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ヒヨコと烏

 すいません。

 何も見えません。

 タケシが戦っている時、僕達はお茶会をしていた。


 いやね、別に楽しむ為に飲んでいたわけじゃないですよ。

 タケシは騎士達に囲まれて、何やら戦っているなというのは分かるんだけど、いかんせん人が多くてハッキリ見えないし。

 だから阿形達の方を見たりしてたんだけど、それはそれで二人とも背が低くて見えないし。

 結論から言うと、本当に危険だなという場所以外は静観してるしか無かったわけですよ。


 しかし!

 その間にウケフジの話はたっぷりと聞きました。

 例えば、身近にマオエという綺麗な女性が居ますよね?

 しかも慕ってきてますよね?

 彼女との関係はどうなのよ!

 と聞いたところ、別に何も無いと言われてしまった。

 分かりやすく説明すると、家族に持つ親愛であって恋愛にはなり得ないとの事。

 ウケフジからしたら彼女は、妹みたいな存在らしい。

 なるほどねと思った反面、逆に彼のシスコン的な一面も聞いてしまったけどね。

 妹のような存在というだけあって、その相手は厳しく見定めているという。

 だから彼女は、未だにお相手がいらっしゃらないとの事。

 僕はゲフーン!ゲフーン!と大きく咳払いをしたんですけど、全く取り合ってもらえませんでした。

 悲しい・・・。









 タケシは顔に掛けられたものが特に毒性が無いと分かると、やっぱりなと自分の中で納得していた。


 タケシはモールマンが吐き出すモノなので、もしかしたら酸のような物だと考えていた。

 パンチやキック、投げ技に関節技等から守る術はあるが、格闘技とは全く関係無い攻撃を食らって耐えられるかは、分からなかった。

 タケシは毒霧を吹き掛けられた後、改めて自分が油断していたと気付く。

 そして太刀の柄の部分で叩かれていた事も、同様だった。



「俺はもう、油断しない」


「当たり前の事を言う。油断して死んだら、それはタダの馬鹿だ」


 上着は掴まれやすいと脱ぎ捨てるタケシ。

 するとモールマンが脱ぎ捨てるタイミングで、猛ダッシュで近付いてきた。

 その大きな手で、タケシの胸を何度も叩くモールマン。



「コノヤロ!コノヤロ!」


 タケシは下がらずに、それを真正面から受け止める。

 十発近く受けたタケシは、お返しとばかりにモールマンへ延髄斬りをお見舞いした。

 よろけるモールマンに対し、タケシは背後へ回るとバックドロップでモールマンの頭を執拗に攻める。



「ワーン!ツー!」


 タケシが叫ぶと、モールマンがスリーカウントの前に起き上がった。

 しかし頭を打ったからか、モールマンがフラフラとしている。

 頭を振ると、モールマンの雰囲気が一変。

 そしてモールマンは、一切喋らなくなった。





 タケシはモールマンへ投げ技をしようと近付くと、頭突きをされてから遠くへ放り投げられる。

 するとモールマンは、何を思ったのか囲んでいた騎士達に攻撃を始めたのだ。

 しかもその一撃で骨をへし折ったりしていて、今までの手抜きのような攻撃ではなかった。



「なっ!?」


 タケシはそれを見て、クエルボの気配が感じられないと困惑する。

 騎士達の肩を借り、空へ飛び上がるタケシ。

 攻撃しようとしていたモールマンへ、そのままフライングボディプレスで自ら飛び込んでいく。



 そのままモールマンへ飛びつくと、彼はそのまま右腕を極めてその腕で顔面を締め上げた。



「どうだ!」


 プロレス技で攻撃するタケシに対し、モールマンは不穏な動きを見せる。

 残った左腕には太刀があり、それをタケシの右太腿に突き刺した。



「ぐっ!」


 痛みに耐えながら顔を締め上げるタケシ。

 周りで見ている騎士達から、大きなブーイングが湧き上がると、モールマンはそれを聞いて何度も突き刺す。

 流石に耐えられなかったタケシは腕を外すと、転がってモールマンから距離を取った。


