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再びの地へ

 恐怖というのは、人を縛るのに有効なのか?


 トーリは堪忍袋の緒が切れた末に、悲惨な最期を迎えた。

 別に面識があったわけでもないので、酷いとか可哀想だみたいな感想は特に無い。

 部下の為にキレたという点だけは同意出来るし、タツザマには悪いけど、そこまで悪い人ではなかったのかなという印象だ。

 そんな死に方をさせられたのは、ある意味の見せしめだろうなとも思った。

 何故ならクロは、モールマンの王から偵察をされていた事を察知されていた可能性が高いという点だ。

 クロは重傷を負って帰ってきたのだが、空高くに居たというのを知らない限り、すぐに弓で攻撃するなんて事は出来ないはず。

 彼を怪我を負わせてトドメを刺さなかったのも、自分達が行なった処刑を、僕達に知らしめる為だったんじゃないかと考えている。


 でもそれは、残ったスマジ軍に対して有効だったのかな?

 恐怖で萎縮するという可能性は、考えていなかったのだろうか。

 動けない奴は食うぞという脅し?

 僕としては、それは逆効果だったんじゃないかと思う。

 恐怖政治なんて言葉があるけど、だいたい上手くいくのは最初だけ。

 粛清ばかり続ければ、人心は離れていく。

 モールマンにはそれが分からないのかもしれない。







 冗談ではなさそうだ。

 ベティはたまに毒を吐くので、冗談でこういった事を言う事もある。

 そういう時は、大抵顔は笑っている。

 しかし今回は、笑っているけど目が笑っていないという、ちょっと怖い感じだ。



「僕が決める事じゃないけど、他にも恨みがある連中は居るから。特にジャイアントの連中とか」


「だったら早い者勝ちという事で」


 ズルイ提案だなぁ。

 スピードで自分に勝てる者は居ないと、分かって言っている。

 スピード勝負か。

 アレ?

