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 こうやって接近戦をやってみて思った。

 皆、凄いね。


 兄もそうだけど、太田も又左も慶次も、皆槍とかバルディッシュとかを使って戦っている。

 又左と慶次は結構長い槍を使ってるけど、それでも相手との距離は僕よりも近い。

 こうやって接近戦をやってみて思った。

 相手の顔色や息使い、感情みたいなモノがダイレクトにこっちに伝わってくると。

 それはもう、敵意というモノがヒシヒシと伝わってくる。

 僕みたいに遠くから魔法で攻撃する連中は、そういうのをあまり感じないんだなと改めて気付いた。

 そう考えると、兄もなんだかんだで接近戦の方が得意だ。

 兄が戦っている時、身体の中から見ている分にはある意味他人事のように感じているからか、全く気付かなかったんだけど。

 よくあの感情をおもいきり真正面から食らって、怯まないなと感心するよ。


 改めて思ったけど、僕はこういう一対一の戦いに向いていない。

 大人数に魔法でドカンとやるなら、あんまり気にならないんだけど、やっぱり自分への敵対心を目の前で受けると、怖さの方が勝ってるからね。

 もしこれで痛みなんか感じた日には、すぐにギブアップを宣言する自信がある。

 兄が勝手に交代を宣言した事、後でたっぷりと文句を言ってやろう。







 両足が使えなくなった。

 普通なら立てなくなった時点で、ほぼ敗北が決するだろう。

 でもね、僕の身体は違うから。



「は、這いずった人形に何が出来るというのだ!」


「何が出来るかって?魔法が使えるんだな。それに僕は魔王だ。特別な魔法だって使えるんだよ!」


 僕は二本の折れた足を集めた。

 それを折れた膝の辺りに合わせて、ある魔法を使う。

 そう、創造魔法だ。



「な、何をしている!?」


 驚く迷彩柄のモールマンは、慌ててトドメを刺しに僕の方へと向かってくる。

 だけど、真っ直ぐに来るのが分かってるなら、対処は簡単だ。



「ぬあぁ!」


 強力な風魔法を使って、奴を更に吹き飛ばせば良い。

 案の定迷彩柄は、そのまま背中から転がるように僕から離れていった。

 殺傷能力は無かったけど、カマイタチのような風を出して耐えられるよりはマシだった。



「膝から下が直っている!?」


 モールマンの王も、これには驚きを隠せなかったか。

 創造魔法の知識は、流石に持っていなかったらしい。

 という事は、この王は僕達の関係者である魔族を食べていないと考えて良さそうだ。

 もし安土や長浜みたいな土地の魔族であれば、僕の魔法は知識としてくらいは入っていただろうしね。

 そう考えると、あの水魔法は帝国由来の魔族の影響かな?



「バッチリ直ったね」


「お前、その足何だ?もしかして、改造した?」


「フフフ、気付いちゃったか」



 踵の部分を延長して、その先にはローラーを付け加えたのだ。

 しかし本当の改造部分は、この見える場所ではない。



「足が元に戻るとは!だが、再び捕まえて折れば良いだけの事」


「それはどうかな?」


「お前の身体は頑丈だ。それは認めよう。しかし、その装甲を重視した身体は、鈍重である証だ!」


 風魔法に堪えた迷彩柄は、僕に向かってレスリングのようなタックルを入れてきた。

 人形の身体に合わせてなのか、とても低い姿勢で突っ込んでくるのが分かる。

 だが、僕はそれを避けてみせた。



「ば、馬鹿な!?どうやってその機敏な動きを!?」


 僕が後ろに下がった事で、前のめりに倒れる迷彩柄。

 倒れた姿で僕を見上げ、驚いている。



「お前、その動きは足裏にローラーでも付けたのか!?」


「ニヒッ!兄さんは気付いたか」


 そうなのだ。

 僕が改造した一番大きな点は、足裏にローラーをセットした事だった。

 踵部分を延長してローラーを付けたのは、あくまでも補助輪。

 動作確認もしないでいきなりやる事なので、倒れないようにと考えて取り付けてあるのだ。



 このローラーの動かし方のヒントは、膝を回転させた動作にある。

 人形の姿は人間の身体と違って、関節部を何回転も出来る事が分かったのが大きかった。

 幸いな事に、この身体だと疲れを感じない。

 普通ならジョギングしただけで息切れする僕も、この身体なら全力でローラーを回しても疲れないのだ。

 だから猛スピードで足を動かすようにローラーを回すと、あんな感じでスムーズに動けるようになった。

 ちなみに昭和の某ロボットアニメを意識したのは、間違いない。



「悪いね。もう捕まる事は無いと思うよ。キミも大概、遅い方だからね」


「お、おのれ!ちょこざいな!」


 今まで冷静だった迷彩柄が、感情を剥き出しになってきた。

 タックルを避けられて、見下ろされたのが大きかったか?



