新たなモールマン
努力というのは、必ず報われるとは限らない。
毎日何時間も鍛錬に励もうが、それが身につくとは言えないからだ。
例えば、勉強の話だったとしよう。
毎日毎日、数学の勉強をしたとする。
それでも応用問題になると、途端に出来ない人は居ると思う。
どの公式を使うのか。
その公式を、どのように当てはめるのか。
分からない人には、本当に理解出来ないだろう。
暗記問題なんか、もっと顕著だと思う。
英単語を覚えるのに、短時間でサラッと覚える人も居る。
それが一時間経っても、アレ何だったっけ?といった具合に、覚えきれない人だって存在するのだ。
あ、これ全て兄なんですけどね。
内緒ですよ。
でも蘭丸は、愚直にそれをやり続けたわけだ。
単純にそれだけの素質があったというのもあるが、それでもこの若さで安土で一番の弓使いと言われるのは、相当な努力が必要だっただろう。
彼は僕達に付いてこようと、必死だった。
ハクトは別方面で結果を出したりして、蘭丸は焦っていたのかもしれない。
それでも不貞腐れずにやれたのは、蘭丸の強い精神力の賜物だと思う。
僕はこの話を聞いた時、自分の事よりも嬉しく感じた。
恥ずかしいから、本人には言わないけどね。
又左は水嶋の新しい弾の話を聞くと、どうして自分だけ知らないのかと不思議に思った。
それが顔に出たのか、二人の部下に悟られてしまう。
「隊長、自分の事以外は興味持たないですよね。蘭丸の弓が凄腕なのも、水嶋殿の弾の話も知らなかったし。詳しいのは、魔王様の事だけですね」
男の話にウンウンと頷く女性。
魔王の事だけは逐一報告を受けていたが、他は右から左へ聞き流しているのではと勘繰るくらい、話を聞いていないと言われてしまう。
「そんな事は無い!と思う・・・」
「あ!他にもあった!」
「ほら!あるだろ!」
「弟の慶次さんの話も、チョコチョコ聞いてますよね。しかも本人には勘付かれない程度に」
「う・・・」
「なんだかんだで弟の事、気にしてるからなぁ」
「う、うるさい!さっさとモールマンを倒せ!」
慶次の事を突っ込まれ、半ば八つ当たり気味に追い返す又左。
二人は笑いを堪えつつ又左から離れ、モールマン達の中へと消えていく。
「・・・もう少し周りを気にしよう」
小さく独り言を呟くと、又左もモールマンを倒すべく向かっていくのだった。
「爺さん、その弾残り何発あるんだ?」
「あ?まだまだ沢山あるぞ」
「全部倒せるくらいか?」
「んなわけあるか。だが、増やす事も出来なくはない」
「は?」
初めてモールマンを撃った時、岩に邪魔をされてダメージを与えられなかった水嶋は、コバに助けを求めた。
当初彼が考えたのは、銃本体の改良だ。
コバの事は変人だとは思いつつ、その頭脳と技術力だけは認めていた水嶋。
モールマンの岩を貫くには新たな銃を作ってもらい、それを自分の能力で作り出せるようにすれば良いと考えたのだ。
そして水嶋から話を受けたコバは、それを一蹴した。
「水嶋翁、それはまだ早いのである」
「早い?どういう意味だ?」
「その銃は確かに見た目は古い。しかし、貴方の能力で作られた銃である。だから銃本体ではなく、弾の方を変えるのが良いと吾輩は思うのだが」
「弾か・・・。そうなると更に貫通能力を上げる為に、もっと鋭い弾を作るのか?」
水嶋の考えでは、とにかく岩を貫く事を重視していた。
しかし、コバの考えは違う。
「水嶋翁は、モールマンを倒したいのであるな?」
「当たり前だ」
「それなら貫通させるのではなく、炸裂させた方が良いのである」
「さ、炸裂!?」
「モールマンの生命力は強い。貫通させたところで、心臓を撃ち抜かなければ死なないであろう」
コバはモールマンを解体していたので、心臓の位置は知っている。
