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御所下での戦い

 良いんですよ。

 僕が何も知らなくても、スムーズに話が進んでいれば良いんです。


 実は河童の九鬼の爺さんと一益の二人。

 御所の方に来ているなんて知らなかった。

 全て終わった後になって、彼等の事を知ったんだよね。

 冒頭でも言ったけど、別に僕が知らなくても良いの。

 僕の命令になっていようが、官兵衛なら上手くやりくりしてくれるって分かってるから。

 ただね、事後報告だけはしてほしいかな。

 遠方まで来てもらって、しかも地底というちょっと特殊な現場で仕事をしてもらったわけだ。

 流石に労いの言葉を掛けるくらいはしないと、僕が冷徹な奴みたいになっちゃうから。

 もっと言えば、活躍した報酬だって与えないと、こんな所来てタダ働きかよって思われちゃうし。

 まあ僕も唐突に騎士王国来ちゃってるし、文句は言えないんだけど。

 それに官兵衛も僕達の話を聞いただけで、地下水脈を使った突入を看破したんだ。

 その対処方法が二人を呼ぶって話で、官兵衛にも感謝をしなくてはならない。


 アレ?

 もしかしてこの時点で、ウケフジとお茶しながら話してる僕は、風魔法以外はほとんど仕事してなかったかも。

 ・・・ホント皆に感謝しないとね。







 オケツの檄に応える騎士達。

 一益も引き連れてきたドワーフへと、指示を飛ばす。



「野郎共、ヒト族に負けていられんぞ!あのバケモノにはワシ等の大事な鉱石が、いくつも盗っていかれたんだ。その鬱憤を晴らしてやれ!」


 意気軒昂に飛び出していく騎士とドワーフの連合軍。

 軍と呼ぶには心許ない人数だが、それでも合わせて百人以上は揃っていた。



「頭、俺達はどうするんで?」


 河童の一人が老人に尋ねる。



「うーん、何も無いな。足手まといにならんように、ここで見ているだけだな」


 老人の言葉に、ため息を吐く河童達。


 河童達の仕事は、地下水脈を利用して来る、モールマンの探索が主だった。

 本来の仕事は、この時点で完遂しているのである。

 河童達は頭領である老人の言う通り、しばらく戦いを見守る事にした。



「・・・押されてないですか?」


「むう」


 河童の一人が不安げに言うと、老人もそれを否定する言葉が出てこない。



 スマジ兵とモールマン、そしてオケツ兵とドワーフでは人数差は倍以上ある。

 勿論こちら側が有利だ。

 しかしながらその人数差をものともしない強さが、スマジ騎士にはあった。



「チェストオォォォォ!!」


 一撃で鎧ごと斬られるオケツ騎士達。

 その人数差は徐々に縮まってきていた。



「おい、其方の騎士、弱過ぎではないか?」


「ちょっ!?私の騎士じゃないんです!彼等は御所の騎士であって、私の部下ではないんですよ」


「其方は騎士王なのであろう?ならば騎士王国の騎士は、皆部下ではないのか?」


「そう言われてしまうと、困るんですけど・・・」


 騎士王なのだから、全ての騎士の王なのでは?

