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王、現わる

 サラリーマンじゃあるまいし。

 査定とか気にする騎士って、どうなのよ。


 分からなくもないのよ。

 そりゃ僕だって、似たような経験はある。

 研究室の教授に顔と名前を覚えられたら、それなりに効果は大きい。

 ちなみにこれは友人から聞いた話だが、芸術系の大学は特にこれが顕著だという。

 美大や音大の学生は、外からやって来る講師や有名な先生に名前を覚えられると、紹介という優遇があったらしい。

 その友人もやれば良いのに、媚びるのが面倒だと言って結局は普通の会社の内定をもらっていたけどね。

 彼ももう三十路になっているのだが、媚びるのが苦手とかそんな事で、社会人をやっていけるのだろうか?

 そんな変わった友人だからこそ、僕と仲が良かったというのもあるが。

 今はちゃんと働いているのか、少し気になるところではある。


 そんな話は置いといて、サネドゥの話だ。

 奴は他の騎士と違って、僕達の世界の人間に似ている気がする。

 転生者ではないと思うのだが、どうにも漫画やドラマで見る腰巾着系のサラリーマンの雰囲気が、凄く漂っている。

 それが悪いというのではなく、騎士としてそれは正解なのかなというのが疑問だった。

 でも彼がこれで成功したのなら、今後の騎士王国において、彼のようなスタイルがスタンダードになったりするかもしれない。

 そうなると益々、騎士王国は日本みたいになるのかなと、ちょっと不思議に思ってしまった。







 迷彩柄のモールマンとは、違う声が聞こえた。

 兄はジェラルディンの腕が飛んでいるのを見て、混乱している。



「な、何で!?」


「もう一体居るんだ!」


「チィ!分かっていたのに避けられなかった。おい、もう一体は格が違うぞ」


 ジェラルディンは右腕もやられてしまったのだが、本当はその攻撃に気付いていたらしい。

 しかしもう一体の敵の速さは、彼女の上を行っていたようだ。

 それでもあの謎の声を聞く限り、向こうも一撃でジェラルディンを仕留めるつもりだったと思われる。



「卑怯だぞ!俺達の前に姿を現せ!」


「兄さん、それは無いよ」


「は?」


「生きるか死ぬかの戦いに、卑怯もへったくれも無いんだって」


「な、なにぃ!?じゃあお前は、みすみす同じようにやられろつていうのか!?」


 混乱と興奮のおかげで、兄は自分が何を言っているのか分かっていないような気がする。



 そもそもやられたジェラルディンが、僕の話に頷いているのだ。

 ジャイアントもモールマンも、こういうものだと戦ってきたんだろう。



「おい!出てきやがれ!」


「魔王とは、こんな馬鹿だったのか?」


「馬鹿にするな!」


 何処からか聞こえる声に、兄は喚き散らしている。

 文句言う暇あるなら、聴力でも強化して探せば良いのに。


 そんな事を考えていると、先に動いたのはジェラルディンだった。

 彼女は切られた自分の右腕を残った右腕で掴むと、それをある方向に投げつけたのだ。



「あっ!」


 すると空間が歪み、腕が何かに当たったのが確認出来た。

 歪んだ空間を見ていると、薄くモールマンの形が見えてくる。



「居た!ジェラルディン、凄いな」


「姿形が見えなくても、臭いは消せないからね。特にコイツのような、欲望に満ちた臭いはすぐに分かるさ」


 彼女は簡単だと言うが、僕が言った意味とは少し捉え方が違っていた。

 見つけた事も凄いのだが、それよりも僕は、切られた腕を投げつける神経の方が凄いと思ってしまったのだ。

 そりゃ切られて動かないんだから別に必要無いんだろうけど、食べられたりしたらくっつける事すら出来なくなるのに。



「ところでお前等、どうしてもう一体居るって分かったんだ?」


「それは簡単でしょ」


「注意深く見ていれば、すぐに気付く事なのだが」


 ジェラルディンは少し呆れている気がする。

 たまに鋭い時もあるんだけど、やっぱり野球以外は適当なんだな。

