長浜の攻防
長浜の危機とあっては、秀吉も気掛かりで仕方ないだろう。
そう思っていたのだが、意外と達観していた。
悔しそうではあるが、しょうがないみたいな感じなのだ。
僕がもし安土を離れて同じ立場だったら、そんな悠長に構えていられたかな。
帝国に攻められたあの時、かなりの人数の人達が亡くなった。
ラーメン屋で顔馴染みだった人も居なくなったし、背が伸びるようにとよく牛乳をくれたおばちゃんも居なくなった。
頭の回転が追いつかなくて最初は悲しみも薄かったけど、徐々に感じたあの怒りは、今でも忘れる事は無い。
ただ、その怒りをそのままぶつけるのはどうかと今は思っている。
タケシや沼田みたいな召喚者も居るし、ギュンターやマルテ達みたいな帝国の人間も、話せば分かると知ったしね。
話は戻るけど、今回のモールマンの襲撃はあの時の安土と同じにはならないと思っている。
モールマンは人を食べて力を得るという、僕達の常識外の存在だ。
あの時と違って、とにかく襲って食べ尽くすんだと思う。
願わくばあの時の安土のような、火の海にはならないでほしいものだ。
僕は知らぬ間に、握り拳を作っていた。
僕が無意識に作ったのか、兄の意識がそうしたのか。
どちらにしろ官兵衛の事後報告は、僕達を安心させるには十分だった。
「官兵衛、本当によくやった!」
「これがオイラの仕事ですから。また何か分かり次第、連絡します」
官兵衛との電話を切ると、僕の様子を見た他の者達が何があったのかと聞きたそうにソワソワしている。
「官兵衛がやってくれたよ。長浜には今、又左達が滞在しているみたいだ」
「なんと、兄上が!?」
「官兵衛さん、そんな先まで見据えてたんだ。凄いね」
凄いなんてもんじゃない。
彼のおかげで、モールマンの狙いは打ち砕いたと言っても良い。
秀吉も黙ってはいるけど、安堵したのかゆっくりと椅子に座った。
「良かったな」
「えぇ、本当に。官兵衛殿には感謝しかありませんよ」
もしかしたら、テンジから救援の連絡が入るかと思ったが、これなら安心だ。
「官兵衛、安土が誇る最強の頭脳ですね」
「ウケフジ殿は、彼を高く評価していましたよね」
「そうですね。本音を言えば、すぐにでも雇い入れたいところですよ」
「絶対に手放さないと思いますよ」
「ハハッ!分かってますよ」
ウケフジとオケツの会話から、官兵衛の評価の高さが窺える。
秀吉も官兵衛を引き抜こうとしたくらいだし、ぶっちゃけ評価が高過ぎて困るところもあるんだよね。
それはある意味引き抜きではなく、命を狙われる確率も高いという事だから。
「しかしどれだけのモールマンが、長浜へ向かっているんでしょうか?」
「それ、僕も気になりました」
太田とハクトは、蘭丸の事が心配なようだ。
越中国とトキド領が同じくらいの数だとすると、長浜へ向かったモールマンの数は倍以上という事になる。
「イッシー殿は参戦していないのか」
「タツザマ殿は、イッシー殿が気になっているようでござるな」
「拙者、彼と手合わせをしたが、かなりの強者でしたぞ」
「イッシー殿の戦い方は、変則的でござるからな。指揮を執りつつサポートも上手い。イッシー隊は拙者達も、敵だと戦いづらいでござる」
タツザマは逆に、イッシーの評価が高いのか。
数回ぶつかっただけで、イッシーはタツザマに殺されるかと思ったと言っていたんだけど。
もしかして、伸び代的なところも見てくれてるのかな?
