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ルチャ・リブレ

 人の好みって、聞いてみないと分からないものだね。

 ウケフジが酒や食べ物にこだわっているとは、全く予想だにしなかった。


 僕の中でウケフジは、質実剛健で質素倹約といった生活をしていると思っていた。

 何というか、剣の道に生きる!みたいな性格を想像していたんだよね。

 それこそ食事に関しては、一汁三菜で事足りるみたいな考えだとばかり思っていた。

 それが蓋を開けてみれば、美味い物は好きだし甘い物も好きだし、正反対の好みだった。

 ちなみに僕達と地底に言った際、全く文句が出なかったのは、やはり料理人達の腕によるものだったらしい。

 自分の領地で食べる物よりも美味くて、むしろ食事は満足していたという話だ。

 ただ一つだけ不満を述べるなら、量が少なかったという点だけ挙げていた。


 僕はウケフジの事を、かなり勘違いしていたようだ。

 好きな事に我慢しない。

 そして彼にとってそれが、飲食だった。

 酒に関してはこの身体で飲まなくなったけど、食べ物に関しては彼とは話が合う。

 苦手意識を持っていたのが嘘のようで、むしろ彼とは良い食べ友になれそうな気がした。








 タケシの失礼な対応も水に流したミスタークエルボは、彼にプロレスを教える事にした。

 この世界に来てプロレスに興味を持ってくれた人が、初めてだったからだ。


 タケシの上達っぷりは凄まじく、教えて一ヶ月で自分とプロレスの試合をしても、遜色無いレベルにまで到達していた。

 そして彼は、更に自分の異変にも気付いた。

 タケシと戦う事で、自分も強くなっていると身に感じたのだ。

 そんな時、タケシは彼に尋ねた。



「お師さんは、何故魔物や魔族を倒しに行かないんですか?」


「魔物は倒しに行っているよ。肉を食べないと、身体が維持出来ないからね」


「じゃあ魔族は?」


 タケシの質問に戸惑うミスタークエルボ。

 二人の会話を誰も聞いていない事を確認し、彼は小声で答えた。



「嫌がる人に攻撃するのって、嫌じゃない?」


「そりゃ嫌ですよ」


「魔族って別に、私達と戦いたいわけじゃないでしょ。自分の生活が脅かされるから、反撃してきてるわけで」


「そうですね」


 あまりしっくりこないタケシは、どうにも答えが見えてこない。

 しかし次の一言で、彼はミスタークエルボが言いたかった事を理解した。



「私はレスラー、キミは総合格闘家。お互いにリングで戦うよね。そして相手も、同じレスラーや格闘家だ。でも考えてみてよ。私達は知らない街や村に行って、ガタイが良い人に喧嘩売る?言う事聞けよって、殴ったりする?」


「そんな事しないっすよ!」


「でしょ。魔族も姿が少し違うだけで、同じような人だと思うんだよ。分かりやすく言えば、外国に行って私達より大きい街の人に殴り掛かる感じかな。そんな事、自分で許せないでしょ?」


