モールマンの今後
あの時モールマンの中では、何が起きていたのか?
兄が捕まえようとするまで、全く微動だにしなかったホノヒサとモルさん。
どうして動かなかったのか?
僕は二つのある仮説を立てていた。
それは身体の中で、二人で話し合っていたからという考えと、もしかしたら喧嘩をしていたのではないかという考えだ。
もし前者なのであれば、話し合いが終わって、逃げる事を選択したのかなと思っている。
では後者だった場合は?
それは喧嘩に勝った者が、身体の主導権を得るという事だろう。
コレが本気の喧嘩だったのなら、負けた方はどうなったんだ?
もしかして、身体の中から消えてしまったんじゃないのか?
あの時急に走り出したのは、どちらかしか身体の中に居なかったんじゃないか?
そして僕は、後者の場合を自分達に置き換えて考えてみた。
僕達は性格が違う。
そのせいか、衝突する事もしばしばある。
しかし喧嘩をすると言っても、殴り合いとかほとんどしない。
そんな事をすれば、僕が負けるのは明白だからね。
もしさっきの考えが正しいとしたなら、僕は兄に負けてこの意識も全て無くなるかもしれない。
そう考えると、少し怖くなった。
でもモールマンの最期の姿を見て、それも考え直したよ。
敵だったけどさ、同じような存在だった彼等は、最期まで仲が良かったんじゃないかなってね。
弟の話を聞くと、本当にそんな気がしてきた。
この両手は、二人が繋いだ右手と左手だったのかもしれない。
「ホノヒサとモルさんも、迷彩柄の近くに埋めてあげよう」
『そうだね。それが良いと思う』
ジャイアント達からしたら、色々仇だなんだと騒ぎそうだけど、俺達には関係無い。
むしろ俺達みたいな奴だったからこそ、俺達の手でちゃんと眠らせてやろうと思う。
下手に掘り起こして、ジャイアントに食べられるのは嫌だ。
「これで良し」
両手も離れないように、キッチリと繋いだままにしておいた。
やっぱり俺には、少し笑ってるように見える。
『ホノヒサ達に勝った事を、報告しに行こう。他のモールマンがどうなったのか、確認したいし』
「そうだな。もしかしたらモールマンも、逃亡したかもしれない」
俺達はハクトが集めた、怪我人達の場所へと移動した。
「勝ったんだ!やっぱりマオくんは凄い!」
「まあ俺、魔王だからね」
「どうしたの?少し元気無いね」
マズイマズイ。
俺達みたいな存在のホノヒサを倒して、ちょっと落ち込んでしまっていたか。
もしかしたら、同類として仲良くなれたんじゃないかと、そんな事を考えてしまった。
怪我人だらけの場所で、辛気臭いのはダメだろ。
「ちょっと疲れたからな。流石はモールマンの王だったよ」
「そっか。王様を倒したんだから、そりゃ疲れるのも当たり前だよね。今は忙しくないし、休んでいてよ」
ハクトは俺達を置いて、忙しくないと言い残し忙しそうに去っていった。
結局、忙しいんだろう。
それでもウケフジの力のおかげで、瀕死の重傷者は既に居ないらしい。
死んでしまった者は生き返らないけど、それでもウケフジの力は、多くの人を助けていたようだ。
「ジェラルディンはどうなったんだろ?」
四本ある腕のうち、三本は失っている。
普通であれば瀕死の部類に入りそうなのだが、彼女の姿が見当たらない。
歩きながら少し見回してみると、マルテも治療に当たっていた。
「あっ!アナタ、勝ったの!?」
「そりゃ勝ったよ」
今回の戦闘は、あまり派手じゃなかったからな。
他の人達からしたら、知らぬ間にホノヒサ達を倒したと感じてるのかもしれない。
「ジェラルディンは?」
「彼女は寝ているわ。あの林の奥でね」
向こう側で寝ているから、見えないのか。
そういえばよく見れば、ジャイアントが多く集まっている。
女王を守ってると考えれば、すぐに気付いたかも。
