ニューベティ
騎士というのは個人と集団、どちらが強いのか?
答えは後者らしい。
魔族の場合、個々の力が強ければ結構何とかなる。
分かりやすい例が、秀吉やお市だろう。
彼等は一人で何人もの相手が出来るからだ。
個vs集でも活躍するし、個vs個でも戦える。
まあ個人戦になってしまうと、接近されると弱そうな気もするけど。
ただし秀吉は、佐藤さんから逃げ切った実績もある。
それを考えると、接近すら難しいんだろう。
ちなみに僕も集団戦の方が得意だけど、流石に佐藤さんから逃げ切れる自信は無いなぁ。
とは言っても、兄と瞬時に交代するという裏技があるので、問題無いんだけどね。
話を戻すが、騎士は魔族と違い、一人で大勢を相手にするというものではない。
その代わりに集団戦をするというわけだが、今モールマンと戦っているトーリ軍は、その集団戦がとてつもなく強いらしい。
個々人で突出した人物は居なくとも、部隊毎の強さが際立っているという。
それを聞いた僕は彼等に、日本人と似てるなぁと親近感が湧くのだった。
・・・。
「マオくん?電話は誰なの?」
「ハッ!た、倒して良し!むしろ全滅!殲滅!撃滅して!」
あ、危なかった。
あまりに唐突な話に、頭がショートしてしまったらしい。
「魔王様からの許可も出たわ。皆、殺って良し。それじゃあ魔王様、また後で連絡するわね」
一方的に喋ったベティは、電話を切った。
ちょ、ちょっと頭が回らない。
こういう時、官兵衛が居てくれれば。
いやいや、こういう時こそ頑張らなくては。
「誰だったの?」
「ベティだった。越中国にも、空飛ぶモールマンが来ているらしい」
「えっ!?」
僕の声に、阿形達も反応する。
いつものクールな感じではないから、ちょっと新鮮な阿形と吽形が見れたのは良かった。
「ベティというのは?」
ウケフジからの質問に僕達が答えると、彼はすぐにこう言った。
「なるほど。狙いは空ですか」
「空?」
「僕も理解した。航空戦力を手に入れようって魂胆だ」
モールマンの狙いは、トキドのワイバーンと鳥人族達の翼だ。
共通して言えるのは、空が飛べるという事だろう。
「アレ?トキドは?」
「今の言葉を聞いて、すぐに出ていかれましたよ」
ワイバーンが狙いだと分かり、慌てて部隊を引き連れて帰ろうという考えのようだ。
もしかしたら、東側の戦力を御所に集めようという考えも、モールマンに読まれていた可能性もある。
じゃないとこんなタイミングで、トキド領へ攻撃を仕掛けないだろう。
「マズイですね。トキド殿のワイバーンは、他とは比べ物にならないくらい屈強です」
「となると、拙者達がタツザマ領で出会ったモールマンより、更に強力になるかもしれないと?」
タツザマの言葉に頷くウケフジ。
しかし、トキドのワイバーン隊だって黙ってやられるわけじゃないはず。
「トキドが戻るまで、持ち堪えられれば問題無いのだが」
「鳥人族という種族は、どうなのでおじゃるか?」
「鳥人族は・・・」
鳥人族は集団戦に弱い。
トキドのワイバーン隊との戦いで、それが露呈したベティ達は、今までとはやり方を大きく変えた。
今までの鳥人族の戦いは、あくまでも個人戦の延長。
一人一人が敵を叩いていけば、自ずと勝てるというのが彼等の戦い方だった。
何故、そんな戦い方をしていたのか。
その大きな理由として挙げられるのが、空中戦をする機会が無かったからだと言える。
魔族の中でも、空を飛べる種族は限られている。
鳥人族以外で飛べるのは、おそらく妖精族の一部と妖怪の一部だけだろう。
その為彼等は、空での敵というモノに遭遇する機会が少なかった。
そんな中で出会った、トキドのワイバーン隊。
彼等は一人一人が強いというよりも、集団戦での戦いに慣れていた。