年齢的には、そろそろ落ち目な気がするんだけどね。
「魔王様、テンジと連絡は取れないのですか?」
「秀吉、気になるの?」
「そうですね。モールマンの数も気になりますし、被害状況も知りたいです」
「なるほどね」
同時進行という事なら、おそらくはもう戦っている。
もしくは戦闘は終わっている頃だ。
いや、ベティ達が早過ぎただけで終わってはいないかな。
戦闘中に電話するのも気まずいし。
「もう少し後にしない?戦闘中だと、邪魔になっちゃうでしょ」
「それもそうですね。そんな早く戦闘が終わるのは、佐々殿だからですね」
秀吉も素直に引いてくれた。
気になるけど、又左達が居るはず。
問題は無いだろう。
遡る事、半日。
長浜ではジャイアントと又左達による、高台の上で防衛の話し合いがされていた。
「カレリン殿、地上は任せて良いか?」
「問題無い。地上、地底は我等が領域。異変があれば、すぐに気付く。その代わり、空は任せたい」
「承知している」
「しかし、モールマンが本当に空を飛ぶのか?」
「ウチの軍師が報告を聞いている。そして、何処かでこの長浜へやってくるはずだと」
空飛ぶモールマンを見ていないカレリン達は、半信半疑の様子。
又左は官兵衛を信頼しているので、長浜へやって来た事には異論は無いが、やはり自分の目で確認していない為、内心ではカレリン同様に疑っていた。
「又左、蘭丸、騒がしくなってきたぞ」
「水嶋殿、何処がです?」
又左は周りを見回しても、森や林に特に変わった様子は無い。
カレリンの方も他のジャイアントから、地底の異変は無いと聞いている。
「まさか!?」
又左が水嶋に声を掛けようとすると、森の中から一斉に鳥が飛び立つ。
「何だ!?鳥?」
「違うな。奴さん、来たぞ」
鳥達が飛び出してきた後、森の中から大きな何かが一斉に空へと上がっているのが見える。
水嶋はそれに対してすぐに勘付くと、銃のスコープを覗き込んだ。
「官兵衛の言っていた事が当たったぞ。翼を生やしたモールマンだ」
「あの数、全てか!?」
「どうやらそのようだ」
水嶋の言葉に、カレリンは驚きを見せた。
予想外に多い。
カレリンの中では一万に満たない数だと予想していたのだが、その数は倍近く飛んでいるからだ。
「蘭丸、来るぞ!」
「分かった!」
水嶋からの合図に、高台の下で待機していた蘭丸は、大きな弓を構え、そして空に見える黒い塊へと放った。
「当たれ!」
風魔法が付与された矢は、轟音を立てながら空へと上がっていく。
モールマンの一団の中に矢が消えると、数体のモールマンが地上へ落下していった。
「貫通したのか!?」
「蘭丸の弓は、銃よりも強い。モールマンの岩如き貫通するさ」
カレリンが蘭丸の弓の凄さに驚くと、水嶋がその凄さを代弁する。
蘭丸には聞こえていなかったが、水嶋の言葉にカレリンは、自分の外殻も突き破られそうだと危機感を心の中で感じた。
その直後、蘭丸の声が響き渡る。
「放てぇ!」
蘭丸が号令を出すと、今度はジャイアント達が一斉に石や岩を投げ始める。
カレリン率いるジャイアントは、皆身体が大きい。
ミルレオ達よりも力が強い彼等は、空に居るモールマンにも届くくらいだった。
「いやぁ、アンタのところも凄いな。地上から投げた岩が直撃するとか、普通は思わんぞ」
「我等はジャイアントの中でも、戦闘を得意とするからな。これくらいの力はある」
水嶋は再びスコープを覗くと、地上からの岩にぶつかり落下していくモールマンを見た。
カレリンは水嶋の言葉に胸を張り、当たり前だと鼻息を荒くする。
「そろそろかな」
地上からの投石による攻撃が止むと、又左が高台から飛び降りる。
下には既に、又左の部隊である半獣人達がトライクに跨って待機していた。
遅れてトライクに跨った又左。
「行くぞ!奴等を元居た場所へと叩き落とす!」
又左の号令で、空へと上がっていくトライク。
