トキド領からの報告
自己評価というのは、本当に正しく出来るものですか?
よく言われるのは面接試験の時だよね。
入学試験の面接、就職活動における面接。
人間、必ず何処かしらで自己評価をしなくちゃならない時がある。
でもさ、それって本当に合ってる?
難しくない?
例えば自己評価が低過ぎると、面接官とかにそんな酷いのかという印象を与えたりする。
その逆で自己評価が高い人間は、いざという時にボロが出る。
面接官だって馬鹿じゃないし、内面を見るのが苦手な人ではないはず。
だからその折り合いを、見ているんじゃないかと思うんだよね。
自己評価が少し低い人は、謙遜や控えめな人だと思われるだろうし、少し高い人は自分を奮起させる為とかって思われたりする。
あまりに高い低いとなると、自分が見えてないなと判断されると思う。
しかし自分を低く見てるが故の努力というのは、ある意味残酷でもある。
知らないうちに、周りから突き抜けた存在になるからだ。
その努力を評価してくれる人なら良いけど、妬み嫉みの対象になりかねない。
アイツは変わったとか、アイツは仲間じゃないとかね。
何が言いたいかと言うと、イケメンが努力して強くなり過ぎると、魔王である僕が目立たなくなります。
もう少し控えめな努力でお願いしたい。
モテない男の嫉妬をナメるなよ。
又左達の活躍もあり、長浜の防衛は完璧に成功した。
長浜の人に被害も無いだけでなく、街全体も一切破壊された場所は無い。
これは無駄だと思われたカレリンの猪突猛進が、功を奏した結果だった。
敵と正面衝突して押し込んだからこそ、モールマンを街へ近付けさせなかったのである。
「一通り終わったし、あとはジャイアントに一任出来るだろう」
「俺達は官兵衛の指示待ちだな」
高台から見る限り、押されている場所は既に無い。
あとは地上も空も、掃討戦だけとなっている。
蘭丸と水嶋も一息吐くと、任された仕事を終えたと実感した。
「一応、マオにも連絡しておくか」
「アイツ、騎士王国へ行ってるんだったな。こっちの戦局を知りたいだろうし、良いんじゃないか?」
蘭丸は携帯を取り出すと、魔王へと電話を掛ける。
「もしもし」
「早いな。俺だ」
俺?
オレオレ詐欺か!?
って、知り合いしか携帯持ってないのにそれは無い。
というか、声で分かるし。
「蘭丸か。長浜の件だよね?」
「モールマンは壊滅させたって報告を、しておこうと思ってね」
おぉ!
流石は蘭丸達だ。
官兵衛の策が上手くいったのも大きい。
被害も最小だし、これはモールマンの作戦を挫く大きな勝利じゃないか?
「凄いぞ!頑張ったな」
「お、おう」
なんだ、照れてるのか?
フフフ、こういうところはウブよのう。
「それで、騎士王国は、えっ!?あ、ちょっと!」
「どうした?」
電話の先で何やら揉めてる?
まさか、モールマンの伏兵か!?