そしてそのワイバーン隊を率いるトキドは、個人の能力も傑出していた。
初めて空での戦いに敗北した彼等は、その存在意義が大きく揺らいだ。
空での自分達に、勝てる敵は居ない。
そんな考えを打ち砕かれた彼等は、初めて今までと違う方法を取った。
彼等は今まで、個人で一番強い者が領主を務めるというやり方を取っていた。
その為集団戦の訓練を、行った事が無かったのだ。
しかしトキドに敗北したベティを見た鳥人族達は、考えを改めた。
個人個人での勝手な戦い方は、戦場において負けると。
そして彼等は、領主に挑む事を止め、ベティを指揮官とした新たな戦い方への取り組みに入った。
「アナタ達、良いわね。これはいわば、アタシ達の復帰戦。新しいアタシ達の門出なのよ」
「イエス、マム!」
「あんな地底から出てきたばかりのバケモノ共に負けたら、恥以外の何物でも無いわ。分かってるわね?」
「アイアイマム!」
「魔王様からの許可も出てるわ。全滅で殲滅、そして撃滅。全てを滅ぼしなさいという事。魔王様には感謝しないとね。気兼ねなく、ぶち殺しなさいという御言葉なのだから」
意味合いとしては間違ってないが、そこまで不穏な言い方はしていない。
遠くの地でそんな捉えられ方をしているとは、露程も知らない魔王。
だが、おかげで鳥人族達の士気は高い。
「こんなのに手こずってたら、またトキドちゃん達に負けてしまうわ。アタシ達の新しい戦い方、トキドちゃんに見せる前の総仕上げとして、奴等で試すわよ!」
「アイアイマム!」
ベティの声と共に、翼を開く鳥人族。
足が木の上から離れ、全員が空へと舞い上がる。
「来たわね」
越中国の南方から、空を飛ぶモールマンが飛んでくる。
数にして約五千。
今回戦闘に参加する鳥人族と五分の人数だった。
「皆、行くわよ。ベティィィィィビクトリィィィィフォーメーション!」
ベティを先頭に、Λの形になる鳥人族。
そしてベティ以外の鳥人族達は、盾を準備する。
右側の者達は右腕に装着し、左側の者達は左腕へと盾を取り付ける。
全員の装備が終わった時、再びベティの声が空へと響く。
「ベティィィィィセット!行くわよ、ついて来なさい。ンンンン!ゴー!」
ベティは両手に双剣を持ち、真っ直ぐモールマン達へと突撃を開始する。
すると摩擦熱で翼から炎が舞い上がると、それが後ろの鳥人族達へと伝播していく。
Λの形に陣形をしていたのは、後ろの者達にも炎が伝わるようにという意味だった。
その盾は防炎加工されていて、尚且つ頑丈な魔物の素材だ。
おもいきりぶつかった所で、盾が壊れたりする代物ではない。
「死になさい。ベティィィィィスピイィィィン!!」
モールマンの一団へと入る直前、ベティは双剣を前に突き出して回転を始める。
炎が渦へと変わり、大きな炎の渦巻きが発生した。
そのままモールマンへと突撃するベティ。
双剣がモールマンの岩へと当たると、回転したベティによりドリルのように穿たれる。
腹に大きな穴が開き、更に腹の穴から炎が燃え移る。
後ろへ、更に後ろのモールマンへ。
ベティは一直線にモールマンの一団を抜けていく。
そしてベティの後ろへ続く鳥人族達は、その盾により体当たりを敢行していた。
しかし、ただ体当たりをしているのではなく、盾の隙間からは小さな刃が飛び出していた。
前方の盾にぶつかったモールマンは、身体を覆う岩は砕かれ、後方の鳥人族の刃で切り刻まれる。
更には岩が剥がれた箇所から炎の渦に巻き込まれ、彼等は裂傷と火傷を同時に食らうという状態へと陥っていた。
モールマンの一団を突き抜けたベティは、空中で立ち止まるとクルリと後ろを振り返り、一撃の戦果を確認する。
「半分以下にはなったわね」
ベティ達の突撃で、モールマンの大半は落ちていった。