 詳しく知らない一益は、率直に自分の考えをぶつける。

 そしてあながち間違っていない質問に、オケツは返答に困るのだった。



「駄目だ!見ちゃいられねぇ!」


 河童の一人が援護する為に前に出ようとすると、他の河童に止められる。



「やめておけ。俺達より強いはずの連中が、一撃で斬られてるんだぞ。俺達が行ったところで、皿ごと真っ二つにされるのがオチだ」


「でもよ、このままだと皆やられて、最後は俺達も斬られちまうぜ!?」


「う、うーん・・・」


 手を貸したくても貸せないもどかしさ。

 彼等は不甲斐無い自分達に憤った。

 すると老人が、突然水の中に飛び込む。



「頭!?」


「お前達、水を腹の中に溜め込め」


「何をするんで?」


「こうするんじゃ!」


 腹に水を溜めた老人は、再び洞窟へと上がってくる。

 そしてその水を、今にも太刀を振り下ろしそうなスマジ騎士に、勢いよく吹きかけた。



「ぬおっ!?」


「今じゃ!」


 顔に水が命中したスマジ騎士は、前方が見えなくなった。

 老人が叫ぶと、オケツ騎士改め御所の騎士が、狙いすましたように首へと太刀を突く。



「おぉ!」


「ワシ等にも手助けは出来る!」


 河童達は老人のやった事を真似て、次々と水を腹に溜め込み、騎士の援護を始めた。



「ふむ、雑魚騎士・・・失礼。騎士達がようやく機能し始めたか」


「雑魚って・・・」


「オホン!ドワーフ達よ!一撃の強さなら負けないところを、奴等に見せつけろ!」


 少し一益の本音が漏れ出たが、いよいよドワーフ達の出番がやってきた。







 スマジ騎士の基本は、上段からの振り下ろし一択である。

 そしてその攻撃は、ドワーフもほとんど同じだった。



「どっせい!」


 鍔迫り合いをしているスマジ騎士の頭に、大金槌が振り下ろされる。

 首を捻って避ける騎士も居たが、大半は頭が潰されて絶命。

 もしくは鎖骨から一気に折れて、戦闘不可能となっていた。



 そんなドワーフ達の一撃必殺の攻撃だったが、今度はスマジ騎士を守る連中が前に出てくる。



「ぬおっと!?」


「多勢に無勢ですね」


 モールマン達がドワーフの大金槌を、腕で弾いたのだ。

 上半身が大きく発達したモールマンの腕は、大金槌と遜色無い大きさである。



「フン!」


 ドワーフ達にラリアットを決めるモールマン。

 太い腕はその大金槌を吹き飛ばし、ドワーフの首をへし折っていく。



「何だと!?」


「ドワーフさんも、かなりヤバイんじゃないですか?」


「お前達!一人で相手をするな。複数で固まって、バケモノと戦うのだ!」


 一益の指示通り、まとまって動き始めるドワーフ達。

 すると御所の騎士達が再び劣勢へと立たされ始める。



「河童の手助けもあるのに、本当に弱いな」


「弱いって直接言いましたね!?でも私の部下じゃないんだから、仕方ないじゃないですか!」


「それは言い訳だろう。現に向こうの騎士は、強いのだから」


 スマジ騎士は強いと言う一益。

 その通りなので否定出来ないオケツは、一益を睨んだ後ため息を吐く。



「ハァ、御所の連中にも稽古させないとなぁ」


「そんな事はせんでも良いぞ。お前達はここで死ぬのだからな」


 オケツが声のする方向に顔を向けると、そこには血だらけのスマジが立っていた。

 動きに異変は無い事から、彼の怪我ではなく全て返り血だとオケツは判断する。



「スマジ殿、もう許されませんぞ」


「それはこちらのセリフだ。実力も無いのに騎士王を名乗り、挙句の果てには開国までしおって」


「開国は私じゃなくて帝が希望したんですよ」


「どっちも同じだ」


 スマジはそう言うと、オケツに斬りかかった。

 しかし、オケツはそれをヒラリと避けてみせる。



「何だと!?」


「危ないなぁ!」


 スマジは心の底から驚いた。

 ホノヒサから大した実力も無いと聞かされていたオケツが、本気ではなかったとはいえ自分の一太刀を避けてみせたのだ。

 予想外の動きに、スマジは少し困惑の色を見せる。



「今の動きは良かったぞ。だが、遊びは終わりだ!チェエェェェェストオォォォォ!!!」


 スマジの本気になった豪剣が、オケツへと襲い掛かる。



「は、速い!けど、避けられなくはない」


 太刀を抜いたオケツは、それをいなしてみせた。

 避けたオケツに驚愕するスマジ。



「き、貴様!」