「もしもし!私です、魔王様の右腕、貴方の又左です」
「へ?」
どうやら又左が、電話の相手が僕だと分かって、蘭丸から電話を奪い取ったようだ。
さっきの慌てぶりは、それが原因か。
「私が、わ・た・し・が!モールマンの指揮官を倒しました」
何だろう、電話の先でドヤァってなってるのが分かる。
まあ倒したなら、ここは褒めておくべきか。
「流石は又左だ。よくやった」
「ありがたき幸せ!」
遠くで蘭丸が、何かを言ってる声が聞こえる。
多分携帯を奪われた事に、文句を言ってるんだろうな。
「ったく!本当に油断も隙もありゃしない」
「取り返したのか?」
「ああ。それで、そっちはどうなんだ?」
「こっちは・・・」
正直な話、あまり芳しくない。
タツザマが空飛ぶモールマンを倒し、ヌオチョモ領も無事だったまでは良い。
しかし西側最大の勢力だったトーリは、ほぼ敗北濃厚。
御所を守る要と期待していたトキドも、自領が襲われて急遽引き返す羽目になった。
長浜を守れたのは、僕達魔族としては大きな勝利だが、この場で手放しに喜べる状況ではない。
「あまり良い状況じゃないな。官兵衛殿に頼んで、もう少し増援を出すか?」
「それはやめておこう」
長浜が狙われていたりトキドが急に襲われたりと、僕では追いつかない事が多過ぎる。
下手に人を動かして安土を危険に晒すより、今は現状の戦力で頑張る方が確実だろう。
「蘭丸達は官兵衛の指示に従って、長浜に待機なり安土に戻るなりしてくれ」
「分かった。最近はモールマンの動きがよく分からないからな。お前も気を付けろよ」
僕は電話を切ると、他の者達から視線が集まった。
長浜の様子が気になるらしい。
とは言っても、僕がよくやったとか頑張ったなとか言ってる時点で、結果は分かっていると思うけどね。
「というわけで、長浜は無事だから。秀吉、街にも被害は無いぞ」
「街にも!?」
オケツが驚き、僕にどうやったのかと聞いてくる。
「カレリンの突撃が前線を押し返して、空飛ぶモールマンはウチのフライトライク隊が制圧したから。ちなみに指揮官らしき喋る空飛ぶモールマンも、又左が倒したらしい」
「カレリン!?あの脳筋ジャイアントか。クソー、羨ましいな。こっちは微妙だというのに」
騎士王国のジャイアントは、かなり優秀だと思うけど。
マルエスタは官兵衛タイプのジャイアントだし、大局を見るならオケツより任せられる。
「そういえば、マルエスタは?」
「彼は途中から、戦線を抜けたでおじゃる」
「何処行ったんだ?」
「知らない。私と意見がぶつかって、一部のジャイアントを率いて何処かへ行っちゃったし」
オケツの馬鹿!
しかも話を聞くと、意見がぶつかったっていうのも、ジャイアントの配置を御所に固めようとしたからじゃないか。
マルエスタは僕達みたいに、各領へジャイアントを配置しようと考えたらしい。
それをオケツは、帝と自分が居る御所に集中させようとして、意見が衝突。
結局は雇われている身のマルエスタが折れて、一部のジャイアントを連れて御所から離れたという。
「これからどうするんだ?トーリへ援軍でも出すのか?」
「今更もう遅いでおじゃる。だから西側にジャイアントの大半を配置し、トーリを落としたモールマンに備えるでおじゃるよ」
長浜がモールマンに襲われてから、一週間くらい経った。
それから長浜への侵攻は一切無いというが、蘭丸達はまだ警戒を緩めていない。
そして挟撃されたトーリ軍はというと、こちらは大変な事になっている。
敗れたトーリ軍は、そのままモールマンの文字通り餌食となったのだ。
トーリ軍といえば、弓が得意な軍として有名らしい。
確認はしていないが、おそらく食ったモールマン達は手が発達して、弓が扱えるようになったのではというのが、偵察部隊からの報告だった。
そしてもう一つ、忘れてはいけない戦場がある。
「トキドからの報告は無いでおじゃるか?」
「無いですね。私もあのトキド殿が負けるとは思ってないけど、こうまで連絡が無いと・・・」
弱気な発言をするオケツだが、それを真っ向から否定する者が居た。
トキドのライバルである、ウケフジだ。
「トキド殿は負けませんよ。むしろ全てを倒すまで、帰ってくるつもりは無いのでは?」
