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滅亡のトーリ

 全て同じでは勝てない。

 それぞれの役割があるから、戦術が生まれる。

 昔、学校の先生に将棋を教わった時に言われた言葉。

 ベティもそれを知ったんだと思う。


 個人の強さだけで選んでいた、対トキドワイバーン隊との集団戦。

 ここに来て、メンツが大きく変わったらしい。

 今までのベティの選んでいた部下というのは、将棋で例えるなら香車だと思う。

 とにかく前へ一辺倒。

 目の前の敵を倒せというのが、彼のやり方だった。

 しかし彼は、前へ出るだけでは倒せないと学習したんだろう。

 ここで魔法や弓を使う連中を、部隊の中に混ぜてきた。

 桂馬や銀辺りを、使い始めたという感じかな?

 別に香車が悪いわけじゃないけど、それだけじゃあ勝てるものも勝てない。

 やっぱり歩であったり飛車角、金銀桂馬と揃って初めて、戦術が出来るんだと思うんだよね。

 ただベティの場合は、王と飛車角が一人でこなすような感じだけど。

 これで熟練度が増して、部隊の中に金銀桂馬、そして飛車角に成れる者が現れたら。

 ベティの部隊は、もっと強くなるだろうね。








 話しているクロ自体が、不思議そうなのだ。

 聞いている僕達は、何を言っているのだというような反応ばかりだった。

 しかしクロは、見間違いではないと思うと言っている。



「俺から質問なんだけど、クロ殿はスマジの領主であるスマジ・ノシピコを知っていたのか?」


「知りません。接近した際、会話の中で男が領主様と呼ばれているのを聞いたのです」


「なるほど。トーリの領主ではなく?」


「トーリ軍の兵は、ほとんど死に体でした。勿論、領主も同じです」


 トーリは死ぬまで、こき使われるといった感じかな。

 しかし、何故両者の待遇の差がここまで大きく違うのかが気になる。



「モールマンの王とやらは、見たのかしら?」


「おそらく王だと思われる者は見ました。でも、確実に王なのかは断定出来ません」


「どうして?」


 ちょっとだけベティの声のトーンが低くなる。

 クロはその変化をに気付き、少し冷や汗を掻いているように見える。



「ち、近付けなかったのです。勘が鋭く、接近は出来ませんでした。なので、空からその様子を窺うだけに留まりました」


「あら、そうなの?」


 プレッシャーを感じているのか、クロはどんどんと下を向いていく。

 そんなクロをベティから救ったのは、なんとオケツだった。



「私は彼の判断は正しかったと思いますよ。もし見つかって捕まりでもしたら、確実に食われてたと思います。そうなれば鳥人族の力を持った、モールマンが誕生してたんじゃないですかね」


