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タケシの動揺

 コンプレックスというのは、誰にでもあるものだと思う。

 それはどんな強い騎士でも、同じなんだろう。


 例えば、背が高く顔がカッコ良くても、体毛が濃くて気にしてる男。

 可愛くて皆からは羨ましがられても、胸が小さくて気にしてる女の人も居る。

 どんなに完璧だと思われる人でも、多少なりとも気にしている点はあるんだろう。

 特に分かりやすいのは、他人との比較だ。

 ウケフジの場合、それはライバルであるトキドに大きく関係しているんだと思う。

 あの派手な炎は、味方には力を与え敵には恐怖を与える。

 対してウケフジの白い霧は、味方には特に影響も無く敵には何が起こったのか分からない。

 分かりやすく言えば、地味なのだ。

 それに騎士としては、回復効果というのも本人からしたら不満があるのかな。

 出来れば攻撃に関連した能力が、欲しかったとかね。

 そういう点も、彼が気にしているのかもしれない。


 でも僕は、彼にこの能力は合っている気がしている。

 ウケフジは上杉に関係した人物だ。

 上杉と言えば、毘沙門天。

 毘沙門天というと戦いの神、武神のイメージがあると思う。

 だけど日本においては、武神のイメージよりも強いものがある。

 それは七福神だ。

 七福神は五穀豊穣や商売繁盛等に加えて、家内安全に長命長寿というのもある。

 他の七福神と込みになってしまうけど、無事に兵を家に帰しその傷を癒すというのは、七福神の一人である毘沙門天にはピッタリなんじゃないかな。







 タケシの言い分は、特に間違っていない。

 ウケフジも心配だし、僕も魔法を発動している。

 この強風が止んでしまえば、再び最前線に矢の雨が降り注ぐのも目に見えている。

 となると、タケシがあの押されている場所へ向かうのが当然だと分かる。

 分かるのだが、タケシにしては言い分が真っ当なんだよね。

 強い奴と戦いたいとかそんな理由なら、すぐに納得出来たのに。

 まあ行けるのがタケシしか居ないから、止められないんだけど。



「いってらっしゃい」


「行ってきます」



 タケシは走って、戦場の中へと入っていった。

 騎士達の間に入っていくまでは見えたが、今はもう騎士とモールマンに埋もれてしまい、何処に居るのかすら分からない。

 どうやら他のモールマンには目もくれず、一直線にあの目立つ場所へと向かっているようだ。



「何か様子がおかしかったですね」


「そうだなぁ。何だったんだろう?」


 ウケフジは僕が創造魔法で作り出した椅子に座り、今は休憩しながら戦場を見ている。

 他の人から見るとサボっているように見えなくもないが、目は光らせているので問題無いだろう。



「タケシ殿のあのような顔は、初めて見ましたが。見た事ありますか?」


「無いかな?」


 と言っても、僕もウケフジもそこまで付き合いが長いわけじゃない。

 しかし普段から裏表の無い男だなというのは、彼と知り合った者なら誰でも知っている。

 だからこそ、あんな表情で嘘くさい言い訳で向かったのが気になるのだ。



「もう見当たらない」


「流石はタケシ殿ですね」


「そうだね」


 会話が続かない。

 無理に話す必要も無いのだが、ウケフジの体調もある為、僕はこの場を離れられない。

 高台で座っているので、狭い空間に二人きりだとどうしても、相手が気になってしまう。



「えっと・・・お茶飲む?」


「用意してあるんですか?」


「下に」


 タケシと話しながら飲んでいたお茶が、まだ残っている。

 何ならお湯を沸かして、また新しい茶葉で淹れ直しても良い。

 とにかく、この場で何もしないのは苦痛だ。

 だから一から淹れ直そう。



「美味しいですね」


「良かった。これ、王国産のお茶だよ」


「へぇ、王国というのはお茶が有名なんですか?」


「お茶というか・・・」


 ウケフジはお茶が好きらしい。

 もっと言うと、酒の方が好きらしい。

