スマジとモールマン
大阪、いや昔だと大坂だっけ。
冬の陣と夏の陣があった場所だけど、それ以降は大きな有名な戦いは起こっていない。
それもそのはず、その後は徳川家康が征夷大将軍になって江戸幕府を作ったからだ。
でもこの世界は、似ているようでやっぱり違う。
まず、徳川家康に似た人物は滅んでいる。
そして織田信長と豊臣秀吉も同じだ。
この三英傑と呼ばれた三人が居ないとなると、本来なら戦国時代は更に長引いていたのかな?
今にして思うと、もしこの三人が日本で居なかった場合、誰が天下を取っていたんだろう?
僕の予想では、毛利輝元か上杉景勝かなって気がしている。
まあこんなのはあくまでも予想であって、大した意味は無いんだけどね。
そしてこの世界では明智光秀っぽい男、オケツが征夷大将軍っぽい騎士王をしているのだが。
やはり頼りない。
本物の明智光秀は、もっと有能な人物だったのに。
でもね、僕は思うんですよ。
頼りない人をトップに据えると、部下が奮起するんじゃないかって。
今回はそれに期待したいなと思ってます。
ただし、あまりに頼りないと、引きずり下ろされるけどね。
新しいマスクには、ちょっと悲しいようなアホっぽいような話が隠されていた。
話を聞く限り、タケシの師匠は召喚者の中でも真っ当な人物だったようだ。
知らない他人を助ける為にオトリになる。
なかなか出来る事じゃない。
しかし、帝国のような国土の広い大国は、ジャイアントの援護があっても全ては守りきれないという事か。
下手に色々な場所に派遣しても、その人数は少なくタケシの師匠のように犠牲者が増える。
それを考えると、オケツのまずは御所という判断は悪くないのかもしれない。
「良い話だったのに、台無しですね」
「まったくです」
「え?そうかな?」
阿形と吽形は、タケシのマスクの臭いの話を聞いて、ため息を吐いている。
まあ確かに、師匠は良い奴だったって話だったのに、気付いたらマスクが臭い人というのが上書きされてしまったからな。
今後、師匠の話を聞いても、マスクを洗わない人物というのが第一印象になるだろう。
「開戦までもうしばらく。ここは休んで、英気を養いましょう」
「兄の言う通りです。相手の鋭気を挫く為にも、我々三人が活躍しないといけませんから」
「英気?鋭気?な、何?」
タケシは阿吽の二人の言葉に混乱している。
残念な頭だなと思っていたが、僕の頭の中でももう一人混乱していた。
この二人は残念ズと呼ぶ事にしようと思う。
オーサコの地に着いたスマジとモールマン一向は、丘に布陣した。
大将であるスマジ・ノシピコの隣には、モールマンが座っている。
他のモールマンとは違い、明らかに異彩を放っていた。
「のう、本当に勝てるんだろうな?」
「大丈夫です。おいの作戦通りに行けば、必ず勝てます」
ここまで来てしまった以上、覚悟を決めるしかない。
だが、本当に勝てるのか?
