似ているのか?
人から期待されるのって、どう感じますか?
それに応えようと、やる気が出るのか。
それともプレッシャーとなって、重荷と感じるのか。
ちなみに僕は後者です。
程々の期待、というよりはそこまで重要じゃないポジションなら、頑張れる気がするんだよね。
もしくは、重要な役割の一つ手前の工程かな。
野球で例えるなら、チャンスに繋げる為のバントをする人みたいな。
九回裏の攻撃で、一打逆転サヨナラみたいな場面があったとしよう。
僕は絶対に三振する自信がある。
周りからの打てよ〜打てよ〜という気持ちが、自分を空回りさせるのだ。
勿論、わざとじゃないよ。
余計な力が入るというか、周りが見えなくなるというか。
とにかく、柄じゃないという事だ。
そういうサヨナラ打を打つのは、やっぱり兄の役目なんだと思う。
僕はその兄に繋げる為の、送りバントが精一杯。
送りバントを軽んじてるわけじゃないよ。
短期決戦の時のバントほど、重要なものは無い!
と、兄から言われてますので。
プレッシャーが力になるという人も居るけど、そんな人は選ばれた人だと思う。
僕はあくまでも凡人。
期待に応えるのは難しいです。
でもね、そんな中でも兄からの期待には、何故か応えられる自信があるんだよね。
どうしてかは分からないけど、大体はその期待に応えられてると思う。
今回も無理難題だと思ったのに、出来たしね。
ちょっとだけ混乱した。
本当にちょっとだけ。
おそらく他の人が聞いたのなら、驚愕で叫ぶ人も居るだろう。
その点僕達は前例があるから、ホノヒサの話を聞いても少しフリーズしたくらいで済んだ。
「マジかー。すげーな」
「・・・あまり驚いた様子は無いな」
「いや、まあ・・・驚いてはいるんだけど。ただ、珍しくは無い・・・かな?」
意味深な言い方をする兄。
するとホノヒサの方が、兄の言葉に驚いている。
「まさか魔族とは、同じ身体に二つの意志が存在するのが普通なのか!?」
「それは無い」
ヒト族とか魔族とか関係無く、そんな奴普通は居ない。
居るとしたら、アンタの目の前である。
「喧嘩とかしないの?」
「しない。おいとモルさんは一心同体。二つの心があっても、気持ちは一つだ」
僕達とは違うのか。
しょっちゅう喧嘩してるし、僕達は普段はあんまり話し掛けない。
ホノヒサみたいにあんまり頼み事もしないもんなぁ。
「そういえば、おいって言う時と、俺って言ってた時があったような」
「そうだった?」
よく覚えてるな。
口調も少し違うとか言ってたけど、全然分からなかったわ。
・・・それって僕等も同じって事か?
「さて、冥土の土産にお前達の問いには答えた。そろそろ死んでもらおう」
「誰が死ぬか!」
ホノヒサが右手をこちらに向けると、火炎放射器のように襲い掛かってくる。
兄はそれを避けると、お返しとばかりに鉄球を作り出す。
「投げたら駄目だ!跳ね返ってくるよ」
「あ、そうだった。危ない危ない」
今のタイミングなら、投げていれば確実に当たっていたと思う。
そう考えるとあの反射する能力、予想以上に厄介な力だ。
「土壁!」
「なぬ?」
まさか土魔法まで使えるとは思わなかった。
しかも一辺だけでなく、三方向に作れるくらい使いこなしている。
しかし、どうして四方を囲まなかったんだろう。
「燃え尽きろ」
「またかよ!」
なるほど。
後ろや横からは、逃がさないぞって事ね。
でもこの程度なら、どうにでも破る方法はありそうだ。
「甘いな」
兄は左右の壁を交互に蹴っていくと、壁の上へと登っていった。
一番上まで来たのは良いが、壁伝いに炎も上まで来る事は予想出来なかったらしい。
「煙突みたいだな」
「そんな悠長な事言ってる場合じゃないよ。早く接近しないと」
「そうだな。あの傷なら動き回っていれば、途中でくたばるかなと思ったんだけど」
僕が作った脇腹の大きな傷は、どうやったかは知らないが今では止血されている。
「もう一発当てられん?」
「無理でしょ。流石に二発目は警戒されるよ。動きを完全に封じない限り、跳ね返されるだろうね」
「だよなぁ。あ、あれ?」
あ!
