3話 ゲームの始まり
勇者ライアと出会ってからの俺は同い年くらいの子供がライアしかいないという事もあり、毎日彼女と共に遊ぶようになっていた。
時には庭で遊んだり、時には親の目をこっそり盗んで川へ水遊びをしに行ったりとそれはもうたくさん。俺も前世では嫌煙していた筈の外遊びを寧ろ楽しんで二人で遊んでいた。
子供の体だから感情も幼い頃を取り戻しているのかもしれないな。
そして時は経ち、俺とライアが十歳になり互いにかなり仲良くなった時、突如としてその時は訪れる。
「この村にライアという娘は居るか」
突如として村に現れた武装した兵士達。その真ん中には風格漂う豪華なマントを羽織った壮年の男性がおり、ライアの事を呼んでいるのだ。
ここまで道のりは長かったが、実は『ロード・オブ・ルシフェル』はまさにこの場面、この世界の神から勇者として選ばれたという事を主人公が告げられる場面から始まるのだ。
「ライアはウチの娘ですが……」
恐る恐る国王に話しかけるのはライアの父親であるバーンだ。まだ十歳と幼いライアを連れて王の前に姿を現す。
対する国王はほう、と感心するようにライアとその父バーンを見やるとこう続ける。
「そう畏まるでない。何もしょっぴこうという訳ではないのだから。それで、君がライアだね?」
「……はい」
未だバーンの後ろに隠れてそう返事するライア。それをバーンが窘めるも、王は何も気にした様子を見せることなく宥めている。
「此度のお告げにより勇者が君に決まった。どうか君の手で闇に覆われたこの世界を救い出してほしいのだ」
王がそう告げた瞬間、村が歓喜に震える。勇者を輩出した村ともなれば褒美が貰えるからだろう。ゲームを進行していた時、勇者はなにも貰えないのにと思ったものだ。
あの時はゲームだからと割り切っていたが、これが現実だったらどうなのだろうと俺は心配の念を込めてライアの方を見る。
当の本人はまだ実感が湧いていないみたいだな。村の人が喜んでいる中、ライアだけはポカンとした表情を浮かべている。
こんな時こそ幼馴染である俺の出番だ。
「良かったじゃないかライア! 勇者なんかこの世界で一番強くて偉い人だぞ」
「マゼルス……でも私あんまりよく分かんなくて。それに十五歳になったら悪い奴を倒しに旅に出なくちゃいけないとか言われて。正直怖いの」
実際そうだろうな。俺もゲームの世界だと認識していない状態でいきなりそんな事を言われたら死ぬほど嫌だろうし。
だからこその俺の存在だ。
「大丈夫さ。ライアが旅立つとき、俺も一緒に付いていってやるから」
「本当?」
「ああ、本当さ。こう見えても俺強いんだぜ? 普段筋トレとかやってるし」
多分十歳の今でも低級の魔物くらいは倒せる自信がある。小さい頃から筋力を鍛えてきたお陰か小さな岩程度であれば拳で砕くくらいは出来るようになってるし。
こんなの元居た世界ではあり得なかったしやっぱりゲームの世界なんだなとしみじみ思う。
「ふふ、心強いね。マゼルスは」
「おうよ」
その日から度々王都から来る兵士たちによってライアは育てられていった。
そのため、俺とライアが遊ぶ時間は日に日に短くなってしまった。
俺もその間、独自で筋力と知力を中心に訓練をしていった。ライアと共に旅立つ十五歳のライアの誕生日までの間に二人はみるみる内に成長していく。
そうしてとうとう勇者としてライアが村から旅立つ時がやってきたのである。
「ライア、気を付けてね。いつでも帰ってきたら良いんだからね」
「分かってるわ、お母さん。ちゃんと勇者としての使命を果たしたら帰ってくるから。それにマゼルスも一緒だし」
「マゼルス。勇者の付き添いとしてしっかりやるんだぞ」
「分かってるよ」
俺には帰ってきても良いぞなんて言葉は無いのかよと思うが、こういう風に照れてるのが父さんだからな。仕方ないか。
「マゼルスもいつでもライアちゃんと一緒に帰ってきなさいよ」
「うん、ありがとう母さん」
そうして村の皆に別れを告げて俺とライアは旅立っていく。
「勇者ってまず何をするんだ?」
「まずは王都に行って王様に謁見ね。それからは取り敢えず魔王の居城を目指せばいいと思う」
俺は知っている。この後、勇者がどういうルートを歩んでいくのかを。
勇者は魔王の居城を目指す途中で、魔王によって封印されている町や国の存在がある事を知る。それらの国はどれも魔王にとって都合の悪い武器や必需品が保管されているが故に真っ先に封印されてしまっている。
その国々を解放して魔王を倒す必需品を手に入れていきながら勇者は成長していき、やがて魔王ルシフェルを倒すに至るのである。
そして今目指している王都はまさに魔王によって狙われている場所であり、正規ルートであればそこで俺ことマゼルスは殺されるのだ。
これから自分の身に起こることを想像し気を引き締めながら俺は王都への道を踏みしめていくのであった。
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