見誤るその2
僕は思うんだよね。
人間、誰しもが何かしらで必ず失敗や敗北を経験するんだと。
それこそ僕達だって、しょっちゅうしている。
安土を帝国に攻められたのは、未だに忘れられない失敗だし敗北でもある。
どんなに人生の勝者と呼ばれる人だって、ジャンケンくらい負けた事あるでしょうよ。
じゃあその敗北を、その後にどうするかというのが大きな分岐点だと思う。
負けたままショックで、起き上がれない人も居るだろう。
僕はそれを侮蔑するような事でもないと思うし、かと言って起き上がれるように手を貸すのもどうかと思っている。
例えば、事業に失敗した人を慰めるとしよう。
慰める人って、何て声掛けるの?
自己満足じゃない?
それで立ち直る人っていうのは、勝手に這い上がれる人だと僕は思う。
失敗や敗北は、繰り返さない為の糧となる。
それをどう捉えるかは、その人次第だとは思うけどね。
ベティも今までと違い、集団戦の強さを知った。
今後の彼は、更に強くなるだろう。
しかし!
一つだけ言える事がある。
僕の背が伸びないと言った事は許せない。
ダークエルフの成長期は、まだ来てないだけ。
これから背が伸びて、蘭丸のようにイケメンになり、女の子にキャッキャウフフされる人生が待っているはず。
それをこの男、いやオカマは。
「マオくん、ちょっとマオくん!」
「ハッ!イラッとして現実逃避してしまった!」
「というわけで、アタシ達の完勝よん」
「そ、そうか。モールマンなんかには負けないとは思ったけど、圧勝するとはね。流石だよ」
「アリガト」
少しは苦労すると思ったけど、やはり空で鳥人族に挑むというのは甘かったみたいだな。
モールマンは鳥人族の強さを、大きく見誤ったようだ。
誰がこの作戦を考えているのか知らないが、後手に回ったけどまだ穴がある事は分かった。
「最後に一つ言っておく」
「何かしら?」
「僕はまだ成長期が来てないだけだ。これから伸びるんだよ!それくらい分かっとけ。バーカ!バーカ!」
フゥ、言ってやった。
反論が来る前に電話も切ってやったし、僕の完勝である。
「お、大人気ないですね」
「労いの言葉を言いつつ、最後に貶すとは。魔王、恐るべしでおじゃる」
「初めて魔王様が、子供っぽいと思ったよ」
なっ!
ギュンターや帝、オケツ達にまで僕を憐んでいるような目で見ている。
どうしてだ!?
「オホン!越中国の危機は去った。残るはトキド達だけど」
「間に合わないでしょうね」
ウケフジが言うには、トキド領まで休まずに飛ばして戻っても、一日は掛かるという。
しかもトキド領に戻って戦う事を考慮すると、やはり休憩は必要という話だった。
「全滅はしないでしょうが、被害は出る。そう言いたいのでおじゃるな?」
「はい。しかしワイバーンの死体を、モールマンに持ち帰られなければ、ある意味で引き分けた事になると思います」
「え?勝ちではなく引き分け?」
ウケフジの言葉に、皆も少し困惑気味だ。
だけど、なんとなく分かる。
単純な話をすれば、ワイバーンの死体を持ち帰られなくても、戦力としては低下した事を意味する。
持ち帰られたら完敗だが、ワイバーン隊がやられてもモールマンからしたら、それはそれで良い。
何故なら、空の有利性はモールマンに傾くのだから。
「なるほどね。流石はウケフジ殿ですな」
「阿形殿と吽形殿も、気付いていたみたいですけどね」
「えぇ、まあ」
彼等も似たような経験があるから、分かると言っていた。
後から聞いた話だと、森が焼かれた件がそれに当たるという。
若狭国の守備は、あの時の一件で大きく傾きかけたからな。
分からなくもない。
「でも、ちょっとおかしくないか?」
「何が?」
「俺が確認したモールマンと、人数が合わない。それってトキドさんのワイバーン狙いに、大半を注ぎ込んだって事か?」
「それは・・・」
可能性は無くはない。
しかし普通ならトキドのみ、もしくは越中国だけを攻撃するのが普通だろう。
タケシが珍しくマトモな意見を口にした事で、皆も少しずつ冷静になっていく。
「少し良いかな?私の被害妄想的な考えかもしれないけど、両方とも囮の可能性は?」
「何の為に?モールマンは、航空戦力を必要としているんじゃないのか?」
「確かに!確かにその通りなんだけど、なんとなく引っ掛かるんだよ」
オケツの考えは的外れだ。
そう言う連中とそうでない連中で分かれたのだが、僕もオケツの意見に賛成な部類だ。
しかし、その理由が分からない。
一度整理してみよう。
モールマンは、空からの攻撃の優位性に気付いた。
その為、ワイバーンや鳥人族といった飛行能力のある連中を狙っている。
もし更なる力を欲するとしたら、どんな能力だ?
