スマジと騎士王国
騎士王国の被害は、東西で両極端らしい。
では、他の国はどうなんだ?
モールマン出現による各国との同盟は、まだ続いている。
その為、定期的に連絡を取り合っているのだが、その時に各国の情報を聞く事が出来た。
あくまでも自己申告なので、虚偽報告されている可能性も否めない。
この状況下でそんな事をする理由は無いから、報告は全部本当だと思ってるけどね。
それで他の国の報告によると、帝国は南北で差があるという。
北側に関してはほぼ襲撃は無く、現在は南側に集中している。
王国は北東側に集中し、連合は南東側が主な被害があるという話だ。
この話から浮かび上がってきたのが、全ての国の被害が騎士王国寄りの場所だけに限られているという点だった。
騎士王国から離れれば離れるほど、被害報告は少ないという。
その為帝国も、北側に配置したジャイアントを南に再配置し直したという話だった。
ちなみに全く無いというわけではなく、偵察なのか少数のモールマンは報告に上がっている。
騎士王国が狙いなのか。
それとも騎士王国に目を向けさせて、実は他に狙いがあるのか。
モールマンの狙いは、未だに定かではない。
報告を聞いていた者達の反応は、様々だった。
マルとタマは、自分達の故郷が攻めてくるとあって気が気でない様子。
望みは薄いと思うが、彼女達の親もその中に含まれているのかもしれない。
そしてオケツと帝。
二人は信じられないといった顔で、呆然としている。
僕達の反応も多様で、太田と秀吉は心配しているような顔をしているが、慶次に至っては無表情を装っている。
しかしその裏で慶次は、再びスマジと戦える事を喜んでいる節が見え隠れしている。
頬が緩んでいるのが見えるので、間違いない。
そして一般的なのが、ハクトのような不安が隠しきれない顔だった。
報告を聞いて一瞬の間が過ぎると、ようやく帝がその思考を再び動かし始める。
「宣戦布告!?」
「間違いないんだよね?」
「間違いありません!」
オケツも報告を聞き直し、意味の分からない状況に頭を掻きむしっている。
精神的に疲れてきてるのが分かる。
「ちょ、ちょっと良いかな?」
「はい、何でしょう」
「どうしてモールマンが主力だって分かったの?」
「本人談です」
うん?
どういう意味だろう?
モールマンが御所までやって来て、スマジはモールマン配下に加わったとか、そんな事を告げに来たのかな。
「詳しく聞かせてくれ」
彼の話だと宣戦布告をしてきたのは、ちゃんとしたヒト族だった。
しかし彼が見たのはあり得ない光景だったという。
馬に乗った騎士が先頭になり、その後ろに続いていたのが、馬に乗ったモールマンの騎士団だったと言うのだ。
スマジの騎士は御所近くの警備兵にこの手紙を渡すと、すぐに去っていった。
「みっちゃん、信じられる?」
「信じられんが、この男が嘘をつくメリットが無いでおじゃる。本当なんだろう」
二人は顔を見合わせると、深い溜め息を吐く。
ただでさえ混乱している西側に、更に混乱を招く事態が起きた。
僕だったら投げ出して、全て長可さんとゴリアテに丸投げしてるだろう。
ただ、そんな僕でも気になった事はある。
「もう一つ良い?その騎士、脅されてたとかそういう雰囲気あった?」
「脅されていた・・・かもしれませんね」
「どうしてそう思ったの?」
「堂々とした空気というより、早くしなくてはというビクビクした雰囲気を纏っていたように見えました」
その話を聞く限り、手紙を渡したらすぐに去っていったというのと、マッチしていなくもない。
彼の感じた事は、あながち間違っていないのかもしれない。
重い空気が流れていると、今度は違う騎士から報告が入る。
「帝国の方々が戻ってきました」
外から聞こえる、ジェットエンジンの音。
聞き慣れたというと語弊があるが、かつては空から聞こえていた音だ。
【帝国は地球の技術を、そっくりそのままこっちで使ってるっぽいな】
確かにね。
コバとは違う考えの科学者が、帝国には居るんだろう。
それはさておき、西側の偵察から帰ってきたのなら、彼等もスマジの状況を見たはず。
「オイオイオイオイ!どうなってるんだよ、この国は!」
ドスドスと歩いてくるのは、興奮が冷めやらないタケシだ。
その後ろにはギュンター達が続くが、タケシが冷静でないからか、他の皆は比較的冷静を保っている。
「只今、戻りました」
「ご苦労。それで、どうだったでおじゃる?」
ギュンターは帝の前で礼をすると、恭しく報告を始める。
しかしその前に、タケシがアグーに羽交い締めにされて出ていった。
報告の邪魔だと思われたのだろう。
「コホン、申し訳ありません。それで報告ですが、スマジ領と思われる場所から、大量のモールマンが現れました」
「やはり真実だったか」
「どういう意味です?」
オケツはさっきあった話を彼等に説明をすると、ギュンターが目を剥いて驚いている。
しかし冷静に考えたのか、すぐに立ち直った。
「そうなると、私達が見た光景は納得が出来ます。見間違いかと思ったのですが、やはり間違っていなかったんですね」
「私達が見たのは、馬車に乗り込む直前のスマジ。そして同じ馬車に乗り込むモールマンの姿でした」
「なんだと!?」
「私達が身体強化して確認をしましたので、間違いありません」
阿形と吽形が、沼田の背後から姿を見せると僕達へ頭を下げる。
「彼等が言うなら、間違いない。もうスマジの反乱は決定的だ」
「そうなると・・・タツザマが危ない!」
「その心配はありません」
