長浜の攻防その2
豚に真珠。
猫に小判。
馬の耳に念仏。
まあ他には犬に論語辺りがあるけど、意味はほとんど同じだ。
もしそれに自分で新しいことわざを付け加えるなら、昔ならモグラに翼とか考えてたかもしれない。
地中の中で暮らすモグラには、翼が必要無いからね。
でも実際に翼が生えたモールマンは、地中から出てきて空を飛んでいる。
種の進化と言えば、聞こえは良いけどね。
ここで僕は思ったのは、地底から上がってきたモールマンは、何を求めているのだろうという点だ。
数が増え過ぎて、食料を求めてやってきたのは分かる。
だけどそれは、いつかは落ち着く話だと思う。
爆発的に増えて食べ物が無くなれば、最後は共食いしかないような気がするからね。
そして最終的には、空を飛ぶモールマンと地上に住むモールマン、元々地底に住んでいたモールマンで争いが起きるんじゃないかな。
人間だって同じ種族なのに、肌の色や宗教、利権を理由に争っているんだ。
モールマンが違うとは言い切れない。
むしろヒト族や魔族を食べて知恵が回るようになった時点で、結局同じ運命を辿るんだろうなと僕は思ってる。
ワイヤーが付いてる事で、槍の動きは制限される。
だから又左は、普段はワイヤーをフックに掛けていない。
誤って落とさないという、自信があるからだった。
反撃に転じる。
そう言った又左に少し警戒感を持ったモールマンだったが、フッと笑うとその緊張感をほぐす。
「何がおかしい?」
「おかしくはないですよ。ただ、奥の手というべきそのワイヤーを見せたのは、いただけないなと思っただけです」
「負け惜しみを」
「そうでもないですよ」
前へ出て接近を試みるモールマンに、又左は槍で応戦する。
長い槍を買い潜れば、再び勝機は訪れる。
モールマンはそう信じていた。
だが、現実はそう甘くない。
ヒト族だった頃の腕前なのか、それとも身体の大きなモールマンになった事で感覚が変わったのか。
又左の槍を爪で弾くのが、精一杯だった。
「遅い!遅いぞ!」
「グッ!」
徐々に速さを増していく又左。
捌ききれなくなったモールマンは槍を食らい、身体を覆う岩がボロボロと崩れていく。
騎士ではない者を食べたからなのか、ワイバーンの方が影響されているからか、このモールマンには鎧が無かったのも又左には幸いしていた。
「調子に乗るな!」
横薙ぎに炎を吐くモールマン。
トライクを操り下降して避けると、鞭のようなものが飛んできて、弾き飛ばされた。
「何だ!?尻尾!?」
「奥の手を隠しているのは、貴方だけじゃないんですよ!」
身体よりも長いであろう尻尾が、モールマンの後方から垂れている。
今までは見えないように、巻いて隠していたようだ。
「ほら、これならどうですか?」
尻尾を自在に操るモールマン。
その長さは又左の槍に匹敵する。
しかし槍と違い、尻尾は鞭のようにしなってくる。
普段戦わない鞭のような形状とその長さに、又左も苦戦し始める。
「さっき反撃がどうとか言ってましたけど。その勢いは何処へ行きましたか?」
モールマンの煽りに、言葉を返せない又左。
するとモールマンの尻尾が、槍に巻き付いた。
すかさずワイヤーを槍のフックに掛け、又左はそれを手放す。
それを見たモールマンは、待ってましたと言わんばかりに槍を引っ張った。
「馬鹿め!」
爪でワイヤーを切り落とすと、今度こそ槍が落下していく。
又左の主戦武器が無くなった事で、勝利を確信するモールマン。
「フハハハ!勝った!あの槍の又左に勝ったぞ!」
空で高らかと笑っているが、又左は諦めていない。
むしろモールマンが笑う前から、ある事を始めていた。
「グエェェ!!」
「フハハハ!馬鹿め、私はこっちと得意なのだ」