「いやいや、どうして驚くんですか?ケモノも宿していないのに、私が斬られるわけないでしょ」


「ならば!来い、猛河馬!」


「か、カバ?」


 まさかのケモノに拍子抜けした声を出すオケツだったが、スマジの纏っている雰囲気は本物だった。



「河馬・・・」


「其方、河馬を馬鹿にしているが、河馬は獰猛だぞ。河馬の魔物など、虎や獅子だって噛み砕くからな」


「河馬を馬鹿に・・・」


「ね、狙ってないぞ!」


 一益のアドバイスに、オケツは突っ込む。

 だがそのアドバイスは、間違っていなかった。



「ぬおぅ!」


 片手で振り下ろしたスマジの剣は、地面を砕き飛散した石がオケツ達を襲った。



「力強くなりましたね」


「だから河馬を馬鹿にするなと言った」


「私も本気を出さなくては。宿れ、麒麟!」


 地底なのに稲妻が走ると、オケツはその稲妻に打たれる。



「ほう、それが噂に聞く麒麟か。確かに空気が変わった」


「ここからは私も本気でやりますよ」


 スマジはケモノを宿したオケツに、警戒感を抱いた。

 ホノヒサの言っていた話とは違い、歴戦の強者の空気を纏っていたからだ。



「貴様を倒せば、ワシが騎士王よ」


「倒せれば、ですけどね」


 二人はお互いに前へと出ていった。







 一益はオケツとスマジが戦い始めたのを機に、ドワーフ達の援護を始める。

 小鎚を空に投げると、それぞれが劣勢に立っているドワーフ達の援護を始めた。



「厄介な力をお持ちですね」


「喋るバケモノ、モールマンか」


 小鎚を操っている一益を見つけたモールマンは、やらせないとばかりに一気に詰め寄る。



「これだけ接近すれば、大鎚は振るえませんよね」


「甘いわ!」


 大鎚を手放した一益は、腰から二回りほど小さな鎚を二本取り出す。

 両手を交差させるように鎚を投げると、モールマンの背後へと飛んでいく。



「何をしているんですか!」


 右ストレートで殴り掛かると、一益はそれを左手で受け止めてみせた。



「力比べがしたいのか?ドワーフの力をナメるなよ!」


「貴方こそ、モールマンの力を侮るな!」


 一益は右手を出すと、モールマンも左手を出した。

 押し合いになる二人。

 しかし不意に一益が力を抜き、後ろへと倒れ込んだ。



「何を?ガッ!」


「フン!」


 後頭部に二本の鎚が当たると、前に倒れ込んできたモールマンを蹴り飛ばす一益。

 背中から倒れたモールマンに対し、一益は素早く起きて大鎚を振り下ろす。



「トドメだ!」


「まだだ!」


 両腕で大鎚を防いだモールマンだったが、腕を覆っている岩が砕け散った。

 まだ倒れているモールマンに対し、一益は再度大鎚を振りかぶる。

 しかし今度はモールマンが、お返しとばかりに一益の腹を蹴飛ばした。



「フゥ、なかなかやるな」


「貴方こそ」


 お互いの力を認める二人。

 そしてモールマンが不意に、身体を覆う岩を自ら壊し始めた。



「何をしている?」


「貴方には、本気でやらないと勝てないようです」


「今までは本気じゃなかったのか?」


「本気でしたよ。しかし、この岩が邪魔をしていた!」


 上半身の岩が完全に無くなったモールマンは、突然スクワットのような動きを始める。



「な、何をしている?」


 急に筋トレを始めたのかと思い、困惑気味に聞く一益。

 するとその困惑は、違う意味になっていった。



「な、何だ!?身体が大きくなっている!?これがお前の本気か!?」


「フウゥゥゥ!さっきも言いましたが、どっちも本気です。ただし、岩が外れた事で更に大きく出来るようになりましたが」


「岩は拘束具の代わりだったわけだ」


「そうですね。そうとも言えますね!」


 更に太くなった腕で殴り掛かると、一益は大鎚を前に出して防いだ。

 だが、その威力押されて、大鎚ごと吹き飛ばされてしまう。



「ぐぬぅ!正真正銘のバケモノめ!」


「バケモノを連呼されると、少し堪えますね」


「チィ!こんな腕力!太田殿か柴田殿でないと、太刀打ち出来んわ!」


 一益の嘆きを聞いたモールマンの動きが、一瞬止まった。

 すると彼は興味深そうに、一益へと尋ねる。







「その太田という人物と柴田という人物。こちらには来ていますか?私と同等のような言い草でしたが、私よりも大きいのですか?とても気になります」

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