炎を避ける事を考えていたからか、奴を見失ってしまった。
下を見ても居ない。
・・・いやいやまさか。
「ぐおっ!」
「捕まえたぞ」
クソッ!
もしかしたら炎の中を、よじ登って来るんじゃないか?
そう考えていたのだが、まさかその考えが当たるなんて。
しかもめちゃくちゃ熱い!
「油断は禁物」
「チィ!この人形風情が!」
「た、助かった!」
予想はしてなかったけど、万が一を考えて同じ魔法を作っておいて良かった。
細くしたりと集中が必要だからすぐには使えないけど、前もってこうやって準備しておけば、対策にはなるようだ。
「だが終わりではない」
「剣かよ!」
壁の上でバランスが悪いというのに、ホノヒサはそんな場所で剣で挑んできた。
右脇腹をやられ右手が上手く使えないから、勿論左手の脇差である。
脇差一本なら、余裕で勝てるはず。
「な、何だ!?やりづらいったらありゃしない!」
「フン!」
兄さんがどんどん追い詰められていく。
気付けば踵は、壁の端まで来ていた。
「俺達の勝ちだ」
「俺?こ、コイツがモルさんか!?」
兄は脇差を逃れる為に、自分から壁を飛び降りた。
この高さなら致命傷にはならないけど、ちゃんと着地しないと怪我はするだろうな。
「ホノ!分かってる」
「に、兄さん!」
まさか飛び降りる事も読まれていた!?
兄が降下していると、ホノヒサは右手を差し出してくる。
今度は風魔法を使い、落下している僕達に向かってカマイタチで追撃してきたのだ。
「ど、どうするの!?」
「フフフ、俺が落下するはずないだろ」
「何だと!?」
そ、そっか!
空が飛べるようになってたんだった。
間一髪でカマイタチを避けると、兄はそのまま壁の上に戻っていく。
「面白い。空中決戦がお望みか?」
「いや、地上に戻るとしよう。モグラだろ?お前もそっちの方が落ち着くんじゃない?」
「馬鹿にするなよ。まだおい達の方が・・・うっ!」
突然腹を押さえるホノヒサ。
兄は壁の上で急に膝をついたホノヒサを横目に、ゆっくりと地上へ降りていく。
ホノヒサが壁の上から降りてこない。
何が起きたんだ?
「変なモン食って、腹でも壊したか?」
「それは無いでしょ」
「それじゃ、腹減ったんだろ」
「そんな事で膝をつく・・・かもしれないな」
「マジで!?」
俺は冗談で言ったつもりだったんだが、弟はそう捉えなかったらしい。
少し黙った後、その考えを口にした。
「さっきの話、本当かもよ」
「どうしてそう思う?」
「兄さんなら分かると思うんだけど、激しく運動した後って腹が減るよね?」
「そりゃそうだ。激し過ぎるとそれを通り越して、食べ物見たくなくなるけど」
高校時代の夏直前合宿とか、一年目は飲み物以外口にしたくなくて、マジで死ぬかと思ったもんなぁ。
と、そんな話じゃないらしい。
「それは置いといて。さっきも言ったけど、激しい運動をすると腹が減る。それって、モールマンも同じだと思わない?」
「あぁ、そういう意味か」
弟が言いたい事が分かった。
様々な能力を使い続けるホノヒサは、他の奴よりも消費エネルギーが激しい。
火だの水だの土壁だの使うし、更には遠距離攻撃とか魔法まで弾くような岩を持つ。
もしかしたらワイバーンの翼を出すだけでも、エネルギーを使うのかな?
「アイツ、長期戦に弱いんだよ」
「なるほど。だったら俺達は、もっと時間を掛ければ、余裕で倒せるというわあぁぁぁ!!」
急に地面が迫り上がった。
俺の両足サイズしかないけど、土壁か?
