トーリの動向
自分を推してくる人は好きですか?
それが就職活動とかであれば、当たり前なのかもしれない。
他にも売れない役者や芸人なら、それが仕事とも言える。
でも、そうじゃない人ってどうなんだろうね。
他の人が活躍したのに、さも自分がやりましたみたいに言う人ね。
僕の周りにはそんなに居ないけど、友人からたまにそういう人の話を聞いたな。
自分は見ていただけなのに、先生や教授の前ではさも自分がやったかのように言う人とか。
周囲から嫌われる言動だけど、上の人からはどう思われてるんだろう。
調子が良いから好かれるのか。
それとも本質を見抜かれて、アホな事言ってるなと思われるのか。
僕は後者だと思っていたんだけど、どうやら他の人からすると見抜けていないらしい。
悲しいかな、人を見る目は無いという事だ。
ただね、それは僕だけじゃないはず。
良い奴だと思ってたら実は自分に対してだけとか、そんな事もあると思うよ。
何が言いたいかというと、人を見る目なんてそう簡単に身に付くものじゃないので、僕が特別見る目が無いわけじゃないという事です。
オケツの言い訳、最悪だなぁ。
普通なら白い目で見られるところを、むしろ可哀想な人として見られている。
それくらい言い訳がダサい。
トキドからしたら怒っても良い場面なのだが、オケツに気を遣ったのか。
それとも呆れて諦めたのか。
彼はオケツに優しい眼差しをしている。
「アンタ、騎士王辞めようか」
「ファッ!?」
優しい眼差しとは裏腹に、言葉は辛辣を飛び越してストレートだった。
もう任せられないという事だろう。
「ちょ、ちょっと待って下さいよぉ!私、これでも国に尽くしてますよ。今回はやらかしたかもしれないけど、もう少し功績の方も見てほしいなと思うんですけど」
「えーと、それは自分で言うんじゃなく、他の人に言われて初めて意味を成すのでは?」
「・・・」
ド正論を言われて固まるオケツ。
その様子を見ていたタケシが、声を上げて笑い始めた。
「ワハハ!やっぱりオケツさんは面白いな!」
「ば、馬鹿!タケシ、他国の王だぞ。笑うんじゃない!」
「でもギュンター、俺達みたいな他の国の人間の前で言われちゃうんだぞ。笑うしかないだろ」
「いやしかし・・・」
言われてみれば、僕も含めて他国の人間が居る前で、自国の王を否定するとか前代未聞だろうな。
普通ならそんなの、周りが止めるし。
それを止めない辺り、他の人からもそう思われてるのかも?
「オケツ、嫌われてる?」
「嫌われてないよ!ねぇ、そうだよね!?」
帝以外の騎士は顔を逸らす。
それを見たオケツは、絶望感がヒシヒシと漏れ出ている。
ウケフジは流石に可哀想だと思ったのか、フォローに入った。
「人としては良いんですよ。ただ、騎士王の威厳があるかと言われたら・・・」
「分かる!俺もそれが言いたかったんだよ」
ウケフジの言葉に乗っかるトキド。
「そうか?拙者は言動が中途半端で、少しイラッとする時があるのだが」
「タツザマ!お前も少しは空気読め!」
「私、そういう評価なんですね。分かりました。モールマンの件が片付き次第、騎士王を辞任します」
「えっ!?」
他の騎士よりも早く、帝が反応する。
彼はまさかの言葉を聞いて、普段は見せない素の自分で喋り始めた。
「ちょっと!先に辞めたいって言ったの俺だよ!何で帝より先に辞めるとか言い出すのさ」
「だって、これだけ信用無いんじゃ、いつか反乱起きてもおかしくないし」
「俺だって帝辞めたいのに、続けさせられてるんだよ。キーくんの事だから、どうせ王国とか安土に遊び行きたいとか考えてるんでしょ?」
「そそそそんな事考えてないですよ!そんな事考えた事も無いですよ。騎士王国の為の査察としては、行こうかなと思ってるけど」
「同じじゃないか!」
