光の方へ
他人からしたらどうでも良い事でも、譲れない事ってありますよね。
兄の話なら、それはバットで殴る事なんだと思う。
たまに殴ってた気もするんだけど、人じゃなかったかな?
バットを使って殴るというと、どうしても不良のイメージがある。
実際に金属バットを振り回す人なんか見た事無いけど、漫画とかの影響なのかな。
野球選手としてのプライドなのか、どうしても許せないらしい。
でも僕は思った。
鉄球をぶち当てるのは、気にしないんだと。
野球のボールとは、全く違うから?
それともドッヂボール感覚?
僕からしたら鉄球当てて、ボキボキッ!って骨が折れる音が聞こえる方が、凄くタチが悪い気がするんだけど。
それを突っ込むと、兄の攻撃方法が減るので、今後の事を考えて敢えて言ってません。
兄のこのこだわりは、野球選手なら皆思ってる事なのだろうか?
元球児である佐藤さんがバットを持ったら、どう考えるんだろう?
それにルース率いるブギーマン達は、どうなんだ?
微妙に気になるけど、他人からしたらどうでも良い話なんだよね。
ちなみに僕は、つけ麺を食べる時は必ず先に、タレにつけずに麺だけを食べるようにしてます。
本当にどうでも良い話でした。
モルさんの本音は、ホノヒサがしてきた事を否定する事になった。
ホノヒサはあくまでも、モルさんの為と思ってやった事だったのだ。
それがモルさんの願いとは逆になるとは、考えてもいなかった。
「お、おいがした事は・・・」
「俺も悪かったんだ。もっと早くに言っていれば良かった。俺はホノのおかげで、ハグレでは無くなった。それだけで満ち足りていた」
「で、でも王になったからこそ、こんなに多くのモールマンを集められたんだぞ!」
「王になったから、誰も俺達と本音で話さなくなった」
「それは・・・」
ホノヒサも自分で感じていた事だった。
王になる為にまず最初に見せたのは、その力だ。
モルさんからホノヒサに身体の主導権が交代した事で、戦闘力は大幅に上がった。
それを機にあらゆる力を取り込んでいき、二人の力は他のモールマンを大きく凌駕した。
そして彼は、他のモールマンに命令を下すようになった。
従わない者には、力で抑えつける。
ハグレではなくなったホノヒサ達だったが、代わりに横並びの関係性も失ったのだ。
「ホノが教えてくれた、言葉というのは本当に便利だと思う。コレが無ければ俺は、ホノに今の気持ちを伝えられなかったんだから」
「だったら他のモールマンにも、地上の連中を沢山食わせれば良い。そうすれば、モルさんと話が合う奴だって出てくる」
「でも王には、跪くのだろう?俺は王を辞めたい」
「こ、こんな時に何を言っている!」
今は魔王に腕を折られ、両足も砕けた状態である。
他の力を回復に専念すれば、短時間で骨折も治る。
しかしホノヒサは、そんな猶予を魔王が与えるはずも無いと考えていた。
「王様は皆を導く。ホノが教えてくれた事だけど、俺達は正しく導けたのか?」
「どういう意味だ?」
「王になったのだったら、王の命令でジャイアントととの敵対関係を、修復する事も出来たんじゃないか?」
「こちらからそれをすれば、足元を見られるぞ。ならば先に、攻撃を仕掛けて奪う方が早かった」
「その結果が、地上侵攻か?」
「それは・・・おいの私怨もある」
ホノヒサが地上に出てきた理由は、騎士王と帝への復讐というのもあった。
しかしそれは、あくまでもモールマンの王としての延長線上にある。
「でもおいは、他のモールマンにも満足してもらいたかった!だからこそ地上は出て、地底とは違う物があると教えたかった」
「それを強制するのは、どうなのだ?もしかしたら、地底に居たままの方が良かったと考える者も、居たかもしれない」
「ではどうすれば良かったというのだ!?」
お互いの気持ちを初めて吐露する二人。
しばらく沈黙が続いた後、モルさんが口を開く。
「やり直そう」
「逃げるというのか?」
「そうだ。幸い、何故かあの子供は攻撃をしてこない。この間、足の回復に集中していたから、走るくらいの事は出来る」
「・・・分かった。皆には逃散してもらう。バラバラに逃げれば、助かる者も居るはずだ」
「もしくは、自己で判断するかもしれない。俺がホノと出会ったように、他の者だって同じ体験をしているかもしれないからな」
ホノヒサは当初、悩んでいた。
モルさんの話は、王として無責任なのではないかと。
しかしモルさんは、王の存在意義が分かっていない。
そして他のモールマンにとっても、それは同じだった。
王とは何か?
