配達依頼
後日談を語ろうと思う。
ヌオチョモが超音波発生器とモールクリンという、モールマンが忌避するアイテムを作ったのは既に知っていると思う。
そしてそのアイテムを、タツザマへと持っていった件についてだ。
実は内心、僕はヌオチョモがタツザマを見捨てたのではと勘繰ったところもあった。
だからタツザマへその二品を持って行ったという話は、嘘なんじゃないかと思ったのだ。
タツザマの武力は、ヌオチョモには御しきれない。
だからこれを機に切り捨てを図ったのかと思ったのだが、やはりそうではなかった。
後々聞いてみると、タツザマはヌオチョモに忠誠を誓っていて、ヌオチョモもそれを信頼していたと分かったからだ。
では、タツザマへ荷物を運んでいたヌオチョモの使者は、何処へ消えたのだろうか?
答えは簡単だった。
タツザマ領とヌオチョモ領は、一本道で間違えようがない。
その街道を使い向かっていたところ、彼等はモールマンと出会した。
使者達は自分達では到底太刀打ち出来ないと考え、彼等は街道から外れて逃げ出した。
それでも追ってくるモールマンに対し、彼等がした事。
それは超音波発生器とモールクリンの使用だった。
アイテムの効果は抜群で、追ってきたモールマンも引き返す程だったらしい。
そして彼等はモールマンが去った後にタツザマ領へ向かうと、物凄い数のモールマンに囲まれていたのを目にする。
届けるのを諦めた彼等は、そのまま元の場所へ戻り、タツザマがモールマンを倒す事を祈りながら、林の中で隠れていたという事だった。
その後、無事に二品を届けた使者達だったが、彼等がどういう扱いになったかは聞いていない。
タツザマを見捨てたと罰せられたのか、それともモールマンをやり過ごしてちゃんと渡した事を讃えられたのか。
どちらを選んだかによって、ヌオチョモの性格が分かりそうな話だった。
掃討作戦か。
いつかはやらないと駄目だろうとは思っていた。
卵を産むモールマンも倒し、数が爆発的に増える事は無くなったとはいえ、まだまだ数の上では僕達よりもはるかに多い。
ジャイアントの数と同等くらいには減り、楽にはなったと思うが、まだまだ安心出来る数ではない。
「掃討作戦ですか。しかしそれは、私達が考える事ではない。やはり、騎士王の判断が必要です」
「オケツねぇ」
アイツの場合、なあなあにして延ばしそうなんだよなぁ。
特に東側の被害は軽微だって話だし、わざわざ西側の為に動くかと言われたら、怪しい気もする。
「オケツより帝に、相談した方が良いかもね」
「帝に?」
「オケツも帝の話なら、有耶無耶には出来ない。帝からオケツにアドバイスをしてもらった方が、ヌオチョモから言うより確実だと思うよ」
「なるほど。それなら帝に、手紙を書くとしましょう」
ヌオチョモは帝に、度々協力金を贈っていたらしい。
その為帝なら、逆にヌオチョモを無碍に扱う事は出来ないはずだと本人は言っている。
「御所へ向かわれるのですよね?どうか、手紙と進呈する品々を帝へ届けて頂けますか?」
「それくらいは構わないよ」
「ありがとうございます」
ヌオチョモが手紙と帝への進呈する品々を選定する為、追加で一日休む事になった。
マルとタマには良い休養になるかと思ったのだが、閉店中の店ばかりだし、大して楽しい事はなかったらしい。
「店が閉まってると、ヌオチョモ領の面白さも半減ですね」
「そうだなぁ」
この街、詳しく聞いてみると一定の区画で分かれているらしく、区画によって各国の取り扱っている品々が売られているという話だった。
しかしこの状況下である。
帝国や王国といった外国からの品々は入らないし、魔族領へ行って仕入れてくる事も出来ない。