「なるほど。騎士王の意見は一理あるな」


「まったくです。流石は騎士王」


「拙者も騎士王の意見に同意です」


「騎士王らしい働きでおじゃる」


 何故か妙に持ち上げる騎士の面々。

 そんな扱いに慣れていないオケツは、目が泳ぎながら照れ隠しに口笛を吹こうとしている。

 しかし口笛が吹けないのか、プス〜プス〜という音だけが小さく聞こえる。



「皆が納得しているなら良いわ。クロちゃん、今度は異変があるまでモールマンの監視を続けなさい」


「かしこまりました」



 クロはその場から下がると、一時間だけ休憩してすぐに戻ると言う。

 この扱いにはブラック企業の臭いがプンプンしたが、クロはむしろ役に立てる事が嬉しいらしく、喜んで飛んでいったという話だった。








 何日かすると、久しぶりにクロが戻ってきたという報告を受けた。

 何かあるまで戻るなというベティの命令だったので、これは大きな変化があったという事だろう。

 しかし、クロは僕達の居る部屋までやって来ない。

 扉の外を見てみると、御所で働く者達がてんやわんやで動いていた。

 扉を開けてお湯を運んでいる男を捕まえると、彼は慌ててこう言った。



「どうした?」


「偵察から戻ったクロ殿が、重傷を負っています!今すぐに治療をしなくてはなりません!」


「なんだって!?」


 彼の大きな声が、中にも聞こえたらしい。

 オケツやトキド達は驚いているが、逆に直属の上司であるベティに驚きは無い。

 彼にはクロの異変が、分かっていたらしい。



「ベティ殿、クロ殿の所には行かないのか?」


「アタシが行っても仕方ないもの。こういうのは専門家に任せるべきでしょ?落ち着いた頃に、クロに会いに行きましょう」


 冷静に言うベティ。

 他の者達からすると、少し薄情に見えるかもしれないその言葉。

 だがベティも、トキドにやられた経験がある。

 その時にハクトや騎士王国の治療を受けているので、邪魔をしてはいけないという考えがあるんだろうと、僕は思っていた。

 だが、本音はそうでもないらしい。

 ベティは腕を組んでいるのだが、クロの様子が気になるのか、右手の人差し指がさっきからずっとトントンと左腕の二の腕を激しく叩いていた。



「気になるなら、見に行けば?」


「な、何を言ってるのかしら!?アタシは彼等の邪魔をしたくないのよ」


「ふーん」


「じゃあ僕が見てきますね。回復魔法も使えるし」


 ナイスだハクト!

