飛行
騎士王国の他に、帝国や王国、連合の話はしたが、では僕達魔族領はどうなっているのか?
これもやはり、それぞれな感じだった。
まず、前回たまたま行く機会が出来た越中国。
ここは大木の上に街が存在するというかなり変わった所で、一般的に外から来た人は街に入る事すら出来ない。
そんな場所なので、モールマンが来てもほとんど歯牙にも掛けない状態のようだ。
ただし、この前見掛けた空を飛ぶモールマン。
奴等の存在は無視出来ないと思う。
次に越前国。
此処も越中国同様、ほとんどモールマンは来ない。
理由は簡単で、寒過ぎるから。
モグラも同じだけど、寒い場所は苦手らしい。
雪に覆われた場所にある越前国は、最近では見掛ける事すら無くなったと連絡が入っている。
上野国はどうなのか?
鍛治の熱や臭いが問題なのか、それとも加工する時の音?
理由は定かではないが、どうやら何かが理由で上野国もモールマンはそこまで来ない。
他の二つと比べると、たまに急襲してくるみたいだけど。
そして我が安土と長浜。
この二つが問題だった。
他が攻めづらいからなのか、それとも狙われているからなのか。
騎士王国は別だが、帝国と比べてもかなりの頻度で攻めてくる回数が多い。
だからツムジやコルニクスを、呼び出せなかったりするんだけど。
なので、今は長浜にジャイアントは多く配備されている。
僕達よりも戦力が劣っているので、彼等が防衛の要なのだ。
僕もベティや権六から知らされるまで気付かなかったけど、明らかに安土と長浜だけ多いんだよね。
何でだろう?
恨まれてるのかな?
帝の怒声が響くと、オケツは慌てて部屋を出ていく。
どうやら各騎士に宛てて、手紙を書くという事だ。
手紙の最後に帝の署名もするから、連名という事になるらしい。
「オケツ殿も真面目に働きに行かれたみたいだし、我々も動きましょう」
「お前達はどうするんだ?」
沼田が立ち上がり動こうとしたところを僕が尋ねると、彼等は一旦帝国へ戻るという。
と言っても、首都ではなく燃料補給が出来る南の街があるらしく、そこまで往復で半日足らずで戻ってこれるとの事。
「今回の目的は、阿形殿と吽形殿に騎士王国まで来てもらうだけだったので。偵察はたまたまだったのですが、スマジの動きが分かって幸いでした」
「帝国の方々には、感謝するでおじゃる。しかし、出来れば再び向かってもらいたいでおじゃる」
帝がオケツの代わりに感謝を述べると、再び西側へ行ってほしいと伝える。
「何故だ?」
「ヌオチョモ領がどうなったのかを、知りたいでおじゃる。もし攻撃されていたとしても、耐えているのであれば救援が間に合うかもしれないでおじゃるよ」
ただし、トーリがヌオチョモに対して救援を出していればという前提みたいだけど。
トーリの軍勢が援護してくれるなら、ヌオチョモだってそう簡単には落ちないはずだと、帝は考えているようだ。
「分かりました。燃料補給が終わり、また戻ってきたら行ってみましょう」
飛行機が飛んでいくのを見送ると、僕達は一人だけ取り残された男が居るのに気付く。
「あら?俺の事、忘れていった?」
「暴れてるからだろう」
強制退出させられたタケシは、ギュンター達とは合流しなかったようだ。
そのまま飛んでいく飛行機を、他人事のように見ているタケシ。
燃料補給にタケシは必要無いだろうが、それでも立場的にはSクラスの強さを持つ召喚者だ。
連絡義務くらいはありそうな気もするけど。
「魔王様。手紙を書き終えたので、頼みたいんですけど」
「分かった」
そこにオケツがやって来ると、何十もの手紙を渡される。
意外に多くて予想外だ。
【それじゃ、分かれて届けに行くとするか】
「太田、俺達は手紙を届けに行く。もし御所にモールマンが攻めてきたら、頼んだぞ」
「キャプテン、お任せあれ」
「慶次とハクトも、無理しないように。マルとタマを頼んだ」
「承知したでござる」
僕達は三人に後を任せ、久しぶりの空へ旅立つ事になった。
「アンタと一緒に呼ばれたっていうのが、気に食わないけど」
「そりゃこっちのセリフだって」
やはり仲が悪いツムジとコルニクス。
今では二人の口喧嘩は、安土の恒例となっているらしく、止める人も居ないらしい。
「競争ね」
「競争だ」
勝手にヒートアップする二人。
だけど僕達は、そんなの求めてない。
「安全に行けよー。俺達を落としたら、承知しないぞー」
「僕は落ちても死なないけど、兄さんは危ないからね」
人形の僕は落ちても問題無い。
もしかしたら壊れるかもしれないけど、死にはしないだろう。
「それじゃあ、半分に分けて手紙を渡しに行こう」
「渡すだけだから、そんなに遅くならないはずだ」
ツムジ達の体力も考えれば、おそらくは一日か二日もあれば配り終えるだろう。
競争するつもりみたいだから、もうちょっと早くなるかな?