皆を導くという意味で考えていたホノヒサは、モルさんのように自分の考えに委ねるべきではないかと、考えを改めたのだった。
「だいぶ治ってきた。攻撃をするのは無理だとしても、逃げるくらいは出来るだろう」
「分かった。俺が魔法で穴を掘る。モルさんはすぐにここから脱出してくれ」
二人の方針が決まった時、モールマンは再び動き始める。
「全然動かんな。このまま捕縛出来るんじゃないか?」
『油断しちゃ駄目だよ。でも、帝やオケツに突き出すのは良い考えかも。出来るなら、捕まえようか』
弟も賛同してくれている。
動かない今がチャンスだ。
どうにかして捕まえてみるか。
俺はゆっくりと背後に回り、足が折れて倒れているモールマンの足を大きな鉄球で覆ってしまおうと考えた。
鉄球なら俺でも、すぐに作れるからな。
「あっ!」
そっと近付いた俺が、鉄球を作ろうかと思ったその時だった。
ホノヒサは太刀を俺に突きつけると、それを指の力でこちらに弾いてきたのだ。
呼吸すらしていないと思ったくらい全く微動だにしなかったのに、急に動いたものだから驚いて飛び退いてしまった。
それがマズかった。
『に、逃げた!』
「マジか!」
思わず声に出てしまった。
奴は俺達に背を向けて走り出し、突然空いた穴の中に入ってしまったのだ。
「ど、どうする!?」
『考えがある。今ならまだ間に合うはず。穴までダッシュするんだ』
俺は弟の言う通り、穴まで走った。
穴は一人が通れるくらいの大きさで、グネグネと曲がっている。
どうやらトンネルのようになっているらしい。
『中級水魔法、濁流!』
「おぉ!凄い勢いで入っていく」
弟の魔法で、水がトンネルの中に流れ込んでいく。
濁流というだけあって、濁った茶色い水だ。
『僕の予想だけど、足は治っても腕はそこまで治ってないと思うんだ。トンネルを掘るにしても、そのスピードはいつもより遅いと思うんだよね』
「なるほど。そしたら、どうなるんだ?」
『魔法が使えるんだ。おそらく、溺れ死ぬような事はないと思う。空気を求めて地上の何処かに戻ってくるんじゃないか?』
なるほど。
そうなると、コレが有効なワケか。
俺は弟の話を聞いて、神経を集中させる。
目の前の穴から、濁流が流れる音が聞こえる。
それ以外の音を聞き逃さないように。
目の前の地面に異変が無いか、目を光らせる。
何処から出てくるか見逃さないように。
そして、その時はやってきた。
「後ろだ!」
振り返ると、遠くで地面が小さく盛り上がったのが見えた。
その瞬間、俺はハンマーを肩に担ぎ走っていた。
「久しぶり、そしてさようなら」
俺は全力でハンマーを振り下ろした。
「成功した!アイツ、やっぱり油断してたんだ!」
「ホノ、まだだ!穴に入っただけで、まだ地底の本道には到達していない」
必死に穴を掘り続けるホノヒサ。
ホノヒサ達は太刀を持つ為に、手の形に進化している。
その為他のモールマンと比べると、穴を掘るのに時間が掛かっていた。
「何か、音が聞こえるな」
「ホノ!水だ!水が穴から入ってきてる!」
「何だと!?」
慌てて掘り進める二人。
途中からモルさんが手で掘り進め、ホノヒサは魔法で掘削を続けていた。
しかし、その時はやってきた。
「わっぷ!」
「ホノ、無理だ!息が保たない!」
モルさんは、地底から地上へと方向転換する。
上へ向かえば、少しは濁流勢いも弱くなるはず。
しかしその考えは甘く、勢いが弱まる事は無かった。
「上だ!真上に行け。そうすれば、少しでも水の勢いは弱まる」
