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メインシナリオの裏側で  ー乙女ゲームの世界に転生したとは知らずに普通に人生を頑張る話ー  作者: 原田 和


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29/29

主人公になりたくない少女と、主人公になりたかった少女


書きかけを見つけてどうしようかと迷ったんですが、このままというのも…、

という理由で投稿。

終わらせたのにスミマセン





……魔力を封じられて、だいぶ経つ。

うまく循環してない、落ち着かない感覚にも慣れた。あんまり意識していなかったけど、転生してから当たり前にあったモノが封じられると、脱力感が酷いのね。付けられた直後は、自力で立てなかったし。

今はちゃんと動けるし、普通に生活できてる。……んだけど、ね。


 「ほらぁ、また一人よ」


 「今まで誰かさんの周り、騒々しかったものねぇ。やっと静かに過ごせるわ」


 「聞いたわ、一斉に振られたんですってね。やっと捻じ曲がった本性に気付いたのかしら…いい気味よ」


刺すような言葉と視線。それは明らかに、私に向けられたもので。

そりゃ、前はちょっと、調子に乗ってた。こんなに可愛いんだから、私を好きになるのは当然って、本気で思い込んでた。


 『好かれて当然って、態度に出てるよ』


 『そのやり方が通じるのは狭い範囲だ』


 『駄々こねてるようにしか見えない』


まお……、いえ、東領姉弟の弟に、真顔で淡々とぶった切られて。

休んでる間、考えてた。今までの自分の行動を、思い出せるだけ全部。俯瞰するように。


………ナニコレメタクソハズカシイ


私はひたすらもんどり打った。床で。ベッドで。廊下で。風呂で。

一度思い出したら中々頭から抜けず、ありとあらゆる場所で私はのたうち回った。今も恥ずかしい。

もうメインキャラ達に会えない。合わす顔が全く無い。

前世ではやべぇ奴確定の行動。あんなの絶対やらなかった筈なのに、思い込みってコワイ。

なんで、あそこまで面の皮あっつい傲慢ヤロウになれたんだろう。休んでる間、ずっと考えていた。そして分かった。

ゲームの世界だから。

私はこの世界を、ツクリモノだと思っていた。だから記憶がある私は、『特別』だと思い込んだんだ。


 『これはゲームじゃないの。私にとってもアナタにとっても現実なの』


 『兄も息子さんも王子も、他の人達も生きてるの。感情があるの。私とアナタと同じなの』


 『人はアナタの思い通りに動くものじゃないの。人形じゃないの』


ちゃんと考えた?

そうあの子に問われた時は、すぐには分からなかった。私は『主人公』で、『特別』だって。だから、邪魔をするあの子の方がおかしい。そう、その時は思っていて。鼻フックされてなかったら、言い返してたんだろうな。どうなってただろう。

私は寒気を覚えて腕を擦った。一切のためらいなく鼻フック決める相手だ、きっとあれ以上な目に遭わされていた。だって私より強いもん、物理的にもメンタル的にも。

私は結局、主人公じゃない、ただの考えなしの転生美少女だった。……美少女は否定しなくていいよね。あの子も東領弟も、可愛い外見って言ってたし。可愛いのは認めてくれてると思っていいよね。




…私のやらかしは、関係者以外知らない。でも、それとは関係無く私が気に入らないのが居るのだろう。

私は、格好の的になった。

無視、悪口、私物を隠される。なんてものは序の口。

廊下を歩いていれば足を引っ掛けられる。階段では突き飛ばされる。食堂で態とぶつかられ、昼食を全部ひっくり返した事もある。

……この世界にも、イジメってあるんだ。私はボンヤリとそう思うだけだった。

だって、やられる理由が分かるもの。私は傲慢で、人を見下す嫌な奴。自分勝手にやってきたのだから、当然の結果だ。これは今までの私への罰なんだ。

誰も、声を掛けてこない。誰も居ない。クスクスと笑う声だけ。

これも当然の事。誰かに助けを求めるのも、烏滸がましい、


 「何やってんの」


 「え…」


 「着替えたら?風邪ひくよ」


人気のない裏庭。そこが、最近の私の休憩場所だった。ゆっくりごはんも食べられるって、安心していたんだけど。

気付かれてたみたいで、戯れみたいに魔法をぶつけられた。御蔭でびしょ濡れ。折角のお昼も台無し。

アラ、気付かなかったわ。ごめんなさい?

