表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
775/1299

魔王とホノヒサ

 正義と悪。

 これはいつでも語られる話だ。


 誰にでも、信じる正義というものがある。

 僕達が知っている中でそれが顕著に見られるのは、幕末の時代じゃないかな?

 志士と攘夷派で真っ二つに分かれているけど、これはどちらも有名で尊敬や好かれている人が多い。

 幕末維新を掲げて戦った、高杉晋作や西郷隆盛、桂小五郎や坂本龍馬のような名前も挙がると思う。

 それに対して攘夷派の筆頭格は、やっぱり新撰組だろう。

 ほとんどの人が知っている近藤勇を局長とした集団だけど、土方歳三や沖田総司を筆頭に、組長クラスの名はかなり知られている。

 歴史的には明治の世を作り出した維新側が官軍となり、正義を執行したとも取れなくはない。

 でもそれとは裏腹に、敗北した側に当たる新撰組は今でも大人気だ。

 それってお互いの信念を懸けて戦った事を、僕達が知っているからだよね。


 彼等からすれば、どちらも正義。

 ホノヒサにはホノヒサの正義があり、僕達には僕達の正義がある。

 それには譲れない何かがあって、お互いにそれを受け入れられないから戦いが起きる。

 でもね、ホノヒサはその譲れない何かを説明する事を省いて、僕達と敵対した。

 歩み寄ろうという気持ちがあったなら、戦いなんて起きなかったのかもしれないのにね。








 ホノヒサの話を聞く限り、奴はこの構図になる事を求めていた可能性がある。

 周りに誰も居ない、僕達と一対一になる構図だ。



「ハッハー!馬鹿にするのも大概にしろよ。お前、タイマンなら俺より強いって言ってるように聞こえるぞ」


「耳が悪いのか?それとも頭が悪いのか?いや、両方だな。そう言ってるのだが、理解出来ないようだ」


「そっか。お前、ぶっ飛ばすぞ!」


 兄は猛烈なスピードで、ホノヒサに向かった。

 結構本気で怒ってるのか、タツザマ並みに速い。



「熱いな!」


「任せて」


 人形姿の僕には、どれだけ熱いのか分からない。

 だけどそんな僕にも、熱で揺らめいて見えるくらいだ。

 相当な熱さだというのは分かる。



「水を使って熱に対応したか!だが、それだけでどうにかなると思うなよ」


「お前こそ、俺の強さに驚くんじゃねーぞ」


 兄は単純に、太刀で上段から斜めに斬ろうとしている。

 するとマオエがやられた時と同じように、脇差で兄の剣を受けようとしていた。



「脇差で受けて、太刀で斬るってんだろ?分かってんだよ!」


「ぐぬっ!」


 おぉ!

 これはこれで有効なのかも。

 兄はホノヒサを、力で押し込めていた。

 本来なら脇差で兄の剣を受け流すところを、兄は力で無理矢理脇差を下へと押し込んだのだ。

 でもホノヒサにはまだ、本命である太刀が残っている。



「力で勝てるからどうだというのだ!頭をかち割ってやる」


「ハッ!そこは俺にも、防御策があるからな」


 防御策?

 ぬあっ!?



「なっ!?そんなやり方!」


「残念。コイツ、フルミスリルの超お硬い人形なんだわ」


 兄は突然、前屈をした。

 防御策というのは、後ろに背負っている僕の事だったのだ。

 頭を前屈で下げて、背負っている僕が受け止める。

 受け止めると言っても、単純に太刀で僕が斬られるわけだが。

 これがとても怖い!



「先に言ってくれよ!」


「分かるように言ってたら、バレちゃうだろうが」


 死なないと分かっていても、殺す気で斬りかかってきてるんだ。

 そんなの並みの心臓じゃ、保たないっつーの。



「しかし、それでは対応しきれまい」


「それとか言うな!そのセリフ、まんま返してやる!」


 僕は風魔法で、奴の足を斬ろうと狙った。

 水魔法だと危険なのは分かっている。

 でも風魔法なら。



「馬鹿!跳ね返ってくるだろうが!」


「あ・・・」


「何だ、あっちもこっちも馬鹿ばかりだな」


 クソー!

 忘れてただけなのに!

 やらかした手前、言い返せないのが悔しい。



 魔法が通用しないとなると、僕の出番は本当にホノヒサの太刀を受ける盾となるだけになってしまう。

 これは俗に言う、居ても居なくても同じというヤツなのでは?