「じゃあ、御所でまた会おう」
「分かった。どっちが早く戻ってくるかな」
「アタシよ!」
「俺だ!」
兄がニヤニヤしながら煽ったせいで、二人の鼻息は荒い。
こりゃあ、本当に一日で終わるかもね。
僕はツムジに、兄はコルニクスに乗り、手紙を配って回った。
辺境の土地に行くと、大半の連中から怪しい目で見られたが、手紙を見せるとすぐに態度が急変。
早々に準備して、向かうという話をしていた。
魔族を見た事の無い人だから、どうして騎士王と帝の手紙を持ってるんだと怪しんでいるんだと思っていたのだが。
帰り道で気が付いた。
僕、今は人形の姿なんだったと。
そりゃ人形がグリフォンに乗って空からやって来て、騎士王と帝の手紙を置いていく。
どんな状況だよと、改めて思った。
「というわけで、僕達の方が早かったね」
「当然!アタシがあんなカラスなんかに、負けたりしないわ」
御所に戻ったツムジが胸を張って答えると、コルニクスが言い訳を始める。
「違うって!魔王様が悪いんだよ」
「アンタ、人のせいにしてるんじゃないわよ」
「だってよ、途中から自分で飛んでいくって言うんだから。俺の方が速いのにさ」
「アンタ、何言ってんの?」
自分で飛んでいく?
本当に何言ってるんだ。
するとソワソワした兄が、何かを聞いてもらいたそうにチラチラとこっちを見てくる。
軽くイラッとするけど、ここは乗ってやろう。
「空を飛ぶって、また何か変な事でも閃いた?」
「違うって!見ててくれよ」
「えっ!?」
兄が浮いた!
しかも空へ上がっていくスピードも、徐々に速くなっている。
ほ、本当に空飛んでる!
「ど、どうして!?」
「ジャジャーン!答えはコレだ」
「魂の欠片!?」
兄が手にしていたのは、欠片だった。
どうやらヌオチョモから買った欠片の能力は、空を飛ぶ事だったらしい。
「実はさ、コルニクスの背中で欠片の能力を調べてたんだけど、全く分からなかったんだよ。でもコルニクスが急加速して、俺落ちちゃったんだよね」
「は?」
「アンタ!」
ツムジがコルニクスを睨むと、コルニクスはサッと視線を逸らす。
コイツ、兄が最初に言っていた事をド忘れしたな。
「しかもさ、落とした事に気付かなかったみたいで、そのまま落下してたんだよ。ヤバイ、死ぬかもって思った時、そしたら欠片が光ってさ、空を飛んでたってわけ」
「このバカラス!気付かないって、何してんのよ!」
「す、すいません!」
前脚で頭を殴られるコルニクス。
これには言い訳のしようも無いようで、コルニクスもおとなしく殴られている。
下手したら僕も戻る身体を失うところだったと思うと、肝が冷えた。
「イタッ!何で!?」
「いや、僕も叩いておかないと気が済まなかったから」
「まあまあ。その辺で許してやれよ。おかげで能力に気付いたんだから」
この飛行能力を余程気に入ったのか、兄はニコニコでコルニクスを庇っている。
殺されかけたというのに、よく笑えるもんだ。
「でも、そこから俺の背中に乗らないで、一緒に飛ぶ練習しながら手紙を配ったんだよ」
「だから遅かったって言いたいの?」
「そう。だって魔王様じゃあ、俺より遅いから」
コルニクスより速い奴なんか、そうそう居ないから。
飛行機だって余裕でぶち抜くだろうし。
マッハで飛ぶ戦闘機なら、どっこいなのかな。
「それでも俺、結構速く飛べるようになったぞ」
「僕も飛べるのかな?」