「なるほど。それは絶対に許せないですね」


「だから私は、魔族と戦わないの」


「そうなんですね!じゃあ俺も戦わない事にします」


 タケシはミスタークエルボの考えに賛同し、魔族と戦わないという事にした。

 そんな事は何も知らない帝国の軍人は、早速期待の新人を魔族の拉致は連れて行こうとした。

 しかし彼はそれを拒否。

 腕ずくで連行しようとしたが、タケシの前にあえなく敗北し、帝国は再び厄介な要注意人物として、タケシをリストに載せる事にした。


 幸いタケシは、ミスタークエルボと共に魔物退治だけはしてくれるので、食料調達という点では仕事をこなしていたので、後々触れるな危険という扱いを受ける事になる。








 そんなタケシはメキメキと強くなり、気付けば自分よりはるか上の強さへと到達していた。

 自分より強いのに、それでもお師さんと呼び慕ってくれるタケシだったが、彼にもいよいよ仕事が回ってきた。

 それは、モールマンを倒す為の帝国選抜メンバーだ。

 彼はたまにヨアヒムや重臣の護衛等はしていたが、特に襲ってくる者も居ないので楽な仕事しかしていない。

 だから今回が、初めての大きな仕事である。



「これ、どう思います?」


「モールマンか。良いんじゃない?」


「でも、人と同じような姿してますよ」


「いや、全然違うよ。彼等は無抵抗の人間に手を出すんだよ。手を出すどころか、食べるんだ。それはもう、タダのバケモノだよ」


「そっか。バケモノか」


 少し考え込むタケシ。

 そこでクエルボは、彼の肩を叩いてこう言った。



「タケシくん、ここでキミの力を見せつける時が来た。キミの新たなデビュー戦だよ!」


「デビュー戦!?」


「そうだ。キミはこれから、帝国の人々の為に戦うんだ。ベビーフェイスとしてね」


 ベビーフェイス。

 プロレスで言えば、善役と呼ばれる側のレスラーである。

 人々の為に戦う彼は、まさにそれに相応しいとクエルボは言った。



「俺がベビーフェイス。やった!俺、やってやりますよ!」


「私も団体ではベビーフェイスだったからね」


「そうなんですね」


 やっぱり自分の事なんか知らないんだと、クエルボは内心傷ついたが、それを顔に見せない。

 というよりもマスクで顔は見えない。


 クエルボはそんな気持ちを振り払うように、タケシにある物を渡した。



「これは?」


「キミのマスクだ」


「お、俺のマスク!?やった!でも、リングネームはどうしますか?」


 タケシはクエルボのように、マスクマンの時は名前を変えたかった。

 そこはやはり師匠に決めてもらいたい。

 タケシはクエルボの言葉を待った。



「キミはまだ、デビューしたてのマスクマン。そうだな、ミスターポジートで良いだろう」


「ミスターポジート!」


「私はクエルボ、スペイン語で烏だ。ポジートはヒヨコ。キミはこれから、マスクと共に名前を変えていこう」


「ひ、ヒヨコ・・・」


 微妙な気持ちになったタケシだが、出世魚みたいでまあ良いかという考えに変わっていく。



「そのうちキミは空高く舞うよ。誇り高き鷲、アギャーラになれる。鷲はね、メキシコの国旗にもあるんだよ。メキシコで鷲は、特別なんだ」


「鷲!そうなんですね。じゃあ俺はいつか、ミスターアギャーラになれるように頑張ります!」



 タケシはクエルボの言葉に感動し、旅立っていった。

 残ったクエルボは彼と別れた後、誰も居ない所で一言だけ口にした。



「私も身体が大きければ、アギャーラになれたかな」









 タケシは目の前のモールマンに対して、確固たる自信を持っている。

 姿形は変わっても、自分が教わった技を使ってきているからだ。



「お前、お師さんじゃないなら、どうしてプロレスをしてるんだ!」


「プロレスなんか知らんな。俺はこの力で、そして技で邪魔な人間を殺しているに過ぎない」


「嘘だね。アンタ、気付いてないのか?見てみろよ」


 モールマンに投げられた騎士達が倒れているところを指し示すと、彼は続けてこう言う。



「アンタは誰も殺してない。大怪我はさせても、誰一人殺してないからな」


「それがどうした?いつでも殺せるから、弱らせただけとは思わないのか?」


「アンタが軽々しく殺すとか、口にするんじゃねぇ!」


 タケシがモールマンに対して、ラリアットをお見舞いする。



 全力ではない。

 タケシはクエルボとやる時、力はセーブしていた。

 理由は単純で、体格差が大きいからだ。

 タケシの力でおもいきり投げれば、クエルボは壊れてしまう。

 それが分かっていたからこそ、力加減だけは上手く誤魔化していた。