「・・・おい」


「どうしたの?」


 兄が突然、小声で話し掛けてきた。

 剣で打ち合いながら、よく話せるものだ。



「お前、もっと精密に魔法使えないのか?」


「どういう事?」


「アイツの跳ね返す力ってのは、あくまでも岩によるものだろ?だったら、岩の隙間を狙えないのかって話だよ」


 むむむ!

 かなり難易度の高い要求だ。

 兄が言っているのは、ホノヒサ達モールマンの身体を覆う岩の隙間を狙えって話なのだが、答えはそう簡単ではない。



 魔法を小さくすれば、そりゃ通るのは当たり前だ。

 しかし小さくしたところで、威力が低ければ意味は無い。

 では、兄の要求をクリアするにはどうすれば良いのか?

 まずは魔法を高密度で保ち、それをグッと凝縮する必要がある。

 尚且つ、岩の隙間を狙う正確性に加え、その隙間を射抜く為のスピードも無くてはならない。



「出来そうか?」


「・・・ぶっつけ本番だよ?」


「そうだな。だが、やってみる価値アリだろ?」


「良いね、気に入った。跳ね返ってくる事も考えておきなよ」


「嫌だね」


 ギャンブルが好きな兄だな。

 でも、久しぶりに感じるこの緊張感。

 悪くない。








 ぶっちゃけ言おう。

 俺だけの力では勝てん!

 アイツの剣、マジで凄いから。

 最初の一撃は短い剣を押し込んで驚かせられたけど、その後のホノヒサは少し慎重になった。

 おかげで俺も対応出来ているんだけど、俺の剣の腕だと当てる事すら無理。

 つーか、当たったところで岩が邪魔で、ダメージなんか入らないだろうな。



 だからこそ、弟に提案してみた。

 俺もね、難しい事言ったのは分かってるのよ。

 魔法が下手な俺だからこそ、難しい事言ってんだろうなってね。

 でも、頼らないと勝てないんだよ・・・。

 そして何より、俺が勝てなくても弟なら勝てる!

 と思う。



「どのタイミングでやるとか、それだけは教えてくれ」


「ちょいうるさい」


「すいません・・・」


 怒られてしまった。

 っとと!



「疲れてきたか?剣が鈍ってきているぞ」


「うるさい!このモグラ!」


「ボキャブラリーが少ない奴だ」


 俺、モグラに馬鹿にされてるんだけど。

 いや、中身はホノヒサなのは分かるよ。

 ちょっと小細工が上手い、頭が良さそうな奴だった気がするし、俺よりも頭が良いんだろう。

 でも、見た目はモールマンなんだよ。

 モールマンに馬鹿にされてるって感じで、結構凹むんだよ。



「細く細く・・・これなら通る!」


「出来たか!?」


「出来た!でも問題は、狙うタイミングだ。動きを止めるか、少しでも遅くなってくれないと無理だよ」


 動きを止めるか。

 それが一番難しいよなぁ。

 ・・・仕方ない!



「俺が止めてやる。絶対に当てろよ!」


「そういう事言うの、やめてくれない?チャンスに絶対とかさ、僕は兄さんじゃないんだから」


「あ、すいません・・・」


 また怒られてしまった。

 こうなったら、行動で示すしかないな!



「行くぞ!」


「グッ!また同じ手か!?」


 俺は再び、脇差を力で捩じ伏せた。

 こうなれば、ホノヒサが狙ってくるのは右手の太刀による一撃。

 今度は前屈で防がれないように、上段からは狙ってこないだろう。



「ビンゴ!」


 奴は予想通り、右手で横薙ぎに俺の脇腹を狙ってきた。

 このまま前転でもすれば避けられそうな気もするが、そうすれば今度は脇差で刺されるだろう。

 だから、俺が打つべき手はコレだ!



「何!?」


「ハッハー!俺だって二刀流くらい出来るんだよ!」


 嘘だけど。

 俺が考えた手は一つ。

 右手は剣で脇差を抑え、左手には創造魔法で作り出したバットを持つ事。

 奴ほど上手く扱えなくても、剣を受けるくらいは出来る。

 そしてこの瞬間、奴の動きが止まる事を意味している。



「今だろ!」


「分かってるよ!当たれよ、炎の光線ファイアレイ!」


「火!?火なの!?アイツ、炎に強いって言ってるのに?」


「うるさいな」


 当たった!