 もしかして一人だけ、ベティと戦えそうな男が居るな。



「それ、タツザマも加わると良い勝負になりそうだぞ」


「そうなの?でも、ヒト族なら空は飛べないでしょ。トキドちゃんのワイバーンなら分かるけどね」


 あ、そうか。

 ベティはまだ、タツザマの新しい能力を知らなかったんだった。

 まあ別に伝える必要も無いかな。



「それなら僕が特に言う事は無い。倒してくれるなら、万々歳だから」








 いよいよスマジとモールマン達の連合軍が、御所近くまでやって来た。

 この地を戦場にするわけにはいかない僕達は、迎え撃つべく西進。

 御所より西にある場所。

 そう、決戦の地は再びのオーサコである。



 以前、僕達がこの地にやって来た時は、ハッシマー達を倒す為だった。

 あの時は召喚者の不思議な能力により、城の中がダンジョンと化した迷宮になっていた。

 しかし今回はその召喚者も居らず、ただの城となっている。


 オーサコ城を本陣とした僕達は、大将をオケツ、そして副将を僕とタケシが担う事になった。

 実際には僕が大将扱いなのだが、騎士王国という国の体裁もある。

 なので大将はオケツなのだ。



 そんなオケツを大将とした僕達は、開戦直前になり会議をしている。



「マルエスタ殿、地底からの侵攻は無いんだよね?」


 一番怖いのは、地上でやり合ってる最中の、地底からの奇襲だ。

 地底は僕達ではなく、モールマンの戦場である。

 だから同じく専門であるジャイアントの意見を聞く事にした。

 彼等なら地底の異変に、すぐ気付いてくれる。

 そう思っていたのだが・・・。



「申し訳ありません。ハッキリと言えません」


「どうして!?」


 オケツが驚いて思わず立ち上がると、彼は気まずそうに理由を口にする。



「地底から不思議な音が、一定間隔で響いているのです。その音の影響で、彼等の動きが読めません」


「不思議な音?」


「アレだ!モールス信号だ!」


 タケシが自信満々にモールス信号だと答えるが、それはすぐに沼田に却下される。

 実は沼田もモールス信号だと思い、何かの暗号を送っているのだと勘違いしていた。

 彼は帝国の召喚者に連絡を取って、モールス信号の解読方法を教わったのだが、既存のモールス信号とは全く違っていたという話だった。



「アレだ!モールマン信号だ!」


「似てる言葉を言えばいいってわけじゃないんだけど」


 タケシはドヤ顔で言ってくるが、それもオケツに却下される。

 すると今度は、ウケフジがマトモな意見を述べた。



「暗号通信の線も否めないが、ジャイアントの気配察知を阻害する為ではないか?」


「僕もその方向で考えています。だから後方も、安心出来ません」


「それなら、前もって地底にジャイアントを配置しておくのはどうだろう?」


「地上のモールマンは、皆さんだけで対処出来ますか?」


 ここでマルエスタの問いに、出来るとは誰も言わなかった。

 やはりトーリ軍が全滅した事が、大きく尾を引いているようだ。

 タツザマを筆頭に、トーリの強さは知られていた。

 それを全滅させたモールマンに、自分達だけで勝てるかという疑問があるのだ。

 しかもモールマン側は、他の国から撤退させモールマンを騎士王国へ集結させている。

 ジャイアントを含めた僕達より、数の上でも勝っている。



「そんな暗い顔をしないで下さい。地底は我々ジャイアントが守ります」


「では地上は、地上の者だけで守れと?」


「僕の方から援軍を要請してあります。まだ到着するという報告はありませんが、必ず来るはずです」


「援軍?」


 誰もが不思議そうな顔をする。

 僕達も帝国も、ジャイアントから援軍を要請されたという報告は無いのだ。

 騎士王国内で、更に騎士を呼ぶのは難しいと言われている。

 サネドゥ辺りは来ても良かったのだが、彼等も自領で精一杯らしい。



「守りの事は分かったわ。それで、守ってるだけじゃないんでしょ?」


 ベティがそう言うと、マルエスタはこの辺りの地図を広げてみせる。

 マルエスタはオーサコ城の西側を示すと、そこには丘があった。



「ここが敵の本陣だと思われます。丘なので、空からの攻撃が有効です。しかし、敵はそれも想定済みなはず。向こうはおそらく、空の部隊を守備に使ってくるものと予想されます」