 だからいつもと同じように、彼はラリアットを加減してしまった。


 その結果、自分が空を見上げている事となった。

 ラリアットを受け切られたタケシはその右腕を取られると、背負い投げを掛けられる。

 タケシは踏ん張ったものの、そのまま投げられてしまった。

 いつもなら投げられないのに。

 タケシはクエルボではないと、ようやく頭が理解し始める。



「ハン!まだまだヒヨッコだな。このポジート」


「!?」


 クエルボと別れる際にもらった名を、モールマンが口にする。

 タケシはまだ、モールマンの中にクエルボが居るのではと疑惑を持った。



「モールマン!アンタに戦いを申し込む!」


「・・・既に戦っているのだが」


「ち、違う!プロレスの試合だ」


「断る」


 慌てて訂正するタケシ。

 だがモールマンは、即答で断った。



「俺は今、命のやりとりをしている。遊びに付き合うつもりは無い!」


 ジャンピングエルボーをしてくるモールマンに、タケシはそれを頭を下げて避けると、その勢いを利用してバックドロップへと移行する。

 モールマンの胴体をガッチリと掴んだタケシは、そのまま身体を後ろへと反らせた。



「カウント!ワーン!ツー!」


「クッ!」


 モールマンは思わず身体を捻った。

 無造作に身体が、カウントスリーを拒否している。

 何気なくやった行動に、モールマン自身も少し動揺を隠せなかった。



「ほらな、アンタは」


「うるさい!」


 タケシの声を遮り、怒鳴り散らすモールマン。

 そしてタケシはある事に気付く。



「それ!」


 動揺しているモールマンに向かって、ドロップキックをお見舞いすると、倒れたモールマンにそのまま側転からのバック宙でフライングボディプレスを仕掛ける。

 しかしモールマンは、それを寝ながら回転して避けてみせた。

 誤爆して倒れるタケシの背中に座り込むと、モールマンはタケシの顎を両手で掴んで力一杯反らせる。



「どうだ!」


「んぐぐ!」


「グハッ!」


 モールマンのキャメルクラッチを、脇腹に肘を叩き込んで防いだタケシ。

 二人とも立ち上がると、タケシは左手を前に出し、モールマンは右手を出してきて、二人はそれをガッチリと掴んだ。



「フフフ」


「何がおかしい?」


「いや、何でもない!」


 左手を捻り回すタケシ。

 モールマンは倒れそうになるが、それを宙返りで着地すると、今度はお返しとばかりにタケシの手を掴んだまま、横転してタケシを倒した。



 タケシは笑っていた。

 プロレスはしないと言っていたのに、モールマンはプロレスをしていたから。

 体格が自分より大きくなり、逆に振り回されているが、それでも技はクエルボと同じだった。


 しかし、それも突然終わりを迎える事になる。



「う、うぅ・・・」


「お師さん!?」


 頭を抱えてふらつくモールマン。

 タケシは思わず、無警戒に近付いてしまう。

 横から覗き込むようにモールマンを心配していると、モールマンは突然タケシの方を向いた。



「ぐあっ!」


 モールマンの口から何か吐き出され、タケシはそれを顔面に直撃してしまう。



「目が!」


「フハハハ!馬鹿め、油断しているからこうなる」


 緑色の液体を顔に掛けられ、タケシは両目が開けられなくなってしまった。

 するとモールマンは、騎士が落としていった太刀を拾い上げる。


 薄らと目が開けるようになったタケシは、目の前に太刀を持ったモールマンが居る事に気付き、慌てて腕で頭を覆った。

 腕は斬られるが、頭は守れる。

 モールマンの力なら、腕が斬り落とされる事も覚悟していたタケシ。

 思わず目を瞑って痛みに耐えようと歯を食いしばる。

 だがタケシは、頭に鈍い痛みを感じた。



「コノヤロウ!コノヤロウ!」


 力強く太刀の柄の部分で殴ってくるモールマン。

 金属部分である柄頭をツムジ辺りに当ててくる為、タケシは本当に地味に痛がっている。



「イテッ!マジでやめろ!」


 モールマンを前蹴りで蹴り飛ばすと、タケシは着ていたジャージで目を拭う。

 モールマンが太刀を持っているのが、徐々に見えてくるタケシ。

 しかし、タケシはある事に気付いた。

 モールマンは太刀を鞘に納めたまま、立っているのだ。

 思わず呆然としてしまったが、何故か突然ある事を口走ってしまった。



「武器を使うなんて卑怯だぞ」







「ハッハッハ!卑怯で結構。俺は正義のヒーローなんかじゃない。ヒールで十分だ。それとも、ポジート程度に武器を使うなとでも言いたいのか?」

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