それを撃ち抜くのも、水嶋の能力を持ってすれば可能だとは頭の中では分かっていた。
しかし問題もあった。
モールマンの岩の強度が、更に上がった場合である。
如何に貫通させようとしても、岩が硬くなってしまえばそれも難しくなる。
コバはそれを踏まえて、違う弾の方が良いのではと提案をしていたのだった。
「炸裂させるような弾を、銃で撃つのは危険なのでは?」
「その通り!だからその銃に、発射器を装着させるのである」
「なるほど。して、何処に取り付けるのだ?」
「此処である」
銃身の下を触るコバ。
大きさはこれくらいだと、銃を持ち説明する。
「バランスが変わるので、最初は撃ちづらいかもしれない。しかし使い分けが出来るようになれば、かなり強力になるのである!」
「よろしく頼む!」
一週間後、コバによる新たな擲弾発射器を装着し、彼はそれを試し撃ちすると、素直にその威力に驚いた。
「凄いな!」
「これがグレネードの威力である。水嶋翁は弾も作れると聞いているのだが」
「普通の弾なら作れるぞ」
「ならばグレネードの作り方を教えるので、試してみた方が良いのである。いざという時、弾切れになったら困るであろう?」
「ふむ、コバの言う通りだな」
水嶋はコバのアドバイスを聞き入れ、グレネード弾の作り方を教わり始めた。
が、予想以上に火薬等の専門知識が多く、それは困難を極めた。
「う・・・うぅ・・・日本語で言ってくれ・・・」
「日本語である」
「もう少し分かりやすく」
「これでも丁寧に説明しているのである」
「・・・」
根を上げる水嶋に、コバは知らんと追い打ちを掛け、その説明は分かるまでずっと続けられた。
三日近く経つと、何も考えずに頭の中に詰め込んだのか、ようやく水嶋も理解をし始める。
「で、出来た。これが俺の作った擲弾か」
「見た目は同じであるな」
自分の作り出した弾を、感慨深げに見る水嶋。
それを発射器に装填すると、的に向かって無造作に撃った。
「おぉ!同じだ!」
「水嶋翁、これでグレネード講習は卒業である」
「やった!」
両手でガッツポーズを作る水嶋。
やっと勉強地獄から抜け出せると、年甲斐も無くはしゃいでいる。
「そういえば水嶋翁は、狙った場所なら当てられるのであったな」
「そうだが」
「では端まで移動して、そこから的へ撃ってみるのである」
「それがどうかしたか?」
射撃場の端まで走って移動すると、的を見てすぐに発射する。
コバは見事に命中したのを確認すると、彼に重要な事を告げた。
「やはり。貴方の銃は特別だ」
「どういう意味だ?」
「そもそもグレネード弾というのは、比較的近接距離で使う物なのである。しかし水嶋翁は、見ればそこまで飛ばせる能力がある。それは最早、新しい未知の兵器と言っても過言ではないのである」
コバの説明を受け意外な事実を知ると、彼は更に試し撃ちをしようとする。
今度はスコープを覗いて、擲弾を発射した。
的のど真ん中に命中すると、彼はその力を確信する。
「これは良いな。モールマンを一方的に攻撃出来る」
「装填数が一発しかないのが難点であるが、水嶋翁なら使いこなせるであろう」
「ありがとう、コバ。俺もまだ戦力になると分かった。今度、酒でも奢らせてくれ」
こうして水嶋は、新たな力を手に入れたのだった。
「蘭丸と水嶋殿の活躍で、周りにモールマンが居ないのだが・・・」
又左は敵地のど真ん中に来たつもりが、敵が少ないとぼやいている。
それもそのはず。
又左が中心へ突撃していくのを見た蘭丸達が、それをサポートしようと周りのモールマンを排除したからだった。
又左の予定では中心で槍を振り回し、周りに居るモールマンを蹴散らそうという算段だったのだ。
それが出来ずにぼやいていると、突然左から炎の玉が飛んでくる。
