鳥人族の偵察
対価を支払うのは当たり前。
タダより高い物は無い。
これ、僕の信条です。
ベティに騎士王国へ来てもらう為には、代わりに誰かを越中国へ送らなくてはならない。
領主が来てくれるのであれば、その領主に見合う者を送るべきだ。
なので、権六が行くと言い出した時はかなり助かった。
もし権六が無理ならば、又左か太田クラスを送るしかないかなと思っていたんでね。
慶次や蘭丸、佐藤さんやイッシーも居るのだが、彼等だとベティ側から不満が出たら言い返しづらい。
この四人は特に役職に就いているわけでもないので、領主に見合うかと聞かれたら答えづらいのだ。
戦闘力の面だけで見れば、そんな事は無いんだけどね。
体面ってめんどくさいよね。
ただし、この両者には動いてもらった恩も出来た。
この戦が終わったら騎士王国は、何かしらの御礼を考えるだろうね。
もし騎士王国産の太刀とかもらえるなら、ちょっと羨ましいと思う。
ん?
僕も助けに来てるんだから、貰えるんじゃない?
むしろ魔王である僕が動いたんだし、国宝クラスの太刀を貰っても良いレベルな気がしてきた。
騎士王らしい振る舞いを始めたオケツくんに、その辺は圧力を掛けておこう。
グフフ、楽しみである。
権六が御所を離れて数日後、すぐにベティ達一行は到着した。
マルエスタの中では土蜘蛛の能力は魅力的だったようだが、やはり空を飛べるベティ達には代え難かったみたいだ。
そんな彼等鳥人族だけど、かなり見違えた。
まず空を飛ぶ時に、編隊を組んでいる。
今までなら速い人はさっさと進んで、遅い人は遅れてやって来るというのが普通だったからだ。
それが今回、ベティをトップにして綺麗な隊列で飛んできたのだ。
やはりトキドとの敗北は、彼等を大きく変えたようだ。
「ハ〜イ!アタシ、ベティ!よろしくねん!」
中身は全く変わっていなかった。
両腕には長い紐が何本も垂れ下がり、大きな襟がめちゃくちゃ立っている。
服の色もラメが入っていて、動く度にキラキラとしていた。
ハッキリ言って、昭和のスターみたいな格好だ。
「よ、よろしくお願いします・・・」
「元気無いわねぇ。あ、モールマンが来てるから仕方ないわよね。アタシ、気が利かなくてごめんなさいねー」
ビクビクしながら握手する帝。
あからさまにベティが苦手そうな顔をしている。
「ベティ、苦手?」
「昔、というか前の人生で俺は、コッチの人に物凄く好かれるタイプだったんだ。友達としては良いのだが、恋愛面で見られると困るんだよ」
小声で話を聞くと、とんでもない事実が返ってくる。
聞こえていないかと挙動不審な目でベティを見ているが、間違いなく聞こえている。
チラッと帝がベティを見ると、軽くウィンクして返していた。
話を聞いて、明らかに遊んでいると分かる。
「ふうぅぅぅ!!じ、蕁麻疹が!」
「気をしっかり持て!遊ばれてるだけだぞ!」
「あ、遊びがいつ本気になるか。お、俺はそれが怖い!」
ある意味自信過剰な発言だが、僕は全く嫌な気持ちにならなかった。
女の子にモテるというのなら、話は変わるよ。
しかし、モテるのはオカマである。
許す。
帝良い奴、マブダチになれる。
「この方々ですか。ご協力いただき、ありがとうございます」
「あら、随分と小さくて丁寧なジャイアントさんね。可愛いわ」
ジャイアントにも守備範囲がある!?