 王国はキルシェの影響で、焼酎に日本酒、ワインやウイスキーも作っている。

 単純に本人が飲みたいからという理由もあるが、それ以上に国外輸出で一攫千金が狙いらしい。

 こうやってお茶に反応したところを見ると、王国産の酒なんて飲ませたら、もっと反応しそうだな。


 少し好みが分かったから会話を楽しんでいたのだが、僕も遊んでばかりいるわけではない。



「タケシの奴、着いたっぽいぞ」


「どうして分かるんです?」


「吹き飛んでいた騎士が、居なくなったから」


 多分だけどね。

 おそらく騎士をちぎっては投げてたモールマンと、タケシが接触したんだと思う。

 もしくはモールマンの体力が尽きたか、体力温存に入ったか。


 さてどっちなんだろうと思っていたが、僕の予想は間違っていなかったらしい。








 タケシは前だけを見て走っていた。

 いつもなら、その辺のモールマンを薙ぎ倒すようにしながら移動をしている。

 そんなタケシも今回ばかりは、周りは見向きもせずに前方と空だけを確認して走っている。


 敵は騎士達を投げ飛ばしたりしているので、上を向くとたまに騎士が空を舞っているのだ。

 騎士がやられている方へ走れば良い。

 単純な考えだが、それが功を奏した。



「おっと!」


 空から自分目掛けて、騎士が落ちてきた。

 慌てふためく騎士だが、タケシは手足をジタバタさせる騎士を難なくキャッチする。



「大丈夫か?」


「うわー!死ぬー!アレ?あ、ありがとうございます」


 このまま落ちたら死ぬと考えていた騎士だったが、気付くとタケシに抱き抱えられていた。

 少し頬を染めながらお礼を言う騎士に、タケシは物凄く嫌そうな顔をしている。



「ときめかれても困るんだけど。それよりも、誰にやられたんだ?」


「え?も、モールマンです。でも、かなり変わったモールマンでした」


 騎士を下ろしたタケシは、彼がやられた相手を聞き、そして飛んできた方向へ再び走り始める。



 程なくして、騎士が誰かを囲っている場所へ到着したタケシ。

 何重にも騎士が囲っていたのだが、タケシはそれを大きくジャンプして飛び越していく。

 その中央部分は騎士達が四角く覆っていて、中には色黒のモールマンが暴れていた。

 タケシが空から降りてくるのを見て、身体を止めるモールマン。

 騎士達も何かが飛び越えてきたと、驚きの声を上げている。

 皆からの注目を集めたタケシは、右手を高らかと上げて騎士達の前を歩きながら一周する。



「誰?」


 騎士達からそんな声が聞こえると、タケシはバク転してから名乗りを上げる。



「アイアーム、マスクドタケーシ!」


「マスクドタケーシ?知ってる?」


「知らない」


 そんな声に心の中で凹むタケシだったが、思わぬ反応が返ってくる。

 タケシの名乗りに対して、後ろ向きにタケシの周りを一周し始めたモールマン。

 タケシもそれをずっと凝視している。

 そしてモールマンは立ち止まり、いきなり叫んできた。



「ガッデム!」


 両手を広げてタケシを挑発するモールマン。

 タケシはその時、まじまじとモールマンを見て気付いた。

 このモールマン、岩で身体を覆っていないと。

 黒く見えていたのは、岩のせいではなく身体の体毛だったのだ。



「お前、言葉が話せるって事は、食ってるよな?」


 頷くモールマン。

 人を食べてる。

 タケシはそれを確認すると、大きく深呼吸をしてから更に質問をする。



「どうしてそんなに身体が黒いんだ?」


「知らん」


「何人食べたんだ?」


「覚えてない」


 はぐらかしているのか、それとも馬鹿にしているのか。

 マトモな返答をしてこないモールマンだったが、タケシはそれでも怒らない。

 そして彼は突然、意味が分からない質問をする。



「黒と言えば?」


「カリスマ」


「ナチュラル?」


「ボーンマスター」


「爆殺シューター」


「破壊王」


 二人のやり取りを聞いていた騎士達は、何を言っているのかサッパリ分かっていない。

 だが質問をしているタケシだけは、ようやく答えが出たらしい。