 しばらくするとタケシの能力である超回復により、足は回復。

 刺し傷も消えて、再び足が動くようになった。

 タケシはさっきまでと雰囲気が全く違うと、モールマンに対して警戒する。



 不用意に近付けないとタケシとモールマンが膠着状態に陥ると、モールマンは不敵に笑った。

 急に太刀をタケシに投げつける。

 太刀を手で叩き落とすと、今度は何か丸い物をタケシの足下に投げつけた。

 白い煙がタケシを包んでいく。

 今度こそ毒性があるかもしれない。

 彼は怪我の治りは早いが、毒などは未経験だった。

 何があるか分からないとすぐに口を覆うと、大きなバックステップで煙の中から脱出する。


 すると煙の先から、騎士達のやられている声が聞こえてきた。



「おい!やめろ!」


 思わず叫ぶと、煙を吸い込んでしまった。

 マズイと思い、身体に異変が無いか確認する。

 しかし特に何も起きない。

 タケシは煙に毒が無いと確信して、煙の中へ突撃していく。

 煙を抜け反対側へやって来たタケシが見たのは、モールマンにやられて倒れる騎士達の姿だった。

 彼等は手足が本来曲がらない方向へ曲がっていて、痛みで起き上がれない様子だ。

 その騎士の頭を踏みつけるモールマン。



「お前ぇ!」


 タケシがレスリングのタックルを入れると、モールマンは上からタケシの腹を抱えて、そのままパイルドライバーへと移行する。

 頭から真っ逆さまに落とされたタケシは、しばらく起き上がれない。

 モールマンはフォールせず、そのままタケシを置いて再び太刀を拾いに行った。

 太刀を拾ったモールマンは、そのまま近くの倒れている騎士へ、振り下ろそうとしていた。

 それを見たタケシはすぐに立ち上がり、ミドルキックでモールマンの手を蹴り上げる。

 バチン!という痛そうな音が響くと、モールマンは太刀を落とした。



「許さん!」


 武器でのトドメを刺そうとするモールマンに、タケシはプロレス技ではなく打撃技で応戦すると、周りの騎士が怪我人を保護したのを見て安堵する。



 タケシは覚悟した。

 もう自分の知っている人は居ないと。


 ドロップキックで蹴り飛ばすと、囲んでいる騎士まで吹き飛ぶモールマン。

 タケシはそれを見て騎士に押し返せと合図を出すと、騎士はタケシの方にモールマンを押し返した。

 それに合わせてタケシは、モールマンの太い首にラリアットをかます。

 倒れたモールマンに対して、タケシはそのまま騎士の方へダッシュすると、彼等の膝や肩を使って高く跳び上がり、モールマンの首に目掛けて膝を落とした。

 折れはしなかったが、首は凹んでいる。

 そのまま膝で首を押さえると、彼はカウントを取らずにこう言った。



「どうだ!」


「ガハッ!もうスリーカウント入ったかな・・・」


「お、お師さん!?」







 タケシは思わず膝をどかし、動かなくなったモールマンを抱き抱える。



「やっぱり意識が!?」


「フフフ、これだけ身体が大きかったら、私もヘビー級王者を狙えたかな」


「狙えますよ!今からでも!」


 プロレスをするには相手が必要である。

 タケシ以外にプロレスをしてくれる人など居ないと知っているモールマンは、笑おうとした。

 しかし大きく吐血すると、自分がもう長くない事を悟る。



「お師さん、俺達と一緒に行きましょう!」


「駄目だよ。私はこの姿になって、人を沢山殺した。もう戻れない」


「それはモールマンの意識が、あった時でしょう!?」


「関係無いよ。だから私は、ヒール役になる事にした。キミに倒される為に」


 タケシは今の言葉を聞いて、ハッとなった。

 彼はわざと怒らせるように攻撃していたのだと。

 太刀による攻撃も、刃を使って斬っていない。

 倒れた相手も頭を踏みつけただけで、命に別状のありそうな騎士は居なかったのだ。



「ちなみにあの騎士達も、綺麗に骨を折ったつもりだよ。治ればもっと骨が太くなるはずさ」


「な、何でそんな事を!?」


「私はもう悪役じゃない。本当の悪だよ。泣き喚く人を後ろから爪で突き刺して、そして食べていた。そんなバケモノは、正義のヒーローに倒されるべきだ」