ベティの言葉に周りは騒ついたが、そういう意味じゃないだろう。
ベティも反応が面白くて、色々と遊んでいる節がある。
「遊んでないで、ちゃんと聞いてくれ」
「あぁ〜ん!叱られちゃった!トキドちゃん、慰めて」
「だが断る」
「このイケズ!」
ベティ達が到着して落ち着いた頃、とうとう現状の説明を開始した。
スマジ・トーリの合同軍が、モールマンと同調。
そして今、この御所へ向かっている事を伝える。
「なるほどね。それはいつ頃の話かしら?」
「最新の情報は、四日くらい前だっけ?」
その通りだと頷く帝。
ベティはそれを聞くと、一人の男を呼び出す。
「クロ!」
前に出てきたのは、クロと呼ばれる細身の男。
スキンヘッドの厳つい男で、声が高かったらどうしようかと思った。
細身ではあるが、そこまで筋肉質じゃない。
あんまり強そうには見えないな。
「この男は、強さという点ではこの中でも弱い部類に入るわ。その代わり、ある事だけはトップなのよ」
「ある事って?」
「航行距離よ。それに加えて、速度もなかなか。ツバメの鳥人族なのだけど、今回は彼に任せてちょうだい」
ツバメなんだ。
そういえば、あんまり地面には降りないとか聞いた事あるけど、そんなに長い時間飛んでいられるとは知らなかったな。
【そんな事はどうでも良い!それよりも、名前だろう】
名前?
【ツバメのクロだぞ!もうちょっと足したら、某球団のマスコットキャラになる。彼、面白いんだからな】
めちゃくちゃどうでも良い話だった。
「一人に任せるんですか?私達でも、六人が継いで走ってきているんですが」
「クロなら余裕だわ。往復で半日もあれば、戻ってこられるわよね?」
「任せて下さい」
そんなに覇気がある感じはしないが、やる気あるのかな?
ベティは信頼しているみたいだけど、知らない僕等からしたら、ちょっと心配になる。
「さあ、どんな様子か見ていらっしゃい!」
軽く頭を下げると、クロちゃんは早々に空へ消えていった。
確かに速い。
あのスピードが維持出来るなら、半日で戻るのもあながち嘘じゃないっぽいな。
【なんとなく思い出した。あの男の肉付き、陸上部の奴に似てるんだよ。それも長距離ランナータイプ。短距離の奴はゴツイんだけど、長距離ランナーは細いんだよな】
なるほど。
長距離ランナーと似てるって考えると、航行距離が長いのも頷ける。
だったら本当に、あのスピードでずっと飛んでいられるんだろう。
ベティは弱いと言ってたけど、それを聞いただけでも鳥人族は、かなり変わったと思う。
今までは、強さ第一だった鳥人族。
ベティが越中国で一番強いから領主ってくらい、脳筋なレベルだった。
今までなら弱い奴なんか、わざわざ騎士王国まで連れてこなかったと思う。
何せ僕達も、初めて見る顔だったからね。
それが今では、弱くても得意分野が優秀な人材を選んで連れてきたようだし。
これもトキド効果か?