「ハッハッハ!流石はウケフジ、俺の考えをことごとく見抜いているじゃあないか」
「トキド殿!?」
何の前触れも無く、いきなり凄い勢いで扉が開くと、そこには真紅に燃える鎧を着込んだトキドの姿があった。
返り血なのか自分の血なのか、鎧の紅に更に赤い物が付着している。
「その様子だと、何とかなったのですね」
「あぁ、ワイバーンや騎士が少し食われたが、他は問題無い」
「という事は、間に合ったんですか?」
首を横に振るトキド。
やはり報告直後に全力で戻っても、無理だったようだ。
しかしそうなると、どうやって返り討ちにしたのかが気になるな。
「何故だ?副官のヤヤが奮闘した?」
「ヤヤも頑張ってはいたが、奴よりも獅子奮迅の活躍をした者が居る」
そう言うとトキドが横へずれると、そこに立っていたのは身体がちょっと小さいジャイアントだった。
勿論、僕達は彼が誰だか気付いている。
「マルエスタか!」
「お久しぶりですね」
挨拶を済ませると、トキドが彼を大きく称え始める。
「実はマルエスタ殿が、俺達を助けてくれたんだ」
「えっ!?」
「マルエスタ殿は、トキド領とウケフジ領の近くに潜伏していたみたいで、トキド領にモールマンが出現したのを機に出てきてくれたんだよ」
皆が感嘆の声を挙げている中、一人だけバツが悪そうな男が居る。
オケツである。
彼はマルエスタから視線を逸らし、自分が何か言われないかとビクビクしていた。
「ウケフジ、お前の所も狙われていたかもしれないらしいぞ」
「そうなんですか!?」
「狙われるとしたら、どちらかだと思っていただけです。それに、モールマンを倒せたのは僕の力じゃないので」
「どういう事?」
「そう、俺の城が落とされずに済んだのは、マルエスタ殿とこの方々のおかげだ。どうぞ」
方々?
複数居るのか。
トキドが敬語を使う相手って、帝くらいかなと思っていたんだけど。
そしたらそれは、思いもよらない連中だった。
「魔王様、遅れてしまい申し訳ありません」
「ご、権六!」
「お知り合いですか?この方々が参戦してくれなかったら、間違いなく被害はもっと大きなものになっていました」
なるほど。
トキドが敬語を使うわけだ。
マルエスタもそれを見て、偉い人だとは分かったみたいだけど。
知り合いもなにも、彼等は魔族の一員だからね。
ジャイアントからしたら、そりゃ魔族もヒト族も分からないか。
「我々はジャイアントの援護を断っていたので、どのような方達なのか知らなかったのですが。彼等のような方々なら、我々も来てもらえばよかったと、少し後悔していますよ」
「いえいえ!皆さんが来てくれなければ、空飛ぶモールマンに僕達も為す術無くやられていました」
お互いに、そちらがそちらがと譲り合うような展開が続く。
話が進まないのでトキドに確認をすると、地底から出てきたモールマンはマルエスタ達がどうにか抑える事に成功したという。
しかしワイバーン隊の大半を、御所へ連れてきてしまっていた為、空飛ぶモールマンの相手が出来なかった。
そこに現れたのが、権六達というわけだ。
越前国から遠路はるばるやって来た彼等だが、その一端を担うのが土蜘蛛である。
彼等の糸が空飛ぶモールマンを下へと叩き落とし、対空から地上戦へと引きずり込んだ。
全てのモールマンを地上へ落とせたわけではないが、土蜘蛛を警戒した彼等は消極的な動きをしている間に、トキド達が追いついたという話だった。
「まさにトキド領の救世主!マルエスタ殿と柴田殿がいらっしゃらなかったら、トキド領は蹂躙されていた。本当に感謝しかない!」
「僕は自分が出来る事をしたまでです。本来はジャイアントを全ての領に配置していれば、もっと迅速に対応出来たと思いますよ」
「私は家内が行けと行ったので、オケツ殿の救援依頼に来たまでですから」
「全ての領に?どういう意味?」
トキドはマルエスタの言葉を聞いて、オケツと帝を見る。
帝は何の事?という顔だが、オケツの顔は明らかに青い。
それを見たトキドは、オケツへと詰め寄る。
「ちちち違うんだよ。まずは御所。帝が居る御所ありきで考えただけなんだ。他を蔑ろにしたわけじゃないからね。それにほら、私が越前国へ救援を頼んだから、柴田様がいらっしゃったワケで。・・・どうだろう、これでチャラって事にならない?」