「それを聞きたかったんだよね」
僕は人形から身体に戻り、兄の欠片を持って空を飛ぶように念じてみた。
結果、何も起きない。
「無理だね。飛べない」
「慣れかなぁ」
「巨大化と同じような感じかもね」
僕の欠片を兄が使えないように、兄の欠片は僕では使えないという事か。
僕の欠片は、巨大化と変身。
兄は英雄と飛行。
こうやって見ると、二人とも幼稚な願望にも思える。
大人になった今、これを他の人に大々的に言うのは遠慮したい。
「それでさ、俺気付いちゃった。変身巨大化ヒーローが空を飛ぶ。まさにM78星雲から来たヒーローだって」
「でもそれ、三分も変身出来ないと思うよ」
「まあ、今はやるつもりは無いけど」
以前、センカクからキャプテンストライクは、安易になるなと警告されている。
二人ともあの姿になってから意識が遠のく事があり、異変があるのは分かっていたので、二人とも試しに変身などしなくなっていた。
「でも、空が飛べるのは羨ましいな」
「俺が望んでいた能力だからな」
しかし、ちょっと考える事がある。
飛行しながら戦えるとなると、戦い方も変わるだろうし、慣れるまで時間が掛かりそうだ。
「ベティとかトキドに、空中戦を教わった方が良いかもね」
「それを言ったら、タツザマも加えないとな」
そういえば、タツザマはどうなったんだ?
ヌオチョモ領の話、誰も報告に来ないけど。
「魔王様は居ますか!?」
「どうした?」
御所の役人が、慌ててやって来た。
オケツに呼んでくるように頼まれたと言っている。
彼に付いていくと、オケツと帝、そしてタツザマが待っていた。
帝国からはギュンターとタケシ。
阿形と吽形も座っている。
太田と慶次、ハクトも居た。
「タツザマ!無事だったのか!?良かった良かった」
「魔王様、その気持ち感謝する。しかし、拙者の話を聞いてほしい」
何やら神妙な面持ちだ。
もしかして、ヌオチョモ領から一人だけ逃げてきたとかじゃないよね?
「全員揃ったでおじゃる。ではタツザマ、先程話した内容を、もう一度お願いするでおじゃる」
「まず最初に、ヌオチョモ領は無事です」
「おおっ!」
「良かったですね!」
「待て待て。理由は?スマジが間を取り持ってくれた?」
何も無く素通りするなんて、普通なら考えられない。
「理由は簡単でした。超音波とモールクリンです。モールマン達はヌオチョモ領に近付く事を嫌がり、山中へ入っていきました」
「マジか!凄いじゃないか」
「スマジの騎士はこちらへやって来ましたが、ヌオチョモが抵抗しなければ、危害は加えないと言って去ったのです」
うん?
目的が分からないな。
「それで、タツザマが御所へ単独で来た理由は?」
「報告の為です。拙者は殿、ヌオチョモ様の命令により、空から山中を偵察していました」
「気付かれてなかったの?」
「気付いていたかもしれないです」
その理由は、慣れないワイバーンに高度が思うように取れなかった事と、飛行機の存在だ。
タツザマは偵察の途中で、北から同じ理由で飛んできたギュンター達と遭遇。
激しい飛行音が辺りに聞こえていたので、バレていないはずはないという話だった。
「しかし攻撃はされなかったので、見られたところで何も問題無いと考えたのでしょう。それに、それからが問題なのです」
「それから?」
「山中を抜けたモールマンとスマジ一行は、トーリ領へ突入。そして全面戦争へと発展しました」