二人の口喧嘩に目を丸くする騎士達。
周りに目が行かない二人は、息切れしたところで気付いた。
「・・・もしかして、マロ言っちゃった?」
頷くトキドとウケフジ。
それを見て帝は頭を抱える。
「うわぁー!もう帝もキーくんと同じ扱いじゃん!もう帝の威厳無いじゃん!」
「それは私のせいじゃないからね」
「いや、私は良いと思いますよ」
「え?」
ウケフジの言葉に、思わずまた素を見せる帝。
しかし、ウケフジはそれが良いと言い出した。
「帝は私達からすると、謎の人物だったんですよ。ミステリアスで神秘的な存在のような。だけど今の話を聞く限り、私達と変わらないなと思いました」
「そうなのか?拙者はヌオチョモ様から、変な物ばかり送ってくる人だと聞いていたが」
「へ、変な物!?マロの送った品々は、変な物扱い!?」
「あ、内緒だったのかな?」
「もう遅いでおじゃる!」
帝の言葉が元に戻った。
しかし、親近感というものが湧いたのか、皆はそれを笑う。
「騎士王国って、なんか上下関係が曖昧だな」
「帝国と大きく違うのは同意する」
タケシの一言は、騎士王国以外の人間を静かにした。
ギュンターも頷くくらいだし、なんとなく羨ましいのかなとも思ったくらいだ。
こうやって見る限り、騎士王国はアットホームな仲間内のようにも見える。
それは彼等の年齢が近いからかもしれないが、帝国の人間からしたらありえない光景なんだろう。
これに関しては、魔族も帝国側に考えが寄ってるのかもね。
ハクトや蘭丸は別としても、やっぱり魔王である僕に対しては皆敬語だし。
コバやロック、お市のような例外、そして僕も逆らえない人物として長可さんが居るくらいで、他はだいたいが僕を魔王として敬ってくる。
それを考えると、オケツと帝のような感じなのは、ちょっと良いなとも思ってしまった。
やっぱりね、歳上である太田や又左みたいな人達から謙られるのは、ちょっと抵抗感があるから。
会社の社長なんかやってる人なら、歳上の人から敬語を使われる事も慣れてるかもしれないけど、僕みたいな一般市民にしてみると、居心地が悪いと感じたりするんですよ。
かなり話が逸れたな。
「オケツが辞めるとも帝が辞めるのも止めないけど、まずはモールマンをどうにかしてからにしてほしいな」
「それは当然でおじゃる!マロも決めた。マロ、モールマンの一件が片付いたら、一旦帝を休職するでおじゃる」
「帝って職業なの?」
「帝は帝かと」
「ウケフジ、細かい事は気にするなでおじゃるよ」
「じゃあ私も騎士王を辞めます」
「どうぞどうぞ」
「誰も引き止めてくれない!?」
お笑い芸人のネタでも見せられているかのような光景だが、それでも騎士王の座は本気で狙いたいと考えているのか、誰も目は笑っていない。
うーん、オケツのままの方が安心な気もするけど。
そんな空気が大きく緩みきっていたその時だった。
「報告します!トーリ軍がモールマンに吸収されました!」
偵察隊からの報告に、場の空気は大きく変わる。
緊張感が張り詰めた。
吸収された。
その意味をまだ、僕達には理解出来ていなかった。
「それはトーリ軍が、スマジと共闘体制に入ったという意味でしょうか?」
「その通りです」
まさかの展開に、僕達にも動揺が走る。
だが、珍しくオケツは慌てていない。
今までならこんな事が起きれば、間違いなく一番に慌てふためくはずなのに。
「オケツ?」
「想定内です。だからこそ、西側への陣は厚めにしてありますから。問題はトーリ軍はどれだけ残って、どれだけ食べられたかという点ですかね」
「なっ!オケツ殿がマトモな事を言っている・・・」
「私はね、騎士王っぽくなりますよ。辞める時に、やっぱりオケツ殿が良い!辞めないで!って言わせたいから」
