阿吽vsモールマン
貴方は理性で動きますか?
それとも本能?
考えてる事と行動が違うとか、そういう事ってあるのかな。
たまにだけど、川で溺れた子供を助けた高校生が居るとか、線路に落ちた老人を助けたサラリーマンだとか、そんなニュースを目にする事がある。
後日、警察から感謝状を貰いましたとかね。
でも僕は思うんだよね。
それ、本当に美談なんでしょうか?
二次被害の可能性は無いの?
溺れた人を助けるのに海に飛び込んで、その人が溺れる可能性だってあるでしょ。
老人を助けようと線路に落ちて、その人も巻き込まれたりする可能性は無いと言い切れる?
厳しい言い方だけど、全てを褒めるのは間違ってる気がするんだよね。
ただし、それはあくまでも頭で考えている事であって、身体がどう動くかは別問題だと思ってる。
ハッキリ言って僕が同じ場面に遭遇しても、救出しようとは思わない。
海上保安庁に連絡したり、ホームの緊急停止ボタンを押そうとはするけど。
だって危ないもの。
と頭では考えているけど、実際はどうなんだろう。
勝手に身体が動くんだろうか?
気付いたら海に飛び込んだり、ホームへ飛び降りたり。
誰か知り合いと一緒なら、協力して助ける事も考えるけど。
それでも自分から咄嗟に動けるかと聞かれたら、僕はノーと答えるかな。
タケシの師匠みたいに、知らない人の為に命を懸ける。
言葉で言うほど、簡単な事じゃないと思います。
久しぶりに、長い夢を見た気がする。
俺が一人じゃなくなった時の夢だ。
そして弱い俺が、王になるという途方もない夢の始まりでもあった。
「夢ではない。おいとお前が王なのだ。モールマンの王よ、誇れ」
そうだった。
夢じゃないんだった。
知らない間に、自分には似合わない場所まで来てしまった気がする。
分不相応と思える場所まで。
「お前は生き残ったのだ。例えそれがおいのおかげだとしても、それはお前の強さの一部なのだ。もっと自信を持て」
それは全てお前のおかげだ。
俺が強いのではなく、お前が強いから生き残ったのだ。
「おいはお前の一部。おいはあくまでも、お前の強さの一端だ。それを信じろ。お前はお前を信じられなくとも、おいの事なら信じられるだろう?」
そうだ。
そうだな。
俺は弱いが、お前は強い。
そしてお前は俺である。
お前が王だ、スマジ・ホノヒサ。
「始まった」
何の前触れも無く、地上のモールマンはこちらへ侵攻してきた。
合図も何も無かったので、少し間を外された感はある。
「阿形、吽形。お前達の強さを見せる時が来たぞ」
「承知しました」
騎士達の後ろから付いていく二人。
騎士は皆騎乗しているので、阿形達よりも行動が速い。
しかし騎士達より遅いからこそ、戦闘が激化している場所を見つけてから移動出来た。
「居た。巨大なモールマンだ」
明らかに騎士が押されている場所を見つけた吽形。
そこには三倍近い身体の大きいモールマンが、馬を片手に振り回している。
「吽形、行くぞ」
「ハイ、兄上」
「執金剛神の術」
二人は手を取ると、身体を大きくする。
それはモールマンのそれと、ほぼ同等のサイズだった。
「あの者は私達が相手をする。騎士達はあのバケモノから離れよ」
阿形と吽形の声が、重なりながら聞こえてくる。
大きくなっても、姿形は阿吽の二人のままである。