 首を傾げて、何処?って顔をしていた。



「迷彩のモールマンの手を見てみなよ」


「手を?見たけど、何も持ってないぞ」


「そうだよ。だからおかしいんだって」


「人形の言う通りだ。アタシの腕を斬り落とすなら、奴は得物を持っていないといけない。剣なりナイフなり、刃物と呼ばれる物をな」


「あっ!そういう事か」


 奴は何も持っていなかった。

 もしかしたら隠し持っているという可能性もあったのだが、兄が向かっていった時でもそれを出さなかったと考えると、今は持っていないと考えるのが妥当だと思う。

 奴の腕から先が大きな爪だったなら、その考えも改める必要があったんだけどね。



「フフ、ご名答。女王の腕を斬り落としたのは、おいだ」


「おい?」


「お前、甥っ子にやらせたのか!子供にやらせるなんて、酷い奴だな!」


「兄さん、それちょっと違う」


 見当違いの怒りに、ジェラルディンもモールマンも反応が無い。

 マズイぞ。

 このままだと、魔王は馬鹿説が流れてしまう。



「じゃあ姪っ子か!?」


「兄さん、ちょっと黙ろうか」


「おい達は、こんなのに負けたのか・・・」


 アレ?

 何かダメージを与えた?

 ショックを受けたのか、それとも頭痛でもするのか。

 頭がクラクラしているようだ。

 もしや、チャンスなのでは?



「隙アリ!」


 思わず火魔法を、謎のモールマンに向かって放ってみた。

 すると、奴は右手を軽く翳すと、手のひらから水が飛び出してくる。



「うおっ!魔法か!?」


「分からない。魔法なら、無詠唱が出来る魔族を食べたって事になる」


 無詠唱の使い手なんて居たら、僕達の耳にも入ってきそうなんだけど。

 帝国側の魔族かな?



「こっちばかり見てたら駄目だ!」


「なぬ?ぐえっ!」


 静かに近付いてきていた迷彩柄のモールマンは、兄の腕を掴んでいた。

 すると合気道のような技で、兄を投げ飛ばすと、膝で首の付け根に押さえつけた。



「兄さん!」


「うぐぐ!だ、大丈夫だ、問題無い。ちょっと驚いたけど、ロックが使うような技だな」


 しかし兄は力任せに、モールマンの身体を放り投げた。

 やっぱり兄も、ロックの使う技に似ていると思ったようだ。

 そもそも投げられた兄の方が、僕よりも分かるというものだった。



「流石にこんな程度では無理だったか。次は本格的に殺すとします」


「油断はするな。馬鹿だが力はあるのだから」


「だから馬鹿って言うな!」


 その反応が既に馬鹿っぽい。

 子供の姿じゃなかったら、本当に残念な奴に見える。

 しかし僕もジェラルディンも、次の言葉でそんな事は全て吹き飛んでいた。



「はい、王よ」


「王!?」


「お前が王だったのか!?」


 迷彩柄に王と呼ばれたモールマン。

 僕達の言葉に応えたのか、半透明だった姿がとうとうハッキリと見えてくる。



「こ、コイツがモールマンの王!」


「姿がハッキリ見えると分かる。アタシよりも・・・強い!」


「あん?王様の割には地味な色じゃない?」


 僕とジェラルディンは、驚きを隠せなかった。

 しかもジェラルディンに至っては、自分よりも強いと認めたのだ。

 心なしか彼女の残った二本の腕が、震えているように見える。



「ねえ、地味だよね?」


「ちょっと黙ろうか」


 駄目だ。

 この馬鹿は見た目しか気にしてない。

 あ、馬鹿って言っちゃった。



「流石は女王、ジェラルディン。自分の弱さを認められるのは、素晴らしい事だぞ」


「うるさいね。認めたからと言って、負けるとは決まったわけじゃない」


「そうだ。強さなんて曖昧な基準、やってみないと分からないからね。ジェラルディンにだって、勝ち目はあるよ」


 流石は戦いに特化した女王だ。

 まだ闘争心は失っていない。

 と、思ったんだけどなぁ・・・。



「しかし、それも五体満足だった場合だ。今のアタシじゃあ、相手にもならないな」


「そ、そうですか」


 まさかの敗北宣言!?