小さくした分、その構築スピードを優先してるのかもしれない。
だったら強度も弱いか?
「そりゃ!」
足に力を込めて、ここから飛んでしまえば良いのだ。
案の定、壁は脆かった。
しかし、その考えは甘かったらしい。
「お前を食わせろおぉぉぉぉ!!」
俺達が飛んだ先目掛けて、大口を開けたホノヒサが猛スピードで襲ってきたのだ。
だけど、俺は空が飛べる。
そのままストップして、奴をやり過ごせば良い。
ほらね、通り過ぎていった。
と思ったのに。
「兄さん!?」
「なっ!?どうやって!?」
あっ!
あの土壁を足場にして、急転換してきたんだ!
背中のバッグを掴まれてしまった。
振り返るとホノヒサは、大きな口を開けて今にも食べようとしている。
「この!」
「手を出したら食われる!欠片を!」
弟は人形に装着している、魂の欠片を見せてくる。
外せって事か?
「と、取ったぞ!」
俺は欠片を外すと、そのままバッグを無理矢理引き剥がした。
その瞬間、バッグごと人形を丸呑みにするホノヒサ。
あと一歩遅かったら、弟は魂ごと食われていたのかもしれない。
そう考えると、欠片を持った手が震えてきた。
ホノヒサは落ちていった。
人形はフルミスリル製で、めちゃくちゃ硬い。
噛み砕けるのか心配だったが、今更戻ってきてもモールマンの口の中に入った人形だ。
弟が使う気はしないだろうな。
しかし、その考えは無用だったらしい。
アイツ、噛まないでそのまま呑み込みやがった。
ちゃんと噛まないと、腹一杯にならないんだぞ。
「動かないな」
腹壊したか?
あんな人形丸呑みしたら、腹壊しそうだもんな。
『おい!あんな人形だと!?』
聞いてましたか。
でも本当に動かないんだけど。
あ、立ち上がった。
『・・・確認してるんじゃないかな?』
確認?
腹の調子でも気にしてるって事?
『違うわ!僕の人形を食べたんだ。奴はその能力を気にするはずだ』
お前の人形の能力ねぇ。
ミスリルを食べて、岩の防御力が上がったとか?
『それもあるかもしれないけど。それよりも一番大きいのは、魔法だろうね』
あっ!
言われて気付いた。
そういえばアイツは、無詠唱では魔法を使っていなかった。
それに何種類か使ってはいたけど、全て難しくない初級レベルの魔法が多かった。
そう考えると、無詠唱で魔法が使える謎のキモい人形は、奴にとってはなかなかのご馳走だったのかもしれない。
『キモいは余計だ!』
それに魔法の種類も豊富だし。
もしかしてアイツ、バッグを掴んで俺に手を出さなかったのは、まず最初に人形を狙ったから?
『無視するなや。でも、その考えは否定出来ないね。鈍足な僕を最初に捕まえて食べてから、兄さんに手を出す。最初からそのシナリオだったのかもしれない』
むむむ!
そう考えると、上手い具合にアイツの考え通りに進んでるのかもしれないな。
これはちょっと危険かもしれない。
『そうかな?そんな事は無いと思うけど』
どうして?
現にお前の人形、食われちまったんだぞ。
『見てみなよ。僕の人形食べて、アイツはパワーアップしてるように見える?』
・・・見えないな。
特に魔力が増えたとかも感じないし、岩の色が変わった様子も無い。
もしかしたら岩が修復されたり、怪我が治ったりはしてるかもしれないけど、そんなに変わった様子は見受けられない気がする。
何故だ?
そう考えていると、弟は持論を展開し始めた。
『答えは単純だ。僕の本体は、人形じゃない。魔法を使うのも話をしているのも、人形じゃなくて魂の欠片なんだ。人形を食べたって、ミスリルの塊を食べるのと同じ。パワーアップがしたいなら、魂の欠片を食べないと駄目って事だね』