「その敵をぶち抜けば、モールマンの王は目の前なのね。分かったわ」


「少々お待ちを。今回、モールマン側にも空を飛べる者の中に強者だと思われるのが三体居ます」


「この前の報告で聞いた、信号連中だな?」


 信号と言われて頷けるのは、この中で僕と沼田、オケツくらいだろう。

 ちなみに転生者である帝は、御所で待機なのでここには居ない。

 タケシは自分が無視された事がショックで、静かに座った。



「それで、アタシ達がそれを倒す為に呼ばれたのね?全員、斬り刻んであげるわよ」


「いえ、一体だけで大丈夫です」


「何ですって!?」


「確実性を取りたいので、一人一体でお願いします」


「アタシとトキドちゃんでしょ。じゃあ、最後の一体は誰がやるのよ。先に勝った方が、倒しに行くのかしら?」


「タツザマ殿、お願いします」


 マルエスタからの指名に、タツザマは頷く。



「タツザマ?アンタ、いつ飛べるようになったの?」


「さ、最近です」


「ちょっと、最近って大丈夫なワケ?」


 グイグイ来るベティに、タツザマは押されている。

 あまりベティに慣れない者は、ちょっとした恐怖かもしれない。

 仕方ない。

 手助けしてやろう。



「ベティ、僕がこの前言った事覚えてる?」


「何だったかしら?」


「モールマンの王を倒すなら、早い者勝ちって話。ベティとタメ張る速さの持ち主って、タツザマだよ」


「え!?」


 思いもよらない名前が出てきた事で、ベティの顔色が変わる。

 しかしタツザマもそんな事を言われるとは露にも思っておらず、言われた側も驚いていた。



「確かに。どっちとも戦った俺からすると、タツザマ殿はベティ殿とイイ線で戦えるな。二人とも、それくらい速い」


 おっと、予想外の援護が来た。

 二人と戦ったトキドが言うんだから、間違いないだろう。



「決まりですね。御三方、赤青黄色の空飛ぶモールマンの対処をお願いします」







 一方、地上組はどうするかというと、こちらも再編される事になった。


 まずは僕達と帝国の人間なのだが、共同戦線を張る。

 特に大きいのは、ギュンターとマルテの二人。

 この二人は、太田と慶次のトライクの後部座席に乗ってもらい、前線に出て弓と魔法で遊撃してもらう事になっている。


 そしてハクト以外の者達は、地上の目立つ強さを持つモールマンを順次倒す役目を預かった。



「地上のキーマンはお二人、いや三人ですね。阿形殿と吽形殿。そしてタケシ殿に期待しています」


「任されました」


「同じく」


 阿吽の二人は粛々としている。

 対してタケシは、無視されたショックから一気に立ち直り、再び喧しくなっていた。



「ほほう?俺の力が必要ですか?必要ですかな?アハ、アハハ!」


「うるさい!」


 高笑いしているところを、ギュンターに頭を叩かれる。



「僕は地底の方を守ります。地上及び空は皆さんにお任せする事になりますので、よろしくお願いします」


「アグーと沼田、地底に行ってくれない?」


「タケシ、お前何を勝手に決めてるんだ」


「頼むよ」


 珍しく、タケシがお願いをしている。

 アグーは師であるタケシの言葉にすぐに了承しているが、沼田は少し戸惑いを見せた。

 だがため息を吐いた後、沼田も渋々了承する。



「大将、最後に一言頼む」


「・・・私か!そうだった。私が大将だった」


 ボーッと聞いているだけのオケツだったが、皆から視線を集めて改めて思い出す。



「皆さん、勝つのは当たり前。大きな怪我無く勝つのが目標です。やったりましょう!」









 大将であるオケツは城で戦況を見守っているが、名ばかりの副将の二人は前線に出ていた。

 代わりにハクトにはオケツに何かあった時のサポートを頼み、城から弓や魔法で援護をしてくれる事になっている。

 太田と慶次はトライクに乗り、ギュンターマルテを乗せて左右の軍へと分かれていった。

 マルエスタもアグー沼田を共に連れ地底に行ってしまい、この場に居るのは阿形と吽形、そしてタケシの四人である。



「なあ、どうしてマルエスタにアグーと沼田を付けたの?」


「んー、勘!」


 そう言われてしまうと、何も言えないのだが。

 しかし勘というのは馬鹿に出来ないし、備えあれば何とやら。

 マルエスタに危険が無くても、二人が居れば安心かな。



「ところでタケシは、そのマスクどうしたの?」


「実は帝国に戻ったら、師匠が亡くなっていて・・・」


「えっ!?師匠ってプロレス教えてくれた人?」


「そう。帝都から離れた町を守ってたんだけど、モールマンにやられてしまったらしい。最期に町の人に渡したのが、このマスクなんだよ」


 形見のマスクか。

 というか、死に際にマスクを渡すってどうなんだ?

 普通、そんな事よりやる事がありそうな気もするけど。



「町の人達は助かったんですか?」


 吽形の質問の答えは、イエスという事だった。

 タケシの師匠はオトリになり、その間に他の召喚者に守られて町を脱出したという話だった。

 会議の場ではマスクの事を突っ込めなかったが、話を聞くと聞かなくて良かったと改めて思った。



「ご愁傷様です」







「ありがとう。師匠は素晴らしい人だった。だから俺はあの人の意志を継ぐ為、このマスクを着用する事にしたんだ!いきなり被ったらかなり臭かったんだけどね。師匠、俺にはマスクはこまめに洗えと言っていたのに・・・」

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