 いやいや、まだ分からない。

 だったら女王が迷彩柄とやって、兄が王とやれば良いんだから。



「交代だよ!兄と交代。兄が王とやって、ジェラルディンが迷彩柄と戦えば良いんだ。それなら勝てるでしょ」


「任せろ!俺なら誰だって勝てるぜ」


 兄がシャドーボクシングのように、パンチを繰り出している。

 チビっ子だからか、全く強そうには見えない。



「フフ、下に見られているが。お前はどうする?」


「王の命令とあらば、お任せを。腕の一本くらいは、食べてもよろしいので?」


「命は奪うな。見せしめにして、戦意を奪うからな」


「承知しました」


 王に跪く迷彩柄。

 王の岩の色は、一般のモールマンとほとんど変わらないように見えるからか、物凄く違和感がある。

 見た目は普通のモールマンと変わらないのだが、それでも僕の火球を軽々と防いだ奴だ。

 油断は出来ないな。



「ジェラルディン、ナメられてるぞ」


「腕を二本失ったくらいで、王以外のモールマンに負けるとは思わん。アタシが倒して、逆に食ってやろう」


 お互いに意気軒昂の、アリとモグラ。

 大きさだけで考えると、ジェラルディンが余裕で勝つと思うけど。

 なんとなく気になるのが、王と一緒に居るという点だ。

 ただの腰巾着というわけじゃないだろうし、もしかしたら強さ的に、片腕を担っているんじゃないかと思われる。



「油断するなよ」


「油断はしていない。しかし、二本の腕でも戦えるからな」


「面白い。前哨戦として、おいは見物するとしよう」


「何?」



 まさか戦いが終わるまで見ようと言うなんて、思いもしなかった。

 モールマンは基本的に、食欲や欲望に忠実なイメージがある。

 趣味嗜好といったものを持ち合わせておらず、あっても食べ物の好みくらいだと思っていたからだ。

 それが戦いを面白いと言った。

 このモールマンの王、何処か人っぽいぞ。



「じゃあ俺が審判やってやるよ。審判って言っても、掛け声だけだけどな」


「良いだろう。アーミー、おいを楽しませろよ」


「お任せを。殺さぬ程度の瀕死にしてみせます」


 今度は敬礼をする迷彩柄か。

 何か軍人っぽいけど、この世界に日本の軍人なんか居ないからな。

 いや、水嶋の爺さんが居た。

 帝国にも、元日本兵が居たのかな?

 でも爺さんの強さを考えると、モールマンに食われるような強さじゃないと思うし。



「はじめ!」


 グダグダ考えていたら、戦いが始まってしまった。



「あっ!アイツ、消えたぞ」


 迷彩柄のモールマンの姿が、周りの景色と同化していく。

 どうやらこのモールマンも、姿を消せるようだ。

 もしかしたらまた不意打ちがあるかも。

 僕は王の方を警戒して、奴も消えないかそちらを気にしていた。



「お、おい!」


「え?」


 審判という名の掛け声係をした兄が、驚いた声を上げている。

 僕は釣られてジェラルディンの方を見た。



「う・・・」


「ど、どうしたんだ!?」


 ジェラルディンが金縛りにあったかのように、一人で呻き声を上げている。



「ど、どうなってるの?」


「多分、迷彩柄が何かをしているんだと思う」


 兄は僕の隣に来ると、ジェラルディンを目を細めて凝視している。

 何かを見出そうとしているのだが、やはり分からない様子だ。



 するとジェラルディンの身体が、残った左腕を基点にぐるっと半回転した。

 ジェラルディンはそのまま地面に叩きつけられると、僕達は驚愕の光景を目の当たりにする。



「左腕が!」


 残った左腕が何かでへし折られ、捻り切られたのだ。

 倒れているジェラルディンは、残った右腕で立ちあがろうとすると、その腕も蹴り飛ばされたかのように倒れ込む。



「兄さん!」


「フンッ!」


「え?」


 兄は僕が何かを言う前に、ジェラルディンへと僕を投げ飛ばした。

 迷彩柄に気付いたわけではないと思うが、僕は消えた迷彩柄にたまたま当たったらしい。



「ぐおっ!」


「姿が見えた!」


 僕に当たった迷彩柄は、ジェラルディンから離れるように吹き飛んでいく。

 すると兄は、とんでもない事を言い出した。








「チェンジ!ジェラルディンは交代だ。バッタージェラルディンに代わって、俺の弟!」

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