霧と雨
うん、本当は知ってます。
タケシに質問攻めにあって面倒だったから、知るかボケ!の一言で済ませた、どうも僕です。
実はちゃんと、金将と銀将の理由を知ってるんだよね。
というより、正確に言えば聞いた。
丹羽長秀、五郎左と呼ぶと本人は内心喜ぶけど、部下の前で喜ぶ顔を見せたくないようで、あまり呼ばないようにしてるけど。
そして金将銀将と呼んでいる理由。
それは将棋においてこの二つは、王手によく使う駒と王をよく守る駒の二つだからだと言っていた。
将棋にそこまで詳しくない僕は、タケシと同様に飛車角と呼ぶ方が正解だと思っていた。
でも改めて話を聞くと、彼等は若狭国の守護者なのだ。
二人とも敵将、または王の首を取りに行くわけではない。
僕みたいな知識が無い人間でも、飛車角は攻めて駒を取るのが役目だと思っている。
だからこそ、二人は金将銀将の方が合うのかもしれない。
ちなみに将棋に例えた五郎左本人だが、将棋は強い。
僕も友達と適当にやるだけなら負けないけど、やっぱり知ってる人とやると、強さが全く違うとすぐに分かる。
ただそんな五郎左も、やっぱり官兵衛には勝てないんだけどね。
タケシの質問を無視した僕は、後方から騎士達の動きを見守っている。
こちらの騎士王国軍が当たっている敵は、一部のモールマンだ。
しかしその後方には、まだスマジの騎士達も控えている。
スマジというと僕達の目の前まで迫ってきた事もあり、やはり油断出来ない相手である。
何か策があるのかもと予想しているのだが、この場には官兵衛もマルエスタも居ない。
僕も予想は出来るけど、所詮は表しか読めないペラッペラな作戦を読むだけだ。
下手したらまんまと罠にハマってくれてありがとう的な事を言われかねない。
だが戦況が読める優秀な人材は、官兵衛やマルエスタだけとは限らない。
「あまり前に出ると危険です。おそらく遠距離攻撃が飛んできます」
「その根拠は?」
「モールマンの一部が、少し前に出てきました」
高台から確認するウケフジの声だ。
彼はオケツから、守備の要として任されていた。
おそらくこの中で一番戦場が読めるのは、ウケフジで間違いない。
一時はスマジを相手に後手に回ったりもしていたが、やはりトキドのライバルだけあって、冷静だと本当に強い。
「合図を出します」
巨大モールマンを倒して勢いづいた騎士達に、一時後退の合図を出すウケフジ。
最初は押しているのに何故と、命令違反で攻める奴も居るかなと思ったのだが、やはりそこはウケフジの名が強い。
彼に逆らおうとする者は居らず、ゆっくりと前線を五分の位置まで下げていた。
「うん?ウケフジさん、何か戦場に飛んできたぞ」
「なっ!?この距離で!?」
空を覆う黒い影。
それはモールマンが放った、おびただしい数の矢だった。
次々と騎士達に襲い掛かる矢の雨。
兜鎧を装着しているとはいえ、フルプレートではない。
大半は兜や鎧で防ぐもののやはり傷を負う連中が多く、戦線が押し込まれ始めている。
こちらは矢の雨でダメージを負うが、向こうからすれば普通の矢が空から降ってきても、さほど痛くはない。
岩で覆われた身体は騎士達の鎧よりも隙間は少なく、余程運が悪くないと行動不可というほどのダメージではなかった。
「・・・トーリと同じと考えてしまったようだ」
「そうか!モールマンはトーリ軍より力がある。飛距離が伸びるのも当然だな」
「しかし、今更どうするんだ?」
怪我人続出で押されているこの状況で、それを再びひっくり返すのは簡単ではない。
それでもどうにかしなければ、更に戦況は悪化する。
逆転の一手を投じるなら、僕とタケシの力が必要になるのだが。
やはりウケフジも、それを分かっていた。
「魔王様、矢をどうにか出来ませんか?」
「どうにかというのは、全部叩き落とせと?」
「出来れば風を起こす魔法で、飛距離を短くしていただきたい」
全部落とすのは、流石に強力な火魔法で焼き払うとかしないと無理。
それをすると魔力を大量消費するし、今後を考えると断ろうと考えていたのだが。
それくらいならお安い御用ですな。
「そーれ!飛んでけー!」
魔法で強風を起こすなんて、造作も無いですよ。
ほらほら、飛んでくる矢が風で押し戻されていくよ。
勢いが無くなって、矢は回って回って落ちていく。
これくらいなら当たっても、重傷にはならないでしょ。
「これで良いかな?」
「ありがとうございます」
「この後はどうするんだ?怪我人を俺が助けに行く?」
「大丈夫です。必要ありません」
なぬ?