見覚えのないその女生徒数人は、嗤いながら去って行った。


 「……」


 「はい、タオル」


用意がいい……というか、見ていたのかも。双子は、私の監視役でもあるから。

寒いのは確かなので、大人しく受け取る。


 「兄さん、顔覚えた?」


 「うん。酷いことするよ、あいつらは食べ物のありがたみが全然わかってない……!」


 「完全同意……!所詮三食フルコース間食付きの毎日な奴らは、米一粒一粒に神が宿っていることすら知ろうとしないのよ……!!」


私の心配してくれたのかなって、ちょっと片隅で思っちゃったけど。双子の熱い想いは、台無しになったお昼に向けられていた。

……そりゃ、そうよね。双子の恩人を、私は狂わせようとしたんだから。


 「あのさ、君もなんでやり返さないの?」


 「……え、」


 「あいつらに好き放題されてるけど、本来の君なら倍返しだって考えるだろ?」


双子の兄、私をどう認識してるんだろう…。妹まで頷いてる……!

やり返したら、前と同じじゃない。私なりに反省して、自分を変えようって、頑張ってるのに。

それにこれは、罰だから、


 「……また、頑張る方向間違えてるわよ」


顔を上げれば、双子の呆れた目。


 「今こんな目に遭ってるのは、自分が蒔いた種だからとか考えてるんでしょ」


 「えっ、」


図星を突かれて、思わず凝視してしまう。やっぱり、と双子の目が半眼になった。


 「君を苛めてる人達、全然事情も知らなくて関係の無い人達だよ?君が本当に償わなきゃいけない相手は、誰だっけ?」


それは当然、東領の弟と、その家族……。未遂とはいえ、怪我までさせてしまって。

あと、メインの人達にもそれなりなご迷惑を…。くっ…!思い出したらまた恥ずかしくなってきた……!


 「あの人達が、君に報復とかするなら分かるんだよ」


分かる、んだ……。報復って、なんか怖いんだけど…。


 「でもさっきのは違うでしょ。憂さ晴らしと便乗。……ああいうの、嫌いだわ」


今の表情、見覚えある。私あの顔で鼻フックされた……!!

兄も気付いたのか、まだ鼻フックはダメだよと諭している。


 「とりあえず、俺はこの事伝えてくるよ。あとは頼むね」


 「うん、任せて。着替え持ってるの?」


 「あ、うん……、」


私は双子兄の姿が消えたのを確認してから、彼女に向き直った。

私と同じ、転生者。


 「何で助けるの?」


 「……今のアナタの姿見て、そのまま見捨てる程冷たい人間じゃないわよ」


 「でも、だってっ、……私のこと、嫌いでしょ」


 「うん」


 「正直!!!」


 「誤魔化しても、白々しいだけだと思うのよ。好きか嫌いかで言ったら嫌い寄り」


 「はっきり!!!」


 「でもアナタ、変わろうとしてるでしょ。過去を反省して、自分の悪い部分を直そうとしてる。全部周りのせいにして逆ギレして暴言ぶちかまし反省も謝罪もなく逃げる救いもねぇ一部の人間よりは……、何倍もマシ」


