束子は育つものなのです。
いつもありがとうございます☆
待望の束子は要望してから二日後に手元に届いた。
それからユーリは片時も手元から離さずに束子を愛でている。
さりさりチクチク、さりさりチクチク。
束子を撫でて感触を楽しむユーリの口元は緩み、気付くと「うふふふふ」と堪えきれない声がこぼれている。
「そんなにたのしいのか?」
変なものでも見る顔をして兄は聞いて来た。
「せめて食事中は止めなさい」
母も理解出来ないという顔をしている。
父は微妙な顔をして、姉は特に関心はないようだ。
「……可愛がるならガァちゃんがいるし。家で何か生き物が飼いたいのなら猫ならいいわよ?」
愛玩動物の代わりだと思ったのか、諭すように母は言葉を重ねた。束子を片時も手元から離さず、隙を見ては撫でて愛でる幼児は奇行に走っているように見えるらしい。
「ちがうの。そだててるの!」
愛玩しているのではなく、育てているのだというユーリの言葉に家族は信じられない顔をした。それを見て言葉を間違えたとユーリは悟り、言い換えようとするより早く姉が口を開いた。
「ユーリ、束子は生き物じゃないわ。育つ事はないのよ」
「う、ううん。こほん。ローザの言う事は間違いないが、ユーリも分かっているんだよな? ハリネズミにでも見立てているなら本当に飼おうか?」
諭すように言う姉と、幼児を傷付けないように束子から離すように持っていこうとする父。完全にメルヘンな方向に勘違いされている事に気付いたユーリは焦りを感じた。束子をハリネズミだと思って愛玩する幼児に勘違いされるのは痛過ぎて耐えられない。
「あのね、やわらかくなるように『そだて』て『ならして』るの。ハリネズミのかわりじゃないの!」
「あ、ああ、だよな。父様は分かっていたよ。分かっていたとも」
「え? ならしてそだてるって、いきてるのか??」
父は複雑な顔をしつつも理解を示し、兄は意味が分からないという顔をした。
姉は生温い目で見て来て、母は察して突っ込んだ質問をして来た。
「束子を柔らかくして何にどう使うつもりなの?」
そう、柔らかくした先に目的があるのだ。本当はすぐに使いたかったのだが、幼児には難しい事に気付いた。その為に柔らかくしているのだけど、言えば止められるかもしれない。
「えへへ、ナイショ!」
こういう時は必殺、ヒ・ミ・ツ宣言に限る。その内に分かるし、使う所を使い方を見れば納得してもらえると思う。変な事をするわけではない。むしろ知ったら手放せなくなるのではないだろうか。それを思うと「くふふふふ」と幸せな笑みがこぼれてしまう。
幼児の楽しそうな可愛い顔を見たら、止めるのは難しい。取り上げて泣かれる事を考えたら諦めるしかないだろう。ユーリ本人は狙っていたわけではないが何とか認められた。
「お母様、猫は飼ってもいいのね? 私、飼ってみたいと思っていたの」
「あ、オレ! ハリネズミかいたい!」
「ハリネズミっ!」
そして新たな問題が発生するのだった。
ハリネズミは単に父の思い付きで言っただけらしく、更に母が了承しなかった。
けれど、猫は母が言い出した事もあり。
姉の友人宅に丁度子猫が産まれたからもらうという話になった。
食事の後、珍しく姉に礼を言われる事になったのだった。
そうして、寝ても起きてもお風呂でも束子を手放さず大事に育てた結果。
一週間後、大丈夫だろうと思える位に柔らかくなった。
いざという段階になって、一番説得が難しいのは身近にいるマーサだという事に気付く事にはなるのだが。
とりあえず、束子を取り上げられなかった事にユーリはホッとしたのだった。
束子を使う所までいけないのが残念ですが、長過ぎると読むのに疲れそうなのでキリがいいこの辺りで☆
分かる人には束子が出て来た段階で使い方は分かるのではないかと思います♪
使うのは愛でる以上に奇行に見える可能性がありそうですが、頑張って使えるようにしたいなと。
姉のローザは猫が飼いたかったようです。
書く前は全くそんな事を考えてなかったのに、急に決まりました。
ハリネズミは飼わないかもしれませんが、兄のラルフはカイルに話すだろうし。
カイルが両親に話したら、善意から貴族社会繋がりで入手してくれそうな気がするんですよね。
世話は家人がする事になりそうですが、構い倒しそうな気はします。