怪我人は放置なのか?
今の言葉は、タケシも反応したぞ。
見捨てると言っているようにも聞こえるからな。
ただ、ウケフジがそういう事を選ぶ男じゃないと、僕もタケシも知っている。
だからすぐに、そうではないと思い留まったのだが。
何をするのかは、皆目見当もつかない。
「これは皆には内緒ですよ?」
「内緒?」
人差し指を口に当てるウケフジ。
妙に色っぽくて、サマになる。
僕がやっても、ガキンチョがイタズラを隠す為にしか見えない気がする。
「宿れ!白龍!」
純白の鎧を着込むウケフジだが、もしかして目を眩ますのが目的か。
戦場は白い霧に覆われていく。
僕やタケシは何も見えないが、どうやらウケフジ本人と戦場で戦う騎士達には霧の影響は無いらしい。
声からして騎士達が少し勢いづいた気もするが、これで一度撤退しようという考えかな?
と思っていたのだが、僕の予想は外れた。
ウケフジは太刀を空へ高々と上げると、更に叫ぶ。
「白龍、彼等に恵みの雨を!」
恵みの雨?
もしかして、霧から雨になる?
「アレって雨雲だよな」
「本当だ」
霧の上には急に雲が出てきた。
そして雲は、戦場に雨を降らす。
恵みの雨って、敵にデバフみたいな効果を与えるとかかな?
足がぬかるんで、動きが鈍くなるみたいな。
そんな事を考えていたのだが、どうやら見当違いだったようだ。
「急に声が大きくなってないか?」
「騎士の声だよね。どうしてだろう」
僕達には何も見えていないので、サッパリ戦場の様子が分からない。
しかし騎士達には、何かあったのは確かだった。
突然士気が上がって、意気軒昂といった感じだ。
そして僕達は、またウケフジからその秘密を教わる事になる。
「実はあの雨、私の新しい能力なんです。その秘密は、雨に打たれた味方の怪我の治療をするんです」
ウケフジの秘密の能力。
それは超広範囲回復という事だった。
その範囲は、白い霧で立ち込められた箇所は全てだという。
しかも味方だけに効果があるので、敵は白い霧でその事にすら気付かない。
大怪我となると流石に無理なようだが、使い慣れてきたらその効果も上がるかもしれない。
向こうからすれば、白い霧によって敵を見失っている中、気付くと回復した敵が元気に襲い掛かってくるという寸法だ。
これには僕達も、驚きを隠せなかった。
だがそんな凄い能力なのに、ウケフジ本人はこの能力を微妙だと思っている様子。
秘密にしたがっているのは、それが理由らしい。
「どうしてトキドやオケツ達には、この能力の事を言わないんだ?」
「だって私の能力、微妙じゃないですか?」
「何処が!?めちゃくちゃ凄いっすよ」
微妙だと思う事が、既に違和感がある。
タケシは僕の気持ちも一緒に、代弁してくれている。
「私以外に騎士王にトキド殿、そしてタツザマ殿も覚醒した能力を手に入れてますよね。トキド殿はド派手なので凄く分かりやすいですけど、他の二人も凄い能力だと思うんです」
「でも俺からしたら、ウケフジさんの能力は見劣りなんかしてないよ」
「でも私の能力、戦い向きではないですよね。もし他の三人と戦う事になったら、間違いなく負ける気がします」
あぁ、なるほど。
彼が内緒にしたい理由が、ようやく分かった。
ウケフジは自分だけが攻撃向きじゃない事に、コンプレックスを抱えているんだ。
他の三人は、分かりやすくパワーアップする。
オケツは攻撃を受ければ受けるほど、それをカウンターで返せる。
タツザマなんか空を飛べる。
トキドに至っては、もう爆発してんじゃないの?というような感じだ。
それに対してウケフジは、一見すると雨を降らせているだけである。
見た目だけで言えば、確かに地味と言えなくもない。
だがしかし!
