ホノヒサとモルさん
他人との距離って、どうやって測りますか?
僕は基本的に、測りません。
ホノヒサとモールマンのモルさんは、同じ身体の中に精神が二つあるらしい。
もしかしたら、モールマンであるモルさんの勘違いかもしれないけど、話し方を聞いてる限りは僕達と似ている気がする。
確かに僕達と似ているけど、決定的に違う点が一つある。
それは僕と兄は兄弟であり、ホノヒサとモルさんは他人という点だ。
例えば旅行に行った際、何処まで同室の人とどれだけ合わせられるかという点があると思う。
自分の家ではなく、相手の家でもない。
しかし生活するにあたって、自分の許容範囲というのがあると思うんだよね。
寝る時は真っ暗にしないと嫌だとか、トイレや洗面所の明かりはちゃんと消さないと気が済まないとか。
自分はそうだけど、相手は違う。
豆電球が点いていないと、寝られない人も居る。
たった一泊なら我慢出来るけど、それが一週間とかの海外旅行とかならどうしますか?
僕達は兄弟だ。
それなりに許せる許せないという範囲が、お互いに分かっているつもりである。
たとえ兄弟と言えど、相手が許せない事はしないようにしている。
でもそれは、長年一緒に連れ添った兄弟だから分かる事で、ホノヒサとモルさんはそうじゃないと思うんだよ。
特に僕達と違って、奴等は一生離れられないと思う。
どうやってそれを解決しているのか、同じような存在だからこそ凄く気になってしまった。
なるほどね。
弟の話は分かりやすかった。
もしそれに異論を唱えるとするというのなら、物にも魂が宿るという考え方だろう。
だから今回の場合なら、人形に宿った魂によって魔法が使えるんじゃないかと考えられる。
でもその魂って、弟の魂の欠片の事になるような?
そう考えると、人形を食べただけで魔法が使えるようには、なるはず無いんだよな。
『ほら、やっぱり使えないんじゃないかな』
弟は身体の中に戻ると、すぐにホノヒサを見てそう言った。
確かに苛立っているような感じに見える。
もしかしたら、まだ使いこなせないだけって考え方も出来るけどね。
そうなると、元々考えていた長期戦は不利になるな。
『だったら、こっちから攻め込むしかない。でも、力を抑えて勝てる相手じゃないんだよなぁ』
それは分かる。
俺も頭の中で考えてはみたけど、確実に勝てると思う方法は一つしか思いつかなかった。
『僕も同じだ。でもそれ、止められてるんだよね・・・』
止められてるというか、無闇に使うなと釘を刺されたって感じか。
まあ変わらんね。
無闇に使わなければ良いだけで、使わないと勝てないなら使うしかないと俺は思う。
『同感だ。それこそ逆に、僕達が超短期で倒すくらいの勢いで、全力で倒すしかないだろう』
決まりだな。
本当に久しぶりの変身だ。
「行くぜ!キャプテン・ストライク!」
久しぶりに変身したこの姿は、なかなかカッコ良く見えた。
プロテクターのような鎧が、何故かより洗練された気がする。
『それは僕が、暇な時にひたすら考えてたからです』
暇な時って・・・。
長可さんに聞かれたら、怒られてるぞ。
だが、カッコ良いので俺は許す。
背中には新たに、大きなマントが加わった。
空を飛べるようになった今、このマントが翻る姿を想像すると、少しテンションが上がる。
ただし、問題が一つあった。
武器が剣ではなく、バットになっている点だ。
『僕も悩んだんだけど。モールマンには斬撃よりも打撃の方が絶対に有利なんだよ。そう考えると、どうしてもバットの方が良いんだ』
でも俺にも、バットで人を殴りたくないという矜持がある。
俺はあくまでも野球選手であり、不良ではない。
バットで人を殴るような事は、したくないのだ。
『それは分かるよ。でも、自分のプライドと皆の将来を天秤に掛けてみてよ。それでもプライドだ矜持だとか言うなら、僕は何も言わない』
・・・ズルイ言い方だな。
せめてハンマーにはならんかな?