「何だ!?」
今までとは違い、玉の形をした炎に驚く又左。
するとその視線の先に、雰囲気の違うモールマンを発見する。
「ほうほう!お前がこのモールマンの親玉か?」
「そうとも。俺が王からこの部隊を任せられたのだ」
まさか空飛ぶモールマンの中にも、言葉を喋る者が居るとは思わなかった。
又左はその驚きを隠しつつ、そのモールマンの様子を窺う。
他のモールマンは基本的に、四つん這いの姿をしている。
ワイバーンを食べて、魔物化したような姿になったからだと思われる。
だがこのモールマンは二本足で立ち、鳥人族のように空を飛んでいた。
炎を吐いたのか、それとも違う攻撃だったのか。
又左は親玉を警戒しつつ、奴を見回す。
「おっと!」
モールマンはバックステップをするように、後ろへと下がる。
すると蘭丸の放った矢が、さっきまで居た場所を通過した。
初めて蘭丸の矢が避けられたのを見た又左は、モールマンへの警戒感を強める。
「お前、ワイバーンと人を食べたな?」
「半分正解」
半分と言われた又左は、人しか食べていないのかと勘繰っていると、モールマンが急に襲ってきた。
「ぬおっ!?」
「惜しい!呆けているから当たるかと思ったが、流石は魔族の槍使い」
「貴様、私を知っているのか?」
「知ってますとも。安土の魔王の片腕にして、槍の名人。槍の又左と呼ばれている」
片腕と呼ばれて、満更でもない顔をしていると、その顔の横を爪が通り過ぎる。
「チッ!今のは本当に当たると思ったのに」
「この!」
槍を振ろうとする又左だが、接近されていて上手く取り回しが効かない。
距離を取ろうと一旦下へ落ちると、それに付いてくるモールマン。
「無駄だよ。アンタの強さは知っている。そして、その弱点も同様だ」
接近戦で挑んでくるモールマンに、又左は槍が動きを制限して上手く動けないでいる。
トライクを動かしながら槍で爪を弾くのに精一杯で、攻撃には転じる事が出来ない。
「どうした、槍の又左。このままだと、いつかは爪に引き裂かれるぞ」
「バケモノが知った口を!」
「だが、アンタは攻撃の手を封じられている。もう打つ手は無いだろう」
攻撃の手を緩めず、又左を煽るモールマン。
舐めた態度を見せられ続けた又左は、段々と怒りが溜まってくる。
「お前、いい加減にしろよ」
「おや?攻撃が出来ない事で、八つ当たりですかな?」
「誰が攻撃出来ないって?あぁ!?」
「なっ!何を!?」
又左は槍をそのまま手放すと、腰に差していた剣でモールマンの脇を斬り裂く。
刃は岩の隙間に入り、出血するモールマン。
その一撃でモールマンは後ろへと下がり、今度は炎を吐いてくる。
しかし又左はそれを、トライクを操り軽々と避けてみせた。
「なんだ、あんな簡単な攻撃も避けられないのか。たかが知れてるな」
「おのれ!だが槍は手放した。まぐれ当たりで喜ぶようなお前には、もう勝ち目は無いさ」
煽り返す又左だったが、槍を手放させた事で更に煽るモールマンだったが、それを聞いた又左はニヤリと笑う。
「誰が手放したって?」
その直後、又左がトライクを急上昇させると、モールマンもそれに付いていく。
今度は急ブレーキを掛け、再び最初に出会った空域まで戻ってきた。
「ど、どうして!?」
「ハハハ!だから言ったであろうが!」
下から槍が、結構なスピードで飛んでくるのを見たモールマンは、驚きの声を上げた。
よく見るとトライクの後方には、細いワイヤーが付いている。
そしてそのワイヤーの先には、石突の部分にあったフックと繋がっていた。
「誰が槍を捨てたって?フハハハ!空でも戦えるように、こちらだって用意はしているさ。さあ、距離は取った。今度はそう簡単に近付かせはしない。反撃と行かせてもらおうか!」