理由がかなりダサいけど、それで本人のモチベーションが上がるならアリだろう。
ウケフジ達も驚いてたけど、受け入れてるみたいだし。
「ちょっと良いですか?」
マルエスタが偵察をしてきた兵に尋ねる。
「モールマンの中に、変わった色の岩を纏った者は居ましたか?」
「そういえば、増えていたような?」
「それは翼が生えてた者にも居ましたか?」
「居ました!分かりやすい色で、赤青黄という色のモールマンを見ました」
マルエスタはしばらく考え込むと、僕と権六を見てくる。
何か聞きたい事があるらしい。
「魔族に空を飛べる者は居ますか?」
「そりゃ居るよ。今なら僕も飛べるし」
「・・・援軍として呼べますか?」
難しいところだなぁ。
ベティ達も襲われたばかりだし、呼んでも来てもらえるか分からない。
というより、聞きづらい。
だって、また越中国が襲われないとも限らないし。
そんな事も分からないの?と思われそうで、気まずいんだよね。
「私から聞きましょうか?」
「権六が?」
「モールマンは越前国には来る気配はありません。越中国へ越前国から防衛隊を派遣して、その間に騎士王国へ来てもらえるか。その辺りの擦り合わせをすれば、問題無いかと」
「それは助かるけど、権六は・・・というよりはお市が許すのかね?」
「そこは問題無いです。彼女も仲間がやられるのを、ただ見ているような性格ではないですから」
キッパリと言い切る権六。
だったら任せてみても良いかもしれない。
「頼んだ」
権六はたどたどしく電話を掛けると、すぐにベティへと繋がった。
「ハ〜イ!アタシ、ベティ。どちら様?」
「もしもし、私は越前国の領主を務める柴田と申しますが」
「柴田!?鬼の柴田殿かしら?」
「はい、そうです」
やり取りがシュールだな。
片や懇切丁寧な対応の権六と、片やフランクな態度で出るベティ。
性格的には合わなそうな二人が話しているのは、ちょっと面白い。
「というわけなんですが、鳥人族のお力を借りられないでしょうか?」
「なるほど。分かりました。越前国から代わりに来てもらえるのであれば、断る理由はありません」
「そうですか!ありがとうございます!」
「お礼は言わないでちょうだい!アタシにま・か・せ・て!トキドちゃんに、ニューベティの力を見せてやれるわ」
そっちかよ!
ベティからしたら、渡りに船の提案だったか?
「ちょっと変わってもらって良い?もしもし、僕魔王」
権六と電話を変わると、ベティは真面目な雰囲気になった。
「魔王様、アタシ達が呼ばれたという事は、空での戦いがあるのね?」
「話が早いな。その可能性が高い」
「分かったわ。すぐに準備するから、任せてちょうだい。それでは、騎士王国の御所で会いましょう。アデュー」
ベティは本当にすぐに準備を始めたのか、早々に電話を切ってしまった。
「というわけで、鳥人族が来てくれる事になった」
「佐々殿がいらっしゃるなら、私が代わりに越中国へ向かった方がよろしいですね」
領主格の者を借り受けるなら、同様の格の者を向かわせるべき。
権六はそう考えているようだ。
僕としてはそういう考えではないのだが、行く事には賛成した。
「妖怪達を指揮出来るのは、やっぱり権六しか居ない。向こうで鳥人族と連携を取る為にも、行った方が良いかもね」
「分かりました。では、佐々殿も早々に準備しているとの事なので、我々もすぐに出立します」
来たばかりですぐに越中国に行ってもらうのも悪い気がするけど、これも作戦のうちだ。
「越中国を代わりに頼むよ」
「御意」
権六が立ち上がると、そこにトキドが慌ててやって来る。
「どうかされましたか?」
「騎士王国から旅立たれるので?あの時は本当にありがとうございました!また是非、騎士王国へ来て下さい。トキド領の美味い物を用意して、お待ちしています」