騎士達はもう一人の大きな巨人が、味方であるとすぐに分かった。
彼等は二人の意に沿って、大きなモールマンから距離を取って戦い始めた。
「さて、私達との一騎打ちをしてもらいましょう。ん?私達なのに一騎打ち?」
こっちは二人なのだから、一騎打ちとは言わないのか。
阿吽の二人はおかしな事を考えながら、その疑問に苦笑いをした。
別に気にする事無いか。
二人がそう判断した頃には、巨大モールマンは阿吽目掛けて爪を振り下ろしている。
そこで二人は気付いた。
「あ、武器・・・」
巨大化した時用の二種類の武器を、後方に用意していた物がある。
しかし最初から執金剛神の術を使わなかったので、二人はそれをすっかり忘れていたのだ。
大きなバックステップを三歩ほどすると、阿吽は魔王とタケシが立っている辺りまで戻ってきた。
「用意していただいたコレ、お借りします」
後ろに用意されていた大きな剣、いや短剣が阿吽によって引き抜かれる。
剣が抜かれた事で日陰が無くなり、少し暖かさを感じる。
阿吽は二本の短剣を両手に持つと、再び前へと走り出した。
「す、スゲー!合体したぜ!?なあ、見たよな!?」
大興奮のタケシに、僕はちょっと面倒だと思った。
でも、あの興奮の仕方は分からんでもない。
僕も初めて見た当初は、スゲー!と思ったからだ。
しかも合体すると、二刀流になるからね。
タケシでなくとも男なら、そのカッコ良さには憧れるのだ。
「気になってるんだけど、あの左手の武器は何?」
「左手?あぁ、あんなの普通は見ないよな」
阿吽が持っている二本の短剣は、右手と左手で種類が違う。
右手は何度か見ている物で、スティレットだ。
しかし左手は以前と違っていた。
どうやら彼等は、若狭国に戻ってから少し戦い方を変えたらしい。
「アレはエピークラッシャー。別名、ソードブレイカーだ」
「ソードブレイカー!?何というカッコイイ名前!」
ソードブレイカーは名前の通り、相手の刃をへし折る短剣である。
あまり刃が厚い剣は無理だが、細い剣なら折ったり搦め取って、叩き落としたりは出来るみたいな話は聞いた事がある。
とタケシに説明口調で話してみたが、実際は僕も知らない。
全てはコバの受け売り。
そう、この武器は僕を経由しないで、コバと昌幸へ発注された物なのだ。
要はお客様として買われた一品。
上野国ではなく、当店を選んでいただきました。
執金剛神の術を使う前のサイズも、同時購入です。
お買い上げ、誠にありがとうございます。
「アレ、モールマン相手に使えるのか?」
「まあ見てろって」
僕も知らないんだから、そう言うしかない。
そもそも使えなくては、こんな大きな武器買わないと思うけどね。
阿吽は左手のエピークラッシャーの凹凸のあるギザギザした峰で、モールマンの爪を挟み込んだ。
そのまま左手を捻ると、骨が折れたかのような派手な音が響く。
モールマンの右手の爪が折れたのだ。
やはり痛いのか、声にならない叫び声を上げている。
だが驚いたのは、その爪が折れた先から、今度は爬虫類のような脚が生えてきたのだ。
オオトカゲかワイバーンみたいな魔物を、食べているのだろうか?
もしかしたら生えてきたのも、トカゲの能力が関係してるのかもしれない。
「バケモノめ」
阿吽が一言呟くと、今度はお返しとばかりにモールマンが阿吽に飛びかかる。
思った以上に俊敏だ。
右手?右前脚?