これは間違いなく、とんでもない能力だ!
「ウケフジ、確かに見た目が派手なのはカッコ良い。でもお前の能力は、間違いなく他の連中から見れば、一番欲しい能力だぞ」
「そうだぜ。だって考えてみなよ。戦場で死ぬ人、確実に減るよ」
「そう!僕もそれが一番大きな理由だと思う。どれだけ派手な攻撃が出来ても、味方が居なくなったらねぇ」
タケシも僕の言葉に頷くと、彼はようやく自分の力の凄さを理解してくれたようだ。
「そうですね。言われてみて、初めて実感したかもしれない」
「あとさ、ウケフジさんはトキドさんに、少し引け目を感じてる気がするんだけど。この能力、案外トキドさんには強いんじゃない?」
「え?」
「だって雨降らすんだぜ。あの人の炎、消えないにしても確実に弱まるでしょ」
「あ・・・」
言われてみて初めて、僕も理解した。
確かにトキドの覚醒した能力は、風林火山でも炎がメインになる。
となると、敵にとってはただの雨になるわけだから、トキドからしたら戦いづらいかもしれない。
「そうか!そうかもしれない。タケシ殿、ありがとう!」
高台からめちゃくちゃ良い笑顔で、お礼を言うウケフジ。
ヤバいな。
これだけ良い笑顔は、女の人ならクラッと来てもおかしくない。
しかし、クラッとしたのは、ウケフジの方だった。
「おっとっと」
「大丈夫か?」
「ちょっと力を使い過ぎたようです。少し休ませて下さい」
やはり超広範囲という事もあり、その消費量は半端ないのだろう。
彼は高台の上で眩暈を起こしたので、タケシが支えるべく高台へと上がっていった。
「霧が晴れてきたな」
「流石にこれ以上の維持はちょっと・・・」
「大丈夫だ。見てみなよ、ウケフジさん。気付いたら前線の敵、ほとんど倒してるし」
「僕の風魔法のおかげで、最前線の騎士達が活躍したね」
よくよく考えるとこの雨、風には影響しないみたいだな。
結構な強風を起こしたから、横殴りの雨になってもおかしくなかったはずなのに。
魔法とケモノの力は、互いに影響しないのか?
「これなら楽勝だろ」
「タケシ殿、楽観視はいけない。あの辺りのモールマンが、妙に活発的だ」
「あの辺り?」
うん、背の低い僕が高台にも登らずに、どの辺りか分かるはずがない。
タケシは左側に阿形と吽形が暴れていると言っているが、どうやらその反対の右側では、騎士が押し込まれているようだ。
「アレは何なのだろうか?空を飛ぶモールマンではないように見えるのだが」
何やら目立つモールマンが居るらしい。
ウケフジも目を細めて見ているが、何が暴れているのかまでは確認出来ないみたいだ。
しかしタケシは、それが見えていた。
何故分かるかというと、彼の様子がおかしいからだ。
急に黙りこくってしまい、顔は強張っているように見える。
「どうしました?」
タケシに肩を借りているウケフジが、彼の顔色を伺っている。
するとタケシは突然、僕に高台に上がってくるように言ってきた。
何か様子が変なので僕はそれに従った。
「悪い、ウケフジさんを頼む」
突然、高台から飛び降りるタケシ。
「何処へ行くんだ?」
「あー、アレだ。さっきは阿形と吽形が活躍しただろ?だから次は、俺が戦う番かなって思ってさ。魔法で風起こしてるんだから、動けないでしょ?だから俺が、あの暴れてるのと戦ってくるよ」




