代打魔王
戦いに卑怯もへったくれも無い。
だって自分の命に関わる事なのに、文句を言っている暇なんか無いと思うんだよね。
姿が見えないから卑怯。
背後から不意に攻撃したから卑怯。
こんなの油断してる方が悪い。
考えてみてほしい。
そもそもこういう事で文句を言うのは、人間くらいなんだよね。
例えばサバンナで水を飲んでいるシマウマに、ライオンやヒョウが不意に襲い掛かったら、それは卑怯だって罵るの?
テレビ番組でもそういう光景が流れるけど、誰だって卑怯なんて言わないでしょ。
ライオンが複数で襲ってても、誰もおかしいなんて言わない。
だってそれは、生きる為の必要な行為なんだから。
逆に考えてみてよ。
ライオンやヒョウだって、腹減ったんで腹の中に入って下さいと言わんばかりに真正面から現れたら?
それこそ馬鹿じゃないの?って、思う人の方が多い気がする。
ジェラルディンがやられたのは、自己責任である。
と、やられていない僕達なら簡単に言えるだろう。
それでもやっぱり、やられたら文句の一つくらいは言いたくなるものだ。
僕なら間違いなく、キレてる自信がある。
腕を斬られてもそれを受け入れられる度量。
やられたのに、そんな所からも女王の貫禄を感じてしまった。
迷彩柄のモールマンが、目の前で肩を押さえている。
多分あの辺りに、僕が当たったんだろう。
「な、何を勝手な事を」
「それだけ弱ってるのに、偉そうな事言ってんなよ。ソイツと代わるんだ」
目の前で倒れているジェラルディンの声は、確かに弱々しくなっていた。
このままだと敗北は必至である。
しかし、彼女のやる気は衰えていない。
兄は無理矢理にでも交代させる為に、僕をぶん投げたらしい。
彼女も馬鹿ではないので、兄の意図に気付いている様子だ。
「ま、任せて良いのか?」
「へ?まあ、そうね・・・」
僕は曖昧な返事をしたのだが、彼女はそれを是と受け取ったらしい。
片手でゆっくりと立ち上がると、おとなしく引っ込んでいった。
そして僕は、後に引けなくなってしまった。
一つだけ言っておきたい。
何も言わずに交代させるって、どういう事?
いきなり身体を投げられてモールマンにぶつけられ、コイツと交代な!って叫ばれる身になってほしい。
心の準備も何も出来ていないのに、目の前にはモールマンが居るんだよ?
怖いっつーの。
瀕死とまではいかなくとも、満身創痍のジェラルディンに、代わってくれるのか?って聞かれるんだよ?
種族も違うし、ガタイも他なんかよりはるかに大きい。
それでも女性であるジェラルディンに、弱々しい声で言われてさ、無理ですなんて言えるわけないでしょ。
何も考えずにやった行動なんだろうけど、兄は僕の退路を断ったよね。
ジェラルディンが離れてから、僕は改めてモールマンを見上げた。
迷彩柄の岩というのも不思議な感覚だけど、間近で見ると大きくてちょっと怖い。
太田やゴリアテの方が大きいけど、彼等は敵意が無いから。
その点目の前のモールマンは、ジェラルディンへのトドメを邪魔されたのもあって、僕に猛烈な敵意をビシビシとぶつけてきている。
「せっかくの女王を食らうチャンスを、よくも不意にしてくれたな」
「あ、アハハ!」
やっぱり怖い。
笑って誤魔化そうと思ったのだが、モールマンには通じないようだ。
「笑っているんじゃない!」
僕は蹴り飛ばされると、数メートル転がった。
この感覚、懐かしいな。
昔、シーファクに同じ事をされたっけ。
あの時は悲鳴付きで、もっと遠くに飛んでいったけど。
しかもシーファクのキックは関節部が曲がったのか、立ち上がれなかったんだよな。
その点、この人形は頑丈さがはるかに上がっている。
シーファクよりも強力なキックだったはずなのに、全然問題無かった。
「硬いな」
「足痛めた?」
「少しな」
本気か冗談か分からないけど、迷彩柄は少し足を気にしている。
本当に痛めているのなら、ラッキーなんだが。
「おーい!本気でやれよ!」
「うるさいな!だったらいきなり投げるんじゃないよ!」
兄の応援というのか罵倒というのか分からない声に、僕は思わず文句を言った。
そもそもの話、こんな接近戦を僕はした事が無い。
蹴られて数メートル離れたけど、いつもよりかはるかに近い距離で戦っている。
最初から戦うつもりなら、近づけないようにと考える事も出来たんだけど。
相手はむしろ接近戦が主なタイプだと思われるし、こんな状態からだと離れようにも離れられない。
「早く攻撃しろよ!」
「うるさいな!」
僕は火球を、迷彩柄に向かって放った。
しかしそれは片手で弾かれてしまい、僕と迷彩柄の間に叩き落とされてしまった。
土煙が起こり、相手の姿が見えなくなる。
この状態はマズイ!