又左が槍を手放して、した事。
それはトライクによる突撃だった。
予想外の攻撃に腹から直撃するモールマンは、身体がくの字に曲がる。
油断していたからか、腹に力が入っていなかったようで、口からは胃液のような液体を吐き出している。
「どうだ!私のトライクの運転捌きは、安土でも随一だぞ」
魔王やイッシー達が聞いたら、間違いなく首を横に振っている今の言葉。
しかし余裕の無いモールマンは、この言葉を受け入れる。
「まさか、槍以外にも得意な事があったとは。だが、槍が無い今!」
爪で攻撃しようとするモールマンだが、又左はトライクの向きを変え、爪を避ける。
又左はそのままトライクの向きを下へと向けると、地面へ向かってアクセルをフルスロットルに回した。
「ば、馬鹿な!?お前、自分ごと倒そうという考えか!?」
「誰がお前なんかと心中するか。このまま行けば、槍に追いつけるぞ」
又左の狙いは、あくまでも落とした槍。
それを拾おうと、地面に向かって急加速しているのだった。
「馬鹿な奴だ。狙いを聞いたなら、やる事は決まっている」
「む!?」
モールマンがトライクの急降下に対し、翼を動かして落下速度を落とそうとし始める。
それを見た又左は、モールマンの顔面を蹴り飛ばし、なんとトライクから飛び降りた。
「馬鹿か!?」
槍を取り戻す為に、空を飛べるトライクから飛び降りる。
流石のモールマンのその光景を見て、動きが止まった。
勝手に落下して死ぬ。
そう思っていたからだ。
しかし、彼にはまだ考えがあった。
落ちている最中、トライクに付いていたワイヤーを掴むとそのまま手繰り寄せ、再びトライクの座席に座り込んだ。
アクセルを握ると、また加速を始めるトライク。
その凄技に呆気に取られながら見ていたモールマンも、追いかけるように落下していく。
「行かせるか!」
モールマンは翼を広げて加速すると、又左を追いかけていく。
急降下をするトライクより、少しだけモールマンの方が速い。
それに気付いた又左だったが、ある事に気付きそのまま落下を続けた。
もうすぐ槍に手が届く。
手を伸ばす又左の後ろには、既にモールマンが両腕を広げて、爪で挟み込むように串刺しにしようとしている。
「死ね!」
又左の耳に、モールマンの声が入ってくる。
だが、爪は又左を串刺しにはしなかった。
又左は無事に、落下する槍をキャッチすると、その空域で止まる。
すると、上空から大量の赤い液体が頭に落ちてきた。
「やったか?」
又左が顔に液体が掛からないように見上げると、そこには両腕を無くしたモールマンが飛んでいた。
又左は急降下している最中、モールマンの位置を確認しようとしていた。
その時、ふと下を見ると、ある光景が目に入った。
蘭丸と水嶋が、弓と銃を構える姿だ。
彼は二人の視線が、自分に向いている事に気付く。
二人を信じ、そのまま後方を見る事を止めた又左は、真っ直ぐ槍に向かう事にした。
モールマンは蘭丸達の動きに気付かず、又左を仕留める直前に勝利を確信していた。
両腕を広げ、腕を曲げようとした瞬間だった。
「ガアッ!」
最初に気付いたのは、又左が槍をキャッチするところだった。
そして肩の痛みに気付き、腕を見ると肩から先の腕が全て吹き飛んでいた。
「な、な、何で!?」
「自分一人で戦っていると思っているから、こうなるのだ。お前だって、もっと他のモールマンと連携を取っていれば、私を倒す事も出来たかもしれないのに」
「グググ、だがまだ終わったわけではない!」
両肩から先が千切れ、血が滴らせながらもまだ戦う姿勢を見せるモールマン。
又左が槍を構える前に、尻尾による攻撃を試みる。
しかし、それもある男に読まれていた。