更に強い飛行能力を持つ者?
これは違う気がする。
飛行能力に匹敵する力?
飛行能力に勝てる力?
「・・・分かったかもしれない!」
「何が?」
「モールマンの次の狙いだよ」
「それは何でおじゃるか?」
「モールマンが次に狙うのは、魔族だ」
僕の考えが的外れかもしれない。
見当違いな意見を言っているのかもと、自分でも感じている。
だけどそんな気がするんだ。
「何を根拠にそう思ったでおじゃる?」
「根拠・・・。そうだな、まずは飛行能力についてだ。モールマンのトップは、空からの攻撃の脅威を知っている。だからそれを求めた」
オケツ達に話しながら考えをまとめているが、それを少しずつ口にしているからか、自分でも頭の中で整理出来てきた気がした。
「飛行能力を持ったモールマンは、炎を吐く以外の能力として、手を使える者も欲しいと考えた。理由は多分こんな感じかな。空から弓が撃てると強いとかね」
「騎士の中には、弓が得意な者も居ますね」
「そ、そうだよ!トーリは弓使いが多い事で有名だ」
トーリが毛利と同じなら、三本の矢の話くらいは知っているけど、弓が得意かなんて話は知らない。
その辺は日本と違うんだろう。
「空から遠距離攻撃が出来れば、一方的な蹂躙も可能だ。しかしそれは、ヒト族に限ればの話だと思う」
「どういう意味ですか?」
ギュンターが聞き返してくると、ハクトはそれに対しての答えを口にする。
「魔法?」
「その通り。ギュンターのような弓使いなら、空高く飛んでいるモールマンでも、急所を狙い撃つ事が可能かもしれない。だけど普通の人には、そんな攻撃は不可能だ。だけど、魔族は違う」
「そうか!飛行能力の優位性は、地上からの魔法には通用しないかもしれないんだ!」
帝国や騎士王国の面々が納得しているが、僕やハクトはそうは思っていない。
おそらくマルテも同じ事を考えるだろう。
「それはね、魔法に対して無知だからそう思うんだよ。魔法だって弓と同じだ。魔力が多ければ強い魔法が使えるけど、弱い魔力しか持たない人は、非力な弓使いが空飛ぶモールマンに撃っても届かないのと同じなんだよ」
「確かに弓よりは、攻撃として通用すると思います。それだけの魔力を持っている人も結構居るし」
「問題は魔力があっても、素養があるかどうかという点もある。例えば、太田や慶次はハクトと魔力量は大きくは変わらない。だけど二人とも、魔法の適性はそんなに高くないんだよね」
「二人は身体強化が主な使い方で、僕のように魔法を使う事が得意なわけじゃないんです」
ちょっとした魔法談義になってしまったが、おかげで騎士達もタケシ達も理解出来たらしい。
しかし、問題は何処を狙うかという点だ。
「最初は安土が狙いかとも思ったけど、そうじゃない。もし安土が本命なら、しょっちゅうちょっかいを出すよりは、奇襲で一気に攻め込んだ方が効率的だと思う」
「しょっちゅう来るから、守備が厳重になりましたな。ゴリアテ殿が頭を悩ませていましたから」
「何処なんだろう」
これは流石に、僕達が考えても答えは出ない。
そんな中、少し複雑そうな顔をしたギュンターが意見を言ってくる。
そして、その答えが分かったのか、秀吉も顔を歪める。
「私の予想ですけど、長浜だと思いますな」
「長浜ぁ!?どうして?」
「まず、私も知らない越前国は除外です。まず越中国は今回襲撃されたので、外しておきます。次に若狭国ですが、可能性はあります」
その言葉に、阿形の眉がピクリと上がる。