咄嗟に風魔法で、土煙を払った。
いくら姿を消したと言っても、それはあくまでも見えなくなっただけ。
ジェラルディンが臭いを感じるというのなら、おそらくは擬態のはず。
風を起こしてしまえば、いくら周囲に溶け込んだと言っても、風の流れまでは擬態出来るはずが無いのだ。
だが・・・
「い、居ない!」
土煙が風の流れを見えるようにしてくれているのだが、特別に変わった様子は無かった。
土煙が晴れて周囲を見回しても、違和感は無い。
「そうだな。少し判断が遅かった」
「う、後ろ!」
僕が振り向こうとした時には、僕の視界は反転していた。
地面に顔から叩きつけられ、左腕を掴まれている感覚が残っている。
「大丈夫か!?」
兄の声が耳に入ってくるが、顔は地面を向いていて何が起きているのか分からない。
右腕は動くのだが、左腕は動かない。
押さえつけられている?
「左腕を引けるか!?」
「左腕?」
「喋れるって事は、生きてるんだな?左肘を回して、抜けられるか?」
左肘を回す?
何処まで回すんだ?
「ぬ、ぐぅ!か、硬い!」
「え?」
地面を軽く抉りながら左側を見てみると、モールマンが関節技か何かを極めているように見えた。
だから動かなかったのか!
「ソイツ、お前の腕を折ろうとしてるんだ!早く抜け!」
「うぇっ!?それは困る!」
だから左肘を回せって言ってたのか。
何処まで回すか分からないけど!
「それっ!」
「な、何だと!?」
左肘を回す。
何処まで回せば良いのか分からないなら、一回転でも二回転でもすれば良いのだ。
幸いこの身体は、関節部があると言ってもクルクル回す事も可能である。
だって人形なんだもの。
「あ、抜けた」
「そのまま攻撃を叩き込め!」
「こ、攻撃を・・・」
「遅いわ!」
左腕が抜けた事で立ちあがろうとすると、兄はそのまま攻撃をしろと言ってきた。
慌ててそれに反応すると、やはり接近戦は迷彩柄のモールマンの方が上手らしい。
その足を狙われて、今度は地面ではなく、空を見上げる事になった。
「このまま膝を破壊してやる!」
「ヒールホールドだ!何とかしろ!」
な、何とかしろ?
それはどうやって?
「技名言われても、僕にはどうすれば良いか分からないよ」
「暴れろ!とにかく動くんだ!」
動く。
「フン!フン!」
「何してるんだよ!?」
「動いてるんだけど」
「上半身しか動いてないじゃんか!」
「だって、足動かないし」
さっきのように膝関節を回そうと試みたのだが、ガッチリと抑えられてしまっているらしい。
動かそうと思えば動かせるかもしれないのだが、その反動でヒビが入ったりする恐れもあった。
「ハハハ!これが魔王人形か!王よ、コイツは弱いですぞ!」
「侮るなよ。さっきも見た通り、魔法を使えるのだからな」
「はい、侮る事はありません」
関節技を極めながら、モールマンの王と会話か。
その点は文句は言えないか。
僕も兄さんと話してるし。
「そろそろお前の膝を壊させてもらう!フン!」
「え?」
「お、おい!ミシミシ言ってるぞ!大丈夫なのか!?」
ま、まさか折れるのか!?