スマジはモールマンに対して、不安を口にした。
「お前の力は信用しているとも。だが、本当に奴等はワシ等に危害を加えないと言い切れるのか?」
「必要とあれば、遺憾ながら食べる事もあるでしょうね。でも既に、トーリの力を取り込んでいますから。わざわざスマジの力を取り込む必要性を感じないです」
「そ、そうか」
スマジの恐れている事。
それはモールマンの暴走である。
隣で話をしているモールマンの王は、知性的で会話も出来る。
だが、他のモールマンはそうとは言い切れない。
特に言葉が話せないモールマンは、ただのバケモノそのものなのだ。
そんなバケモノと横並びに歩くスマジ兵は、表に出さなくとも内心ではビクついていた。
「今回の戦いで、まずは騎士王には亡き者となってもらいます。そして騎士王の座には、貴方が座ると良いでしょう」
「お、お前はどうするんだ?」
「おいは・・・地底を掌握してから考えますよ」
「ジャイアントとかいう、アリを滅ぼしたらか。ワシ達に出来る事があるなら、手伝おう」
「ありがとうございます。でも、大丈夫です」
そう口にした後、モールマンは一言も発しなくなる。
その空気に居た堪れなくなったスマジは、そそくさと席を立った。
「フン!やはりオジキはもう駄目だな。あんな優柔不断な騎士王にビビって、何が怖いのやら」
誰も居なくなった所で、一人呟くモールマン。
彼はそのまま、静かに眠りについた。
自分の真っ二つになった下半身が見える。
彼が死の間際を悟って見ていたのは、そんな光景だった。
身体が半分になれば、長くは生きていられない。
そう思った矢先の出来事だ。
周りには味方も無く、後は死ぬだけだと思っていたところに、地面が急に盛り上がってきた。
頭の中で、自分の宿した黒犬が危険だと吠える。
そして目の前に現れた、身体を岩で覆う不思議なバケモノ。
目の錯覚だとしたら、自分の中の黒犬が危険だと教える理由は無い。
身体が真っ二つにされた時よりも、危険だと吠えている。
段々と意識が朦朧してくる中、彼が最後に見たのは大きく口を開けたモールマンだった。
真っ暗な何も無い世界。
死後の世界に来たのだと思っていた男は、出口を求めて彷徨っている。
すると、薄い光で照らされている場所を見つけた。
彼はそこまで歩いていくと、さっき見たばかりのバケモノが座っているのを発見する。
「おい、お前も死んだのか?」
何も答えないバケモノ。
ブツブツと何かを呟いているので、恐る恐る口に耳を傾ける。
食べ物、食べ物。
それ以外は何も言っていなかった。
不気味な奴だな。
そう思った男だが、他には周りに誰も居ないし、ここ以外は真っ暗で何も見えない。
ブツブツ言うだけで、何か危害を加えてこない気がする。
身体の中の黒犬も、今回は吠えていない。
こんな所にずっと居るのも微妙だが、とにかくコイツが話をしてくれるまで、待ってみよう。
彼は渋々、バケモノの隣へと座り込んだ。
何時間、何日、何年。
腹は減らないし眠くもならない。
男は不思議に思いながらも、死後の世界はそうなんだとそれを受け入れた。
相変わらず、ずっと独り言を言っているバケモノ。
あまりに暇な男は、一方的にこちらから話をする事にした。
最初は質問をするように、何処から来たんだとか食べ物とは何が食べたいんだとか、話し掛けていた。
しかし返事が無いというのは、かなり辛いものがある。
そう考えた男は、今度は一方的に自分の話をし始める。
最初は自己紹介のような話から始まり、気付くと愚痴を溢していた。
気付けばずっと一緒に居るバケモノだったが、男はいつからかバケモノを信頼するようになった。
話してはくれないが、ずっと自分の側に居てくれる。
何も無いし暇ではあるが、悪くはない。
そう思っている自分に気付く。
こんな時間が続くなら、死後の世界も悪くないな。
そう思った矢先の出来事だった。
バケモノが急に、身体を揺らし始めたのだ。
今まで長い間一緒に居て、初めての異変である。
「おい、大丈夫か!おい!」
男が話し掛けると、バケモノはこっちを見てくる。
初めて向こうから、自分に意識を向けてくれた瞬間だった。
痙攣したように震えるバケモノが、また言葉を発している。
だが、いつもと違う言葉のようだ。
口元に耳を近付けて、その言葉を聞いた。
「お前の言葉、ちゃんと聞いていた。せっかく同じ言葉を覚えられたのに、もうすぐ死ぬみたいだ」
「なっ!?死ぬって何だ!?」
「今、この身体はジャイアントと戦っていた。身体の岩も剥がれて、爪も折れた。俺はもうすぐ食べられるだろう」
「な、何を言っているんだ!?」
男はようやく話し掛けてくれたバケモノが、死ぬと言い始めて混乱していた。
やっと話せるようになったのに。
やっとこっちを向いてくれたのに。
「死ぬな!死んだら駄目だ!」
「悪い。お前くらい強かったら、まだ生きられただろうに」
「だったらおいが、お前を生かす!おいの力をお前に貸す!」
「俺は弱い。お前の力を活かせるとは思えない」
弱々しく答えるバケモノに、男はその爪を握り言った。
「だったらおいに任せろ。おいがお前を助ける」
「・・・それも悪くない」
静かに答えるバケモノの小さな目と、初めて合った。
お互いがお互いの目を見合っている。
「死んでも文句は無い。お前に任せる」
その言葉を最後に、男の意識は遠くなっていく。
ハッと気付いたその時は、戦場の真っ只中だった。
周りには大きなアリと、自分が見たバケモノと同じ姿をした連中の死体がそこら中に転がっていた。
すると、すぐに頭の中で黒犬が吠えたてる。
大きなアリの手が、自分の腕を掴もうとしているではないか!