よって大半の区画がシャッター街になっていて、開いているのは本当に一握りだけだった。
翌朝、ヌオチョモからの依頼を受けて御所へ出発する段取りをしていると、タツザマ領へ向かった使者達が戻ってきた。
無事に品物を納品したようだ。
「では、よろしくお願いします」
「任された」
ヌオチョモに挨拶をし、僕達は御所を目指す。
トーリの領地は敢えて通らず、深い山々を越えると、ようやく見慣れた場所へたどり着く。
「御所だ!」
ヌオチョモから情報は得ていたが、本当にモールマンの気配は無い。
出発してから少し時間が経っていたので、モールマンも活発になっていると思ったのだが、実際にはそんな事は無かったらしい。
「御所の守りは大丈夫そうでござるな」
「騎士は多めだけどね」
やはり警戒は怠っていないようだ。
御所を守る彼等は、僕達を知っていた。
大きなトラックで来たから警戒はされたが、中から僕達が顔を出すと、すぐに案内をしてくれた。
「こちらの様子は?」
「特に危険な事は無く、緊張はしていますが平常といった感じです」
案内してくれた騎士の一言から、御所は万全だと判断した。
「おぉ!久しぶりでおじゃる」
「おじゃる?」
「彼は帝。この国で領主より偉い人だ」
マルとタマが変な語尾のおっさんの顔を見て、不思議そうな顔をしている。
今の帝が偉いのかは、ちょっと分からないけど。
「みっちゃん!魔王が来たってホント!?」
「コレ、騎士王。弱腰のヘタレ」
「ちょっと!どういう説明してんの!」
「この子達に、本当の騎士王の姿を見せてあげようと思って」
騎士王はこの国だと、一番尊敬される存在だ。
自分が住んでる場所以外の領主以外の名前を知らなくても、騎士王という存在だけは、全国民が知っている。
だけど、騎士王は一般人からしたら雲の上の存在。
どんな人なのか、知る人は少ない。
だから、本当の事を教えてみたのだ。
「オホン!拙者がオケツ・キチミテ。この国の今代の騎士王である」
「何が拙者だよ。であるとか、ふざけんじゃないよ」
「ちょっと、ホントそういうのやめてくれません?私のイメージ、本当にヘタレになっちゃうから」
「ヘタレ騎士王?」
「そうだよ〜。ヘタレ騎士王だよ〜。って、何言わせんのよ!」
出ました、お得意のノリツッコミ。
しかし二人は、それを見て喜んでいる。
僕としてはオケツは、威厳のある姿なんかより、親しみやすい騎士王を目指すべきだと思ってる。
これくらいの方が、皆から慕われるんじゃないかな。
「しかし、本当に皆来てくれたんだね」
「もしかして、帝国の連中も?」
「既に来ているでおじゃる」
やはりタケシ達も、騎士王国のピンチに駆けつけたらしい。
しかもご丁寧に、阿形と吽形の二人も本当に乗せてくれたようだ。
今は飛行機を使って、西側の偵察に出ているという話だ。
「すまないな。わざわざ来てくれて」
「良いよ。それよりも、国内の状況は把握してるのか?」
「東側の領主からは、被害状況は軽微だと聞いている。しかし西側は、逆に集中して攻められているようだ」
「小さな領地は、既に壊滅。生き残りも居ない場所も、あるでおじゃる」
御所を中心に、 東西で本当に大きな差があるという。
オケツは今、西側の救援依頼に東側の領主達に戦力を送れないかと、東奔西走しているという話だった。
しかし、その頼みも芳しくない。
今は無事でも、いつ襲ってくるか分からないという状況に、彼等も余計な戦力を送るのは避けたいというのが本音のようだ。
「そっか。じゃあコレを東側の連中に渡せば、増援は出せるんじゃないか?」
「コレは何でおじゃる?」
ヌオチョモの手紙と進呈品を見せると、彼は手紙そっちのけで超音波発生器に興味を示す。
まずは手紙を読もうよ。
僕がそれを促すと、彼は渋々手紙を読み始める。