俺達は林の中に入っていくと、ジェラルディンが地面に寝転がっているのを見つけた。
他のジャイアント達は、俺達を仲間だと認識しているらしい。
すんなりと通してもらえた。
「怪我、大丈夫か?」
「ん?おぉ、チビ魔王ではないか。ここに居るという事は、モールマンの王に勝ったのか?」
「勝ったよ。それで、具合は?」
「そのナリで勝ったか。フフ、姿形で惑わされてはいかんな」
俺の質問に、全く答える気が無いな。
ちょっとイラつく。
そんな気配を察したか、ようやく俺の質問に答えるジェラルディン。
「三本の腕は、もう治らないだろう。一本あれば十分だと思うが、もう戦えないだろうな」
「良いんじゃないか?女王が前線に出る必要も無いし、それにモールマンは王が居なくなったんだ。戦いも有利になるだろ?」
「そうだな。これは良い機会なのかもしれん」
大きく息を吐くジェラルディン。
肩の荷が下りたような、そんな気持ちなのかもしれない。
俺も三年の引退の時に、そんなため息を吐いたのを覚えている。
「モールマンの追撃は、俺達がやっておく。ジャイアントも他の奴に指揮権を渡して、お前は休んでおけよ」
「分かった。ありがたく休ませてもらおう」
これで何とか落ち着いたかな。
戦いはほぼ終わったし、残りは騎士王国の連中に任せる方が良いだろう。
ホノヒサ達を倒してから、約二週間が過ぎた。
僕達は帝に呼ばれて、御所へ集まっている。
ちなみに集まったのは、魔族の代表として魔王である僕と、上野国領主である滝川一益。
そして護衛として太田とハクトだ。
次に帝国側からは、タケシとギュンターの二人。
騎士達はオケツを筆頭に、戦いに参加した主な騎士は全員集まっている。
「この度は騎士王国の危機、そして世界の危機を救ってくれた皆に、深く感謝するでおじゃる」
帝からの言葉を聞いた騎士達は、全員が深く頭を下げている。
俺達とタケシ達はそのままだけど、結構圧巻の光景だ。
「騎士達については後々話があるので、ここで解散とします。皆さん、身体に気を付けて」
オケツの指示で、騎士達は立ち上がったのだが。
何か締まりの無い終わり方だなぁ。
騎士達のほとんどが出ていくと、トキドとウケフジ、タツザマが残った。
そして端の方にも、騎士が一人残っている。
その騎士を見たトキドが、かなり驚いた顔をして見せた。
「サネドゥ!?」
「お久しぶりです。そうです。帝の大ピンチに颯爽と駆けつけたのが私、サネドゥです」
「めちゃくちゃ押し付けがましい自己紹介だな・・・」
「ハハハ!そんな事無いですよぉ」
明らかに皆に聞こえるように言っている。
帝は少し渋い顔をしているけど、本当の事だから反論はしないっぽい。
「さて皆の衆、本当にありがとう。皆が居なかったら、この国は滅んでいたかもしれないでおじゃる」
「まあ、それ程の事をしたと思いますよ」
「いや、お前はそこまで活躍してないでしょ」
サネドゥに対してはちょっと厳しいトキド。
まあ調子に乗り過ぎると、後から色々と言われるからね。
「それで、俺達だけ残された理由は?」
タケシが本題へと話を振ると、帝は一益に目をやる。
一益は席を離れると、数分後に誰かを連れてやって来た。
「も、モールマン!?」
「どうして御所に!」
太刀を抜こうとする騎士達だったが、オケツがそれを制すると、一益が彼を紹介し始める。
「彼は敵ではない。実はモールマンの中には、王の命令に背く者も居たのだ」
「王に背くモールマン?」
「ワシは彼と協力して、生き残ったモールマンを探っていた」
驚く騎士とタケシ達。
しかし僕はその話を聞いていた。
一益からの電話で大雑把な内容は知っていたが、彼等はその後散り散りに逃げたモールマン達を追ったらしい。
その中で言葉の話せるモールマンを探し、王が敗れた今、どう生きるのかを話し合ったという。
「結果は決まったでおじゃるか?」