身体に大きな穴が空いた者や、全身を炎に巻かれて炭になって落ちていく者。
中には丸焼きにされた味方に、巻き込まれた者も居た。
特にモールマンの一団の中央部分は、損害が大きくほとんどが落ちたようで、真ん中だけがポッカリと空洞になっている。
「次、行くわよ。ベティィィィィビクトリィィィィフォーメーション!トゥゥゥゥ!!」
今度はベティを一番後方にし、Vの字形になる陣形へと変わっていく。
半分に減ったモールマン達は、Vの字形になった鳥人族達に挟まれる形となった。
「さあ、やりなさい。ベティィィィィマジカルフォーメーション!」
Vの字になった鳥人族達は、一斉にある物を取り出す。
それは、クリスタル内蔵の武器だった。
各々が武器の魔法を放つと、中のモールマン達は左右から放たれた魔法に対応出来ずに食らっていく。
のたうち回るモールマンだが、中には炎を吐いて応戦する者も現れた。
しかし水魔法や氷魔法を内蔵された者がそれに対応し、炎はただの水蒸気と化していただけだった。
そんな阿鼻叫喚のモールマン達の姿を、静かに見据えるベティ。
彼はある者を探していた。
「・・・アレね」
彼が混乱するモールマン達の中から、見つけ出した者。
それはモールマンの指揮官だった。
中の様子を見ていたベティは、複数のモールマンが不穏な動きをしている事を察知する。
それは、一部のモールマンの逃走する姿だった。
鳥人族はVの字形に陣形を取っている。
一箇所だけ空いているのを見た一部モールマンが、そちらへと逃げていくのだ。
しかし、それは彼等の罠に過ぎない。
「アタシはね、鳥人族の長、ベティなのよ。鳥人族の長という事は、空の女王じゃないといけないの。分かる?テメー等みてえな地底から這い出てきたばかりの奴に、空で自由にさせちゃあいけねえんだよ」
ベティはそう呟くと、再び双剣を両手に持った。
その双剣を後方へ向けると、大きくある言葉を叫ぶ。
「ベティィィィィブロウゥゥゥイング!!」
ベティを押し出すかのように、風が吹き荒れる。
凄まじいスピードで突撃を開始するベティ。
一瞬の出来事だった。
一部のモールマンに守られながら脱出しようとしていた、指揮官らしきモールマン。
その首が落下を始める。
しかし、自分の首が無い事に気付いていないのか、指揮官らしきモールマンはそのまま逃走を試みるも、数秒後に身体が炎に巻かれ、下へと落ちていった。
「仲間を置いて逃げるなんて、最低な指揮官ね。勿論、アンタ達も同罪」
同じように首を斬られるモールマン。
気付くと、空の上にモールマン達の姿は無かった。
「アンタ達、終わったわよ。ンンンン!ビクトリィィィィ!!」
ベティは勝利の報告をする為に、電話を取り出す。
勿論、相手は魔王だ。
「もしもし、アタシよ。ベティ」
「ベティか!?どうした!?救援要請か!」
「違うわよ。魔王様の御命令通り、全滅させたわ」
「え?」
「言ったでしょ?全滅に殲滅、そして撃滅せよって」
「へ?あぁ、確かに。・・・全滅出来たの?」
「勿論よ。アタシ達の新しい戦い方でね」
ベティは魔王に、自分達がどのように戦い、そしてどのような活躍をしたかを電話で高らかに伝えた。
「というわけなのよ。コレならトキドちゃん達にも、負けないわ」
「やるじゃないか!でも、ちょっと気になる点があるんだけど」
「何かしら?」
「最初に言った、ベティビクトリーフォーメーション?それ、Vの字じゃないよね。ラムダっていう文字の形だから。もっと言うと、偃月陣っていう陣形だからね」
「魔王様、細かいわねぇ。そんな細かい事気にしてたら、背伸びないわよ。会った時から変わらないのは、そんな事ばっかり気にしてるからよ。こう思っときなさい。細けぇ事は良いんだよ」