阿形達はスマジの動きを見て、タツザマ領で一度着陸。
そしてタツザマに、全員の避難を指示したという。
「タツザマは悔しそうな顔をしていましたが、領民を連れてヌオチョモ領への避難を始めました」
「ヌオチョモ領の責任者に、タツザマ領からの避難民の受け入れの協力も頼んでおいたので、大丈夫だと思います」
タツザマが悔しいのは分からなくもない。
せっかくモールマンの軍勢を倒して、命懸けで死守した城だ。
それをたった数日で、すぐに逃げろと言われたのだから、たまったもんじゃないだろう。
だけどタツザマも馬鹿じゃない。
お互いに命を預け合った仲間の言う事を信じて、すぐに領民全員を連れて脱出を開始したという。
「ちなみにトーリにも、話をしたのでござるか?」
慶次の一言を聞いた彼等は、急にダンマリになった。
かなりイラッとした様子だ。
「アタシ達はちゃんと、見たまんまを説明した。なのに奴等、アタシ達を馬鹿にするような目で見てきて、挙句の果てには防衛の邪魔だから帰れときたもんだ」
「トーリ領は被害が大きいとは帝様から聞いてはいたが、アレは頭が固過ぎる」
「私達の説明を嘲笑してましたから。おそらく、何の備えもしていないと思います」
マルテにギュンター、沼田と、三人とも憤りを隠さずに言っている。
「騎士王から言えば、どうにかなりますか?」
「それは無理かなぁ。ハハハ・・・」
沼田の質問に、苦笑いで答えるオケツ。
帝が言うには、トーリは未だにオケツを認めていないという。
彼等はハッシマーとオケツの戦いには一切参加せず、静観を決め込んでいた。
それもそのはず、彼等はハッシマーからの誘いを断り、襲ってきたハッシマー勢を一蹴して追い返したという。
ハッシマーに遅れを取らず、若輩者のオケツなんかは認めない。
そういった考えから、トーリは独自で力を溜め込んでいたようだ。
「だから私、騎士王と言ってもケルメン全土から認められたわけじゃないのよね。アハハ・・・」
頭を掻きながら答えるオケツ。
騎士王としては情けない姿に、これじゃあ確かに認められないわと、僕でも思った。
「そうなると、問題はヌオチョモ殿ですか」
「超音波発生器とモールクリンで、どうにかなるんですかね?」
「難しそうだな」
その辺の一兵卒程度のモールマンなら、確かに避けて通ってくれるかもしれない。
でも、向こうはスマジ騎士も居る。
攻めろと言われたら、モールマンも我慢して攻めてくるんじゃないかと僕は思う。
「帝はどう思う?」
この中で一番ヌオチョモと付き合いが長いのは、間違いなく帝だ。
ガラクタだ何だと言っていても、感謝もしていたし交流だってある。
そんな帝が、一番ヌオチョモに詳しいと思われた。
「・・・あくまでもマロの勘でおじゃるが、もしかしたら戦を回避するやもしれないでおじゃる」
「えっ!?何故?」
「実はスマジとヌオチョモは、そこまで仲が悪くないでおじゃる」
帝の話によると、ボブハガー健在の頃はトーリが隆盛を誇っていた。
ボブハガーが東側で暴れていた頃、トーリも同じように西側を統一しようと画策していたという。
その際、ヌオチョモとタツザマという両者をバックアップしていたのが、スマジだったらしい。
理由としては、この二人が破れるとなったら、最後はスマジだからだ。
そしてスマジ領は、騎士王国でも最西端に当たる。
もし逃げるとなると、国を捨てて野に出るしか無くなるという、そういう考えもあったからだと帝は口にした。
「確率としては五分五分より低いでおじゃるが、無くはないでおじゃる」
「スマジとヌオチョモがいくら仲が良くても、モールマンがそんな事を考慮するとも思えないし」
「だからスマジが、ヌオチョモと話が出来ればというのが前提でおじゃる。モールマンが関係無く攻撃を開始する方が、可能性は高いでおじゃる」
そういえば、スマジも年齢結構高いんだっけ。
六十は超えてないだろうけど、ヌオチョモと近いと考えると、今でも仲は悪くないのかも?
甘い考えかもしれないけど、ここから救援に向かうには時間が無さ過ぎる。
スマジがどうにかしてるくれる事を、祈るしかない。
【というか、飛行機乗せてもらうのは駄目なのか?】
僕もそれを考えたけど、おそらくは無理だね。
地球にある物と同じだって考えるなら、燃料の問題が出てくる。
既に飛んできた飛行機だ。
燃料補給する時間が必要だし、それがどれくらい掛かるのか分からない。
というより、そもそも余分な燃料を積んできているのかって話もある。
【なるほど。確かに燃料は帝国にしかないか。ツムジとコルニクスだと人数が限られるし、そんな少人数で行っても無駄だもんな】
下手すると、返り討ちで被害が大きくなるかもね。
「仕方ない。今は御所の守りを固めるのが先決でおじゃる。ヌオチョモには悪いが、時間稼ぎをしてもらう。東側の騎士を全員集めるでおじゃる!」
「集めると言っても、それこそ時間が掛かるんじゃ?」
「・・・力をお借りしたい」
帝が僕に頭を下げてくる。
なるほど。
ここで僕達の出番というワケか。
「分かった。幸い、空を飛べるのが居る。今回なら呼べるはずだから、問題無いだろう」
僕と兄の二手に分かれて、東側の騎士達に声を掛ければ良いんだな。
しかし、僕達が声を掛けたくらいで、参戦してくれるのか?
「・・・集まってくれるのかな?」
オケツも同じような心配をしている。
すると帝が、烈火の如く怒り始めた。
「馬鹿者!お前は何だ!?騎士王だろうが!騎士王と帝の勅命を無視する騎士など、この国には居らんわ!」