僕の足が折れてしまうのか!?
「ううぅあぁぁ!!」
声にならない声を上げる迷彩柄。
すると僕の左足から、バキンッ!というような鈍い金属音が聞こえた。
「うわあぁぁぁ!!」
お、折れた!
僕の左足が折れた!
動かそうとしても、感覚が無い!
「次は右足だ」
「だ、誰がやらせるか!」
上半身を起こした僕は、迷彩柄の顔面目掛けて火球を放つ。
至近距離からの魔法は避けられなかったらしく、奴は直撃を受けた。
「ぬぅ!悪あがきを!」
「ま、マジかよ!」
それでも右足を離さないとは。
だったら根比べだ。
このまま連発で、火球を顔面に叩き込んでやる。
「それそれそれそれ!」
「ぬうぅぅ!」
「いつまで耐えられるかな?」
僕は迷彩柄の顔面に、何十発も火球を叩き込んだ。
そのおかげで、奴の頭に付いていた迷彩柄の岩は、全て無くなっている。
そして向こうも、いよいよ力の限界が来たらしい。
右足を押さえている手が緩んだように感じたのだ。
「チャンスか!?」
「ぬあぁぁぁ!!」
「え?」
またミシミシという鈍い音が聞こえてきた!
これはマズイ!
「火球で駄目なら、こういうのはどうだ!?」
「な、何だこれは!?うぐっ!」
僕が放った炎は、僕の右手から伸びてそのまま迷彩柄の身体に纏わりついた。
そして手を引くと、炎が迷彩柄の首や腕を締め上げているのだ。
「関節技は知らんけど、締めるだけなら僕にも出来るぞ!」
「く、くぅ!」
そのまま更に右手を引くと、炎がモールマンの首を焼いているのか、肉の焼けるような音が聞こえてきた。
「このままだとお前、焼け死ぬよ?」
「だ、誰が死ぬか・・・」
意地でも離さないつもりか?
しかし次の瞬間、迷彩柄は手を離した。
「アーミー!」
「イエス!」
僕の右足から手を離すと、炎の蔓を手に取ってそれを緩めてみせた。
僕から距離を取り、首や腰、膝等、炎に巻きつかれた場所の確認をしている。
あんなに簡単に炎の蔓を緩められるとは。
やはり力は向こうに分があるらしい。
でも、おかげで僕もようやく立ち上がれる。
「あ、あれ?」
そ、そうだった。
左足は無いんだ。
すぐ近くに捨てられたように、僕の左足が転がっている。
仕方ないので、創造魔法で鉄製の杖を作ると、右足だけで立ち上がってみた。
「あ・・・」
「おい!」
右足が折れた。
どうやら耐久性が、著しく落ちていたみたいだ。
僕は再び転ぶと、迷彩柄が勝ち誇ったような声を掛けてくる。
「これが恐れられた魔王人形か。ざまあないな」
「僕って恐れられていたんだ。こんなに可愛いのに」
「強がりはよせ。本当は痛みで、声を出すのも辛いんだろう?」
「は?」
「両足を失って、普通に話せる奴など居ない。だが、それでも話せるお前のその精神力は、認めてやろう」
「・・・あー、なるほど。そうね、そうだよね」
何を言っているんだろうと思ったけど、ようやく理解出来た。
モールマン達は僕が、生身の人間と同じ扱いなんだ。
だから痛みを感じていると思っている。
我慢比べなんて言ったけど、実際に痛かったのは迷彩柄だけなんだよね。
「両足を失っては、もう勝ちは無い」
「そうだね。普通ならそう考えるよね」
魔族だろうがヒト族だろうが、ジャイアントもモールマンも関係無い。
足が無くなれば立てないのだ。
でも僕は違う。
「ハハ、這いつくばって動くか。まるで壊れた人形だな」
勝ち誇る迷彩柄だが、奴はまだ分かっていないね。
「壊れた人形か。その通りだと思うよ。でもさ、壊れたらどうする?そのまま捨てる?僕は違うんだよねぇ。僕なら直すか、更に改造してしまうんだよね!」