「流石はホノ。冷静な判断だ」
徐々に落ち着きを取り戻した二人は、真上に向かって掘り進めていく。
息がもう続かないと思ったその時、右手の先に僅かな光が見えた気がした。
「やった!着いたぞ!」
「ホノのおかげだ。俺達はまだやり直せる」
水が足下から押し寄せてくる。
勢いに押されて、地上へ頭が出た。
「久しぶり、そしてさようなら」
目の前が突然、真っ暗になった。
何も見えない。
モルさんは手探りに周囲を触った。
何も感じない。
ホノヒサは穴から出ようと、腕に力を入れた。
暗くて分からない。
「モルさん、何か分かるか?」
「分からない。俺達は地底に、また落ちたのか?」
「水に浸かっている感覚は無い。違うと思う」
二人は自分達の状況を、話しながら確認をしていった。
しかし、分かる事は何も無い。
普通であれば、何も分からないというのは不安でしかない。
それなのに二人は、不安は感じなかった。
「ホノ、光が見えてきたぞ」
「あぁ、明るいな。やっぱりおいは、外の方が良いらしい」
「それは俺も同じだよ。地底よりも、地上の方が自由を感じる」
「そうだな。ここから出たら、翼を広げてあの青い大空を飛ぼう」
「良いな。俺も同じ事を考えていたよ」
二人は光を見ながら、微かに笑みが溢れた。
「二人で飛ぼう」
「あぁ、ホノと一緒なら何処までも飛べる」
ホノヒサはモルさんの手を引くと、その穴から飛び出した。
「やり直そうか」
「そうだな」
二人は光の方へ歩いていった。
「今度こそ動かないよな?」
『もう大丈夫じゃないかな。急に岩もボロボロになったし』
俺も分かってはいるんだけど、さっきみたいに急に動かれる事も頭に入れておかないといけない。
さっきは俺のミスで、逃したようなものだからな。
『ちょっと触ってみなよ』
弟は軽々しく言うけど、さっきも触ろうとして急に動いたからな。
ちょっと覚悟が必要なんだよ。
恐る恐る手を伸ばし、岩が砕けて露出した首から、脈でも感じないかと触れてみた。
何も感じない。
毛だらけなんだから、当然か?
『何も分からないじゃん』
「うるさいな。分かったよ」
首を触っても動かないんだ。
気を失ってるか、もう亡くなっているかのどちらかだろう。
俺は思い切って、モールマンの身体を穴から引きずり出した。
小さな穴から出すには少し力が必要だったが、苦労するほどでもない。
「やっぱりもう、死んでるっぽいな」
『うん。僕もそう思う』
どうしてそう思ったのか?
自らの死を悟ったのか。
それとも別の理由があるのか。
何故だか分からないのだが、死体は両手を組んでいたからだ。
胸の前で組んでいたわけじゃないので、俺は別の理由があるんだと思っている。
「俺のハンマーで即死したかな」
『多分ね。頭を守る岩とハンマーが当たった時の音は、相当大きな音だったよ』
全力で振り下ろした俺の腕には、何かが折れた感触が今も残っている。
首の骨かもしれないし、生きる意志だったのかもしれない。
どちらにしろ苦しめずに倒せたのは、俺としては良かったなと思っている。
「ん?」
『どうしたの?』
「んー、気のせいかもしれないけど、モールマンが笑ったように見えたんだよね」
モールマンの笑顔なんか、俺が分かるわけ無いんだけど。
でも弟は、その話に乗っかってくれた。
『気のせいじゃないかもよ?だって見てみなよ。この手だって、ホノヒサとモルさんが手を繋いでるようにも見えるじゃん。案外二人で、仲良くやってるんじゃない?』