『ハンマーねぇ。持ち手は変えずに、先端だけハンマーにするよ?』
それが良い。
アイツの岩をぶっ壊してやる。
『これで最終決断だ。僕も魔法で手伝うけど、反射されるかもしれない。あんまり期待しないでほしい』
それは任せろ。
俺が岩をぶっ壊すから、そこ目掛けて魔法を使ってくれよな。
さあ、これで俺も全力で振り回せる。
ホノヒサとの戦いも、最終回に回ってきたぜ!
「何故だ!あの人形は飾りだったのか!?」
キャプテン・ストライクになったからか、よりハッキリとアイツの言っている声が聞こえる。
弟の言う通り、やはり力を取り込もうという算段だったようだ。
しかしあの感じだと、無詠唱やより高度な魔法を使う事は出来なかったみたいだな。
奴は人形という、ミスリルのインゴットを呑み込んだだけだったか。
見た感じ、岩に変化は無い。
既にミスリルの力は、取り込んでいるからかな。
「さて、時間も掛けたくないし。トウッ!」
俺は空を蹴るように、地上へと急降下していく。
やはりマントをして空を飛ぶなら、両手は前にやるべきだろう。
「フハハハ!スーパーヒーロー見参!」
「何だ!?」
あ・・・。
勢い余って、ホノヒサを通り過ぎてしまった。
自分の起こした風で土煙凄いし、コレは失敗だった気がする。
「俺の名は、キャプゴホッ!キャプテン・ズドゴホゴホッ!ちょっとタイム」
大きな口で名乗ろうとしたから、埃が喉に入って咳き込んでしまった。
コレ、名乗るなら空から名乗るべきだったわ。
『はいはい、水でうがいして』
お、サンキュー。
指先から水がチョロチョロ流れてくるのは少し変な感じだが、おかげで普通に喋れるようになったぞ。
「俺の名はキャプテン・ストライク!」
「魔王だろ」
「キャプテン・ストライク!」
「服装が変わっただけで、何を言っているんだ?」
駄目だ!
コイツ、変身ヒーローの事を何も分かっていない。
こういう時は、魔王だって分かってても何者だ!とか言うくらいはしてほしいものだ。
「まあ良い。ここは異世界。ヒーローの事なんか分からないのも仕方ない」
「人形を失ったのに、やけに強気だな。それがお前の奥の手か?」
「人形を食べたのに力を取り込めなかったお前も、よく悟られないように平静を装っているな。内心は焦ってるんじゃないのか?」
「クッ!しかしお前だって、人形が無くなった。魔法の援護が無ければ、その辺の魔族より少し強い程度だろう?」
図星だったか。
本命は弟の力を取り込んで、それを使って俺を倒すつもりだったはずなんだろうが。
それが失敗した挙句、俺のキャプテンの力に気付いてるみたいだけど、侮ってる?
だったら今がチャンスだ。
すぐに終わらせるしかない。
「悪いな。お前の存在は嫌いじゃないが、考え方は危険だ」
俺達に似たような奴等だ。
ホノヒサじゃなければ、仲良くなれたかもしれない。
モルさんと一緒だったのがホノヒサじゃなければ、モールマンとも協力出来たかもしれないのに。
「ハンマーに持ち替えただけで、何が出来る!」
「せーの!」
「ぐおあぁぁ!!」
勘が良いのか、腹へハンマーを叩き込むつもりだったのだが、身体を捻って避けられてしまった。
腹は叩けなかったが、代わりに右腕をぶっ叩かせてもらった。
やはりキャプテン時の力は、いつもとは比べ物にならない。
あの硬くて厄介だった岩が、一撃で砕け散っている。
「右腕はもう、使い物にならないだろ」
「い、いきなり何だその力は!?」
何だとか言いつつ、右手を俺の胸に向けている。
接近したから、向こうも必ず当たると思ってるだろう。
でも、キャプテンならこの至近距離でも避けられる。
「な、何故だ!」
「何故も何も、ヒーローだから?」
「意味が分からん!」
背後から話し掛けると、脇差を逆手に持ち突き刺してくる。
予想外の攻撃だったが、それも難無く避けると、俺は右脇腹へフックを入れた。
身体をくの字に曲げるホノヒサ。
追撃を試みると、右手から無数の氷の矢が飛んできて、断念した。
「つ、強い!服装が変わっただけで、どうしてそこまで。思い込みの力か!?」
俺、そこまで単純じゃないから。
思い込みだけでここまで追い詰められるなら、最初から催眠術でも何でも掛けてもらうっつーの。
「ホノ、一度撤退するべきだ」
今の言葉は、多分モルさんだろう。
しかし奴が逃げる様子は無い。
ホノヒサとモルさんの中で、意見が割れているのか?
