カイルの事情(1)。
カイル視点でのお話になります☆
自分が傷付いたからといって、他人を傷付けてもいいはずはない。
そんな権利はないと分かっているはずだった。
幼い頃から知識と礼儀を学び、心身共に身に付いている自負がカイルにはあった。
自制心には自信があるはずだった。
けど、大事にしていた英雄の剣を弟のキースがわざと触って傷を付けたと知った時。自制など出来なかった。
これは自分にとって大事な物だから絶対に触らないようにと散々言って聞かせたのに。わざわざ、家人の隙をついてまで触ろうとして倒して傷を付ける。どうしてそんな事が出来るのか、本気で腹が立った。自分は両親からダメだと言われた事は守って来たのに何故それが出来ないのか。
自分の大事なものをわざと壊そうとしたようにしか思えなかった。
冷静に考えたら、3歳の幼児がそこまでの悪意を持つはずがないのは分かる。日頃の言動からすれば、ただの好奇心と興味からだろうという事も。
けれど、男爵家を継ぐ長男として期待に頑張って応えて来たカイルにとって、キースは元々が喉に引っかかる魚の小骨のような存在だった。
自分の幼少期、両親は厳しかった。
なのに、自分は怒られた事が弟は笑って許される事が多かった。
大人から見ると、二人目で子育てに慣れた事と上の子がしっかりしている安心感の為だと分かるが。当事者である子ども、カイルにとっては愛情の差に感じられる事だった。
両親は弟の方が大切で愛情を向けているのではないか。そんな不安が常にどこかにあった。でも、兄としての自負と傷付きたくなくて誰にも聞けなかった。
それが、大切な物を傷付けられても許せと言われて一気に感情があふれた。
兄として、弟に何もかも譲り許すのは当然だと言われたように感じた。
どうして、自分だけがいつも我慢しなければいけないのか。
尊敬する父に対して怒りをぶつけ口論になり、母に宥められても気持ちは落ち着く事がなかった。
弟のキースはカイルの本気の怒気にショックを受けたのか、元々病弱だった事もあって寝込んだ。
母はそんな弟に付きっ切りになり。そして、顔を合わせると「弟を許してあげて」と言う。
大事な物を傷付けられたのは自分なのに、怒った事を謝り許せと言われたように感じた。王城で騎士として勤める父を尊敬して、自分もいつかと思いながら眺めていた大事な剣なのに。どうでもいい物のように扱われるように感じた。
どうでもいいのは自分もなのか。
優秀な跡取りである長男は大事でも、愛情はもしかしたら無いのだろうか。自分の気持ちはどうでもよくて、常に弟を優先しなければならないのか。
そう考えると、家族と口を聞く気はなくなった。怒りが原因のように見えて、その奥には深い傷付きと悲しみがあった。
カイルは賢く物分かりの良い子だったので、周囲の大人はそういう不安や悲しみに気付けなかったし。カイル自身も何が自分を頑なにさせているのか分からなかった。
そうして膠着状態が続いた後、気分転換に同じ年のラルフの家に遊びに行くといいと送り出された。
カイルも折れ方が分からなかったので、反抗せずに大人しく家を出た。準備は家人がしたので、素直に家を出て馬車に乗り込むだけで着いた。
親同士の茶会で知り合ったカイルは相変わらず明るくて呑気だった。陰りがない笑顔から家族に大事にされていそうだと感じた。それは弟のキースと似ているような気がした。
自分は家から出されたのに、と思うと何とも言えなく気が重くなった。
カイルも家族に心配されている事は分かってはいた。
ただ、そこに愛情があるのかは分からなかった。感じられなかった。だから余計に口を聞く気にならなかった。
ご飯を食べ、勉強をして、風呂に入り寝る。生活のルーティンには逆らわず、それでいて必要最低限にしか口は開かなかった。
ラルフは親に言われたのか頑張って話かけて来たけど無視した。親に愛されているだろう存在が煩わしかった。
話しかけても無視する存在に戸惑っていたラルフは、ある日いきなり垣根を越えるような行動をして来た。
丸めた紙でいきなり殴りかかって来たのだ。頭には紙で出来た変な帽子のようなものを被っていた。丸めた紙は剣だと言う。見立て遊びかと気付いたが、剣だと言う割に振り回すだけなのにイラついた。
「これはカイルの!」と渡された丸めた紙で思わず応戦していた。紙なので痛くはないだろうと遠慮せずに攻撃した。ちなみに変な帽子は無視して装着しなかった。
打ち合って、紙がボロボロになった。ラルフは「いたい、いたいってぇ」と言いながらも馬鹿みたいに笑っていた。カイルも久しぶりに身体を動かした事で何かスッキリした。そんな簡単に解消される事が嫌で、疲れたと床に転がるラルフを追い出したけど。
翌日も勉強の時間の後、懲りずにカイルの部屋に押しかけて来たラルフは紙で出来た「ボール」と「鳥」を持って来た。
また紙を丸めた剣を持って来るかと思ったので意外だった。
紙で出来たボールは、強く押したら簡単に潰れてしまうようなものだ。でも、中々良く出来ていた。紙1枚を折って立体物を造るというのが新鮮だった。
昨日の変な帽子もそうだったが、どうやってこんな事を思いついたのだろう。
子どもの遊びのようなものも、やり方によっては生活に役立つものになり得る気がした。
ラルフはそのボールを得意気にポンポンと上に投げては手で弾くみたいな技を披露して来た。カイルもマジマジと観察したボールを投げてみる。乱暴にしなければ意外と壊れる事は無さそうだ。そして軽い。紙がもし丈夫なら、魔法で強化しても、色々使えるのではないだろうか。
そして、ラルフが「鳥」だと称するものは飛ぶのだと言う。自信満々に手にした紙を前後させて手を離すとフワリと前に飛んだ。上手くやればもっと遠くまで飛ぶという。ラルフは椅子に乗って高い位置から試すと確かに距離は少し伸びた。
「ユーリならもっととばせる!」というので話を聞いてみると、元々は妹から教えてもらったものだとラルフは言った。
その妹の事を聞いてみると、自分達の2歳下で弟のキースと同じ年だった。
その年で紙を折って立体物にするという発想出来る事に驚いた。そんなカイルに、「あいにいく?」とラルフは聞いて来た。
気になったので思わず頷くと、ラルフはニカッと笑った。
その時、何故か世界が変わる予感がした。そしてその予感は間違っていなかったのだろうと、後で振り返る事になるとはカイルは知らなかった。
主人公視点だと分からない事もあるので、カイル視点にしてみました。
ちなみに紙の剣は、本当に紙を丸めただけのものかと。
後々、ラルフに面倒な遊びを教えたとして母から怒られら事になりそうな気がしないでもないです。




