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魔族に育てられた俺、 気づけば光と闇の境界に立っていた  作者: CYABUSAN(ちゃぶさん
第一章:父と子の物語(第1〜10話)

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第十二話 リナの村と、小さな家の温もり

お読みいただきありがとうございます。


今回は、

父さんを失ったハエルが、

初めて“誰かの家”で温もりに触れる回です。


ふわふわボブのリナが、

本格的に物語へ関わり始めます。


それでは、どうぞ。

リナに手を引かれながら歩く道は、

森の匂いと土の温かさが混ざっていた。


父さんを埋めた丘から、

ずいぶん遠くまで来た気がする。


「もうすぐ村です……」


リナが振り返る。

ふわっと揺れる栗色のボブが、

陽の光を受けて柔らかく光った。


(……小さいな)


俺よりずっと背が低い。

でも胸元は……服越しでも分かるくらい、

ふんわりとした曲線を描いていた。


(小動物みたいな子だな……)


そんなことを思っていた、その時だった。


「きゃあああああ!!」


甲高い悲鳴が村の外れから響いた。


見ると、

小さな男の子が狼型の魔物に追われている。


「リナ、下がって!」


言うより先に、体が動いていた。


地面を蹴る。

風を切る音が耳をかすめる。

父さんに叩き込まれた“踏み込み”が、

自然と足に宿った。


「うわっ……!」


男の子を抱きかかえ、横へ転がる。

魔物の爪が、さっきまで俺たちがいた地面を裂いた。


(速い……でも、見える)


父さんの声が脳裏に蘇る。


『ハエル、敵の目じゃない。“肩”を見ろ』


魔物が再び飛びかかる。


俺は半歩だけ横にずれ、

魔物の首元へ拳を叩き込んだ。


「ガッ……!」


魔物は地面に転がり、

怯えたように森へ逃げていった。


村人たちが息を呑む。


「な、なんだ今の……」

「あの子……人間か?」


リナは胸の前で手をぎゅっと握りしめ、

大きな瞳を丸くしていた。


「ハエルさん……すご……!」


ふわふわのボブが揺れて、

その仕草が本当に小動物みたいだった。


「父さんに……教わっただけだよ」


胸が少しだけ痛んだ。

でも、リナのまっすぐな瞳が、

その痛みをそっと包んでくれた。


「……ありがとう。

 あの子、助けてくれて……」


リナは深く頭を下げた。

その拍子に胸元がふわっと揺れ、

俺は慌てて視線をそらした。


「ハエルさん……うち、来てください。

 休まないと……また倒れちゃいます」


「……うん」


リナに案内され、村の奥へ進む。


森を抜けた先に広がる村は、

家が十軒ほどしかない小さな集落だった。


畑がいくつか、

中央には古い井戸がひとつ。

人の気配も少なく、

ざっと見て三十人ほどの村だ。


(……こんなに小さいんだ)


初めて見る“人の暮らし”は、

思っていたより静かで、

どこか温かかった。


小さな家があった。

外見は質素なのに、

窓辺には花が飾られ、

扉の前には薬草が丁寧に干してある。


「ここ……リナの家?」


「はい。ひとり暮らしなんです。

 家族は……魔物に……」


リナの声が少しだけ震えた。


「……そっか」


俺はそれ以上聞かなかった。

聞くべきじゃない気がした。


リナは小さく笑って扉を開けた。


「どうぞ、入ってください」


中は――驚くほど綺麗だった。


棚には薬草の瓶が並び、

机の上には調合器具。

壁際には本がぎっしり。


でも、どこか温かい。

人の暮らしの匂いがした。


「座ってください。

 お茶……淹れますね」


リナは慣れた手つきで薬草を煮出し、

湯気の立つカップを差し出してくれた。


「……ありがとう」


口に含むと、

体の奥がじんわりと温まっていく。


「それ、疲れに効く薬草なんです。

 ハエルさん……すごくしんどそうだったから……」


リナは心配そうに覗き込む。

ふわふわのボブが頬にかかり、

その仕草がやけに可愛かった。


「……うん。

 少し……楽になった」


リナはほっと息をついた。


「よかった……」


その笑顔を見た瞬間、

胸の奥が少しだけ軽くなった。


(父さん……俺、ちゃんと歩けてるよ)


窓の外――

森の奥で、光が一瞬だけ揺れた。


(……誰か、いる?)


気配は“光”。

魔物とは違う。

でも、どこか懐かしいような――


「ハエルさん?」


「……ううん。なんでもないよ」


夜の気配が近づく。


遠くで、魔物の遠吠えが響いた。


(……明日、また戦うことになるかもしれない)


でも今は――

この小さな家の温もりに、

少しだけ身を預けてもいい気がした。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


リナの家は、

ハエルにとって“初めての安らぎ”でした。


次回は、

村を脅かす魔物との戦いが動き出します。

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