と思ったのだが、やはり後退を選択しようとしている。
魔法による攻撃や炎や水をこちらへ向けてくるが、決定打になるようなものではなかった。
逃げ腰で放っているからか、直撃するようなものが無いのだ。
「今だ!」
土へと潜ろうとするホノヒサ。
しかし先手は打ってある。
ホノヒサは少しだけ地面を掘り進むと、爪が何かに弾かれてしまった。
「な、何かが邪魔をしている?」
「この辺り一面の地中に、分厚い鉄板が埋められてるってさ」
「い、いつの間に!?」
いつの間にというのは、こっちのセリフでもある。
知らぬ間に弟が作っていたのだから。
『キャプテンになってすぐに作ったんだよ。キャプテンの力なら、確実に勝てると思ったから。形勢がこっちに傾けば、逃げる気がしたんだよ』
それで見えないように鉄板を作るってのも、凄い話だけど。
キャプテンの時は魔法もパワーアップしてるし、出来なくはないらしい。
「もういっちょ!」
「うがぁ!」
今度は左足をおもいきり叩いた。
岩ごと膝を壊すつもりでやったからか、多分折れたと思う。
その証拠に、ホノヒサは立てなくなっている。
「ホノ、もう良い。俺は満足だ」
満足?
モルさんが言ってるのか?
「何も良くない!おいはまだ」
言い争っているけど、反撃をされても困る。
右足もぶっ叩かせてもらおう。
「グゥ!俺は良いんだ。ホノ、お前はやりたい事があるなら、逃げて生きるんだ。良くない!おいはまだ・・・」
あら?
急に動かなくなってしまった。
ホノヒサは心の中で、モルさんと口喧嘩をしていた。
心の中のホノヒサは、昔の騎士の時の姿をしていた。
今は目の前に立っているモールマンへと意識を集中し始めた事で、身体への意識が無くなってしまったのだ。
「ホノ、俺はここまでやれて満足している」
「まだだ!モルさんはまだ成し遂げていない!」
「それは違う。俺だけなら、ハグレのままで終わっていた。独りで食べ物も用意出来ない、そんな弱いモールマンのままだった」
モルさんはホノヒサに、頭を下げている。
モールマンに頭を下げるという慣習は無いが、ホノヒサに感謝が分かるように行なったものだ。
「やめてくれ。おいは、おいがやりたいから協力したんだ。モルさんを王にしたい。それがおいの望みだ」
「それはとても嬉しかった。そして、本当に成し遂げるとも思わなかった。でもそれは・・・俺が本当に求めていた事じゃなかったんだよ」
「何?」
モルさんは少し言い淀んだが、思いの丈をホノヒサにぶつけ始める。
今まで何も言わなかったモルさんの言葉を、ホノヒサは耳を傾けた。
「俺は別に王にならなくても良かったんだ」
「モルさん、出会った時は王に興味を持っていたじゃないか」
「それは、俺が王に会った事が無いからだ。モールマンの王なんて存在、知らなかった。だから興味を持った」
「だったらモルさんが、初めて王になったんだ。それの何処が不満なんだ?」
「俺が求めたのは、自分が王になる事じゃない。王は孤独だった。皆が頭を下げて、俺の話を聞くだけ。そんなのハグレだったあの頃と、変わらないじゃないか。だけど独りだったあの時と違う点もある。今はホノが居る。俺はホノと一緒に、色々な場所に行きながら生きられれば、それで良かったんだ」