「ほれほれ、捕まえられるものなら捕まえてみろ」


 僕の挑発にハマった迷彩柄は、簡単に追いかけてくるようになった。



「この!」


「おっと!」


 両腕でハグをするように掴もうとする迷彩柄。

 それを僕は、体育座りの要領で掻い潜ると、背後から後頭部に火魔法をぶつける。



「ぐあぁぁ!!」


 頭だけは、火魔法で岩を壊して剥き出しだからね。

 やはりそれなりに、ダメージは大きいらしい。

 今までに無い声を上げた。



「こ、この・・・」


「アーミー!」


 モールマンの王が、突然大きな声を上げた。

 迷彩柄はその瞬間、ビクッと身体が硬直する。

 というよりも、驚いたのは奴だけじゃない。

 僕も兄も、驚いてしまった。



「アーミー、一度冷静になれ」


「も、申し訳ありません!」


「良いか、その足には弱点がある」


 なぬっ!?

 もうこの足の弱点に気付いたのか!?

 それを言われるのは、マズイ!



「兄さん!」


「分かってる!」


 隣で見ていた兄が、王の顔に向かってハイキックをお見舞いした。

 いや、しようとした。

 王はそれを軽々と片手で受け止め、言葉を続けた。



「その足は平坦でしか走れない。だから足場を崩せば」


「外野が口を挟むなっつーの!」


 僕の氷魔法と兄の剣が、王の余裕を奪う。

 しかし、もう遅い。



「分かりました」


 迷彩柄は冷静さを取り戻すと、その場で大きく地団駄を踏むように足を踏み込んだ。



「クッソ!バレちゃったじゃないか!」


 地面が隆起してしまった。

 こうなるとローラーが上手く稼働しない。



「チィ!」


 離れている迷彩柄に向かって、色々な魔法を続々と放った。



「顔に当たらなければ、我慢出来る!」


 足止めも兼ねた攻撃なので、威力よりもスピード重視にしたのだが、それが駄目だったらしい。

 奴は両腕で頭をガードしながら、僕へと近付いてきた。



「だ、だったら!」


 土魔法で壁を作って、時間を稼ごう。

 迷彩柄が壁を越える間に、こちら側の地面を均してしまえば、再びローラーが役に立つ。

 しかし、その考えは甘かった。



「見つけたぞ」


「は、早っ!」


 結構大きな壁を作り上げたつもりだったのだが、軽々とその壁を乗り越えたようだ。

 アーミーという名は伊達じゃないのか、軍人のような訓練でもしてるのか?



「捕まえたぞ!」


 飛び降りた迷彩柄は首を掴むと、そのまま一回転して僕の頭を地面へと叩きつけた。

 普通であれば、首の骨が折れていてもおかしくない攻撃だ。



「んむむ!」


「今度は逆転の一手すら封じさせてもらう」


「おい!」


 兄の慌てた声が耳に入る。

 なるほど。

 地面の隆起で逃げ場は奪ったと考えた迷彩柄は、今度は僕の腕を始末しようという考えのようだ。

 右も左も、腕をガッチリと極められているのが分かる。



「このままへし折ってやる!」


「馬鹿!早く逃げろ!」


「うむむ!」


 顔が地面に埋まっているからか、喋っても伝わらないようだ。

 兄が必死に叫んでいるけど、ハッキリ言って逃げられる自信は無い。

 こんなのぶっちゃけ、兄でも無理だと思うよ。

 力任せに外せそうな太田とか、後は格闘の天才であるタケシくらいじゃない?