 鉛筆くらいの太さの赤い光線が、奴の腹を直撃したのだ。



「グアッ!」


「効いてるぞ!」


「驚くのはまだ早いよ。そして必殺のエクスプロージョン!」


「ぐおあぁぁぁ!!」


「す、すげー!」


 何をするのかと思ったら、腹の中で爆発を起こしやがった。

 どういう風にやったのか分からないけど、とにかく凄い事だけは分かる。



「ぬぐうぅぅ!!おあぁぁぁ!!」


「ウゲッ!」


 マジか。

 自分で爆発した箇所を抉り取ったぞ。

 右の脇腹には大きな穴が空いたが、そこは岩でカバーするらしい。



「ま、魔法か?」


「そうだ。俺は剣だけじゃなく、魔法も得意なんでな」


「や、やはり魔法には、魔族に一日の長があるか」


「一日の長?」


「魔法に関しては僕達の方が、長く使ってるでしょ?だから経験がある分上手いって事だよ」


 なるほど。

 だけどそれは、向こうにも言える事だろ。

 俺なんかよりもはるかに、剣の扱いが上手い。

 タツザマが、ホノヒサは二刀流なんか使えないみたいな事言ってたけどさ、アレ絶対に嘘だから。

 使えなかったら、真剣勝負の最中に使うはず無いでしょ。



「フウゥゥゥ、痛みは消えた」


 消えるんかい。

 とは言っても、右脇腹が抉れたんだ。

 筋肉とかバランスが悪くなるはず。

 これなら太刀による攻撃は、そこまで怖くなくなったと思う。



「モルさん、脇差だけ頼む」


「モルさん?」


 何をしてくるのか注意深く観察していたから聞こえたのだが、奴は何かを頼んでいた。

 もしかして、伏兵が近くに居るいる!?



「兄さん、戦いに集中しなよ!」


 俺がそのモルさんとやらを警戒してキョロキョロしていると、弟から三度怒られてしまった。

 だけど、これだけはやめられない。

 奴が何を企んでいるのか分からない今、伏兵による奇襲でやられる事だって考えられるんだ。



「違うんだ!」


「何が?って、前!」


「うおっ!」


 危なかった。

 油断してたとはいえ、脇差の方で攻撃してくるとは。

 右手に力が入らないから、左手の脇差をメインに切り替えたか?


 しかし、それよりも驚くべき事が起きた。


「舞い上がれ、突風」


「え?」


 我ながら間抜けな声だった。

 その直後に俺は、ホノヒサから発せられた風で十メートル近く吹き飛ばされてしまった。



「ま、魔法だと!?」


「兄さん、マズイ!」


 ホノヒサが右の手のひらをこちらへ向けると、炎がこちらへと飛んでくる。

 突風に乗った炎は、渦を巻いて俺達を襲ってきた。



「な、何だとぉ!?」


「やらせるか!」


 俺の前に、太い水柱が立ち上がった。

 弟のおかげだろう。



「何やってんの!キョロキョロするな!」


「ち、違うんだよ!アイツさっき、モルさんとか言ってたんだ」


「モルさん?」


「そう。人の名前みたいだろ?」



 でも、自分で言っておいて気になる点もあるんだよな。

 ホノヒサはモールマンの王だ。

 それなのに、さん付けで呼ぶ相手なんか居るのか?

 他の種族の王とかなら分かるけど、ホノヒサが知っている人物で対等な存在が居るとも思えないし。



「どう思う?」


「ふーむ、ちょっと分からないな。聞き間違いでなければ、ホノヒサの協力者って考えるのが普通だけど」


 やはり俺と同じ考えだ。

 しかも結論も同じようで、自分で言っていて違うような感じがしているみたいだな。



「モルさん、こっちで牽制するから、たまに攻撃頼む」


「まただ!」


 またモルさんって言った。

 やはり聞き間違いではなかった。



「おい!」


「え?まさか」


「何だ?」


「モルさんって誰だ?」


 分からないなら、直接聞けば良い。

 答えてくれなくても、反応から何か分かるかもしれない。



「・・・何の事だ?」


「しらばっくれるなよ。俺の耳は獣人並みに聞こえるんだ」


「チッ!まあ良い。教えたところで関係無いからな」


 あら、教えてくれるの?

 言ってみるもんだね。







「モルさんは、おいの中に居るモールマンだ。おいとモルさんは、同じ身体の中で共生している。お前達とも何度か話しているが、気付かなかったようだな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