「グアッ!お、おのれ!」
尻尾の生え際に矢が通り過ぎると、太く長い尻尾は地面へと落下していく。
蘭丸の矢が、尻尾を切り落としたのだった。
「ゆ、許せん!あの弓使いだけは許せんぞ!」
怒りに我を忘れ、蘭丸と水嶋を睨みつけるモールマン。
二人に向かって急降下していくと、今度は胸に熱さを感じる。
「お前、敵に背を向けて、そのまま通り過ぎる事が出来ると思っているのか?」
又左の槍が胸の中心を貫くと、背後を睨むモールマン。
それに対して、又左はこう言った。
「お前の敗因は、一人で戦おうとした点だ。蘭丸達は他のモールマンに制圧させ私を孤立させれば、結果はまた違っていたかもしれない。だが、後の祭りだな」
又左が槍を捻ると、モールマンは痛みに耐えきれず身体を動かす。
槍から抵抗する力が無いと感じると、最後のトドメだと言わんばかりに、下で進行しているモールマンへと槍を投げつける。
落下した場所は大きな音と共に、砂煙が舞っていた。
「他に指揮官らしきモールマンは見当たらない。あとは有象無象の処理と行こう」
格好を付けた又左だったが、槍を拾い上げるのにモールマンの大群の中に降りなければならず、結果的にまた他の二人に迷惑をかけるのだった。
「よしっ!」
「やったな」
蘭丸と水嶋がハイタッチをする。
又左がモールマンを倒したからだ。
「又左も俺達に気付かないかもと思っていたが、冷静だったな」
「村長はなんだかんだで、歴戦の戦士だ。こっちの動きも見ているさ」
蘭丸の高い評価に、少し疑問を持つ水嶋。
気付いたのが直前だとは、二人は知る由も無い。
「しかしお前、あのクネクネ動く尻尾をよく一発で仕留めたな」
「アレか?尻尾の付け根は動かない。しかも動き回っていたわけじゃなく、空で立ち止まっていたからな。アレくらいはどうって事無いだろ」
事もなげに話す蘭丸。
彼は自分がどれだけの事をしたのか、分かっていない。
水嶋は蘭丸の弓が、この世界で一番なのではと感心するレベルだった。
「ジャイアントを見る限り、地上の援護は必要無さそうだ。俺達は空のモールマンを倒す事に専念しよう」
「お前はジャイアントの指揮を執れ。脳筋な奴等は、突っ込む事しかしない」
「分かった」
水嶋は空中のモールマンは、自分と又左隊の連中で対処出来ると言い、蘭丸をジャイアントの指揮へ回させる。
それを了承した蘭丸は、懐から横笛のような物を取り出した。
「・・・左だな」
いくつかの穴を押さえながら、笛を吹く蘭丸。
すると後方で待機していたジャイアントが、左方面へと前進していく。
高台から見た戦場では、左側のジャイアントが押されていた。
彼はそれを読み取り、ジャイアントに指示を出したのだ。
事前に言葉が通じないジャイアントにも、意思疎通が図れる笛をミルレオに用意してもらい、それを駆使して命令が出来るようになった。
前進後退と左右中央といった単純な命令のみだが、カレリンの前進一辺倒と比べると効果は抜群である。
中にはちょっと毛並みというか、岩の色が違うモールマンも見られたが、それを見つけると弓で射抜いていく。
結果的に長浜の守備隊は、突撃しかしないカレリンの部隊以外はほとんど被害を受けていないのだった。
「これで俺達の役目も果たせたかな?」
「十分だろう」
蘭丸の言葉に、水嶋は即答する。
その時、水嶋は思った。
蘭丸は自己評価が低過ぎるのではないかと。
又左や慶次達と比べても、指揮も執れるし周りを見ながら戦える。
自分が知り合った頃の蘭丸と比べると、大きく変わったと実感していた。
「何だ?人の顔を見て」
「いや、何でもない。お前はそのまま突き進めば、自分が知らぬ間に驚く事になってるんじゃないかと思っただけだ」