「でも!」


「うん、もうそろそろ時間が無い。ミスターポジート、もうヒヨコじゃないか。かと言ってアギャーラにはまだ早いし」


 ヒヨッコ卒業だと言いつつ、まだトップとは認めないというモールマン。

 するとタケシは、意を決して言う。



「クエルボ。俺、今日からミスタークエルボになります!」


「ハハッ!それは良い。タケシくん、いやミスタークエルボ。この世界にもプロレスを広めてね」


「ハイ!」


「ありがとう・・・」


 黒かった体毛が、段々と灰色へ。

 そして白くなっていく。

 彼はいつからか、返事をしなくなった。


 騎士も薄々、タケシとモールマンの因縁には気付いている。

 何も言わずに見ていた騎士達は、黒いモールマンをタケシが倒した事で、再び前進を開始した。

 タケシは一人残ると、しばらく黙祷を捧げた後、騎士達の後ろからついていく。



「さらばミスタークエルボ。安らかに眠れ」








「タケシの戦い、終わったみたいだよ」


 騎士達が再び、前進を始めている。

 おそらくだけど、地上のモールマンで強そうな奴は、もう居ないと思う。

 気付けば両翼から、どんどん押し込んでいるからだ。

 このまま行けばスマジ達に、すぐに迫れそうな勢いだと思う。



「しかし、私は見えない地底が気になりますね」


「確かにね」


 空は見上げると、太田や慶次達がトライクで戦っているのが見えている。

 そして赤青黄という色の岩で身体を覆うモールマンは、まだ見当たらない。

 そんな色の三原色みたいな連中、絶対に見逃さないしね。


 それに対して地底は、見ようと思って見られる場所でもない。

 僕達は地底と生中継で結べるようなカメラを、まだ開発していないし。

 電話連絡なら可能だけど、地底に向かったのはマルエスタ率いるジャイアント達がメインだ。

 沼田とアグーも行っているが、魔力が必要とされる携帯電話を使用出来る者は居ないのである。



「今頃、地底はどうなっているのかな」









「マズイ。非常にマズイですよ!」


 マルエスタは頭を抱えていた。

 自分の予想が、大きく外れていたからだ。

 地底に配備されたジャイアントは、騎士王国に居るジャイアントの半分以上になる。

 しかしモールマンの数はと言うと、それをはるかに上回り約五倍近くの数が押し寄せてきているのだ。



「地上への連絡は取れましたか?」


「駄目だね。伝令を送っても、全く戻ってくる気配が無い」


 マルエスタが沼田に話しを聞くと、自分達が完全に孤立していると理解する。

 本来は即時撤退を選択しようとしていたマルエスタだが、後方にもモールマンに回り込まれていて逃げられないと分かり、どうにか持久戦に持ち込むのが精一杯だった。



「どうする?」


「戦うしかないでしょう。しかしこちらから攻めてはいけません」


「しかし数の上で負けてるんだ。頭を潰すなりしないと、いつかはすり潰されるぞ」


「それは分かってます。しかしそれは、読まれています。絶対に出来ません」



 マルエスタには確信があった。

 予想外の戦術で攻めてくる相手である。

 自分達に残された道は奇襲しかないと、相手は絶対に読んでくる。


 一般的に、奇襲というものはそう簡単に成功するものではない。

 特に数で勝っている方は、そんな事をする必要は無い。

 いくらジャイアントが一体一体が優れていようが、数の暴力には勝てない。

 正攻法で押すだけで勝てると分かっているのだから、後は時間が勝利へ導いてくれるからだ。

 となると向こうは、こっちが勝つには頭狙いの奇襲しかないと分かっているのだ。



「地底の様子が分からないのだから、援軍なんか来ないんじゃないか?」








「定期連絡が無ければ、地上も異変に気付くでしょう。それにこちらも、数で負けてるとは想定していましたから、援軍を呼んでますよ」

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