6話 怪しげな魔導書
王城を後にした俺達は、回復薬や食料品を買うために町へと出ていた。装備は既に王国から与えられたものがあるため、当分は買い揃えなくても良いだろうという判断の下、今は買わない。
そしてこの買い物こそ俺が心待ちにしていたものだ。王都にあるとある本屋。その中で唯一売ってある魔導書を使えば『契約』という魔法が覚えられる。
こいつには色々と謎が残されており、まず最初にこの時にしか購入することのできない物であること、そしてどういう訳か購入してもマゼルス以外の仲間は覚えることが出来ないのだ。
序盤で離脱する仲間が唯一覚えるという一見存在価値が無いように思える魔導書だが、実はここにこそ没となった設定が存在していたのではないかという話がある。
そしてその没設定にこそ今回俺が生き残れる術があるのではないかと睨んでいるのだ。
そうと決まれば早速、本屋に向かうぞ。
「ライア。ちょっと本屋に寄りたいんだけど良いか?」
「本屋? 良いよ~。マゼルスって本好きだもんね」
普段俺が知力を上げるために本を読み漁っているお陰か何の違和感を抱くこともなく、ライアは本屋に向かう事を了承してくれる。
それから俺は本屋を探す振りをして元々覚えていた、唯一魔導書が売ってある本屋をめがけて歩いていく。
「あ、あった」
そうして見つけた本屋は何とも高級感の漂う店である。本はこの世界では貴重なものだ。なぜなら現代社会には存在したインターネットがこの世界には存在しないから。
知識を得るためには本を買うしかないため、需要が高いのである。
「いらっしゃいませ」
中に入るとビシッとしたスーツを着こなす男が居た。確かあいつがここの本屋の店主だったな。
軽く会釈を返して店の中にズラリと置かれている本を見て回る。
あった。
本屋の中に一冊だけポツンと置かれている『契約』の魔導書。魔導書でしかも比較的低価の2000グラベルで売られているにもかかわらず売れていないのは世界でただ一人、俺にしか適合しないからだろうか。
というか単純に魔物と戦わない一般人がわざわざ魔導書なんて買わないか。
「これにするか」
一応、俺は手持ちで一万グラベル程度は持っている。旅立つ前に親が俺に握らせてくれた一万グラベルだ。ありがてえ、これが無かったら俺は今頃ライアに泣きつくという情けない姿を晒すことになってたぜ。
「魔導書?」
「そうみたいだな。魔導書で2000グラベルなら買いだろ?」
「2000グラベル!? 魔導書にしては安すぎない? 本物なのかな?」
「まあまあ。別に本物ならラッキー、偽物でも読み物として使えれば暇を潰すこともできるしな」
本物なのは知っているけど。というか何気に知力と筋力は鍛えてきたけど魔法を覚えるのはこの世界に来てから初めてだ。ゲーマーなら分かるよなぁ、この高揚感!
「ふ~ん。まあマゼルスが良いなら私は止めないけどさ。どうせ2000グラベルだし」
一応言っておくが、この世界での2000グラベルはかなり高価ではある。ライアが2000グラベルを安いと評しているのは他の魔導書と比べて、という意味だ。
魔導書なんてものは数万グラベルくらいして当たり前だしな。それの十分の一くらいの値段で売られている魔導書を見てそんな感想が出るのも仕方がない。
取り敢えず俺は半ばウキウキな気持ちで魔導書を店主の下へと持っていく。それと同時に本当にこの没設定で死ぬのを回避できるのだろうかと不安にもなってくる。
あくまで俺が試そうとしているのは本編に導入しようとしたが結局没となったという没設定なのである。この設定が導入される予定だったからとはいえ、成功する保障なんてものはない。
いやいやいや俺が信じなくてどうする。どうせこの没設定のルートで成功しなかったら死ぬんだし、やってみて損はないだろ。
「ありがとうございました~」
そうして俺とライアは本屋を後にする。俺は本屋を出ると早速魔導書を開いてみる。
よくよく考えればゲーム内では「使用する」をポチッと押すだけで魔法を覚えられるため、中身を読んだことが無いのだ。
この場合どうすりゃ魔法を覚えられんだ?
「ていうかこっから東って大分曖昧に目的地を伝えられたけど、果たしてたどり着けるのやら」
「それに関しては問題ないよ。さっきの本屋で地図を買ったから」
「おお、ナイスじゃないかライア」
「えへへへ」
ゲーム内では地図なんて勝手に画面に表示されてたから買うなんて考えたこともなかったな。
「どうする? もうちょっと王都に滞在する? それとももうキュールデンに向かっちゃう?」
「そうだな。ある程度必要な物は買ったし、そろそろキュールデンに向かおうか」
考えているようで考えていない問答である。それもそうだろう。
ここから直ちに旅立つかどうかは俺にとっては関係ない。なぜなら俺の死亡イベントが発生するのはまさにこの場所、王都だからだ。
もうそろそろじゃないだろうか、そんなことを考えていると遠くの方から人々の悲鳴が聞こえ始める。
「な、なに!?」
驚き慌てふためくライア。王城の方からは王国の兵士達が隊列を組んで行進している。
「皆! 逃げろ! 大悪魔バアルが来たぞ!」
さてと、始まったな。ここが俺の正念場だ。
遠くから聞こえてくる爆発音や悲鳴を耳に俺は覚悟を決めるのであった。
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