「そうか、アンタが騎士を倒してたんだな。お師さんよ」







 モールマンを師と呼ぶタケシの登場に、辺りは混乱している。

 しかもこの辺りの騎士達は、タケシの事を知らない。

 そして一人の騎士がある事を言い始めた。



「あの仮面、もしかしたらモールマンだとバレないようにする為の偽装工作では?」


 それを聞いた騎士達は、敵が増えたと勘違いし始める。

 騒つく騎士達に、タケシは弁解をしようと歩み寄ろうとすると、一人の騎士が突然石を投げつけた。



「ちょ、痛いんだけど」


「この!モールマンめ!」


「違っ!俺は人だから!ほら、この上半身見てみなさい。裸でしょ?毛むくじゃらじゃないよ?」


 上着のファスナーを下ろすタケシだったが、騎士達には全く通じない。

 彼は最終的に、一度マスクを脱ぐ事にした。



「ほら!ほら!俺は人。アイアムヒューマン。あーゆーおーけー?」


 マスクを脱いで素顔を見せる事で、ようやく信じてもらえたタケシ。

 そのおかげで石は飛んでこなくなったが、何故か背後から強烈な怒気を感じる。

 振り返るとそれは、モールマンから発せられていたものだった。



「マスクマンが軽々しく、素顔を見せるんじゃねぇ!」


 猛烈な勢いでラリアットをかましてくるモールマン。

 その太い腕は、タケシの顎を軽々と跳ね上げた。

 背中から勢いよく倒れたタケシに、追い打ちとばかりにムーンサルトプレスでのしかかる。



「ぐえっ!」


「カウント!ワーン!ツー!」


 ブリッジでモールマンを弾き返すタケシ。

 軽く目がチカチカしながらも、彼は立ち上がりそして確信した。



「やっぱりアンタはお師さんだ」


「違う」


「違わない!アンタはマスクマン、ミスタークエルボだろう!?」


「知らないな」


「嘘だ!」


 タケシの叫び声が、辺りに響き渡る。







 ミスタークエルボ。

 日本のプロレスラーで、召喚された当時はSクラスやAクラスの上位に入るのではと思われていた存在だった男。

 だが期待を裏切り、その結果はBクラスという凡庸な存在だった。


 彼が埋もれた理由は単純だった。

 相手を殺さないからだ。

 プロレスは人を魅せるのが仕事である。

 その戦いぶりで見ている人を魅了させるのが、プロレスラーの仕事。

 彼はそう思っていた。

 だから相手を殺す必要は無い。


 元々召喚される前から力はあった為、何もしなくてもBクラスに位置するくらいの実力はあった。

 しかしそこから能力が上がらない彼は、いつから欠陥扱いされた。


 戦いで結果を残さない彼は、いつしか新たに召喚された者の相手役を務めるようになった。

 殺し合いでなければ、彼は強かったからだ。

 彼を倒せれば合格。

 そう言わしめる存在になっていた。



 そんな時だった。

 本当の逸材と呼ばれる男が、召喚された。

 男は日本に居た頃、彼とは違い有名人だった。

 プロの格闘家としてチャンピオンになり、こちらに来た時点で彼の実力を超えていた。


 だが、彼のような前例もある。

 一度、二人を戦わせる。

 帝国の意向によって戦った二人。

 戦闘はすぐに終わった。

 タケシの圧勝である。

 しかしタケシは、違和感があった。



「どうして本気を出さないんですか?」


 タケシは彼に質問する。

 すると彼はこう言った。



「本気だぞ。本気でやって負けた。相手の全てを受けきれなかった私が、ただ弱かったのだ」


「どうしてプロレスにこだわるんですか?」


「だって、カッコ良いじゃない」


「たしかに」


 タケシはなんとなく理解した。

 この人は、自分と同類だと。



「俺にプロレスを教えて下さい。ついでに名前も教えて下さい」







「普通、先に名前を聞かないかな?いや別に良いんだよ。というか、マスクしてても分からないんだ。これでも有名団体のレスラーだったんだけど。私、認知度低いんだなぁ。ふーん、少し凹んだ・・・」

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