 ハクトは部屋からそそくさと出ていくと、御所の人間と話してクロの搬送された部屋へ向かっていく。



「重体じゃなく重傷なんだ。死ぬ事は無いと思うよ」


「そうよ、そうよね」




 五時間後、クロの治療は無事に終わった。

 あまり大人数で行っても邪魔なので、ベティと僕、帝だけが代表で見舞いへ向かう事にした。



「クロちゃん、様子はどう?ってアンタ、翼やられてるじゃないのよ!?」


 入って早々に目に入ったのは、クロの翼に巻かれている包帯だった。

 それを見て驚きを隠せなかったベティは、思わず声が大きくなる。



「誰よ!誰にやられたの!言いなさい」


「そ、その事で話が・・・」


 クロは身体を起こすと、こちらを向いて真っ直ぐな目でハッキリとこう言った。



「トーリの領主が、モールマンの王に食われました」







 クロの言った言葉に驚いたのは、帝である。

 あのトーリが死んだとあって、信じられない様子だ。

 クロは更に言葉を続ける。



「以前お話ししたように、トーリ軍はとにかくボロ雑巾のように扱われていました。死んだら食われる。彼等はそれが分かっていた為、働くしかなかったようです」


 とんでもない話だ。

 世が世なら、ブラック企業認定で世間からバッシングを食らうどころじゃないぞ。



「彼等は何人も倒れていき、そして何人も食べられてしまいました。その待遇に、とうとう領主であるトーリの怒りの限界がやって来たのです」


 堪忍袋の緒が切れたか。

 部下が何人も、理不尽な死に方をしているんだ。

 当たり前だろうな。



「それで、キレたトーリはどうしたのかしら?」


「トーリは夜中に自分の弓を持ち出し、モールマンの王を遠くから射抜こうとしたのです」


「食べられたというのだから、負けたでおじゃるな?」


「はい。トーリの腕前は、驚くべきものでした。月明かりも薄暗い夜半に、正確に岩の隙間にある目を射抜こうとしたのですから」


 むむ、暗い中でそれが出来るというのは、ギュンターと同じかそれ以上の腕前がありそうだ。

 そんな男が負けるとあっては、モールマンの王も侮れないな。



「目は射抜かれたのでおじゃるか?」


「いえ、王はその奇襲を読んでいたようです。トーリの矢を避けた王は、逆に石をトーリの弓に当てて破壊。そして他のモールマンによって、その身柄は捕らえられました」


「それで、食われたと?」


 僕が質問をすると、クロの顔が一気に青ざめていく。

 すると彼は吐き気を催したのか、口を押さえ始めた。

 部屋の中で看護していたハクトが、慌てて背中をさする。



「す、すいません。思い出したら、気持ち悪くなってしまいました」


「もしかして、結構グロい系の話?」


「えぇ・・・」


 彼が語ったのは、本当に恐ろしい話だった。



 捕まえられたトーリは翌朝、反逆者としてトーリ軍の前に見せしめられたようだ。

 だが、恐ろしいのはそこからだ。

 身体を押さえつけられたトーリは、そのまま四肢を切断されたのである。

 そして泣き叫ぶトーリの目の前で、モールマン達に自分の腕や足を食う姿を見せつけたという。

 怒りに吠えるトーリだったが、モールマンの王はその心臓を一突きすると、意識の残ったトーリの前でそれを食べたらしい。

 そして最期に首を刎ねられ、それをトーリ軍の前で食べた。


 絶望したトーリ軍は死に物狂いで反乱を起こしたというが、結果は惨敗。

 トーリ軍全員が、殺されてモールマンの餌となった。



「鬼畜の所業ね」


「う、気持ち悪い・・・」


 帝は話を聞いただけで吐いている。

 僕も流石に気分は悪くなったが、吐くほどではない。



「クロちゃん、トーリの最期は分かったわ。それで、誰がアナタに攻撃をしたのかって事よ」


 静かな口調ながら、怒りを滲み出させるベティ。

 クロはそれを感じたのか、以前とは違い感動で頭を下げている。



「気分が悪くなった私が、今話した事をベティ様へ伝える為に戻ろうとした時でした。モールマンの王が、大きな弓を持ち出したのです。流石に私の所までは届かないと思っていたのですが、見事に射抜かれました」


「そう、モールマンの王がやったのね」


「見間違いかもしれませんが、微かに笑っていたようにも見えました」


「・・・そう。ありがとう。あとはアタシ達に任せて、アンタはゆっくりと休んでちょうだい。よくやったわ」


 クロは話を終えると、静かに眠りについた。








 ハクトの話によると、クロは命に別状は無かったものの、翼の怪我に問題があったらしい。

 クロは矢を避けた際、身体には当たらなかったが翼に食らってしまった為、飛行が安定しなかったようだ。

 その後、何本か矢を食らったのはほとんどが翼で、もしかしたらわざとかもしれないというのが、御所の治療班とハクトの見解だった。


 無理をして戻ってきたクロの翼は、かなり酷い怪我で、再び同じように飛べないかもしれなかったらしい。

 だが幸いだったのは、阿形達とハクトの存在である。

 若狭国から持ってきた薬と、ハクトによる回復魔法によって、クロの翼は大きな後遺症は残る事は無いと診断されたのだった。



「命に別状は無かったけど、鳥人族は翼が命よりも大事だったんじゃない?」


 そんな事を言ったハクトは、ベティによる熱い抱擁を受けてちょっと困惑している。

 だけどこのハグは、やましい気持ちから来たものじゃない。

 それを分かっているからこそ、ハクトも受け入れていた。



「ハクトちゃん、本当にありがとう。阿形ちゃん達にも、後でお礼を言っておかないとね」


「いえいえ、助かって本当に良かったですよ。でも・・・」


 クロの話を思い出したのか、顔色が悪くなるハクト。

 帝も同じ事を感じたのか、同様に顔が青くなっている。


 負けたら同じ目に遭う。

 四肢を切断されるかは不明だが、間違いなく食われるのは確実だろう。

 いや、ベティや僕はトーリと同じ目に遭うかもしれないな。

 絶対に負けられない。

 強くそう思っていると、隣に立つベティは全く違う事を考えているようだった。



「ベティ、大丈夫か?」








「魔王様、悪いけどモールマンの王はアタシが殺すわよ。奴はアタシの大事なモノを壊そうとした。だからアタシも同じ事をするの。これは罰じゃない。アタシの八つ当たりだけど、八つ裂きでは済まさないわよ」

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