「フフフ、あとはじっくりと外せないように、へし折っていくだけ」


「おい!また肘を回転させたり出来ないのかよ!?」


 兄がやんや言ってるけど、ちょっとうるさい。



 ハッキリ言おう。

 僕は今、ピンチだとは思っていない。

 何故なら、この密着こそが勝機だと考えているからだ。

 問題は、前が見えないからどう密着しているのかが分からない点である。



「もがけ!今度は足が動くんだから、足を動かせ!」


 あ、そうか。

 このまま走ってみれば良いんだ。

 腰を曲げて、地面に足を着けて。



「んむむー!」


「わ、悪足掻きを!」


 ローラーがギュイーンと鳴ってるのが分かる。

 僕の力にそこまでの馬力があるのか分からないけど、少しずつ身体が動いている感覚があった。



「んむー!やった!顔が抜けた!」


 土にめり込んだ顔が、ようやくと抜けた。

 すぐに顔を上げると、丁度良い具合に両手が迷彩柄に密着している。



「馬鹿め。頭が抜けただけで、変わらんぞ。そろそろ仕上げと行かせてもらう」


「それはこっちのセリフだから」








 僕の両腕はガッチリと極められている。

 腕が動かせる範囲は、ほとんど無い。

 しかしそんな事は問題ではなかった。


 僕が気にしていたのは、僕の両手が何処に密着しているかという点だった。

 そして僕の手は、迷彩柄の両脇腹にあった。

 脇腹と言ってもそこには岩があるだけで、ペチペチと叩いたところで、一切のダメージは無いだろう。

 だけど、それは手だった場合である。



「負け惜しみはやめておこうか」


「負け惜しみね。そう思うなら、そう思っていれば良いさ。じゃあこっちも反撃だ!アームチェェェンジ!」


 叫ぶ必要は全く無いんだけどね。

 なんか必殺技っぽいから、叫びたくなっちゃった。

 こう考えられるのは、少しは戦いに慣れてきた証拠だろう。



「な、何だ?」


 今回はモールマンの王にも気付かせない。

 兄と二人で立っている場所からは、僕の手は迷彩柄の身体で見えない位置にある。

 そして迷彩柄も同様に、僕の手は見えていない。



「な、何の音だ!?」


「ニヒヒ!何の音でしょうかね?」


 高速回転する音に気付く迷彩柄。

 見えないそれに、少しだけ動揺している。



「さて、我慢出来るかな?」


 僕は手を脇腹へと当てた。



 迷彩柄の岩と当たり、激しい音を立てる僕の手。

 硬い岩は徐々に削れていく。



「ま、まさか!」


 兄は音で気付いたかな?

 そういえば、歯医者によく行ってたっけ。

 バットを振る時とか、噛み合わせで力の入り方が変わるとか言ってたし。



 僕が創造魔法で変えたのは、手の先をドリルにした事。

 肘を回転出来るのであれば、手首も同じ事が出来るはず。

 そう考えた僕は手首から先をドリルにして、密着している岩を削る事にしたのだ。



「何が起きている!?」


「さあ、何でしょう?」


 まず間違いなく、この攻撃をモールマンに察知される事は無いと考えていた。

 理由は簡単。

 この世界にドリルは存在しないからだ。

 一番の懸念は、モールマンの王が転生者である事だったのだが、話している感じその様子は見受けられなかった。


 だから岩を削っている限りは痛みも感じないので、何が起きているのかは分からないと考えている。

 そして、いよいよこの瞬間がやって来た。



「ぐあぁぁ!!」


 とうとう岩を穿った僕のドリルは、モールマンの身体へとたどり着いた。

 刺突武器で貫かれた痛みなどとは比較出来ないであろう、その痛み。

 迷彩柄の叫び声が、僕の耳に響いている。



「ぐおぉぉ!!」


「このままだとキミ、死ぬよ?」


 僕の声が耳に入ったのか、極まっていた両腕が少し緩んだ。



「今だ!抜け!」


 兄の声と同時に、僕は右手を引き抜いた。

 そしてその右手を、迷彩柄の顔面へと押しつける。

 悲鳴にならない悲鳴が響くと、痙攣を起こして動かなくなった。



「か、勝った」


 流石に迷彩柄の顔を見るのは怖いので、目は背けている。



「勝ったぞ兄さん!」


 僕はドリルを止めて右手を上げると、兄は僕に向かって言った。







「お前、結構エグい事するなぁ・・・。流石に敵だとしても、あの勝ち方は酷いと思うぞ。おとなしい奴ほどキレると怖いって言うけど。引くわぁ」

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