怖いくらい、いい笑顔。前世であった事なんだろうな…。

でも、私のこと、見ててくれたんだ。

ちょっと、嬉しい。前世では何をしても、馬鹿にされて笑われて。空気を壊さないように、私も笑って。

すごく、息苦しかった。


 「アナタの頑張り屋な部分は、領主の息子さんも褒めてたじゃない。私もそう思う、方向さえ間違えなければ。人の努力を笑うは恥、って、誰かが言ってたし」


 「……っ…、」


 「……?……えー、今泣くの…?何で泣くのよ」


 「ごめ、……っ、」


止まらない。早く泣き止まなきゃって、分かってるけど。

だって欲しかった。ずっと誰かに、言って欲しかった。認めて欲しかった。

もう、私を否定されるのは嫌だった。




……しばらく泣いて、スッキリした私は、服も変えて更に気分も変わった。彼女は呆れ顔だけど、何も言わず側に居てくれて。

前世でも、この子が居てくれたら、もっとマシな人生だったのかもしれない。

言っても仕方ないって分かってるから、言わないけど。


 「私、決めた」


 「一応訊くけど、何を?」


 「私が償わなきゃならない相手は、まお……じゃなくて、あの人。まずはそれが一番。それから、好意を踏みつけてた人達にも、許してくれるかは分からないけど、誠意を返していこうと思う……」


ジッと見られると、合ってるのか自信が無くなってくる。


 「また、間違えてる……?」


 「いいんじゃない?正解かは、私にも分からないけど。アナタがそう決めたのなら、まずはやってみること」


 「……!うん!そ、それと、教えてほしいんだけど、どうやったら、あなたみたいに強くなれる?」


 「鍛錬あるのみ」


 「じゃ、じゃなくて、中身の方。メンタル鍛えたいなって……」


首を傾げて、考えてくれている。

こういう所、主人公っぽいなって思う。適当に放り出さずに、向き合ってくれる。私のこと嫌いって言いながらも、だ。


 「私のが参考になるかは分からないけど…。まぁ、一つの案として」


 「うん、」


 「メンタルはゴリマッチョ」


 「メンタルはごりまっちょ」


 「そう……、揺らがない一本の芯。それも大事よ。でもね、それだけじゃ世間の荒波に立ち向かうには弱い…。何度もぶつかられたら、ある日ポキリと折れてしまう。そうなったら、まずは命大事に」


 「いのちだいじに」


 「己を労り、まずは体を治し健康第一を心掛ける。精神面は後からついてきてくれるの。それから鍛えなおすのよ。荒波に耐えられるよう、強く、けれどしなやかな芯に。そしてそこに、更に筋肉をつける!!しなやかな筋肉こそ無敵!最強の盾!!」


 「きんにくむてき」


彼女の顔は真剣だ。揶揄われてはいない……筈。


 「世間は広い。時には、お前嘘だろ?としか表現できないような中身の人間とかち合う事もある。試されているのかな?と、何度も心を折りに来やがる事だってある」


凄味しかない。私はゴクリと息を吞んだ。


 「そんな時、自分の中にゴリマッチョが居たらどう?とても頼りになると思わない?私はどんな相手だろうと、ロケットランチャー片手に全員を溶鉱炉に叩き落として親指立ててやるわ」


 「なんか違う!!ロケットランチャー使ってるようで側面しか使ってない!!撃ってない!!」


 「物の例えよ。だから一つの考え方だって」


強過ぎる……!!!私、とんでもない子と敵対してた。溶鉱炉落とされる前で良かった!

で、でも、それぐらい鍛えたら、私も……、


 「ほ、細マッチョじゃダメ……?」


 「悪くないと思うけど、私はゴリをオススメする。マシンガン振り回してもブレないから」


 「ゴリへの信頼が厚い!!そしてやっぱり撃ってない!!」











 「……以上です。妹とはぎこちなかったですけど、結構仲良くなってるんじゃないかな、と」


 「妹さん強いなぁ。………うーん、なんか分かる。言いたい事は分かる」


 「分かるんですか?!」


兄によって、会話の内容を毎回報告されていると妹が知るのは、だいぶ後の事である。






なんやかんやで仲良くしてるんじゃないかな、この二人



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