「ところでトキドちゃん」
「トキドちゃん!?」
帝が大きな反応を見せているけど、他の人達はベティがどんな奴なのか知っている。
マルエスタはただ単に動じないだけとも言えるが、帝は面白いくらい驚いている。
騎士王国でもトップクラスの強さを誇るトキドに対して、ちゃん付けで呼ぶのは彼くらいだ。
それが帝には、驚愕だったんだろうな。
「どうせクロちゃんが戻るまで、する事無いんでしょ?」
「無いとは言わないが・・・」
「ちょっとアタシ達と試合ってみない?」
偵察に出たクロが戻るまでという間、ベティとトキドは模擬戦を行なった。
ただし、ベティとトキドを抜いた者達限定での戦いである。
これは単純に、前回ベティが敗北した時とほとんど同じ条件だ。
内容は省かせてもらうが、結果的には鳥人族の勝利で終わった。
ベティはニンマリとしていたが、トキドにも言いたい事はあるだろう。
トキド領はゴタゴタしていたし、短時間で行ったり来たりと疲れが溜まっていたかもしれない。
しかし、そんなタイミングで奇襲を受ける事もある。
トキドは今回の結果を受け止め、言い訳はしなかった。
「ベティ殿のメンツ、以前と変わっていないか?」
「あら、流石ね」
ベティとトキドは邪魔にならないように、戦場の更に上空から全てを見下ろす形で見守っていた。
鳥人族とトキド達は、何度かこのような模擬戦を行なっているという。
勝敗はまだトキドのワイバーン隊が上だが、徐々に内容が五分以上になってきているらしい。
そして今回初めての勝利となったベティ達に対し、初めての敗北となったトキドは、その敗因を細かく見ていたようだ。
「以前は直接攻撃に特化した連中だった気がしたのだが、今回はサポートメンバーが居た。前線は減った分最初は押していたように感じたのだが、あのサポートが大きな要因だと思う」
「んまぁ!たった一戦で見抜くなんて、ホント嫌になっちゃう」
ベティとしては、試行錯誤の末の選抜隊だったようで、その中身が全て見抜かれて本気で悔しそうな顔をしている。
「ワイバーン隊は騎士が近距離、ワイバーンが炎で遠距離攻撃が出来る。アタシ達はそれを接近戦だけでどうにかしようと考えてたけど、魔王様を見て考えを改めたのよ」
【ん?ベティ達が何か俺達の事を言ってるぞ】
僕達の事を?
悪口では無さそうだけど、何だろう?
「あの方も接近戦と遠距離、どっちもこなすわ。でもね、そんな人は稀。だからね、どっちかに特化させる事にしたのよ」
「負けた俺が言うのもアレだが、その考えは正しい。集団戦なのだから、それぞれがカバー出来るように戦えば良いんだ」
「ホント、ヒト族ってその辺強いわよね」
「個人では負けっぱなしだからなぁ・・・」
ベティ達はワイバーン隊には連敗続きだったが、逆にトキドとの一騎打ちでは連勝が続いている。
しかも本気のトキドにだ。
どうやらベティも、色々と強くなったらしい。
今回は御所というのもあり、二人は控える事になった。
本気でやると、この辺りが吹き飛ぶという話だからだ。
おそらくトキドの炎で御所周辺は火に巻かれて、ベティの風でそれは燃え広がるんだろう。
想像しただけで地獄絵図なんだけど。
「うちのクロちゃん、帰ってきたわよ」
「本当だ!早いな!」
二人は空から降りてくると、クロを待ち受ける。
その間に鳥人族とワイバーン隊は、怪我の療養に入るようだ。
「いくら近付いていると言っても、御所からトーリ領はかなり遠いぞ。本当に半日で戻ってこられるなんて」
「信用してなかった?クロちゃんの体力は、アタシよりも上よ。朝までだって腰振っていられるわ」
おい、下ネタやめろ。
トキドが笑いのツボに入ってるじゃないか。
クロが戻ったと聞いた皆も、ベティの周りに集まってくる。
「お待たせしました」
「どんな様子?」
全員が彼の言葉に耳を傾ける。
「まずトーリ軍は、完全に軍門に降りました。領主であるトーリと思われる男も見掛けましたが、今はモールマンの小間使いです」
「あのトーリが!?」
信じられないといった様子の面々。
特にタツザマは、トーリが長年の難敵だった。
その相手が下っ端扱いされていると聞いて、複雑そうな顔をしている。
「クロ殿、トーリはと言ったが、スマジは違うのか?」
ウケフジの話は尤もだ。
トーリの扱いを聞けば、スマジだって同じだと思うのが普通である。
それなのにクロは、トーリは軍門に降ったと言った。
さっきの言い方だと、スマジは降っていないみたいに聞こえるのだ。
するとクロは、自分でも不思議そうな顔を浮かべて、こう答えた。
「それが、スマジとトーリの扱いは全く違うんですよ。トーリ軍はほぼ雑用をやらされているのに対して、スマジはそこまで扱いが酷くない。むしろスマジの領主は、接待を受けているような状況です」




