5話 本気の騎士団長との戦い
騎士団長の本気、とはいえゲーム終盤の騎士団長の動きと何ら変わらない。問題なのはゲーム終盤で覚えているはずの魔法や手に入れているはずの装備が一切ない事だ。
そして何より俺が勇者ではないため、ゲームの勇者と比較してどれだけ動けるのか分からないという事が問題だ。
次から次へと放たれる風魔法で作り出された斬撃と共に身体強化を伴った騎士団長自身の剣による斬撃。
この状態の騎士団長に俺の攻撃が通るのかという心配はしなくても良いだろう。俺は死ぬルートを回避するために筋力を上げ続けた。
先程も少し力を込めて剣を叩きつけただけで騎士団長の本気を出させることに成功した。流石に全力を出したら殺してしまうかもしれないと思って配慮したわけだが、今の身体強化魔法を使っている騎士団長相手なら本気で攻撃をしてしまっても良いだろう。
この状態の騎士団長の隙は風魔法の斬撃の後、襲ってくる騎士団長の多段斬撃を剣でタイミングよく弾く動作、通称「パリィ」をして作ることとなる。
ちなみに本来のゲームであれば魔法で隙は作れるため、あくまで魔法を縛った時の隙の作り方となるが、当然廃ゲーマーの俺が縛りプレイをしないわけがない。
パリィをするタイミングなど熟知している。
ただゲームと違うところは体を動かす俺がだんだん疲弊してきてしまっていることにある。ゲームでは体力が減ろうが動作に影響が出ることなどない訳だが、今の俺は現実世界と同じ。
当然体力が減れば動きも鈍る。
襲い来る無数の風の斬撃を身を翻して回避しようとするも、少し遅れてしまったためか、足に少し掠めてしまう。
そんな傷を気にする暇などない。そのすぐ後には一撃で気絶必至の騎士団長自身による攻撃が迫りくる。
ゲーム序盤に襲い掛かってくる敵とは思えないほどに濃密な魔力、そして鬼のような気迫を浴びながら俺は淡々と剣を構えてその時を待っていた。
そうして騎士団長が剣を振りかざしたその時、俺は渾身の力を込めて剣を振るう。
「ぬおおおおおっ!」
「はあああああっ!」
両者の雄たけびが交差する中、俺の剣は正確なタイミングで正確に騎士団長の剣と交差する。
刹那、激しい剣戟の音と共に衝撃波が発生する。
何だ? パリィが発生する正確なタイミングだったってのにまるで手応えが無いぞ。
剣を交わしながらそんな疑問を浮かべる俺であったが、その謎はすぐに解明されることとなる。
俺の剣とせめぎ合っていた騎士団長の模造剣が半ばからポッキリと折れたのである。
「なっ、何という事だ。攻撃した筈の私の剣の方が折れるなど」
困惑している騎士団長。というか困惑しているのは俺も同じだ。このまま騎士団長を倒せばいいのか?
「そこまで!」
俺の疑問に答えるように国王が号令をかける。
「剣が折れては戦闘の続行は厳しい。よって此度の仕合はマゼルスの勝利とする」
「やった! マゼルス、やったわね!」
嬉しそうに駆け寄ってくるライアをポカンとした表情で迎える俺。何だこの不完全燃焼感は。
いやそんな事を考えてるってことは年月は経てど、やっぱり俺の頭はまだまだゲーム脳のままなんだな。武器破壊などではなく確実に倒してこそ初めて勝利という快感を抱くのだ。
「天晴れであったぞマゼルスよ。貴殿の実力を見誤っていたのは余の方であったな。認めよう、貴殿こそが勇者ライアに相応しき実力者であると」
にこやかにそう語りかけてくる国王。何はともあれ、これでようやく俺は勇者の仲間として認められたってことだ。
「ありがたき幸せ。今後、勇者ライアに後れを取らぬよう精進させていただきます」
まあもうすぐ死ぬんだけどさ、なんてブラックジョークを挟んでみたり。
「ほっほっほ、勇者ライアよ。良き幼馴染を持ったものだ。これは神に祝福された貴殿の運命なのやも知れぬな」
こんなに感情豊かな王の台詞なんてあったっけな? まあそもそもの時点で元のゲームといくつか乖離している点はあるから今更だけどさ。
「時に勇者よ。神からのお告げが下った。貴殿はここより東の方角へ進み、魔王によって封印されてしまった土地、キュールデンを救いそこで聖なる鎧を探せとのことだ」
「聖なる鎧ですか」
「うむ。何でもあらゆる魔法に対しての防御性能がずば抜けて高いらしい。だが、勇者以外持ち上げるのが不可能であるらしく、今もなお魔王によって破壊されキュールデンのいずこかにあるとのことだ」
お、早速『ロード・オブ・ルシフェル』の本筋が始まったな。このゲームは至る所で魔王ルシフェルによって封印されている町や国を解放し、その全てから聖の力を持つ勇者限定の装備品などを集めていくのだ。
いや~、泣ける話とか結構あったんだよなぁ。なんてしみじみ考えるのは不謹慎か。この世界じゃそれが現実なんだから。
「それとこれは我が国からの援助金だ。旅に困らぬよう、その中には五十万グラベル入っておる」
ごごご、五十万!? ぶっ壊れじゃねえか! ゲーム内ではこの時1000グラベルしか渡されなかっただろうが!
いやまあそれもそうか。今はゲームじゃなくて現実世界。1000グラベルしか渡されなかったらそれはそれでメンツが保てねえわな。
ちなみにグラベルというのはこの世界における貨幣単位の事だ。宿屋には基本、町やグレードにもよるが、100グラベル程度で泊まれると考えれば相当な金額である。
「ありがとうございます」
「うむ。それでは勇者よ、と言いたいところではあるが旅立ちを祝す言葉としては少しこの場所では相応しくないな。一度玉座の間へ戻るとするか」
そうして俺達は玉座の間にて国王から祝福の言葉を与えられると王城を後にするのであった。
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