「触るな!バケモノ!」
アリの手を振り払おうとすると、自分の姿が違っている事に気付く。
手が大きい。
そして身体が岩に覆われている。
「何だ、これは?」
混乱していると、再びアリの手が近付いてくる。
男はそれを掴むと、力強く引っ張り込んだ。
その勢いで起き上がる男。
「イタタタ!何だ、ボロボロじゃないか!」
身体中がボロボロだと気付くと、倒したアリが本能的に敵だと分かる。
男は力強く、アリの頭を踏み潰した。
頭が潰れたアリは動かなくなった。
アリが近くに居ない事を確認した男は、自分の置かれた状況を確認した。
そして分かった事が、いくつかあった。
一つは、自分がバケモノと同じ身体をしている事。
もう一つは、他のバケモノと違い、腕の先が大きな爪ではなく手の形をしている事。
そして最後に、自分が戦争の真っ只中に居るという事だった。
男はその辺りの、死んでいるバケモノの爪を漁った。
死体を掻き分けて、一番大きな爪を探した。
「コイツが一番大きいな。よし!」
爪をへし折りそれを持つと、男はあまりしっくりこないものの、無いよりはマシだとそれを手に戦った。
アリの腕を脚を、そして頭を。
持った爪で切り裂いていく。
気付くと周りには、アリの姿は無くなっていた。
「勝った!勝ったぞ!」
叫ぶようにバケモノに対して言った男は、再び意識が遠のいていく感覚を覚えた。
意識が戻ると、いつもの場所で目の前にはバケモノが座っていた。
「勝ったぞ。お前は生き残ったんだ」
「本当に生き残るとはな。お前はやっぱり強いな」
強いと言われ、満更でもない気持ちになる男。
昔と違い、何故かその言葉が心地良い。
「なあ、話が出来るようになったところで聞きたいんだが、お前は何なんだ?」
「俺はモールマン」
「モールマン?それは種族か?名前か?王は?主人は?」
「モールマンはモールマンだ。それ以上でもそれ以下でもない」
短い言葉の中から、男はモールマンという種族がどのようなものかを紐解いていく。
そしてモールマンの事、ジャイアントの事、地底の世界の話を聞き、男はある結論に至った。
「お前、このままだとジャイアントとかいうのに、負けると思うぞ」
「何故だ?」
「ジャイアントには指導者が居る。対してモールマンには居ない。バラバラに戦っても、個々に潰されるだけだ」
「ならばどうすれば良い?」
「簡単だ。お前が指導者になれ」
男はバケモノに対してそう言うと、バケモノは無理だと即答する。
モールマンに、指揮が出来る者は居ないと。
「そうだ。お前がやれ。お前がモールマンを導けば良いのだ」
「おいが?」
予想外の言葉に、男は少し戸惑いを見せた。
だが、バケモノは思った事をそのまま口にする。
「お前は強い。俺なんかよりもはるかにな。だからこそ、お前がモールマンを正しい方向へと導いてほしい。お前なら出来るぞ、スマジ・ホノヒサ」