生き残ったモールマンへ、突撃を開始した。
「よし、俺も出る」
「ここから援護するから、任せておけ」
今度はカレリンが勢いよく飛び降りると、地面にズドンと激しい音を立てて着地した。
「俺達は、落ちたモールマンのトドメを刺しに行く。野郎共、続け!」
カレリンの合図でジャイアント達が、一斉に前進を始めた。
ギチギチと音を鳴らしながらの前進は、なかなか圧巻である。
「来たか」
「俺の役目は終わったからな」
又左とカレリンの代わりに、今度は蘭丸が高台へと上がってくる。
二人の役目は、高台から又左達トライク隊への援護だ。
「ジャイアントの投石で、予想より多く落ちた。又左達は楽かもしれんな」
「そうかぁ?」
「だったら見るか?」
楽観視する水嶋に、蘭丸は異を唱える。
スコープを覗く水嶋には、又左達の姿がハッキリと見えていた。
蘭丸もそれを覗かせてもらうと、見えたのはトライクの上ではしゃぐ又左の姿だった。
「久しぶりの実戦じゃあ!」
通常よりも長い槍を、トライクの上で振り回す又左。
それだけで、近くのモールマン達を吹き飛ばしている。
「うおっと!」
前後左右からの炎を避けると、今度は上下からの炎に堪らず逃げる又左。
するとその又左の左右から、部下である半獣人達が駆け抜けていく。
「それっ!」
一人の女性が投げた分銅を、もう一人の男が受け取る。
その分銅には太いワイヤーが付いていて、二人は分かれてモールマンの横を飛んでいく。
後方に回り込むと二人はすれ違い、また元の場所へと戻ってきた。
翼をワイヤーで封じられたモールマンは、地上へ落下していった。
「なかなかやるな」
又左達は空に上がって気付いた。
モールマンの動きが鈍い。
「隊長、どうしてなんでしょうか?」
「能力を生かしきれてないんだろう。ワイバーンを食べたと思われるが、翼が生えて炎が吐けるようになっただけで、どちらもまだ慣れていないのだ」
「なるほど。流石は隊長」
最後に小声で多分と付け加えた又左だったが、それは二人には聞こえていない。
「隊長!後ろ!」
女性の声に振り向きもしない又左。
又左に向かって、爪を立てて襲ってきたモールマン。
そのモールマンの脳天を、太い矢が貫いていく。
「凄い!」
蘭丸の矢に賞賛を送る二人。
それを聞いた又左は振り返る。
「そういう事・・・え?」
「え?」
驚く又左に、それを見て驚く二人。
「どうしたんですか?」
「モールマンは?」
「頭を貫かれて、落ちましたけど」
「頭を!?」
不思議そうな顔をする二人。
又左は予想外の出来事に、平静を装おうとしているが、動揺が隠せていない。
又左の予想では、矢はモールマンの身体の何処かに当たり、矢が当たった事で怯み、自分への攻撃が逸れると考えていたのだ。
まさか頭を貫いて落下していくとは思わず、弱ったモールマンを二人がトドメを刺したものだとばかり思っていた。
「ら、蘭丸め、ここまで腕を上げていたとは」
「今や安土で一番の腕前じゃないですかね」
「私もそう思います」
二人からすると、安土一の弓取りは蘭丸という事らしい。
又左は二人と違い、弓ならイッシーか母親の長可さんのイメージがあった。
「そ、そうだな。蘭丸もまぐれにしてはやるようになった。・・・狙ってるのか?」
又左の前を矢が飛んでいくと、再びモールマンの頭を貫く。
まぐれ当たりだと思っていたのに、それが続くという事は・・・。
「この威力でこの精度。恐ろしいな」
「ちなみに水嶋殿は、何をしているんでしょうか?」
「魔法が付与されている蘭丸殿と違い、距離があるからな。水嶋殿では、なっ!?何だ今のは!」
水嶋の銃声が響くと、あるモールマンに着弾した。
するとそのモールマンは、急に四散してしまったのだ。
「アレ?知りませんでした?水嶋殿がコバ殿と一緒に開発した、対モールマン用の弾です。名前は擲弾、もしくはグレネードと呼ぶらしいですよ」