「彼はワシと共に、上野国へ行く事になった。そして生き残りの大半は、地底に戻るようだ」
生き残ったモールマンは、数が大幅に減少している。
一億なんて馬鹿げた数から、百万前後まで減ったのではというのが、彼の見解だった。
これだけ減れば、ジャイアントと争いをしても、勝ち目は無い。
というよりも、エサに関して取り合いが減って、争い事態が減るのではないかという話だった。
「地上に残るモールマンって、他にも居るの?」
タケシの質問に、騎士達もそれが聞きたいといった反応だ。
太田とハクトも、それが気になっている様子。
それに答えたのは、一益の紹介したモールマンだった。
「居ます。地上の方が生活しやすいという連中と、やりたい事があるという連中に分かれますが。双方、地上の者を襲わないという約束で残る事になりました」
「ちなみに、貴方はどちらなのです?」
「私はやりたい事がありまして。というよりも、既に一つは叶いました」
「え?」
ウケフジの質問に答えたモールマンだったが、既に叶ったと言われ、あのウケフジが少し声が裏返っている。
すると太田が、一歩前に出た。
「いやあ、彼なかなか強かったです。ワタクシ、ちょっと危なかったですよ」
「お前等、戦ったのか!?」
「お恥ずかしながら、負けてしまいましたがね」
モールマンの敗北宣言に、トキドやタケシ達は唖然としている。
彼の願いを叶えた事で、モールマンの中で一益への信頼度が上がったのは言うまでもない。
そのおかげで、彼は上野国へ行く事になったのだ。
「ほ、他のモールマンのやりたい事というのは?」
「それについては、僕が話をしよう」
一益から連絡を受けた僕は、地上に残るモールマンの選別に参加していた。
どんな事がやりたいのかというので、ある程度行く場所が変わる。
やりたい事に合わせて行き先を決めるなら、他の国々を知っていなければならない。
そしてそれを知っているのは、僕だけだったからである。
まあ帝国は知らないんだけどね。
「色んな考えのモールマンが居たよ」
「例えば?」
「爪から手になった事で、何かを作りたいって考えのモールマンとか、自分で食べる物は自分で作りたいモールマンとか」
「立派じゃないですか!」
「ちなみに何かを作りたいってモールマンは、作りたい物で変わるかなと思って、まずは旅に出てもらう事にした。太刀が作りたいなら、騎士王国だね」
「それなら私の領地で預かりますよ」
ウケフジは感心して、受け入れを名乗り出てくれた。
他の者達はまだ違和感があるのか、そんなに乗り気じゃない。
「食べ物を作りたいっていうのは?」
「それは王国へ行ってもらおうと考えている。キルシェにはまだ連絡してないけど、多分大丈夫だと思う」
農作物の生産なら、王国が一番だ。
自分で作った物を食べるなら、あの国がベストだろう。
「そういえば、変わった願いを持った者も居たな」
「そうそう!食べた事が無い物が食べたいっていう、食いしん坊も居たね」
そういうのは長浜か連合かなと思ってるけど、連合は受け入れてくれるか微妙かな。
どっちも貿易都市だから色々な物が入ってくるけど、モールマンが働ける環境を考えると、長浜の方が有利かもしれない。
「色々な考えを持った奴が居るんだなぁ」
「拙者も少し驚いた」
「戦ってる時は、相手がそんな事考えてるなんて、知る余裕も無かったもんなぁ」
タツザマやタケシ達も、モールマンが思っていたのと違うと、見方が変わったような反応だ。
だから僕も、自分の考えをここで言う事にした。
「彼等のようなモールマンは、魔族やヒト族を食べて自我が芽生えたとも言える。それに嫌悪される可能性はある。でも魔族の考えをすると、弱肉強食。食べられた方が悪い。だから彼等は、自然の摂理に則って今があると思っている。ヒト族は難しいかもしれないけど、魔族は彼等を受け入れる事にしたよ」