手を広げて、握るようにソードブレイカーを掴もうとするモールマン。
それに対して左手を引くと、今度は右手の爪が左肩を狙って振り下ろしてきた。
それを半身になって避ける阿吽。
僕とタケシは、その攻防を見守っていた。
「う、動けるんだな。あの巨体で」
「そうだな。元々動けるのは知ってたけど、それでもここまでの近距離戦を見られるとは思わなかった」
タケシの驚きは、初見では当たり前だと思う。
僕達も右顧左眄の森とかで見た事はあるが、ここまでではなかった。
何より、僕達が驚いているのはスピードがあるという意味ではない。
その動きがスムーズな事に驚いていた。
特撮映画など見ると分かるが、巨体になると途端に遅く感じるものがある。
しかし、何故だか分からないけど阿吽の二人にはそれを感じない。
阿吽の右手のスティレットが、岩の隙間から脇腹を突き刺した。
モールマンも嫌がるように、右手をスティレットを払うように振り回す。
しかしそれは、そう思わせていただけのようだ。
脇腹に突き刺した右手を、モールマンは掴んでみせた。
阿吽に比べ、力は比べ物にならないくらい強いモールマン。
右手首ごと引っ張りスティレットを脇腹から引き抜くと、モールマンは力任せに阿吽を振り上げて、地面へと叩きつけようとしている。
「危ない!」
タケシが思わず叫ぶが、そこから阿吽の離れ業が炸裂した。
振り上げられた阿吽は、叩きつけられる勢いを利用して、左膝をモールマンのこめかみに向かってぶつけていた。
モールマンの手が緩んだのを確認すると、肩車のような形を取る阿吽。
今度は両足でモールマンの首を絞めに掛かり、両腕の脇の隙間から、スティレットとエピークラッシャーを突き刺している。
「な、何だよ!あの曲芸みたいな動きは!」
「え・・・」
お前に言われたかないわ。
僕はそう口にしそうになったが、確かにあの巨体で見ると迫力が全然違う。
「そろそろトドメと行きましょうか」
二本の短剣を引き抜くと、肩車の状態から前へ反転する阿吽。
何をするのかと思ったら、そのまま足で頭を挟んだままバク転をするように倒れ込み、モールマンの頭を地面へと叩きつける。
そして阿吽は最後の仕上げだと言わんばかりに、回転の勢いを利用して頭へと二本の短剣の柄で力強く叩き、割れたところにスティレットを差し込んだ。
最初は痙攣をしていたモールマンも、事切れたのか動かなくなる。
「う、ウラカン・ラナだ・・・。ウラカン・ラナ・インペルディア!」
「裏なに?インポ?」
「バカ!ウラカン・ラナ・インペルディア!俺の教わったルチャ・リブレの技だよ!ど、どうしてあんな技を使えるんだ?」
プロレス技と思って、使ってないだけかと。
しかも最後は、恐ろしい決め技だったし。
もしかしたら、効率良く岩を壊す方法を考えていたのかもしれないな。
「ブラーボ!阿吽、ブラーボ!」
大声で拍手するタケシ。
良いものを見せてもらったと、泣いているのだが。
「あぁ!小さくなっていく!大きいまま蹴散らせば良いのに」
「二人分の魔力を消費するからな。そんな長時間大きくなれたら、M78星雲から来た連中も羨ましがるだろ」
「なるほど。確かに」
適当な理由を付けて言ってみただけなのだが、納得してくれたらしい。
「しかし阿吽って、どうなってるんだ?めちゃくちゃ強いじゃないか」
前回の地底での戦いでは、あまりパッとした活躍を見せなかったので、タケシの中では大したことないと認識していたらしい。
しかしそれは間違いだと、訂正しておく事にした。
「あの二人はね、若狭国の守護者なんだよ。しかもアレでも、まだ本気じゃない」
「本気じゃない!?」
「タケシはアングリーフェアリーって聞いた事あるか?」
「アングリーフェアリー、そりゃ有名だもの。帝国で最警戒人物として名が上がるうちの一人だ」
「一人じゃない。二人だから」
「えっ!?もしかして、あの二人!?」
やはり気付いていなかったらしい。
地底では二人ともとても紳士だったし、怒った姿なんか一切見せなかったからな。
そりゃ何処がアングリー?と言いたくなるのも分かる。
「というわけで、怒っていない時点でまだ本気じゃない」
「なるほどねぇ」
「ちなみに僕は、彼等の領主である若狭国の丹羽長秀から、この前ある事を言われたよ。彼等は若狭国の金将と銀将だってね」
「へぇ、その人将棋が好きなの?何で金と銀?普通なら飛車と角って言わない?ねえ、何で?」
「うっさい!そこまで知るかボケ!」