「・・・ハァ!?胡散臭いなぁ」
「何が?」
「キーくん、読んで良いよ」
手紙を無造作に手渡すと、オケツもヌオチョモからの手紙を読んだ。
「コレ、凄いじゃん!」
「いやいや、ちょっと待ってよ。キーくんはこの話、信じるの?」
「え?だって書いてあるし」
「胡散臭くない?」
「いや〜、どうなんだろう」
帝はヌオチョモから渡された超音波発生器とモールクリンが、名前だけのガラクタだと思っているようだ。
オケツは手紙を読んですぐに信じたけど、帝はその辺疑り深い。
「何でそう思うの?」
「ヌオチョモからの進呈品って、変なガラクタが多いんだよね。中には高価な物もあるんだけど、渡されたところで使い道に困る物とかもあるし。今回も同じかなって」
お金に関しては本当に助かっていると前置きしたが、進呈品はガラクタを押し付けられてると思っているという。
彼が言うには、結婚式の引き出物の、二人の写真が入った皿と同じくらい要らないという話だった。
「でもコレ、効果あるよ」
「ヌオチョモ領は西側でも、唯一攻撃をほとんど受けていないでござる」
「そうなんだ。じゃあ魔王も買ったの?」
「僕達は無理だった」
超音波発生器とモールクリンの問題点を話すと、彼はやっぱりという顔をする。
「正直、要らないかなぁ」
「それは御所が安全地帯だからだろう?西側に行ってみなよ。本当にヤバイ事になってるんだから」
「コレを東側の領主達に購入してもらえば、もっと防衛が楽になるはずですよ」
「ワタクシ達も、証明出来ますから」
秀吉や太田も買う事を推奨しているが、どうにも帝は乗り気ではない。
防衛費用は騎士達にというのが頭にあるようで、効果不明な物に金を掛けたくないのが本音だろう。
「とりあえずこの進呈品は置いといて。魔族領の状況を聞きたい」
「そうだね。帝国や王国、連合の話を聞いても、今は小康状態を保ってるって聞く。阿形殿から若狭国だけは話を聞いたけど、他はどうなってるんだい?」
やっぱり他はそうでもないのか。
僕が知る限りの魔族領の情報も伝えると、二人は渋い顔をする。
「やっぱりか」
「どうして騎士王国だけ、こんなにモールマンが集まってるんだろう?」
確かにおかしな話だ。
今までは国関係無く襲ってきていたのに、今では被害が拡大しているのは騎士王国だけ。
国の代表とすれば、どうして自分達だけがと思うのは、必然だろうね。
「何か恨みでも買ったんじゃないんですか?」
「さては、モールマンを逆に食べたとか?」
「そんな事するはずないだろう!」
「冗談でもやめてくれ」
食べられたら食べ返す。
という思想は無かったらしい。
しかし、襲われる理由も分からないのは、二人からしたら不気味だろうなぁ。
そんな時だった。
「たたた大変です!」
「どうした!?」
「に、西側で!」
「西側で?」
「スマジ領が!」
「スマジ領!?」
「宣戦布告してきました!」
「・・・はあ?」
マルとタマもスマジの名前が出た事で、一気に表情が強張った。
しかし内容が内容だけに、二人の理解が追いついていない。
というより、ここに居る全員が同じだった。
「ねえ、どうしてスマジが御所に対して宣戦布告してくるの?」
「スマジといえば、マルとタマの故郷でござる。拙者達も見てきたが、被害は尋常ではなかったでござる」
「ワタクシ達が見た感じ、あの領地にそんな余分な戦力は無いはず。何を考えているんでしょうか?」
僕達はスマジ領の様子を見ている。
だからこそ、それはあり得ないという考えだった。
しかし騎士は更に言葉を続け、その言葉を聞いた僕達は理解が出来なくなった。
「ス、スマジの戦力は、およそ百万以上。そしてその大半がモールマンとなっております!」




