより少しだけ大人びて見えた。
家に戻る途中、
胸の奥がふっと冷たくなる。
(……まただ)
森で感じたのと同じ、
誰かに見られているような感覚。
振り返る。
誰もいない。
でも――
空の高いところで、
白い光が一瞬だけ揺れた気がした。
(……なんなんだ、あれ)
胸のざわつきは、
今日も消えなかった。
リナの家の前に着くと、
リナがそっと袖を掴んだ。
「……ハエルさん」
「ん?」
「今日は……本当に……
ありがとうございました」
その声は震えていたけど、
まっすぐだった。
「……うん」
リナは小さく笑って、
家の扉を開けた。
夕日の光が消えていく。
夜が近づく。
そして――
空の白い光は、
確実に“落ちてきていた”。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
逃げていった魔物たちが怯えていた“白い光”。
その正体は、もうすぐ姿を現します。
次回は、
空から落ちてくる“誰か”との出会いです。