吽形も睨むような目つきで、ギュンターを見ている。
「しかし妖精族も特殊な魔法や技術を持っていて、勝つ為の不確定要素が多く、難しいと思います。だから候補として挙がるけど、無いかと」
「そうなると、上野国は?」
「ドワーフも魔法よりは、身体強化が得意な連中ですよね?土魔法は得意だと思いますが、土魔法は空への攻撃に適していません。彼等が脅威にする程ではないでしょう」
「残るは長浜だけとなるわけか」
「それ以外にも、ネズミ族は魔法が得意な者が多いですよね。体力的には劣っているけど、魔法が得意。モールマンとしては、絶好の相手ではないでしょうか?」
ギュンターの話を聞いていると、確かに腑に落ちる点が多い。
今の説明された通りなら、僕もそう考えそうだ。
「ギュンター殿は、どうしてそう思われたのですか?」
「・・・お答えしづらいのですが、帝国がもし狙うとしたらと考えました」
タケシが不快そうな雰囲気を見せたが、お前も帝国の人間だからね。
こっち側に感情移入してくれるのは嬉しいけど、お前は怒る側じゃないから。
「ギュンター、今それを考えるのはおかしいでしょ」
「馬鹿!そういう考えの下で、モールマンがどう動くかをシミュレーションしたんじゃないか」
「良いよ。確かにギュンターの言う通りだ。長浜の戦力は、他より劣る。だからジャイアントの派遣も一番多い」
しかし空飛ぶモールマンの登場で、それも効果は薄くなってしまったが。
「長浜ですか。私が今から戻っても、難しいでしょうな」
「秀吉・・・」
ほとんど話には加わらなかった秀吉が、その危機に唇を噛み締めている。
確かに秀吉が居れば、安心出来たんだけど。
今となっては後の祭り。
「どうする?秀吉も戻るか?」
コルニクスに無理を言えば、一日か二日で長浜まで戻ってもらう事は可能だと思う。
例え戻れたとしても、モールマンが襲来した後かもしれないが。
それが分かっている秀吉は、冷静にそして丁寧に断ってくる。
「無理でしょうな。私の為に戦力を割くのは勿体無いです。安土の貴重な戦力ですから」
こんな話をしていたせいか、周りの空気はめちゃくちゃ重い。
トキドはワイバーンの為にドタバタしながら戻り、越中国は完勝したとはいえ、奇襲に遭った。
そして今、長浜がこれから攻撃されるかもと分かっていながら、何も出来ないのだ。
歯痒い気持ちで一杯である。
「マオくん、せめてテンジさんに連絡してあげたら?」
「確かにな。先に伝えておけば、少しは事前準備が出来るだろうし」
ハクトに言われ携帯を取り出すと、すぐさま電話が掛かってくる。
まさかテンジからの、救援依頼?
それともベティの報復電話?
どっちも出たくないと思いつつ、覚悟を決めて電話に出る事にした。
「も、もしもし?」
「あ、出ましたね。騎士王国が大変だとは思ったのですが。安土の定期連絡の報告です」
「官兵衛?」
まさかの定期連絡の電話とは。
そういえば、そろそろそんな時期だった。
「どうされましたか?」
「いや、ちょっとね。越中国が攻撃されたって連絡が来た」
「空飛ぶモールマンですね?とうとう来ましたか。そうなると、長浜もすぐに襲撃されるでしょう」
「えっ!?何で知ってるの!?」
「空飛ぶモールマンが襲来してから、後々狙われるなら魔法を使う者だと考えておりました。ジャイアントの守備だけでは不安でしたので事後報告となりますが、蘭丸殿と又左殿、水嶋殿に部隊を率いて長浜へ向かってもらっています」




